「2023年新作映画ベスト5!&映画コラム」

2023 年も仕事と映画に専念してきた私が今年も年間ベストを発表させていただきます。昨年は配信含め115本の新作を鑑賞(11月末時点)!絞りに絞ったベスト5とともに、映画コラムとして昨年起きたハリウッドストライキについて書いています。

2023年映画ベスト5

無限に繰り返される2分が奇跡を起こす!
5位「リバー、流れないでよ」

京都を拠点にする劇団「ヨーロッパ企画」が手がけたオリジナル脚本の映画。とある旅館を舞台に、2分のタイムループを無限に繰り返す群像劇。2分という僅かな時間設定のおかげで非常にテンポよく、毎回新鮮味のある2分間で笑って泣いての娯楽作品。

2分の繰り返しは人生の縮図なのかもしれません。1日1日あっという間に過ぎていきますが、悔いのないように意味のある1日にしようと思えるようになりました。ちなみに、脚本の上田誠氏は時間SFの名手で、昨年10月からフジテレビ系列で放送されているドラマ「時をかけるな、恋人たち」も手がけています。

日本映画 上映時間:86分 配給:トリウッド
監督:山口淳太 出演:藤谷理子、鳥越裕貴ほか

時をかけるよ、どこまでも
4位「ザ・フラッシュ」

時間の繰り返しという点では5位の作品とテイストが近いですが、こちらはハリウッドによるマルチバース(多元宇宙)作品です。マルチバースに関してはマーベル映画が先行して制作されましたが、後発的に作られたのがこちらのDC作品。

マルチバースの特性を活かし、1989年のマイケル・キートン版、2016年のベン・アフレック版、そして90年代に活躍したあの俳優版と、3人のバットマンが同じ世界線に存在している幕の内弁当のような映画なのです。

父の容疑を晴らすため、大切な友を救うために過去の往来を無限に繰り返す主人公フラッシュ。時間の可能性と限界を知るビターな展開も好みのテイストでした。

アメリカ映画 上映時間:144分 配給:ワーナー・ブラザース映画
監督:アンディ・ムスキエティ 出演:エズラ・ミラー、マイケル・キートン、ベン・アフレック、???(カメオ)ほか

一足のシューズがスポーツビジネスを変えた
3位「AIR エア」

エア・ジョーダン。誰もが一度は耳にしたことがあると思います。あまりに有名なナイキのシューズの誕生秘話を描いた実録伝記モノです。無名の新人ながらも高いポテンシャルを秘めていたマイケル・ジョーダンに対して、ナイキをはじめ他のメーカーもジョーダンに熱視線を送ります。争奪戦に参加するも、資金力でも人員でも劣るナイキ社の熱意と取引の巧みさに感銘を受けました。

後述しますが、今作がハリウッドのストライキが起きた今年に公開されたのも印象的です。正当な報酬を受け取れなかったスポーツ選手とハリウッド脚本家・俳優は重なる部分が多く、スポーツ界を通してハリウッドの窮状を訴えたのかもしれません。

アメリカ映画 上映時間:112分 配給:ワーナー・ブラザース
映画監督:ベン・アフレック(「アルゴ」) 出演:マット・デイモン、ベン・アフレックほか

包丁を作った人も罪になるのか
2位「Winny」

2000年代初頭に流行ったファイル共有ソフト「Winny」の」開発者である金子勇氏が主人公の物語。ソフトの開発過程ではなく、ソフトが流通して社会問題になり始めた時から話が始まり、金子勇が京都府警に逮捕されて以降の裁判劇がメインになります。

Winnyの裁判劇を通じて「技術は罪なのか」という問いかけが頭の中で反芻しました。例えば、包丁で人を刺したら罪になるのは当たり前。しかし包丁を売った人や作った人は罪になるのでしょうか。Winnyも同様に、P2P通信を使った革新的なデータ共有技術自体には罪はないのです。

日本映画 上映時間:127分 配給:KDDI、ナカチカ
映画監督:松本優作 出演:東出昌大、三浦貴大、吹越満ほか

この映画との出会いは運命的
1位「ロスト・キング 500年越しの運命」

115本の新作映画を鑑賞してきた中で、唯一「運命的な出会い」だと感じる作品でした。シェイクスピア劇「リチャード三世」を鑑賞したことがきっかけでリチャード3世に興味を持ち、500年以上に渡って行方不明だった遺骨の発掘に成功した実在の女性をモデルに描かれた今作。

運命としか言いようがない主人公とリチャード3世との出会いですが、私自身も今作との出会いは運命的でした。細かな演出まですべて自分の好みで、かつ主人公の境遇や環境も共通点があり、年間ベスト1位以外は考えられない作品でした。

考古学の素人が大学や行政機関と交渉、四苦八苦しながらも家族に助けられながら運命的な出会いを果たす。僅かなヒントから運命の意図を手繰り寄せようとする主人公と、彼女を見守るリチャード3世(主人公だけには見える設定になっている)との切なくも愛おしい関係に見惚れていました。

イギリス映画 上映時間:108分 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
映画監督:スティーブン・フリアーズ 出演:サリー・ホーキンス、スティーブ・クーガン、ハリー・ロイドほか

2023年はハリウッドに激震が走った

2023年はハリウッドに激震が走った年でした。5月に全米脚本家組合が、7月には全米映画俳優組合がストライキを行い、ハリウッドの映画製作が中断してしまいました。

大きな問題になったのはAIの使用に関する対策の相違でした。脚本の自動生成や、役者のスキャンデータを使って声や演技をデジタルで生成するといったAIによる映画製作に、両団体は猛烈に反抗したのです。

今回の出来事をなぞらえたような映画が今年公開されました。トム・クルーズ主演の「ミッション:インポッシブル /デットレコニング PART ONE」です。トムが正体不明のAIに苦しめられる作品ですが、まるでハリウッドを取り巻くAIとの関係のようにも思えてくるのです。そして、同作を鑑賞したジョー・バイデン大統領は、直後にAIに対する懸念を明らかに。その後、AI規制の大統領令を発令しました。同作がバイデン大統領の意思決定にどこまで影響を与えたのか分かりませんが、非常に印象的な出来事でした。

現時点(2023年12月5日)では両団体のストライキが終了しましたが、ハリウッドの存続が危ぶまれた決して忘れられない年でした。

2024年3月6日(水)発売『ロスト・キング 500 年越しの運命』
■ Blu-ray:¥5,170(税込) ■ DVD:¥4,180(税込)
©PATHÉ PRODUCTIONS LIMITED AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2022 ALL RIGHTS RESERVED.



(Up&Coming '24 新年号掲載)

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