「(私たちの研究は)クルマの開発のために行っているわけではなくて、安全性の評価を通じ自動車の技術基準の国際調和に向けた活動に役立てる。あるいは、技術の発展に伴って将来課題となるかも知れないことを先駆け的に調査・研究し、(それらの知見が必要になった際に)すぐに対応できるよう、取り組んでいます」
旧自動車検査独立行政法人(検査法人:NAVI)と統合し、2016年に「独立行政法人自動車技術総合機構(自動車機構:NALTEC)」を構成する研究部門として新たなスタートを切った、「交通安全環境研究所(交通研:NTSEL)」。もともと旧運輸省(現国土交通省)系の公的研究機関として、1950年に発足しています。そのような経緯もあって、自動車メーカーや大学などとは異なる独自の研究開発を使命に位置づけ。現行の先進技術をはじめ、将来出てきそうな技術、さらに「こういう技術があったらもっと自動車を安全に使えるのでは」といった観点などから、適宜評価対象を設定。「安全で環境にやさしい交通社会の実現に貢献」(機構の基本理念)すべく日々研究に努めている、と同研究所自動車安全研究部の関根道昭副部長は語ります。
今回ご紹介するユーザーは、交通研の研究部門のうち、自動車交通の安全リスク低減と、それを通じた安全・安心社会の実現を担う「自動車安全研究部」です。同部ではそうした研究の一環として、自動運転や高齢者などに関する課題について評価するニーズが増してきたのを受け、2019年にフォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」をベースとする「定置型ドライビングシミュレータ(DS)」を導入。これまで同DSの機能をフルに活用しつつ、各種新技術の評価実験を実施してきています。
自動車安全研究部の位置付け、 独自の研究アプローチ
自動車機構は、前述のように2016年、それまでの検査法人と交通研(いずれも国交省所管)とを統合する形で設立されました。それに先立ち、検査法人は中央省庁等改革を通じ旧運輸省が行っていた自動車検査(車検)のうち「検査場における検査」については独立行政法人が行うこととされたのを受け、2002年に設立。これに対し、旧運輸省の総合技術研究所(「運輸技術研究所」1950年設立)を起源とする交通研は、組織再編や省庁改革などを重ねる中で2001年に独立行政法人として設立されています。
同機構では、1)研究業務、2)審査業務、3)自動車検査、4)リコール業務、および5)自動車の登録確認調査業務 ― の5事業を柱に活動。そのうち最も大きなウェートを占めるのが、道路運送車両法に基づき自動車が保安基準に適合しているか定期的に確認することを使用者に義務付ける「自動車検査」です。機構は当該事業を運営する拠点として本部(東京都新宿区)のほかに、全国を10エリアに分けて9検査部・84事務所を展開しています。
また交通研は、1)試験・研究を通じた、自動車など陸上交通の安全や環境に関わる国の施策立案や基準策定の支援、2)自動車型式審査を通じた、基準不適合車の流通の未然防止、3)自動車のリコールに関わる技術的な検証、4)日本の自動車技術や鉄道技術の、国際標準化に対する技術支援、5)試験・研究を通じた、交通システムの技術評価や基準策定に対する技術支援 ― などの取り組みを実施。これらの事業を担う部署として環境研究部、自動車安全研究部、自動車認証審査部、リコール技術検証部、国際調和推進統括、鉄道認証室および交通システム研究部から成る体制を組織。調布本所(東京都調布市)をはじめ2箇所の自動車試験場(いずれも埼玉県熊谷市)に、研究員、審査官および事務系を含め約150名の職員が配置されています。
交通研の自動車安全研究部では現在、1)衝突事故の被害を最小限にするための車両技術の評価試験法、関係する基準策定の支援などに関する研究を行う「衝突安全」、2)事故に至る前の自動車の安全機能、あるいは事故の減少に繋がる自動運転の性能の評価方法などに関する研究を行う「予防安全」、3)電子技術が集積する自動車の安全性確保やセキュリティ性能の評価試験法などを研究する「情報セキュリティ」、4)車検の高度化に向けた研究を行う「点検・整備」 ― といった大きく4分野をカバー。その中で設定されるテーマに応じ、異なる専門を有する研究員らがその都度チームを編成。それぞれが緩く連携し、適宜情報交換しながらチームとして研究を進める体制が取られています。
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