はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第40回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は南京の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.40 

南京:多少楼台煙雨中
  大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/

【図1】DADA国際会議 集合写真

南京へ

2017年9月、中国・南京大学で開催された、全国建筑院系建筑数字技术教学研讨会+DADA2017数字建筑国际学术研讨会に出席した【図1】。中国国内の、建築のデジタル技術に関する学会である。日本でいえば、日本建築学会 情報・システム・利用・技術シンポジウム(情報シンポ)に当たる。

今回は学会参加者や南京大学の学生向けに、デジタル建築設計分野のトレンドと英文での学術論文の書き方の講義を依頼されたため「Academic Research Trends in Digital Architecture Realm, and How to Write Academic Papers」というタイトルで講演した。土曜の夕食後の講演となったが、100名を超える方が聴講された【図2】。研究仲間である北京・清華大学の黃蔚欣先生が時折、筆者の英語を中国語に翻訳してくれた。母国語で理解してもらうのが一番である。CAADRIA学会初期の頃にお会いしていた、中国の大学の先生方にもお会いできて懐かしい。

【図2】著者の講演

週末ということもあり、都心にある大学のグランドは市民で溢れかえっていた【図3】。正にオープンキャンパス。学食のランチは日本とよく似ている【図4】。キャンパスから一歩外に出ると、露店が連なり、昼も夜も賑わっている【図5,6】。

南京に来たのは10年ぶり。南京は、中国の四大古都のひとつ(他は、西安(かつての長安)、北京、洛陽)、また、中国の三大灼釜のひとつに数えられる(他は、重慶と武漢)。気温は大阪とそれほど変わらないが、湿度がとにかく高い。その環境が植物には好条件となるのか、緑が豊かで、南京は緑の都市と呼ばれる。

【図3】南京大学
【図4】学食のランチ 【図5,6】露店

南京城壁

南京城は明の時代に建てられた。日本の城とは異なり、都市の区域を囲うように城壁が築かれた。遠方からやって来る外敵を見張り、外敵の侵入を防ぐと共に、都市の区域を定めるためである。南京城壁は中国の他の都市に比べて大きく、周囲は35kmにも及んだ。現在でも25km、25の城門が残存しており、さらに修復作業が進められている。北に玄武湖、北と東に紫金山(鐘山)、西に長江と、自然に守られている。南側にある中華門は中国国内で最大の城門であるが、3000人の兵士が配置できるそうであり、門というより要塞である【図7,8】。

城壁は高いもので20mになる。また、壁の厚さは、広いところで20m近い。城壁を歩いていると、結婚式の前撮りイベントが花盛りであった【図9】。

【図7】中華門 [正面入口] 【図8】中華門 [城内側] 【図9】城壁で前撮り

鶏鳴寺

南京は仏教の都といわれる。杜牧は「南朝四百八十寺 多少楼台煙雨中」(南朝時代には四百八十もの寺が立ち並んでいたが、今も多くの建物が春雨の煙る中にかすんでいる)とよんだ。

鶏鳴寺は、南京で最も古い寺である【図10】。創建は西暦300年であるから、日本に仏教がまだ来ていない頃。境内では、参拝者はスマホをしまい込み、線香をあげ、真摯に拝んでいたのが、印象的だった【図11】。賽銭箱は「福田」と大きく書いてある。何だか嬉しくなりちょっと多めに入れてしまった。「幸福を生む田」という意味らしい。

中国では、日本以上に電子マネー決済が普及している。スマホと交通カードさえ持っていれば財布なしで生活できるといわれる。現金の支払いを受け付けないお店も見られた。日本でも、「Alipay」や「WeChat Pay」を導入する店舗が見られるようになった。

「福田」のサウンドスケープもまた、「チャリン!」から「ピッ!」に変わっていくのだろうか。


【図10,11】鶏鳴寺

霊谷寺

紫金山にある霊谷寺は高さ60mの細長いパゴダ【図12】。宿泊した南京大学 南苑賓館に霊谷寺の絵が飾ってあり、興味をかきたてられた。道中、フウの高木林がとても美しく、パゴダに着けば螺旋階段を延々登っていく。

上り切った頂上からの眺めは気持ちいい。眼下に、建物はほとんど見えず、山の緑が広がっている【図13】。観光客は、お隣の朱元璋の明孝陵や孫文の中山陵ほどおらず、ほぼ貸し切り状態。正に、王安石が詠んだ「茅簷相對坐終日 一鳥不啼山更幽」(茅葺きの庵で鍾山と向かい合って一日中座っていると、鳥の鳴き声一つせず、山はいよいよ静まり返っている。)を感じられる風景にしばらく浸っていた。

が、そのうち、後から上ってきた若い夫婦の口喧嘩が大層なBGMとなってしまった。若い二人を抑えることができず赤ん坊をあやすしかない、じーじのやるせない表情が忘れられない…。

【図12】霊谷寺 【図13】パゴダからの眺め

長江

長江は全長6300km。世界で3番目の長さ。日本の最長河川、信濃川(367km)の18本分。南京の位置から長江の河口(上海)まで、まだ380kmを残している。信濃川だと源流付近。しかし、川幅はかなり大きく、1.5~2.5kmもある【図14】。

中山碼頭(下関)からフェリーで長江を渡ってみた。2元、15分。南京長江大橋がかすかに見える。大阪・大正区にある渡し船同様、歩行者だけでなく、バイク、自転車が乗り込んでくる【図15】。ただ、我々の感覚からすると、かなり近くを大きな船が通るようで、ちょっと落ち着かなかった。

対岸には、かつて中国北部への発着駅だった南京北駅(浦口駅)がある。かつての中華民国の特色を持つ唯一の現存駅舎であるが、今は寂しい感じである【図16】。


【図15】長江の渡しに乗り込むバイク 【図16】南京北駅
【図14】長江 【図17】長江リバーフロント開発

都市化

南京は中国国内で6番目に地下鉄が完成した都市。10年前に訪れた時、地下鉄はわずか1路線であったが、今回はなんと7路線になっており、さらに5路線が建設中であった。2030年には23路線になる計画。日本では想像できない開発スピードである。一方、日本の感覚で見ると、地下鉄駅での荷物検査は毎回面倒であり、トイレが無いのは不便である。

国家開発特区、省級開発特区などでは都市開発が進んでおり、長江のリバーフロントはじめ、至るところで高層ビル群が建設中であった【図17】。

市内の街路樹はプラタナスが主役。車の邪魔にならない高さ2.5m付近で両側に大きく幹別れしており、印象的なフォルム。大きく育ちすぎて、歩道をかなり占有してしまった【図18】。開発が進む夫子廟近くでは、昔ながらの風景にまだ出会えた【図19】。

最後に、子供を2人連れた若夫婦が目に留まるようになった。これは、「一人っ子政策」完全廃止の影響なのだろうか。

【図18】プラタナスの街路樹
【図19】昔ながらのまちなみ


3Dデジタルシティ・南京 by UC-win/Road
「南京」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、中国東部の南京の街を作成しました。南京城の城門の1つである中山門を中心とした市街地と、観光名所となっている中山陵を表現しています。市街地には、南京のシンボルである城門や城壁のほか、南京博物館、南京維景国際大酒店(グランドメトロパークホテル南京)といった建物やランドマークが存在し、スクリプトを実行することで観光客の目線で観光名所巡りを楽しむことができます。中山陵は高低差のあるダイナミックな景観と観光客で賑わう様子が表現され、スクリプトの中では冬の雪景色も見ることができます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
中山陵(雪表現)
画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
中山陵 南京城壁 中山東路と南京維景国際大酒店(右)

VR-Cloud®で体験!特設ページ にて、3Dデジタルシティの操作・閲覧が可能です。



UC-win/Road CGレンダリングサービス スパコンクラウド(R)

「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・南京のレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。

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(Up&Coming '18 新年号掲載)
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