Vol.15
地盤の動的有効応力解析セミナー |
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太 |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー、有償セミナーを体験レポート |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けする予定です。
【プロフィール】
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。日経BP社の建設サイト「ケンプラッツ」で「イエイリ建設IT戦略」を連載中。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式ブログはhttp://ieiri-lab.jp |
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●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。土の地盤は一般的に土の粒子、空気、そして間隙(かんげき)水の3つの要素から成り立っています。地盤の中に働く応力(全応力)をミクロに見てみると、土粒子間に働く応力(有効応力)と間隙水の水圧(間隙水圧)を足したものになります。
切り土や盛り土の斜面が安定しているのは、地盤中の土粒子間に作用する有効応力によって土粒子間に摩擦力が発生し、地盤のすべり面に作用するせん断力に抵抗している、という図式になります。
ここで、地下水に圧力がかかったり、地盤が地震動を受けたりすると、その影響で地下水位による静水圧より間隙水圧が高くなる「過剰間隙水圧」が発生します。すると有効応力は過剰間隙水圧の分だけさらに減り、土粒子間の摩擦力も小さくなります。そして地盤の滑り面に働くせん断力よりも摩擦力が小さくなったときに、斜面の崩壊や地盤の液状化などが起こります。
今回の地盤の動的有効応力解析セミナーでは、フォーラムエイトの「UWLC」というプログラムを使って、有効応力を考慮した地盤の動的解析理論から実際の計算までを行うものです。地盤の応力−ひずみ曲線は非線形となり、地震波の加速度波形を使って解析を行うものです。
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▲地盤の有効応力動的解析(UWLC)の機能概要 |
●製品概要・特長
フォーラムエイトは、「UC-1 地盤解析シリーズ」として、地盤の動的・静的な安定性や間隙水圧、浸透流を考慮したさまざまな解析プログラムを発売しています。
この日、セミナーで使った「地盤の有効応力動的解析(UWLC)」は、FEMを用いた地盤の2次元動的変形解析プログラムです。有効応力に基づいた弾塑性理論、地震時の過剰間隙水圧の発生や剛性の低下を考慮し、地盤の変形を時刻歴で計算できます。
堤防や盛土などの地震時安定性の検討や、地中構造物の浮き上りの検討、地盤と構造物の動的相互作用の検討などに適用可能です。
UWLCは「弾塑性地盤解析(GeoFEAS)2D」とのデータ互換性に優れています。現状では入力データを作成するプリプロセッサー部で、両ソフト間で入力モデルを「地盤解析連動データファイル」(拡張子:*.USD)によってデータ交換することができます。
データ交換できる情報の内容は解析計算用のメッシュ分割やソリッドのプロパティー・材料パラメーター、梁要素のプロパティー・材料パラメーターです。今後、GeoFEAS2Dで段階施工でのステージ解析を行った解析結果をUWLC側に引き渡し、段階施工終了時点を初期応力状態としてUWLC側で解析できるようにする予定です。
UWLCを使うことで、複雑な地盤面をモデル化し、FEMによって地震時の間隙水圧を時刻歴で計算しながら地盤の変形や応力度を連続的に解析できるのです。これだけ精密に地盤の動的挙動をパソコンで解析できるようになったのは、驚くべきことですね。
また、UWLCはリバーフロント整備センター発行の「高規格堤防盛土設計・施工マニュアル」(平成12年3月)でも、砂質土層の液状化現象を考慮できる解析コードの1つとして記載されています。
●体験内容
12月6日、フォーラムエイト東京本社で「地盤の動的有効応力解析UWLC有償セミナー」が開催されました。有効応力を考慮した動的解析という少し高度で専門的な内容のため、参加者も少数精鋭です。東京会場には3人のユーザーが参加したほか、テレビ会議システムで中継された大阪や名古屋、福岡、仙台のセミナー会場にも少数の参加者がいました。
講師を務めるのは、群馬大学社会環境デザイン工学専攻助教の蔡飛さんと、フォーラムエイト技術サポートグループ
解析支援チームの木村裕之さんです。
カリキュラムは午前9時30分から午後4時30分まで、1時間の昼休みをはさみながら午前中は蔡さんが地盤の動的変形解析の理論や事例について解説し、1時間の昼休みをはさんで午後は木村さんが地盤の動的有効応力解析プログラム「UWLC」の概要や操作実習を行いました。このセミナーは地盤工学会のCPD認定セミナーとなっており、受講者には5.5ポイントのCPD認定単位が取得できます。
午前中の講義はまず、液状化による地盤変形の解析手法から始まりました。地盤の応力−ひずみ曲線は地震前と液状化時には大きく異なるカーブになることが冒頭に説明されました。そして液状化解析の支配方程式は、(1)土粒子と水との混合体の運動量保存則、(2)水の運動量保存則、(3)水の質量保存則を表した微分方程式で構成されることが丁寧に説明されました。
これらの支配方程式を有限要素法(FEM)で離散化し、時間積分を行いながら解いていきます。その過程で材料の内部減衰を履歴減衰と粘性減衰を組み合わせて実現象に合わせることも必要です。
こうした地盤中の土粒子や水の運動、地盤の非線形特性を考慮して液状化解析を行うフローについての説明が行われました。
液状化解析の応用例としては1971年のサンフェルナンド地震で被災した2つのフィルダムの検証例が紹介されました。これらのダムは、地震時の液状化で堤頂部が大きく沈下し、下流側のダムは崩壊したため付近に住む8万人が一時的に避難しなければならなかったのです。
解析では2つのフィルダムの断面を2500個前後の節点(要素数は800前後)に分割したモデルを作成し、現場付近で観測された地震動の加速度時刻歴データを入力地震動として使いました。この解析では液状化時の過剰間隙水圧が地震後に消散していく過程を考慮したダムの残留変形や、堤体内のx方向・y方向の応力や間隙水圧の分布、浸透流などが計算されました。
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▲1971年のサンフェルナンド地震で
崩壊したフィルダム |
▲サンフェルナンド地震で崩壊したフィルダムを
動的有効応力解析によって解析した例 |
このほか、兵庫県南部地震で被災したケーソン式岸壁の解析例や、屋外タンク基礎を薬液注入固化工法で地盤改良したときの改良範囲と液状化による地盤沈下の解析を行った例、液状化によるパイプの浮き上がりを解析した例、新潟県中越地震での地すべり現場の解析例などが紹介されました。
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▲兵庫県南部地震で被災したケーソン式岸壁の解析例 |
いずれも地震時に地盤に発生する過剰間隙水圧を考慮することで、より精度の高い解析ができることを実証した例でした。
午後のUWLCを使った操作実習はプログラムの概要説明から始まりました。地盤モデルの解析では初期応力解析を行った後に動的解析を行うという大まかな手順や、モデルを表現する要素には3角形と4角形の要素や梁、バネ、ダンパーなどの要素があること、プログラムがプリプロセッサ、ソルバー、ポストプロセッサの3つの部分に分かれていることが説明されました。
続いていよいよ、UWLCを起動させての実習です。2次元で河川堤防形の盛土の解析を行った後、1次元解析で解析結果の見直しを行いました。
2次元解析のモデルは盛土の下に沖積砂層、沖積粘性土がある3層からなる地盤です。各層の断面をプロクラムの入力画面で作図したり、SXF形式のCADデータから読み込んだりして入力した後、FEM解析用のメッシュを作成しました。
メッシュ作成は大まかな補助線をユーザーが入力し、その間の細かいメッシュは補助線の各部に分割数を入力することで自動的にメッシュ分割が行えるようになっています。
メッシュ分割が終わると地盤の各層に液状化解析などに必要な地盤のパラメーターを入力していきます。実習では単位体積重量や間隙比、土や水の体積弾性係数、透水係数、材料特性などを入力しました。体積弾性係数、透水係数、材料特性などを入力しました。
さらに、モデルの境界部分に境界条件をピン支点やローラー支点などの境界条件を設定します。
そして解析計算を行うことになりますが、まずは初期応力解析を行い、地震力がかかっていない状態での地盤内部応力を求めます。このときの変位は自動的にゼロクリアされます。
続いて動的解析です。有効応力や材料の弾塑性特性を考慮しながら、地震の加速度時刻歴を入力して、ステップ・バイ・ステップで支配方程式が誤差の範囲になるように収束計算を行っていくので、非常に時間がかかります。今回の実習で使ったモデルでは、セミナーの時間中には計算が終わらないので「解析実行」のボタンを押す前までの手順を体験しました。そしてあらかじめ動的解析した結果のファイル(拡張子:*otm)を開き、変形図や過剰間隙水圧の分布図を確認しました。
最後に、このモデルの代表的な部分を1次元モデルで動的解析しました。1次元なので解析は数十秒で終わりました。
最後の質疑応答の時間では、各地の会場から専門的な質問が活発に寄せられ、蔡さんや木村さんが分かりやすく応対しました。
●イエイリコメントと提案
東日本大震災では地震動によって堤防などの護岸構造物が損傷し、地盤が液状化した後に巨大な津波が押し寄せるという「複合災害」が注目されました。
現在、東海・東南海・南海地震の同時発生による津波浸水域のハザードマップ作りや避難方法などについて各自治体などが取り組んでいますが、津波が到来したときに堤防が沈下したり変形したりしていると、津波の浸水域は予想よりも広がることが予想されます。
複合災害の観点からは、津波シミュレーションとともに、軟弱地盤上に構築されている堤防は地震動によってどれだけ沈下するのかについても事前に正確に予測して置くことも求められます。
こうした場所の堤防や防波堤は、「UWLC」によって解析しておくことがこれからますます求められてくるでしょう。既に解析例も多く、実際の挙動との比較や検証も行われているので、精度についても実績があると言えます。
このほか、液状化被害が予想される地域では、地盤の液状化対策が強く求められます。限られたコストで最大の効果を得るためには、地盤改良の範囲を変えながらモデル化し、最も効果的な設計案を選ぶことも重要です。今後、日本の建設投資はますます限られてきますので、コストパフォーマンスの最適化にも、UWLCは大きく貢献しそうです。
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▲UWLCの操作実習で使った地震動と設定 |
▲UWLCによる盛土の動的有効応力解析結果。
上が変位、下が過剰間隙水圧の分布図 |
●製品の今後の展望
UWLCは弾性解析に比べて多くの計算パワーを必要とするため、一般のパソコンでは計算時間が長すぎたり、パソコンの容量や計算速度が足りなかったりすることもよくあります。
たまにしか行わない計算のために、高性能のパソコンやワークステーションを用意するのが難しいユーザーもいると思いますので、フォーラムエイトの「スパコンクラウド®」でUWLCによる計算サービスを提供すると、動的有効応力解析の活用度もいっそう高くなるのではと思います。
また、建築分野での「BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)」の普及に続き、土木分野でも「CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)」導入の機運が高まっています。
現在、UWLCはGeoFEAS2Dとのデータ交換が可能ですが、AllplanなどCIM用ソフトともデータ交換できるようにすることで、フォーラムエイトならではのCIMラインナップ充実が実現できるのではないでしょうか。 |
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(Up&Coming '13 新年号掲載) |
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