はじめに    福田知弘氏による「都市と建築のブログ」の好評連載の第42回。毎回、福田氏がユーモアを交えて紹介する都市や建築。今回は沖縄の3Dデジタルシティ・モデリングにフォーラムエイトVRサポートグループのスタッフがチャレンジします。どうぞお楽しみください。
Vol.42 

沖縄:行逢りば兄弟
  大阪大学大学院准教授 福田 知弘
  プロフィール    1971年兵庫県加古川市生まれ。大阪大学准教授,博士(工学)。環境設計情報学が専門。CAADRIA(Computer Aided Architectural Design R esearch In Asia)国際学会 フェロー、日本建築学会 情報システム技術委員会 幹事、NPO法人もうひとつの旅クラブ 理事など。著書に、VRプレゼンテーションと新しい街づくり(共著)、はじめての環境デザイン学(共著)、夢のVR世紀(監修)など。ふくだぶろーぐは、http://fukudablog.hatenablog.com/



沖縄へ

沖縄へ。早いもので、前回の訪問から10年以上が経っていた。今回は那覇近辺の各地区を訪ねた。


港川外人住宅街

那覇空港から車で25分。元々は1960年代よりミリタリーハウジング(米軍基地の人々とその家族の住居)として整備されたが、今は当時の外人住宅の風景を残しつつ、店舗にリノベーションして、個性豊かなお店が60軒ほど並んでいる。間取りは個性的で、各部屋や廊下は広く、カフェや雑貨屋さんに相応しい。

港川ステイツサイドタウンと呼ばれるこの外国人住宅地は、通りが10本あり、各通りに面して平屋の戸建て住宅が8軒ほど並んでいる。通りには、オレゴン、アリゾナ、ミシガン、カンザス、バージニア、ネバダ、フロリダ、インディアナ、テキサス、ジョージアと、アメリカの州の名前が付けられている【図1】。

どのお店も素敵な雰囲気なので結構悩んだあげく、タツノオトシゴがドアのノブや壁画に沢山あしらわれたカフェ「Limpid」でランチ【図2】。店主のご夫婦が自ら料理、接客サービス、そして、店舗のリノベーションもされているそうだ【図3】。店内には貝殻が散りばめられ、壁にはシンボリックな絵が描かれている。書斎のようなコーナーは2人が横並びで座る席にアレンジされ【図4】、靴を脱いで自宅のようにくつろげる部屋も用意されていた。


【図1】港川外人住宅街
【図2】Limpid
【図3】Limpid 内観 【図4】かつては書斎?


【図5】南ヌ窯
【図6】ガジュマルと焼き物

壺屋やむちん通り

やちむんとは焼き物のこと。1682年、琉球王府が、それまで美里村(現・沖縄市)の知花焼、首里の宝口窯、那覇の湧田窯にあった3ヶ所の窯場を那覇市壺屋に統合したことがはじまりである。

「南窯」という名前のカフェを抜けて野外に出ると本物の南ヌ窯(ふぇーぬかま)に出た【図5】。この窯は、主に、酒甕、水甕、厨子などを焼く、荒焼専用の登り窯。壺屋に現存する唯一のもので、琉球王府が与えたものだそう。窯は長さ20m、幅3mもあり、国際通りからも近い街なかの施設としては存在感がある。窯を覆う赤瓦の屋根は耐火性を考慮して琉球石灰岩の柱で支えてある。窯周辺はガジュマルが群生しており、その足下では毛細血管のような根っこと焼き物が絡み合っており、神聖な雰囲気であった【図6】。

やちむん通りのメインストリートは琉球石灰岩の石畳で景観整備されているがこの舗装が素晴らしく自然である。景観整備と聞くと、これ見よがしに頑張ってしまった残念な事例が少なくないが、やちむん通りに華やかさはない。車道、路肩、歩道は石灰岩の形で意匠が異なっており見分けがつく。住民の生活が感じられる街路としても、来訪者が求める沖縄らしい街路としても成立している。このインフラに面して、昔ながらの焼き物の店、新たなアトリエギャラリー、そして窯元が軒を並べている【図7】。

焼き物は、抱瓶、厨子、シーサーなど、沖縄らしい独特の姿形を眺めるだけでも楽しい。抱瓶とは、沖縄地方で用いられる携帯用の酒瓶であり、腰につけやすいように胴の横断面が三日月形をしている。焼き物に描かれるデザインは、伝統的な柄、水玉や唐草模様が中心であるが、伝統的な表現を守ったものもあれば、現代風にアレンジしたもの、かわいさを追求したもののある。扱う焼き物は、陶器だけでなく、琉球ガラスもある。

メインストリートから一歩入れば、古い石積みやツタが続く路地(すーじぐゎー)にも出会える。こちらは、より本物の生活空間である。

【図7】壺屋やむちん通り

斎場御獄

那覇から斎場御獄(せーふぁうたき)へ。道中、地図を眺めていると、シュガーホールがあることに気づいた【図8】。学生時代、研究室のゼミ旅行で沖縄を訪問した時、シュガーホールを設計した建築家・真喜志好一さんに案内して頂いたことがあった。確か梅雨が明けて本格的な青空が広がり、背の高いサトウキビ畑の中を通り抜けて、現地に行ったことを覚えている。当時は佐敷町であったが、周辺の村と併せて、南城市になっていた。

【図8】シュガーホール

斎場御獄は、琉球の精神文化の象徴である琉球開びゃく七御嶽のひとつ。王朝時代、聞得大君(きこえおおきみ)の即位儀礼がおこなわれた琉球王国最高の聖地。

御門口(うじょうぐち)は斎場御獄に入る参道の入り口。入り口には、6つの香炉が置かれており、この数は、敷地内の神域(いび)の数と同じである。 かつては、ここから先は神事をする人しか入ることができなかったので、それ以外の人はここで香炉に向かって祈りを捧げていた。

大庫理(うふぐーい)は最初の拝所。大広間や一番座という意味がある。石段が一段上がっているのは、屋敷に上がるのと同じイメージ。この辺りに来るともう森の中である。

寄満(ゆんいち)は「豊穣の満ちた所」という意味。当時、貿易で栄えた琉球王国に寄せられ、数々の交易品が集まった場所とされる【図9】。

シキヨダユルとアマダユルの壺。せり出した二本の鍾乳岩から滴り落ちる「聖なる水」を受けるため、二つの壺が置かれている【図10】。

【図10】シキヨダユルとアマダユルーの壺
【図9】寄満
【図11】三庫理

三庫理(さんぐーい)は2つの巨大な鍾乳石が絶妙なバランスで支え合い、そこにできた三角形の隙間を抜けた突き当り部分が拝所となっている【図11】。

斎場御獄の敷地内には、拝所をはじめとして、石灰岩の巨岩が点在していた【図12】。沖縄戦当時、米軍の艦砲射撃でできた穴に水がたまった艦砲穴も見られた。また、三庫理からは、海が見え、平べったい久高島が臨める。この島は、知念半島の東約5kmに位置し、周囲8kmの平べったい島。琉球開びゃくの祖・アマミキヨが天から降り立ち、国づくりを始めた地と伝えられ、神の島といわれる【図13】。

【図12】斎場御獄の巨岩 【図13】久高島

行逢りば兄弟

壺屋やちむん通りは思っていた以上に素敵だった。パンフレットをしげしげ眺めると、読谷村にはもっと大きな敷地に登り窯や工房が並んでいるとあり、出かけてみた。確かに、広い敷地にゆったりと工房が構えられており、陶器や琉球ガラスの仕事場も見せてもらうことができた。 近くの座喜味城跡に立ち寄る。1416年から1422年、築城家として名高い護佐丸が築いた、曲線の美しい城。城壁を上りきれば東シナ海を臨める【図14】。

那覇空港へ帰り際、港川外人住宅街にもう一度立ち寄った。初日のランチで得たリラックス感を味わいたくなった。沖縄のフルーツタルト専門店・オハコルテでラ・フランスのタルトを頂き【図15】、お土産にヒラミーレモンケーキを。

沖縄には黄金言葉(くがにくとぅば)という言葉があり、昔から伝えられてきた教えや教訓のことを指す。「行逢りば兄弟(いちゃりば・ちょーでー)」はそのひとつで、「一度会えば兄弟のようなもの」という意味。横のつながりを大切にする沖縄の人々の思いやりの深さや温かさを表しており、人と人の出会いやつながりの大切さを教えてくれている。滞在中、人懐っこい猫に何匹も出会えた。「行逢りば兄弟」たる人々と暮らしている彼らもまた「行逢りば兄弟」たる猫であった【図16】。

【図14】座喜味城跡
【図15】ラ・フランスのタルト 【図16】行逢りば兄弟猫


3Dデジタルシティ・沖縄 by UC-win/Road
「沖縄」の3Dデジタルシティ・モデリングにチャレンジ
今回は、那覇空港から近く、那覇市内では唯一の海水浴場「波の上ビーチ」をメインにデータを作成しました。ビーチから見る海は、空を「陰影:CIE 標準の綺麗な空」、時間を夕方にして、さらに温度表示を「温暖」に設定し、浜辺とバイパスの夕景を表しています。一転して、そのバイパスからの景観は、空に夏らしいスカイドームを選択し、水面設定で南国の海と空の明るさを表現。ビーチと空港を結ぶ「那覇うみそらトンネル」では雷雨を表現しました。FORUM8 沖縄のオフィスがある那覇市IT創造館はAllplanでモデリングしています。
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波の上ビーチから海を見る
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波之上臨港道路からの景観 那覇うみそらトンネル坑口 那覇市IT創造館



CGレンダリングサービス

「UC-win/Road CGサービス」では、POV-Rayにより作成した高精細なCG画像ファイルを提供するもので、今回の3Dデジタルシティ・沖縄のレンダリングにも使用されています。POV-Rayを利用しているため、UC-win/Roadで出力後にスクリプトファイルをエディタ等で修正できます。また、スパコンの利用により高精細な動画ファイルの提供が可能です。

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(Up&Coming '18 盛夏号掲載)
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