最終戦を待たずにトヨタが王座獲得

2023年シーズンの世界ラリー選手権(WRC)はタイトル争いも佳境を迎え、いよいよ終盤戦へ。シリーズ屈指の厳しい路面コンディションを誇る第10戦アクロポリスラリー・ギリシャ(9月7日~10日)において、首位を争ったのはヒョンデのティエリー・ヌービルとトヨタのセバスチャン・オジエ。先頭スタートのカッレ・ロバンペラ(トヨタ)は、彼らから一歩遅れた3番手で追う。

ラリー3日目、首位のヌービルがSS10で右フロントとステアリングを壊してストップ。オジエもSS12で左リヤをヒットし、サスペンションにダメージを負ってしまう。これで首位に立ったロバンペラは最終日も危なげなく走り切り、シーズン3勝目。僅差の3番手からスタートしたエルフィン・エバンス(トヨタ)はSS13でダニ・ソルド(ヒョンデ)を逆転、2位を得ている。

4年ぶりにWRCカレンダーへと復帰した、第11戦ラリーチリ(9月28日~10月1日)では、グラベルラリーで初日に有利な後方スタートを活かしたテーム・スニネン(ヒョンデ)と、オィット・タナック(Mスポーツ・フォード)が首位争いを展開した。タナックはSS5でスニネンをかわして首位に浮上すると、ラリー2日目に2番手以下との差を拡大してみせる。最終日、2番手のスニネンはSS15で右フロントサスペンションを破損してコースオフし、ヌービルが総合2番手、エバンスが総合3番手に順位を上げた。タナックは最終ステージも危なげなく走り切り、シーズン2勝目。2位にヌービル、3位にエバンス、4位にパワーステージを獲ったロバンペラが入り、トヨタが3年連続のマニュファクチャラーズ選手権タイトルを決めた。

第12戦セントラル・ヨーロピアンラリー(10月25日~29日)は、WRC史上初の3カ国(ドイツ、オーストリア、チェコ)にステージがまたがるターマックイベントとして開催された。本格的なラリーが幕を開けた金曜日、先頭スタートのロバンペラは、この日だけで4本ものベストタイムを並べ、ヌービルに36.4秒差をつけてリードする。ところが、土曜日のSS10でロバンペラがスピン。さらにSS11では総合3番手につけるチームメイトのエバンスがクラッシュしてしまう。これを受けてロバンペラは安全なペースに切り替え、ヌービルが首位に立った。ヌービルは最終日も危なげなく走り切り、シーズン2勝目。2位を得たロバンペラが2年連続のドライバーズ選手権タイトルを決めている。

第10ラウンド、Eko Acropolis Rally Greeceではロバンペラ(トヨタ)が優勝

第11ラウンドのRally Chile Biobío。チリでのラリー開催は実に4年ぶりだった

第12ラウンドCentral Europe Rallyは史上初の3ヵ国開催で、ドイツ、チェコ、オーストリアを跨いで開催された。ここではヌービル(ヒョンデ)が勝利している

悪天候のSS2でアクシデントに遭うも勝田はベストタイムを連発し追い上げ

すべてのタイトルが確定して迎えた、最終戦フォーラムエイト・ラリージャパン(11月16日~19日)。WRCカレンダー復帰2年目も愛知県・岐阜県を舞台とするターマックイベントとして行われた。ラリーの拠点となるサービスパークは、昨年に続き愛知県豊田市の豊田スタジアム。今回はスタジアム内に2台が同時走行するスーパーSSのコースが設置されている。

11月16日木曜日の夕方には、豊田スタジアム内でセレモニアルスタートとSS1を実施。スーパーSSは立体交差のジャンピングスポットと、タイトコーナーが組み合わされたステージ。

ダメージを負いつつも走行を続ける勝田。このトラブルによりかなりの時間をロス。その地点はアクシデントが続き伊勢神トンネルに続く「魔境」となった

煌びやかにライトアップされるなか、最初の対戦カードはナショナルカークラスで参戦する勝田範彦(トヨタGRヤリス)対新井敏弘(スバルWRX S4)という、日本のラリーを牽引してきたベテラン対決で幕を上げた。ここで幸先よくベストタイムを刻んだのはヌービル。2番手にエサペッカ・ラッピが続き、ヒョンデ勢がトップ2を占めた。3番手にタナック、4番手にソルド、トヨタ勢の最上位となる5番手には勝田貴元が入っている。

本格的なラリースタートとなった17日金曜日、この日のオープニングは最長の23.67㎞を走行するSS2。前半からライバルを圧倒するスピードで飛ばしていた勝田が、スタートから11.8㎞地点で痛恨のコースオフを喫し、右フロントとラジエターにダメージを負ってしまう。勝田はスローダウンを余儀なくされ、2分30秒以上をロス。早くも勝利を狙うことは難しくなってしまった。この勝田と同じ場所ではソルドとアドリアン・フルモー(Mスポーツ・フォード)もクラッシュ。どちらのマシンも土手から落ち、ダメージが大きくラリー続行を諦めている。

土手から滑落しラリー続行を諦めたフォードのフルモー(手前)とヒュンダイのソルド(奥)

昨年度からアクシデントが多く勃発し話題を呼んだ名所SS、「旧伊勢神トンネル」。幅員6.5mの狭いトンネル内を今年も猛スピードでラリーカーは駆け抜けてゆく。22年はトンネル内のダストが視界を遮ったが、今大会では舗装されてクリーンな路面となった

波乱のSS2で一番時計を刻んだのはエバンス、4秒差の2番手タイムにチームメイトのオジエ。トヨタの2台から少し離れた20.8秒差の3番手にヌービル、32.3秒差の4番手にロバンペラが入った。この結果、エバンスがトップに立ち、オジエが3.8秒差の総合2番手に浮上。初日首位のヌービルは3番手にドロップした。SS3は雨脚が強まるなか、首位のエバンスが連続ベスト。フロントウインドウが曇ってしまったクルーが軒並みペースを落とすなか、ヌービルがオジエを捉えて、エバンスから26.0秒差の総合2番手に順位を上げた。前のステージでマシンにダメージを負った勝田はリエゾンで応急処置を施し、1分10秒のペナルティを科されてSS3をスタート。ペースを抑えながらもステージを走り切っている。

フォーラムエイトロゴのペイント部分を破損したまま走行するオジエ(トヨタ)。
野球でいうビッグボードへの打球直撃のようなものだろうか。タイトルスポンサーとしては特別に感じられる破損である

悪天候からSS4はキャンセル。SS5はサービスでダメージを修復した勝田が、今回初のベストタイムをたたき出す。コンディションが回復しつつあるなか、まだドラマは終わっていなかった。2番手のヌービルがSS6のスタートから100m地点で路面の継ぎ目に乗ってコースオフ。立木に激突し、デイリタイアとなった。このステージでも勝田が連続ベストタイム。ヌービルの脱落により、オジエとロバンペラが順位を上げ、トヨタがトップ3を独占することとなった。

午前中にキャンセルとなったSS4を再走するSS7でも、勝田が3連続ベスト。この日を締めくくるのは、初日も走行した豊田スタジアムだ。直前に降雨があったこともあり、非常に滑りやすいコンディションとなったスーパーSSを制したのは、ヒョンデ勢で唯一生き残ったラッピ。総合2番手のオジエは、SS5でボディ左サイドに負ったダメージの修復を余儀なくされ、サービスの制限時間を6分オーバーし、60秒のペナルティ。これにより首位のエバンスは1分49秒9のアドバンテージを得て、2日目を終えることになった。総合3番手は枯葉が積み重なった路面に苦しんだ、先頭スタートのロバンペラ。勝田は首位から5分7秒9遅れの総合9番手から、挽回を目指す。

穏やかな田舎道を颯爽と駆け抜けてゆくラリーカーは地元住民からも大きな注目を集める。

明知鉄道のラッピング車両と並走する貴重なシーンもみられた

ロードセクションでは街中も走行。無料で観戦できるため、初めてラリーを目にするという方々も多い。こういった点は公道をバトルフィールドとするラリーの醍醐味といえるだろう

スタート前には豊田市駅前でのサイン会なども行われ選手を身近に感じることができる場となった

競技3日目に想定外のトラブル
トヨタが母国ラリーで表彰台独占

18日土曜日のラリー3日目。この日のオープニングとなったSS9において想定外のアクシデントが起こった。SSの安全を確認する0カーが、観戦エリアではない場所にいた観客を排除するためにステージの途中でストップ。ここに、前日のリタイアから再出走にまわり、先頭走者だったヌービルが追いついて、赤旗が掲出される事態となってしまったのだ。「あわや」の事態が起こった可能性もあり、主催者は24年の開催に向けて、ひとつ大きな課題を残すことになった。

首位のエバンスは2番手のオジエに大きなリードを築いており、危険を避けたペースでの走行にスイッチ。それでも、突然の霙(みぞれ)に見舞われたSS14でペースを下げた以外は、2回のベストタイムを含む安定した走りを披露し、オジエを1分15秒リードして首位を守り切った。また総合2番手のオジエと、総合3番手につけるロバンペラの差は、25.6秒差に拡大している。勝田はこの日も勢いが衰えることなく、SS10、SS13、SS14、SS15と4本のベストタイムをたたき出した。これで前日の総合9番手から大きく順位を上げて6番手に浮上、さらに5番手タナックとの差を14.9秒差に縮めている。

最終日、首位のエバンスは、2番手以下との差を1分17秒7に拡大してリードを守り切り、シーズン3勝目。2位にオジエ、3位にロバンペラが入り、トヨタが第7戦サファリラリー以来となるシーズン2度目の表彰台独占を達成した。最終SSをフィニッシュしたエバンスは「すごく難しいコンディションだったし、厳しい週末だった。それでもマシンは好調だったし、トヨタの母国イベントで1-2-3フィニッシュを飾れるなんて最高だよ!」と、笑顔で喜びを語っている。

難しいラリーをトップで走り切り、シーズン3勝目を獲得したトヨタのエルフィン・エバンス(右)とスコット・マーティン。ドライバーズ選手権2位を確定した

表彰式ではフォーラムエイト代表取締役社長の伊藤が優勝カッププレゼンターとして登壇。トヨタの1,2,3フィニッシュを祝った

3台のトヨタに続く4位は、後半のセクションでスピードアップを果たしたラッピ。勝田は2日目に5分近くのタイムロスを強いられながら、自身最多となる1戦で10回のベストタイムをマークし、5位でホームイベントを走り切った。今回がMスポーツ・フォードからの最後の参戦となるタナックが6位。7位はすでにWRC2タイトルを決めているアンドレアス・ミケルセン(シュコダ)が入っている。

2度目の愛知・岐阜開催となった今回のラリージャパンは、前年を大きく上まわる観客を集めることになった。サービスパークとスーパーSSが設置された豊田スタジアムには、ラリーファンに加えて、連日多くの家族連れが来場している。特に18日土曜日の夜に行われたSS16は、自由席がソールドアウト。スタンドを埋めた2万8000人が、目の前でラリーカーが繰り広げる白熱のバトルに大歓声を送った。また、スタジアム内には様々なブースが並ぶ出展エリアもあり、フォーラムエイトの出展ブースでは多くのラリーファンがVR体験などを楽しむ姿が見られた。

フォーラムエイトブースではメタバースを活用した体験コーナーを設置。大会を盛り上げた

4日間で約54万人が来場し最終ラウンドを見届けた

SSとSSをつなぐリエゾン区間でも、多くのファンがラリーカーに声援を送った。勝田は「2日目にラジエターにダメージを負って、水を求める姿がSNSでアップされたからでしょう。サービスに戻るリエゾンでは、たくさんの方が水のボトルを持って応援してくれていました。大きく遅れてしまっていましたが、応援してくれる方々のためにも『自分ができることをすべてやらなければならない』と、強く思いました」と、日本のファンからパワーをもらったことを明かしている。

すでに2024年シーズンのWRCカレンダーも発表されており、フォーラムエイト・ラリージャパンは最終戦として、11月21日~24日にかけて再び愛知県と岐阜県で開催される。フォーラムエイトも、オフィシャルタイトルパートナーとして引き続き全面協力。次の熱狂の舞台まで、すでに1年を切った。さらなる盛り上がりに期待したい。

(執筆:合同会社サンク)

(Up&Coming '24 新年号掲載)



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