新たなフェーズの日米連携への期待、これからの交通やインフラ整備とDXの可能性(前編)
互いのこれまでの印象と共通気質
高村 「パックン」というのは、「パトリック君」なのですか?
パックン そういうことです。ですから(呼称は)「パックン」でお願いします。逆に呼び捨てが難しい。「パッ」になりますから !
僕が日本に越してきたのは1993年で、東京へ出てきたのは96年。「パックンマックン」のコンビを結成したのが97年で、テレビなどにちょっと出始めたのが98・99年ぐらい。ちょうど高村先生が小渕内閣で活躍されていた時期です。僕が日本のニュースに注目し始めたらずっとメディアに出ていらっしゃった。既に引退されているのがちょっと不思議で、僕にとっては先生が日本の政界の中心にいて、いつも冷静沈着にコメントをなさっている「ザ・政界」の方、という印象なんです。
高村 私は子供の頃、「テレビっ子」だったんです。専らスポーツ番組の。それで政界を引退してから「テレビ爺」になっているのですが、何を見るか決めないでリモコンをカチャカチャと。だから「不愉快だ」と言って誰も傍にいてくれないのですよ。
パックン ほう、チャンネルサーフィングするんですか?僕の妻も、いつも文句言っています。
高村 それでよく見る番組は、ニュース解説やニュースショーなどが多いのですけれど。気に食わない人が出ていると、パッパッと次へ行ってしまうわけです。で、パックンの場合はだいたいチャンネルが止まっているから、印象の非常に良い方に入っていると思います。
パックン 先生に褒められると嬉しいです。「高村先生『お墨付き』」って、名刺に書きたいくらい。因みに僕はどちらかというと、少しリベラル寄りの意見が多いと思うのですが。
高村 そう思います、私もリベラルですから。いや、私はよく「右だか左だか分からない人」って言われます。
パックン やはり課題、イシューによって、それこそ「振り子」(高村さんの著書名「振り子を真ん中に」を意識して)のように?
高村 そうですね。私がいつもど真ん中だ、と思っています。その問題について世の中が左の時は右と見られ、世の中が右の時は左と見られる。こういう人です。
パックン 僕も、ど真ん中というより、いつも「多分、自分が一番正しい」と思っていて、他のみんながズレていると !
高村 昔、外務委員会なんかで右の人から極端な質問を受けていると、答えているうちに自分がどんどん左へ寄っていくのが分かるのです。そうすると今度、日本共産党の松本善明さんがいて左から蹴飛ばしてくれ、私を真ん中に戻してくれる(笑)。
パックン まさに振り子ですね。僕もよく、司会やコメンテーターを務めている番組で議論がどちらかに偏ってしまうと、わざと反対意見を言うのです。たとえそれが本意でなくても「こういう見方もある」と入れ込まないと、議論にならないと思って。相手によって自分の立場が変わってしまうという、ちょっと共通点を感じますね。
高村 私は面白くしてやろうとかいう意識はなくて、蹴飛ばされると反対側に行ってしまう。とは言え、然るべき立場にいると極端な反発は出来ないですから、それなりにですね。
米国の新旧大統領
高村 国際政治学者のイアン・ブレマー(率いる米調査会社ユーラシア・グループ)が2021年の「10大リスク」のトップに「米国第46代大統領」(すなわち、ジョー・バイデン新大統領)を挙げています。私は、最大のリスクは第45代(ドナルド・トランプ前)大統領ではと思っていたのですが、米連邦議会議事堂乱入事件(1月6日)があったことで、そのリスクはまだ残っているものの、だいぶ小さくなったような気がします。
で、「分断」自体はトランプさんが作り出したわけではなく、米国に前々からあるのです。けれども、その分断をプロレス手法によって炙り出したのですね。WWEのプロレスってとても面白くて、試合が始まる前のマッチメイクの段階からお互いに罵り合わせる。それで勝負がついてからも罵り合う。その罵り合い方によってリターンマッチがあるかどうかもだいたい分かるのですよね。
パックン 他はすぐチャンネルを変えるのに、WWEはしっかり見ていますね ! 面白いですよね。トランプの才能は大統領よりも、不動産業よりも、僕はプロレスのプロデュースで一番発揮していると思うのです。
高村 弾丸で頭をかち割ることから、頭数を数えるようにしたのが民主主義なのです。それがプロレス手法だと、頭数を数えるなんて面倒くさいから頭をかち割るところに戻りかねない、というリスクがあると私は思うのです。
パックン 先日、トランプが次回大統領選に立候補する意思があることを仄めかす演説を行いました。また絶対出てくると思います。
高村 日本の武道というのは、礼に始まって礼に終わるのです。それによってだいたいうまくいく。で、WWEのプロレスも格闘技の一種ですから。
パックン あれは喧嘩です ! まあ、ショーですけれど。
高村 要するに、分断は元々あったし、これからも続く。それをプロレス手法で政治の世界に炙り出していくことは拙いんじゃないかなと思う。米国はそれを分かっているからこそ、200年以上もの間、敗者が勝者を認めてきている。良き伝統を守るのが保守主義者という意味で、トランプさんは票になる部分についての保守イデオロギーを持っているけれど、本当の保守主義者ではないだろうと思っています。
で、「アメリカ・ファースト」と言うけれど、言葉にして言うかどうかは別として、政治家は皆「自国ファースト」なんです。だけど、トランプさんは「トランプ・ファースト」でしょ? 米国に対する忠誠心ではなく、自分に対する忠誠心を求めていますよね。
パックン その通り。あり得ないです。バイデン新大統領についてはどう見ていますか?
高村 私、バイデンさんは期待しています。これだけ分断が炙り出されてしまった以上、そう簡単に国民を統合できるとは思いませんけれど。そういう中で、(単にトランプ氏との比較だけでなく民主党内も含め)よりましな人では、と思っています。
パックン バイデンさんは少し高村先生に近い立場かも知れないですね。左が強い時はちょっと右気味な民主党員で、右が台頭するとちょっと左の抑制力をかける。中道派だと思います。
高村 米国民からは好かれないタイプの人ですよね。だって、曖昧なんだもの。どちらかというと、ワシントンで右と左の調整をやって、何とか物事を進めていくという人でしょ?やはり、国民は「モヤモヤ系」より「スッキリ系」が好きですから。その意味で、トランプさんは一番スッキリした人ですよね。
パックン 好きな人は大好きで、嫌いな人は大嫌いって、ハッキリしていますね。
スッキリ系の首相が引き継ぐ日米の特別な関係
パックン モヤモヤ系とスッキリ系という尺度で測ると、菅義偉首相はどっちですか?
高村 菅さんはどちらかと言ったら、スッキリ系じゃないですか? 自分の思ったことをスッキリやるにあたり、例えば、内閣人事局などの権力を行使するのに躊躇しないという意味では、部分的にスッキリ系だと。
パックン 確かに自分の熱意が入っているイシューには一生懸命取り組みますね。
高村 それは一生懸命やる、働く人です。
パックン 皆さん言いますね、お酒も飲まず、早起きして、勤勉だと。
高村 菅さんが政治的師匠と仰ぐ梶山静六さんは一日一件しか会食しなかった。だけど、菅さんは何回でも会食する。どこが違うか知っています?
パックン お酒じゃないですか !?
高村 そうなの。梶山さんはぐでんぐでんになるまで飲むのです。でも、ディープにお酒を飲みながら、仕事はしてたんですよ。決定的な違いは酒を飲むか、飲まないか。
パックン 高村先生はどっちですか?
高村 私は常に中道ですから、真ん中で(笑)。私がぐでんぐでんになったこと?それを知っている人は僅かですよね。
パックン 恐れ多いのですが、僕の印象を述べさせていただくと、菅さんは本当にやりたいことがはっきり見えていて、それ以外はちょっと関心が薄いように見えるのです。あと、一生懸命やろうとしているところで邪魔されていると感じると、苛立ちが窺われます。
高村 それなりに当たっているんじゃないですか。ただ、それがプラスに出るか、マイナスに出るか、分からないですよね。官房長官時代の会見はスムーズにこなしていたのが、総理になって理念が見えにくい点が出てきている。でも、あの人はそれぞれの仕事について芯があります。その全体像がまだよく見えてないということはあるかも知れない。
パックン バイデンさんと菅さんはどうですか、仲良くしますか?
高村 仲良くすると思いますよ。
「トランプ・安倍」というのは特別の関係ですからね。トランプさんが大統領選で勝利してまだ就任する前、安倍さんが会いに行った。その時、自民党の役員会で私は「人たらしというべきか、猛獣使いというべきか。とにかく(安倍さんは)誰とでも仲良く出来るからトランプとうまくいかないわけがない」と言って送り出したのです。
パックン その通りです。安倍さんは世界で一番トランプ対策がうまかったと思います。
高村 「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」と言いますが、安倍さんの外交は「君子の外交」だと思います。トランプと馬が合ったというのは、「和して」ますよね。「同ぜず」というのは、地球温暖化やTPP(環太平洋パートナーシップ)など日本の中心政策についてはトランプに影響されていない。
パックン ただ、TPPを守らせることは出来なかった。パリ協定からの離脱も止められなかったですね。それは残念だった。
高村 それは出来ないですよ。だって、外交関係って万有引力みたいなもので、お互いに引っ張り合っているのです。ただ、大きいものの方が小さいものに対して影響力が強いのは当たり前です。で、うんと小さくなると、リンゴみたいに落っこちてしまう。米国と日本は大きさの違いはあるけれど、日本はリンゴみたいにはならなかった。いや、世界中の米国の同盟国はトランプの時だけでなく、米国が大きすぎるから「米国追従ではないか」と国内で批判を受けているのです。
パックン 仰る通り、NATOとかG7のメンバーの中では、日本がダントツ、首脳同士の仲が良かったのではないですか。
高村 仲が良くて、それなりに独自路線を歩んでいますよね。TPPにしても残しただけでなく、11カ国でまとめましたから。で、今や英国も入りたいと言い、中国も入りたいかの如く言っています。
<後編へ続く>
(執筆:池野 隆)
3月1日 フォーラムエイト東京本社にて収録
*対談後編は、「Up&Coming」135号(10月1日号)に掲載予定です。
高村正彦氏プロフィール
自由民主党副総裁/弁護士。1942年生まれ。山口県出身。中央大学法学部を卒業後、1968年に弁護士登録。1980年の衆議院選挙で初当選し、経済企画庁長官や外務大臣、法務大臣、防衛大臣などの要職を歴任。平和安全法制や憲法改正などの党内議論を主導した政策通としても知られる。2012年に自民党副総裁に就任し、2018年に退任するまでの通算在職日数は歴代1位を誇る。現在は自民党憲法改正推進本部最高顧問など。
著書
私の履歴書 振り子を真ん中に
著 高村正彦/発行 日本経済新聞出版社
現実的に合理的に何が国益かを考える。外交・安全保障で活躍してきた自民党副総裁が、自らの原点から、37年余の議員生活まで回顧。生々しい証言の数々から、政治の実相が現れる。
パックン プロフィール
本名 パトリック・ハーラン : Patrick Harlan
タレント/東京工業大学非常勤講師。1970年生まれ。米国コロラド州出身。ハーバード大学比較宗教学部を卒業後、来日。福井県での英会話講師やアマチュア劇団の活動を経て上京。1997年に吉田眞(マックン)とお笑いコンビ「パックンマックン」を結成し、芸能界デビュー。以来、漫才をはじめとする広範なエンターテインメントやジャーナリズム、アカデミアの分野で活躍中。
(Up&Coming '21 盛夏号掲載)
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