維持管理の話し |
■LCC(ライフサイクルコスト)と維持管理
近頃良く耳にするLCCは新しい概念のように思われますが、維持管理の重要性は以前から認識されており、橋梁の形式選定においては、数十年以前から選定要因の一つとして取り上げられていました。当時は維持管理に要するコストを定量的に予測していたわけではなく、定性的に維持管理が必要かあまり必要でないかでとらえていました。現在は、供用予定期間内に要求される性能を維持するために必要な維持管理コストを予測して(現在の維持管理技術に基づいた予測がどれほどの精度を持つのかという問題を抱えてはいますが)、建設時から供用予定期間終了までのトータルコストがもっとも少なくなるような構造物の建設と維持管理のあり方が追求されています。 |
用 語 |
土木分野 |
建築分野 |
意図するところの具体的内容 |
(1)構造安全性能 |
安全性能 |
安全性 |
終局強度(耐力)、剛性、じん性
(変形性能、耐震性能に関係するもの) |
(2)第三者への影響度に
関する性能 |
第三者への影響度に
関する性能 |
安全性 |
かぶりコンクリート、タイルのはく落等による第三者への影響度 |
(3)機能性能 |
使用性に関する性能
(ただし美観・景観を含む) |
使用性 |
防水性(漏水性)、気密性など、美観・景観も含む |
(4)耐久性能 |
耐久性能 |
耐久性 |
構造物の性能を使用(併用)期間内に維持する性能 |
(5)修復性 |
− |
修復性 |
維持管理や性能低下時の修復の容易性 |
▲「コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針-2003-」 解説表-4.1 |
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■「新規建設」から「保守」の時代の要請に応えるために
建設の世界でも「環境にやさしい」が重要なテーマとなり、建設重視から保守に目が向けられてきています。このような時代の要請に対応するには適切な維持管理が必要となります。土木学会や日本建築学会では、これに応えるために、下記の示方書や指針を定めています。コンクリート標準示方書[維持管理編]では、コンクリートの変状の原因を特定すると同時に劣化の進行予測を行い、補修の要否や点検後の維持管理計画の立案と実行することの必要性が謳われています。土木構造物に関しては示方書に則れば、適切な維持管理ができるものと考えます。
■維持管理に失敗しないために
維持管理に失敗しないためには劣化の原因を見極め、適切な処置を講じることと、構造物が置かれた環境等に配慮して劣化の進行予測を適切に行うことです。このあたりは病気やけがの原因と治療法の関係に似ています。何度も補修を繰返した後で結局架替えることになった塩害を受けた構造物の例もあります。
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補修要否判定フロー(コンクリートの維持管理支援ツール/ヘルプ) |
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■適当な実用参考書は
維持管理に関する適当な参考書として下記のものが上げられます。
(1) 【2001年制定】 コンクリート標準示方書[維持管理編] 土木学会
(2) 【2002年制定】 コンクリート標準示方書[施工編] 土木学会
(3) コンクリートのひび割れ調査、補修・補強指針2003 日本コンクリート工学協会
(4) 鉄筋コンクリート造のひび割れ対策(設計・施工)指針・同解説
日本建築学会
中性化、塩化物イオンの拡散、凍結融解、アルカリ骨材反応、化学的侵食はどれをとっても難しい問題ですが、精力的な研究が続けられています。上記の示方書類はこれまでの研究成果や現場での実績を取りいれて作成されているので、実用参考書として最も有用であるといえます。
フォーラムエイトでは、このたび「コンクリートの維持管理支援ツール」の第一弾として上記(3)に基づく「ひび割れの原因推定と補修・補強の要否判定プログラム」をリリースしました。(3)は土木・建築の両分野に適用できるものであり、マンションの管理会社や自治体の建築・土木関係の部署の方にとっても有用なツールであると思います。引き続きコンクリート標準示方書[施工編]に基づいた耐久性の照査や[維持管理編]に基づいた劣化予測を行うプログラムの開発を予定しています。 |