連載 【第15回】
ストレスと微熱

profile
 関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬塾
クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録医・評議員、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力 心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著など多数。


慢性的にストレスがかかった状態では、不眠、微熱、全身倦怠感などいろいろな症状がみられることがあります。一般的に微熱は、平熱とされる35~37℃未満の体温から37~38℃になった状態をいい、38℃以上は高熱になります。体温は個人差が大きく、健康な時の自分の体温を知っておくことで、いつもより1度以上高く38℃未満の微熱が10日以上、1か月以上続く場合は、慢性のストレスによる心因性発熱を考える必要があります。

ストレスと体温調節

私たちの身体は細菌やウイルスに感染すると、免疫防御反応として炎症性サイトカイン(IL-1,IL-6)がマクロファージから放出されます。炎症性サイトカインは脳に情報を伝え、脳の指令によって機能的な体温上昇が起こります、この状態が感染性の発熱です。炎症性サイトカインが脳に情報伝達するときの主な媒介物質はプロスタグランディンE2(PGE2)です。一方、急性の心理的ストレス状態でも体温上昇反応(stress-induced hyperthermia : SIH)が起こります。体温上昇だけでなく体温低下もおこることがありますが、その反応は一過性で、ストレスから解放されると体温は元に戻ります。またこの反応は感染や炎症に伴う反応と異なり、脳内のノルアドレナリンや自律神経である交感神経活動が関与しています。(図1)

図1

慢性ストレスが体温に及ぼす影響

体温上昇反応が生じるようなストレス負荷を、数週間連続的にかけることで生じた高体温状態では、そのストレスから解放されても高体温は消失しないことが動物実験などからわかっています。またこの慢性のストレス状態ではノルアドレナリンに対して過剰反応するようになります。ヒトでも心理的ストレス負荷によって、37℃以上の体温を示す状態は心因性発熱として知られています。学校に行く時間が近づくと体温が上がったりする子供や、微熱が続いている人の多くが抑うつ状態にあったり、急性のストレスが解決した後も微熱が続く場合は心因性発熱と考えられます。

微熱への対応

健康な人でも体温が37.0~37.7℃という人も少なくないため、微熱を平熱から区別すことは実際難しいといえます。微熱を訴える人は、わずかな体温上昇が続くことにより、身体が普段以上にエネルギーを消費することで疲労しています。心因性発熱では検査を繰り返しても異常がなく、解熱剤に抵抗性で、長期にわたり倦怠感や上半身ののぼせ、頭痛を伴うこともあります。慢性のストレス状態が続く状況で、何がストレス負荷になっているかはわからないこともあります。また慢性のストレスがどの程度影響しているのか、一人一人に合った個別的な対応が必要になってきます。実際の治療では微熱が慢性ストレスによる体温の上昇であるという心因性発熱の病態を説明することが重要です。そしてどのようなストレスが心因となっているのか、個別的な対応、ストレスを減らす環境(家庭や職場環境)の調整や心理療法が必要となることも少なくありません。日々の生活の中で、ストレス低減につながるセルフケアも役立ちます。その基本は働き過ぎない、エネルギーを使いすぎないようにすること、意識的に心も身体も「休める」「ゆるめる」ことが大切です。交感神経活動による、ストレス過剰反応性を改善するためにも、良い睡眠をとること、抗炎症食の食事、呼吸法やリラクゼーションを取り入れてください。



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(Up&Coming '21 秋の号掲載)
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