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140年の歴史の上に研究教育力強化に不断の努力 早稲田大学は1882年、大隈重信により東京専門学校として創立。以来、今年で140周年を迎えます。この間、専門学校から大学への昇格を機に1902年、現行の校名に改称したのをはじめ、組織の再編・拡張を重ねてきました。 そのような一環として2004年からは、それまで独立していた同じ学問系統の学部・大学院・研究機能を統合する「学術院」を創設。それによるスケールメリットを活かしつつ、教育研究活動の一層の充実・強化を実現してきています。 現在は政治経済学術院、法学学術院、文学学術院、教育・総合科学学術院、商学学術院、理工学術院、社会科学総合学術院、人間科学学術院、スポーツ科学学術院および国際学術院の10学術院を設置。それらの下に、13学部、1学部通信教育課程、17大学院研究科、専門職大学院2専攻・4研究科などから構成。大学・大学院を合わせて4万7千人超の学生(数字は2021年5月現在)に対し、約2千人の専任教員、非常勤講師等を含めると約5千5百人の教職員を擁し、早稲田、戸山、西早稲田および所沢の4キャンパスを配置しています。 そのうち、森本教授が所属する理工学術院は基幹理工学部・研究科、創造理工学部・研究科、先進理工学部・研究科、大学院情報生産システム研究科および大学院環境・エネルギー研究科の3学部、5研究科のほか2研究所および6センターにより構成されています。 研究を通じ行政機関の都市計画や交通計画をサポート 森本教授は、早稲田大学を卒業後、早大、MITおよび宇都宮大学を経て2014年に早大理工学術院教授に就任。現在、創造理工学部社会環境工学科/大学院創造理工学研究科建設工学専攻において「交通・都市研究室(森本研究室)」を主導しています。 同研究室では、都市における交通と土地利用という2つの要素のバランスをどうすれば上手に取れるかを包括的な研究テーマに位置づけ。現実(フィジカル)空間を仮想(サイバー)空間の中に再現し、様々な問題と対峙。問題が解けると、それを行政機関に伝え政策に反映してもらう形で「都市計画や交通計画のお手伝いをしている」と森本教授は解説します。 また、人口減少に合わせ空間の縮退を基本とするコンパクトシティ、ICT活用による情報の連携・拡張にウェートを置くスマートシティ、あるいはそれらを融合するスマートシェアの考え方を概説。スマートシティに関連してMaaS(Mobility as a Service)やLRTを核にスマートシティを推進する宇都宮市での取り組み、コンパクトシティに関連してCO2排出量削減効果やビッグデータ利用によるエビデンス構築などに言及。さらに、魅力ある空間づくりに向けたLRTなど次世代公共交通の導入とその効果、自動運転がもたらす都市空間の将来像とそのシミュレーション、将来の事故リスク予測などに基づく交通安全マネジメントなど、多岐にわたる研究領域をカバー。それらの研究にあたっては都市の将来像、あるいはエネルギーなど実際には目に見えないものなどの可視化を重視し、その効果的な活用を進めています。
2000年代初頭から20年近くまちづくりのツールとしてUC-win/Road利用 森本教授が最初にUC-win/Roadを利用する契機となったのは、路面電車も走ったことのない宇都宮市でLRT導入に向けた検討が進んでいた、氏が宇都宮大学在籍中の2000年代初頭。市民の理解を得るため新交通システムで変わる市の将来像をCGで再現したい森本教授らと、UC-win/Roadの交通工学に則った交通シミュレーション機能強化を図りたいフォーラムエイトのニーズが合致。双方にとって研究開発の一環として取り組まれました。 同教授は2014年に古巣早稲田大学の教授に着任。翌2015年に同大でUC-win/Roadを導入しています。 「私が早大に戻ってきた後、最初に依頼されたのは、池袋にLRTを導入したいという地元有志団体からのものでした」。とは言え、当時の池袋ではそのような機運の盛り上がりが見られなかったことから、森本研究室ではUC-win/Roadを用い池袋にLRTが導入された「2050年の池袋のイメージ」を3DVRで作成。それを基に、LRTを単なる移動ツールではなく街の一つの装置として捉え、未来の街を皆で議論すべく意図されました。 また長野県小諸市では市の依頼を受け、コンパクトシティ化により人々の生活がどう変わるかをUC-win/Roadで再現。そこでは現況を完全再現すると、個々の家への関心が過度に高まるため、敢えて現実を少し変えて作成したVRを基に市民の意見を集約しました。 併せて、芳賀・宇都宮基幹公共交通検討委員会や栃木県の都市計画審議会で会長を務めるなど重層的に繋がりの深い宇都宮市に対しては、コンパクトシティや交通政策に関連して必要に応じVRを作成。政策検討のためのエビデンスの一つとして行政側に自主的に提供するなどしてきています。 さらに、新宿三丁目の大通りを中心とするまちづくりでもUC-win/Roadを使いVRで再現。それを基に現在、新宿区と議論を展開中といいます。 コミュニケーションツールとしての将来都市像の可視化を重視 「私は、都市計画を行っていく上で最終的な将来都市像の可視化というのは、非常に重要だと思っています」 都市計画では多様な関係者が存在する中で、出来るだけ市民に理解してもらうことが取り組みの中心になるとしつつ、森本教授はその前段として首長を含む行政側に計画への理解・同意を得るプロセスに注目。そこでは、どのような形で計画を示すかがカギになる、といいます。
都市計画におけるEBPMに注目、子供たちのデジタルシティ体験にも期待 コンパクトシティやスマートシティなどのような政策では今後、行政機関がエビデンスを作って当該政策がもたらす効果を正しく評価していく仕組みが必要になる、と森本教授は述べます。 その上で、実際の人の動きをデータとして取り、その分析した結果を踏まえて政策を提言するEBPM(Evidence-based Policy Making:証拠に基づく政策立案)の考え方を提示。そのうち、エビデンスを作るところはアカデミア側が研究の一環としてサポート。それを使って市民にどう提案するかというところは行政機関の側が担う、といった関係者間で連携・役割分担するアプローチに言及します。 一方、宇都宮市は2019年、「ICT等の先進技術を利活用し、社会課題の解決や新たな事業の創出などに官民協働で取り組み、宇都宮市が将来にわたって持続的に発展することができるスマートシティを実現することを目指す」とし、「Uスマート推進協議会」を設置。森本教授はその発足当初から会長も務めています。 同協議会では今春、宇都宮市のスーパースマートシティ実現に向け、「安全・安心」「経済」「教育・文化」の3分野に関する新たなプロジェクト(実証実験)を公募。フォーラムエイトが提案した、新型コロナ禍の影響などで様々な教育活動が制限される中、子供たちの創造性を育む効果的な教育の実現を目指す「3D都市モデル等を活用したデジタルシティ体験プロジェクト」が、その教育・文化分野プロジェクトとして採択されています。 同教授は、国土交通省が主導する3D都市モデルの整備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」にも触れつつ、そのようなデータを基にUC-win/Roadの中で未来の姿を見られる意義に注目。その意味で、前述の当社新規プロジェクトを通じ子供たちが行政の計画を理解し、そのDX化を推進していく「種」になっていくのでは、と期待を示します。
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執筆:池野隆 (Up&Coming '22 秋の号掲載) |
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