グラベルラリー4連戦はいずれも別のウイナーが誕生
わずかな差が勢力図の変化を呼び込む
フィンランド、ギリシャ、チリを終えて、残るは2戦
好調トヨタ勢は選手権制覇に向け視界良好
勝田貴元もヨーロッパで初表彰台と着実な成長見せる
ヒョンデのヌービルが今シーズン初勝利を獲得
2023年シーズンの世界ラリー選手権(WRC)は、グラベル(未舗装路)ラリーが連続する中盤戦へ。第6戦ラリーイタリア・サルディニア(6月1〜4日)、第7戦サファリラリー・ケニア(6月21〜25日)、第8戦ラリーエストニア(7月20〜23日)、第9戦ラリーフィンランド(8月3〜6日)を転戦した。
観戦のために、毎年多くのファンが集うラリーフィンランド。これまでにも多くのチャンピオンを輩出しており、ラリーが文化として根づいていることが良く分かる。
地中海のリゾート地、サルディニア島を舞台とする第6戦「ラリーイタリア・サルディニア」。サルディニアのグラベルステージは柔らかい砂で覆われており、走行順の早いクルーが圧倒的に不利。さらにラリーカーの走行によって砂が掃けると、下から硬い岩盤が露出し、タイヤに大きな負担を強いることになる。30℃を超える気温も含めて、クルーやタイヤに厳しい一戦と言える。
6月1日木曜日、オルビアの市街地SSで幕を上げたラリーは、2日金曜日から本格的なステージを走行。序盤はトヨタのセバスチャン・オジエとヒョンデのエサペッカ・ラッピが0.1秒差の首位争いを展開する。3日土曜日、ラッピを引き離そうとプッシュしていたオジエが、SS14のスタートから1.4㎞地点の左コーナーでコースオフ。彼のトヨタGRヤリス・ラリー1は堤防から滑り落ちてしまう。マシンのダメージが大きかったため、コース復帰はかなわず、オジエはここでリタイアとなった。
第6戦イタリアのグラベルステージを疾走するヒョンデのエサペッカ・ラッピ。エースのティエリー・ヌービルに続いて2位に入り、チームとして1-2フィニッシュを飾った。
この日、ベストタイムを並べたヒョンデのティエリー・ヌービルが、このステージでチームメイトのラッピをパス。オジエが戦列を去ったことで首位に立った。最終日を前に安全圏とも言えるアドバンテージを手にしたヌービルは、残された4SSをきっちりとまとめ、待望のシーズン初勝利。2位にラッピ、3位にはパワーステージを制したトヨタのカッレ・ロバンペラが入った。トヨタの4台目をドライブした勝田貴元は、SS8のウォータースプラッシュでフロントを破損。ダメージが大きくデイリタイアを余儀なくされたが、最終日に再出走し、パワーステージで貴重な3ポイントを持ち帰っている。
ヌービルはこのイタリアで今季初優勝を達成しライバルに一矢報いることに成功。最終戦ジャパンでは連覇を狙う。
コースのところどころには写真のような川渡りが。車体へのダメージを軽減するためには、進入時の姿勢作りもポイントとなる。
TGRが2年連続での1-2-3-4フィニッシュを達成
1953年にエリザベス女王の戴冠式を祝して初開催された「サファリラリー」は、今回の第7戦が記念すべき70回目。5000km以上を走行していたかつての規模と比較すると、ルートは大幅にコンパクト化されているが、路面に開いた大きな穴や岩だらけのセクション、深い川渡りや大雨が降れば滑りやすい路面など、その厳しさは変わらない。特にナイバシャの北部を走行する6月24日土曜日のルートは、多くのクルーが「マシンにどれほどのダメージが及ぶのか想像もつかない」と指摘するほど、ハードな路面が広がる。
6月21日水曜日に行われたシェイクダウンにおいて、2年連続で表彰台を獲得している勝田に予想外のアクシデントが襲い掛かった。5.40kmのステージ終盤で転倒を喫し、彼のGRヤリス・ラリー1はリヤセクションに大きなダメージを負ってしまう。それでもTOYOTA GAZOO Racing(TGR)のメカニックは必死の作業で修復。22日木曜日のスタートには間に合うことになった。
ナイロビ郊外に設けられたオープニングのスーパーSSを制したのは、Mスポーツ・フォードのオィット・タナック。本格的なステージ走行となった23日金曜日、SS2でベストタイムをマークしたオジエが、ロバンペラを従えて首位に立った。一方、初日トップのタナックはシマウマの群れに遭遇し、ステージ中での停止を余儀なくされ、大きく後退してしまう。
ラリー3日目、3番手まで順位を上げていたラッピがプロペラシャフトを破損してストップ。これで首位のオジエを筆頭に、2番手にロバンペラ、3番手にエルフィン・エバンス、4番手に勝田とトップ4をトヨタ勢が占めることになった。最終の25日日曜日、オジエはハッチゲートとリヤウイングを失うアクシデントに見舞われながらも、ロバンペラに6.7秒差をつけてシーズン3勝目をマーク。3位にエバンス、4位にも勝田が入り、トヨタは2年連続で1-2-3-4フィニッシュを決めた。5位にはヒョンデ勢最上位のダニ・ソルドが入っている。
サファリラリーは広大なサバンナを舞台に、ラリーカーが駆け抜ける。200km/h近い最高速度でグラベルステージを駆け抜ける様子は迫力満点。野生動物と遭遇することもあるという。
SSとSSの間を繋ぐ移動区間はリエゾンと呼ばれ、交通ルールを守って安全に移動する。地元の市場を通過したり、その国ならではの光景を見ることができる。
昨年に引き続き、トヨタが1位から4位までを独占する強さをみせた。
北欧2連戦。フィンランドで勝田貴元が3位表彰台
サファリから約1カ月のインターバルを経て迎えた第8戦「ラリーエストニア」は、フィンランドにも似た高速グラベルラリー。Mスポーツ・フォードのエース、タナックの地元ということもあり、今年も多くのファンがステージに集結することになった。ところが、タナックのフォード・プーマ・ハイブリッド・ラリー1は、シェイクダウンにおいてエンジントラブルが発生。タナックは5分間のペナルティを受けてエンジンを交換。無事にスタートを果たしたものの、優勝争いの望みを早々に断たれてしまった。
ラリーは7月20日木曜日に行われたタルトゥでのSS1に続き、21日金曜日からは本格的な林道ステージを走行。序盤、ヌービルがラリーをリードするが、連続ベストを刻んだロバンペラがSS6でヌービルとラッピを捉えて首位に浮上する。ラリー3日目、ロバンペラはこの日行われた全SSでベストタイムを並べ、総合2番手につけるヌービルとの差を34.9秒にまで拡大してみせる。ロバンペラの勢いは最終日も変わらず、前日に続き全SSでベストタイムを記録。ボーナスポイントが与えられる最終のパワーステージも制し、2位のヌービルに52.7秒差をつけて優勝を果たした。ロバンペラはエストニアを3連覇、今シーズン2勝目を手にしている。
フィンランドと似たステージの第8戦エストニアは、ハイスピード&ジャンピングスポットが点在。ヌービルが2位に入る力走をみせ存在感を示した。
第8戦エストニアで勝利を挙げたのはトヨタのロバンペラ。ヒョンデ勢の追撃を退けてシーズン2勝目を獲得した。
熱烈な応援のもと第2戦以来の勝利が期待されたが、スタート前のエンジン交換でペナルティが科され、勝負権を失ってしまった。
続く第9戦は、通称“フィニッシュ・グランプリ”と呼ばれるWRC屈指の高速グラベルステージを走行する「ラリーフィンランド」。これまで地元フィンランドをはじめ北欧出身のドライバーが圧倒的な強さを誇ってきたラリーだ。72回目の開催となった2023年は、TGR-WRTのチーム代表を務めるヤリ-マティ・ラトバラがトヨタGRヤリス・ラリー1で参戦して大きな話題をさらった。ラトバラのWRC出場は2020年のスウェーデン以来となるうえ、ラリー1マシンを実戦でドライブするのは今回が初となる。
ラリーフィンランドでは過去3回の勝利経験を持つラトバラは「40歳になるまでにラリー1でWRCに参戦してみたかった。今回はキャリア復帰を狙うためじゃない(笑)、純粋に楽しみたいね」と、参戦理由を語っている。
8月3日木曜日にユバスキラ市街地で行われたSS1に続き、4日金曜日から本格的な林道ステージを走行する。SS3で2番手を走行していたタナックがエンジントラブルでストップ。さらにベストタイムを連発し、首位を快走していたポイントリーダーのロバンペラも、SS11の11.1㎞地点の右コーナーで大きくスライドし、転倒してしまう。ロバンペラのGRヤリス・ラリー1はダメージが大きく、圧倒的な優勝候補が早々に姿を消すことになった。
バンペラの脱落で首位に立ったのはチームメイトのエバンス。ラリー3日目には7連続ベストタイムを刻むなど、2番手ヌービルとの差を拡大していった。エバンスは最終日も安定したペースを披露し、これでシーズン2勝目。ヒョンデのテーム・スニネンと僅差の3番手争いを展開した勝田は、4.3秒差で逃げ切り、欧州ラウンドにおける自身初の3位表彰台を獲得した。また、大きなトラブルもなく走り切ったラトバラは5位を得ている。
フィンランド序盤に足まわりを破損してしまったMスポーツ・フォードのルーベ。再出走を果たしたのちはSS4〜6番手タイムを安定して刻んだ。
このフィンランドには豊田章男トヨタ自動車会長も登場。表彰式では優勝したエバンスと3位の勝田にシャンパンを浴びせられていた。フィンランドでの表彰台獲得は日本人選手として初の快挙だ。
第9戦ラリーフィンランドを終えて、マニュファクチャラーズ選手権は7勝を挙げたトヨタが、ヒョンデに67点差をつけて大きくリード。ドライバーズ選手権はロバンペラがランキングトップを維持しているが、地元フィランドでノーポイントに終わったこともあり、チームメイトのエバンスが25点差に迫っている。36点差の3番手にヌービル、66点差の4番手にタナックと、各チームのエースが続いており、終盤戦に向けた展開が注目される。
(執筆:合同会社サンク)
(Up&Coming '23 秋の号掲載)
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