六角川流域は現在に至るまで何度も水害を経験している。その歴史を治水事業の展開とともに概観しよう。
1958(昭和33)年には、国の直轄事業として川幅の拡幅、堤防の新設および改築が進められた。その後も治水事業は続けられたが、1980(昭和55)年の洪水は5000戸近い家屋の浸水など、流域に甚大な被害をもたらす。そのため「直轄河川激甚災害対策特別緊急事業」(激特事業)を採択し、全流域において計画高水位まで堤防を嵩上げするなどの整備が行われた。
1990(平成2)年7月には観測史上まれにみる短期間の集中豪雨が発生し、観測史上最大の水位を記録。堤防からの越水や堤防の決壊など大きな洪水被害があった。これを受け、2度目の激特事業を採択。1990(平成2)年から1995(平成7)年3月にかけて、幅の拡幅工事、排水機場の増強を行い、また牛津川中流における牟田辺遊水地の建設(2002年に完成)も実施された。
六角川流域全体の約6割が内水域であり、有明海の潮汐の影響などもあるため増水時の自然排水は困難である。このため、堤内(農地や住宅地のある側)から堤外(川側)へ強制排水する排水ポンプ場の設置が進められてきた。現在、六角川と武雄川を合わせて36ヶ所、牛津川で24ヶ所に設置されており、排水能力は合わせて約360m3/sである。
2019(令和元)年8月26日から29日にかけて九州北部地方を襲った記録的な大雨は「佐賀豪雨」と呼ばれている。この豪雨の影響で、六角川水系でも武雄市、大町町、江北町、白石町の低地部で浸水が起こり、およそ3000戸近くが被害を受けた。また、大町町にある鉄工所では油槽が浸水し、付近に大量の油が流出した。この災害を受けて取りまとめられたのが「六角川水系緊急治水対策プロジェクト」である。国と県が連携し、およそ5年をかけて河道の浚渫、排水機場の新設と増設、新たな遊水地の設置などの治水対策を行う計画で、これは3度目の激特事業として実施された。
しかし、2021(令和3)年8月にも線状降水帯による記録的な大雨が発生。内水停滞、さらには武雄市橘町付近で起こった氾濫のため、武雄市、大町町などでは甚大な浸水被害となる。このとき、上記の激特事業はすでにおよそ8割の施工が完了していたのだが、さらなる対策が必要であることを示す結果となった。
上述のように、六角川流域の洪水被害をなくすことは、堤防を高くすることで防ぐ事ができる暴れ川に比べ極めて困難であると言えるだろう。
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