IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太
イエイリ・ラボ体験レポート
Vol.51
橋梁下部工設計体験セミナー
【イエイリ・ラボ 家入龍太 プロフィール】
BIM/CIMやi-Construction、AI、ロボットなどの活用で、生産性向上やコロナ禍などの課題を解決し、建設業のデジタル変革(DX)を実現するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式サイトはhttps://Ken-IT.World

建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けする予定です。

はじめに

建設ITジャーナリストの家入です。社会インフラの中でも重要な橋梁を支えているのは橋脚や橋台、そして基礎です。これらは「下部工」と呼ばれ、橋の“土台”として、長い使用期間の間、安定的に橋桁(上部工)を支えていくことが求められます。

そこで、下部工の設計では、使用期間の間に起こりうる様々なケースを想定し、下部工が様々な荷重に耐えられるようにしています。最も基本的な荷重は、橋桁の自重による死荷重です。続いて、橋を走行する車両による活荷重があります。時には車両が衝突することもあります。

上部工や下部工が温度変化で伸び縮みしたときの荷重や、風、雪、波など天候の変化によって生じる荷重も無視できません。また、長い使用期間の間には、コンクリートが縮む「クリープ」と呼ばれる現象や、乾燥収縮もあります。

そして、何十年もの間には大きな地震に見舞われて、通常ではありえないほどの大荷重が作用することもあります。そんな時は多少の損傷はあっても、橋桁が落下することだけは、なんとか防がなければなりません。

橋に作用する荷重を全方位で考慮し、それぞれの荷重に対する橋のダメージを定義して、使用期間中の安全性を確保するための具体的な設計方法を定めたのが、「道路橋示方書」です。現在の最新版は、平成29年11月に発刊された「道路橋示方書・同解説」になります。

▲道路橋示方書で目指す橋の限界状態。大地震など最悪の荷重が作用しても、落橋だけは防ぐ「橋の限界状態3」が保たれるようにする
▲一般の橋(A種)と国道や自動車専用道など重要度の高い橋(B種)の設計の考え方。B種は最悪の状態になっても早期に機能確保できるように設計される
「トライアンドエラー」で用・強・美を

橋の設計手順はまず、橋を架ける現場の条件を考慮して、橋の長さや橋台・橋脚で支える支間長、橋脚の太さなどを過去のプロジェクトや概算の設計数値から「これくらいの大きさは必要だろう」と、決めることから始まります。

すると、橋の自重や通行する車両の重量、地震時に橋にかかる地震力などがわかってくるので、これらの荷重を橋に作用させて、橋の各部分が耐えられるかどうかを計算します。その結果、もし強度が不足する部分が出てきた場合には、その部分の断面を大きくするなど、橋の設計を修正します。

このとき、橋桁や橋脚の断面を太くすればそれで安心かというと、そうではありません。断面が太くなれば、自重も大きくなるので死荷重や地震荷重も大きくなってしまうからです。

こうして橋の設計を仮定する→橋にかかる荷重を計算する→橋の各部分が耐えられるかを計算する、という「トライアンドエラー」を何度も繰り返して、最終的にすべての部分の強度がOKになるまで行うのです。

もちろん、全体的に「太め」でゴツゴツした設計にしておけば、強度的には安心ですが、今度は工費がかかりすぎるなどの問題も出てきます。必要な機能を提供でき、十分な強度を持ち、スリムな橋を設計するかという「用・強・美」の精神が、橋の設計には求められます。


▲橋梁は上部構造の荷重を、橋台、橋脚、基礎からなる下部工が支えられるように、各部の寸法を仮定することから始まる

▲構造諸元を変えては耐力を照査する、トライアンドエラーによる設計のフロー


50年の歴史を持つ道路橋示方書

道路橋示方書が制定されたのは昭和47年(1972年)にさかのぼります。それ以降、阪神・淡路大震災や東日本大震災といったそれまで経験しなかった大地震を経験し、車両も大型化したほか、構造物の長寿命化といった新たな視点も生まれました。

制定から50年目に当たる平成29年に改定された最新版の道路橋示方書には、多様な構造や新材料に対応する設計手法が導入されたほか、設計供用期間を100年とすることが標準とされ維持管理の方法を設計時点で考慮することなどが盛り込まれました。まさに、過去50年間に蓄積された橋梁設計のノウハウが集大成された示方書と言っても過言ではありません。


製品概要・特長

フォーラムエイトでは、最新版の道路橋示方書に準拠して、橋台や橋脚、基礎などの下部工を設計する「下部工基礎スイート」という製品を開発・販売しています。

その大きな特長は、下部工の設計と荷重の計算が連動することです。先に説明したように、橋脚や橋台などの断面を大きくすると荷重も大きくなるので、構造物に求められる耐力も変わってくる、という「トライアンドエラー」を、面倒な手作業によることなく、ソフト内でスピーディーに行えるのです。

そのため、同じ時間内で手作業では考えられないような回数のトライアンドエラーを繰り返すことができ、用・強・美を備えた下部工の設計を短時間かつ正確に行えます。さらに、基礎の設計とも連動しており、下部工設計の生産性を大幅に向上できます。

道路橋示方書で想定した荷重の組み合わせに対応するため、設計で取り扱う荷重の種類は死荷重、活荷重をはじめ22種類もあり、荷重同士の組み合わせによって荷重の増減を考慮した荷重係数や組み合わせ係数を自動的に設定できるようになっています。

 
▲製品間のデータ連携イメージ。地震時の荷重となる震度算出と橋脚・橋台の間でデータ連携するので、トライアンドエラーによる設計検討がスピーディーに行える   ▲設計で扱う荷重の一覧。
 22種類もある

このように、橋梁下部工の設計には多くの複雑な要素が関連しているため、「下部工基礎スイート」は数多くのプログラムがセットになっています。基本的な橋脚、橋台や震度算出、杭基礎など11本からなる「Advanced」、ラーメン橋脚や深礎フレームを含む15本からなる「Senior」、RC橋脚やラーメン式橋台などを含む23本からなる最上位の「Ultimate」の3種類のスイート製品があります。

価格は1年ごとのサブスクリプションとなっておりWeb認証版の場合、Advancedが139万円(税別。以下同じ)、Seniorが219万円、Ultimateが241万円です。

体験内容

7月21日の午後1時半から午後4時半まで、Zoomによるオンラインセミナー形式で「橋梁下部工設計体験セミナー」が開催されました。講師を務めたのは、UC-1開発第2グループの菊田 裕二さんです。

冒頭の45分は、道路橋示方書で規定されている橋梁下部工の設計方法や、下部工スイートによる設計の流れなどを解説し、その後は実際に下部工スイートのプログラムを使った実習をみっちり行いました。使用したプログラムは「UC1-Engineer’s Suite」シリーズの「震度算出(支承設計)」「橋台の設計・3D配筋」「橋脚の設計・3D配筋」「基礎の設計・3D」配筋の4種類です。いずれも平成29年道路橋示方書と部分係数法に対応しています。

例題として取り上げたのは、支間長40mの2径間連続コンクリート橋です。コンパクトな例題ですが、橋台や橋脚、杭基礎と、必要な要素が含まれており、下部工設計の流れを一通り体験できるように、よく考えられていました。

続いて「橋梁長寿命化修繕計画策定支援システム」では、システムに橋梁台帳を読み込み、計算対象とする橋梁を選びました。さらに補修工費の算出に必要な単価入力や、経年変化による健全度を求める「劣化モデル」のデータ入力や回帰曲線の設定、健全度の予測グラフの作成などを行いました。最後に年間の補修予算を3000万円に制約し、補修計画を前倒しや先送りによって平準化する作業も体験しました。

実習の内容は大きく分けて、次の4つからなっていました。(1)各ソフトで下部工の寸法や仕様を定義し、全体モデルを作成する→(2)水平震度を計算し、その結果を橋台・橋脚の設計ソフトに取り込んで応力度などを照査する→(3)照査結果がNGになった部分の断面寸法などを変更し、再度、震度を算出する→(4)最終的にすべての部分がOKとなるまで繰り返す、という流れです。

▲4月23日にオンラインで開催された「橋梁長寿命化・維持管理体験セミナー」
▲実習の例題として取り上げた2径間連続コンクリート橋の下部工
■実習の流れ
(1)まずは下部工の形状を入力する (2)震度算出プログラ
ムの結果を取り込む
(3)応力照査結果。OKは緑色、NGは
赤色で示される
(4)設計変更を行い、最終的にすべて
OKの緑色になれば設計完了

実習では震度を算出した後、橋台、橋脚、杭基礎のそれぞれについて荷重に対応した応力を計算し、最終的にすべてがOKになるまでの設計フローを体験しました。

最後は、設計内容を実際の構造物として施工するために図面や3Dモデルで表現します。自動作成された図面は、2次元汎用CAD「UC-Draw」に読み込んで編集や出力が行えます。

また、国土交通省が推進する「i-Construction」施策に対応して、設計結果を3DのCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)として作成し、IFC形式や3DS形式、RFC形式で書き出して、他のCIMソフトや3次元CADソフトに読み込んでの活用も可能です。

▲自動作成された図面をUC-Drawに読み込
んで編集する
▲自動作成されたCIMモデルを「3D配筋CAD」に読み
込んだ例
▲3DS形式に書き出せば「SketchUp」に
読み込んで活用することもできる

イエイリコメントと提案

BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIMの世界では、設計と応力解析が別々のソフトで行われることが一般的で、両者の間でデータ変換や手入力などのムダがいまだに多いのが現状です。

その点、「下部工基礎スイート」は、設計段階で各ソフト間のデータ連携がしっかりできているので、「データ変換のムダ」や「手入力のムダ」がほとんどありません。また、設計結果も汎用性の高いIFC形式などで書き出せるので、その後のBIM/CIMソフトでの設計ワークフローにスムーズに載せることができます。

フォーラムエイト製品の強みは、自社での地道な開発によって製品間のデータ連携がしっかりとできていることにあります。その結果が、設計の生産性向上に結びついています。



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(Up&Coming '21 秋の号掲載)
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