はじめに    福田知弘氏による「建築と都市のブログ」の好評連載の第20回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は南インド チェンナイの3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞ、お楽しみください。
Vol.20 

チェンナイ:南インド
 大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

昔はマドラス、今はチェンナイ

CAADRIA2012の開催地、チェンナイ。かつてイギリス東インド会社の拠点として栄え、1996年までマドラスと呼ばれていた、南インド最大の都市。タミル・ナドゥ州の州都。かつての統治国イギリスの影響が色濃く残る一方で、古くから南インドのタミル・ヒンズー文化の中心地でもある。訪問したのは4月下旬だが、現地は、最高気温37℃、最低気温27℃、平均湿度76%。

関空からシンガポール・チャンギ空港に着く。ここからチェンナイ行の飛行機に乗換えるが、インド人と聞いて想像するようなターバンを頭に巻いた人たちは見当たらない。以前、デリー行きの飛行機に乗り込んだ時には、ほぼ全員がターバンを巻いておられ「これぞ、インド行の飛行機」という感じがしたのだが。調べてみると、シク教徒の男性がターバンを着用するそうで、彼らは北インドに多いそうだ。

チェンナイ空港からホテルへ向かう【図1】。交通手段は、バス、タクシーに加え、オートリクシャー、サイクルリクシャーなど様々。道中は20kmあるのでタクシーを利用したが、以前訪問したデリーより、かなり安心感のあるドライブ。こちらでは、タクシーにはサイドミラーがきちんと付いている。デリーのタクシーは、サイドミラーが付いていなかった。前も後ろも右も左も車間距離が狭いのはデリーと余り変わらないのだが、サイドミラーの分だけちょっと安心。乗車の際にエアコンをONにするかOFFにするか、事前に料金の説明があったこともデリーとは違う。ただ、車道上にはウシ、ゾウ、イヌ、ニワトリなど多様な動物が悠々と横断しているので出会う度にヒヤヒヤするのはデリーと同じ。

【図1】チェンナイ空港からの道程

CAADRIA2012

ホテルからCAADRIA 2012学会会場へ。バスは朝8時にホテル出発と聞いてロビーに全員集合したものの8時24分になっても現れず。会場に着くとオープニングセレモニーは45分遅れて開始【図2】。ティーブレイクでは、ティーが中々到着せず、ティーブレイク時間の終了間際にようやくティーが到着。皆さんお待ちかねなので自然と延長戦に入る。初日は、インドモードにシフトチェンジしきれておらず、定刻を気にしてしまう。ホストのヒンダスタン大学はチェンナイ郊外に位置する私立大学。キャンパスでは、牛やニワトリたちが、学生たちに交じって歩いていた。

【図2】CAADRIA2012

筆者の論文発表は2つ。一つ目の発表は、スマートフォンによる景観ARシミュレータについて。そして二つ目の発表は、クラウド型VRを用いた同期分散型会議の可能性について【図3】。プレゼンでは、チェンナイ-大阪間をSkypeとクラウド型VRを使用して同期分散型会議デモを実施。不安定なネット環境でWiFi接続に苦労したが、接続状況を聴衆に見てもらえて良かった。翌年、国立シンガポール大学で開催されたCAADRIA 2013は、クラウド型VRを用いた同期分散型会議システムを更に拡張した内容を発表した。

【図3】CAADRIA 2012論文発表風景
 2日目の夜はカンファレンスディナー。これがホスト大学の腕の見せ所。CAADRIAに初参加したメンバーはカンファレンスディナーを通じて仲間と打ち解け、翌年も参加しようと思えてくるアットホームな雰囲気。そのため、ホストはCAADRIAに参加しなければ体験できないようなイベントを入念に準備される。今年は特に素晴らしかった。ディナーの前座として、まず、ヒンダスタン大学の建築学科の学生自らが企画したダンスショー。その後、ファッション学科の学生がファッションショー【図4】。プロと見間違うほどのレベルの高さに本当に驚いた!
【図4】Conference Dinner でのショー

チェンナイ市内

CAADRIA2012学会のポストカンファレンスツアーに参加。ツアーCAADRIA2012のホストとゲストがオフタイムに打ち解ける貴重な機会。ヒンダスタン大学の学生さんは本当に親切でノリの良いメンバー達。

セント・ジョージ砦は東インド会社により1640年ごろに築かれた星形の要塞。現代のチェンナイはここを中心として発展した。花壇では現地の人々が作業中【図5】。駐車場の脇では男の子たちがクリケットをしていた。カパーレシュワラ寺院はチェンナイ最大の寺院。高さ40m近いゴープラム(塔門)には繊細な彫刻多数。寺院の外で靴を預けて裸足になり、中庭は自由に見て回れるが、本堂はヒンドゥー教徒しか入れない【図6】。マリーナ・ビーチはベンガル湾に面した長大なビーチ【図7】。日中は、漁師たちが木舟や漁具の手入れ、陸揚げした魚介類を産地販売していた。

【図5】セント・ジョージ砦で作業中の人々 【図6】カパーレシュワラ寺院 【図7】マリーナ・ビーチ

マハーバリプラム

マハーバリプラムはチェンナイの南約60kmに位置する町。6世紀以降、パッラヴァ朝の港湾都市として栄えた。ここに点在する建造物群は7世紀頃に建てられたものであり、世界遺産に登録されている。

岩の塊から彫出した岩石寺院(ラタ、【図8】)は、パンチャ・ラタ(五つの山車の意味)の他、ゾウやウシをかたどった彫像が点在するが、ナントこれらは一つの巨大な岩から掘り出した彫刻。建造物の占める面積からすれば、巨大な石からかなりの年月をかけて掘り出したと思われる。海岸寺院【図9】は切石を積んで建立した石造寺院。元々は7つの寺院があったが、現存する2つ以外は海に沈んでしまったそうだ。ヒンズーの寺院ときくと派手な色遣いの建物を想像するが海岸寺院はそうではなく素朴な感じ。回廊の中にいると涼しい海風が舞い込み気持ちが良い。

【図8】パンチャ・ラタ 【図9】海岸寺院


ポンデシェリとオーロビル

ポンデシェリは、英領インドの時代にフランス領だった都市。整然とした街並みは他のインドの都市とは違う。海岸沿いには洒落たカフェあり【図10】。

オーロビルは、ポンデシェリから約12km。経済的、文化的、環境的に自立した持続可能なシステムを創造することを目指している実験型エコビレッジ。ポンデシェリにアシュラムを開いた哲学者オーロビンドとフランス人のマザーと呼ばれる女性の提唱で1968年に設立された。現在は、欧米からの移住者を主とした約1800人が生活する。オーロビルの面積は20k㎡。マトリマンディル【図11】を中心として直径約3kmに都市エリアが広がり、その外縁部に緑地帯が広がる。施設や構造物はマトリマンディルを中心にらせん状に平面配置されている。マトリマンディルの金色の球形は直径36m、高さ29mもある。エコビレッジの運営は必ずしも理想通りには進んでいないと聞くが、実際に足を運んでみる価値あり。

【図10】ポンデシェリのカフェ 【図11】オーロビル



3Dデジタルシティ・チェンナイ by UC-win/Road
「チェンナイ」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は南インドのチェンナイ(Chennai)にあるヒンズー教寺院であるカパーレシュワラ寺院(Kapaleeshwarar Temple)を再現。寺院の向かいにある池からの景観は、池の中央にある祠と水面に映る様子の落ち着いた雰囲気を、VRで表現しました。その他にはインド各地の都市と結ばれている地域最大の終着駅チェンナイ中央駅や、海のそばの古代遺跡マハーバリプラム(Mahabalipuram)、イギリスを宗主国としたインドの中で珍しい旧フランス領のポンデシェリ(Pondicherry)にあるガンジーの彫像、そして持続可能都市オーロビル(Auroville)の景観など、南インドのみどころを紹介するデータとなっています。


CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGレンダリングサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・チェンナイのレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。

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(Up&Coming '13 春の号掲載)
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