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vol.14
 Academy Users Report
 アカデミーユーザー紹介/第14回
釜慶大学校 建築・都市安全保障科学研究所(LAUSS)
/工学部 火災防御工学科

building EXODUSとSMARTFIREを連携した高度な解析技術
火災事故の実例をシミュレーションによって解明

釜慶大学校 工学部 火災防御工学科
URL ● http://www.pknu.ac.kr/
所在地 ● 韓国・釜山市
研究開発内容 ● 1996年7月、旧釜山水産大学校と旧
釜山工業大学校が統合して発足した国立の総合大学。
工科大学のほか、自然科学大学、人文社会科学大学、
環境・海洋科学大学、水産科学大学、経営大学など、
幅広い学部・大学院を擁している。


建築・都市安全保障科学研究所(LAUSS)
所長/工学部 火災防御工学科 助教授
ジュンホ・チョイ(Jun-Ho Choi)氏

韓国の釜山にある釜慶大学校で建築・都市安全保障科学研究所(LAUSS)所長と、工学部 火災防御工学科助教授を務めるジュンホ・チョイ(Jun-Ho Choi)氏は、様々な火災安全プロジェクトや事故の分析などにかかわり、この分野では韓国でも有数の研究者だ。6月30日、釜山でフォーラムエイトが開催した「EXODUS SMARTFIRE国際防災セミナー」でも、講演
した。

チョイ氏が建築土木用の避難シミュレーションソフト「buildingEXODUS」と火災シミュレーションソフト「SMARTFIRE」を導入したのは約10年前だった。
「実際の火災事故などに基づいて開発されたソフトなので解析結果の精度がよいこと、研究成果をもとに常にアップデートされることが導入のきっかけでした」とチョイ氏は語る。

 
6月30日、「EXODUS SMARTFIRE国際防災
セミナー」で講演するジュンホ・チョイ氏
EXODUS SMARTFIRE国際防災セミナー」が開催された釜山市内のホテル



 2003年の地下鉄火災事故で火災安全の道に
 「なぜ、被害を防げなかったのか」

チョイ氏が大学生だった2003年に、大邱広域市で地下鉄放火事件が起こり、200人近くが死亡した。「このような大きな被害をなぜ防げなかったのかと思ったのが、火災安全工学の道に入ったきっかけでした」とチョイ氏は振り返る。

buildingEXODUSやSMARTFIREの開発者である英国グリニッジ大学火災安全工学グループのガリア教授が火災安全工学を志したのも、1985年に英国・マンチェスター空港で起こったボーイング737型機が離陸滑走中に起こったエンジン火災により、55人が死亡した事故がきっかけだった。チョイ氏の動機はガリア教授と通じるところがある。

そして、実際にガリア教授の研究所で、客員研究フェローも務めた。
チョイ氏の研究対象は幅広い。
buildingEXODUSとSMARTFIREを組み合わせて、実際に起こったカラオケ店の火災や客船の沈没事故に基づいて避難シミュレーションを行うだけではない。シミュレーション結果と、実際の避難行動との誤差を少なくするため、被験者を使った実験を重視している。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
カラオケ店で起こった火災の避難シミュレーション 「buildingEXODUS」と「SMARTFIRE」を連携させた解析

これまでの研究実績では、英語での掲載論文が19編、研究財団の登録論文が28編、海外発表論文が61編、そして国内発表論文が66編と、精力的な研究活動がうかがわれる。



 火災と避難のシミュレーションを統合高精度の解析で建物の安全性を高める

韓国では、火災時の避難シミュレーションを行うのに、火災と避難のシミュレーションを別々に行い、その結果を設計者が見比べながら安全性を判断する「ノン・カプリング法」が主流になっている。

しかし、この方法だと設計者による個人差が出やすいほか、火災の影響が煙によって視界が妨げられることに重きがおかれることが多い。

一方、buildingEXODUSとSMARTFIREを連携して解析を行うと、火災による煙だけでなく温度や放射熱、有害物質などの影響も考慮できる。火災を避難行動に対する制約条件を考慮しながら解析できるので、より実際に近い、高精度な結果が得られる。そして個人差もなくすことができるのだ。

こうした火災・避難シミュレーションの精度を上げるためには、人々が避難時にどのような行動を取るかや、避難時の移動速度などをデータとしてもっておく必要がある。

そこでチョイ氏は2014年、合計8個の交差点を含む迷路のセットを用意し、117人を対象に実物大の避難実験を行った。その狙いは、年齢や性別によって交差点の種類別に、歩行速度や進行方向、意思決定の時間などの実際のデータを収集することにあった。

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実験に使った迷路のセット

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
(左)視線の動きを観測するために使われたアイトラッカー付きヘルメット
(右)迷路の分岐部にはカメラを設置し、人々の避難行動を記録した人々の避難行動を記録した


 避難時のリーダーシップの有無 ドアの開閉方向も避難時間に影響

人々が避難行動をとるまでの時間や誰がリーダーシップをとるのか、避難を始めた後にエレベーター、エスカレーター、階段のどれを選ぶのかという問題や、煙の中を逃げるときに煙の濃度によって歩行速度がどう変わるか、という実際の非常時に人々がとる行動や心理状態は、実験時にアンケート調査も行ってより深い分析を行っている。

「火災安全工学は技術だけではありません。社会的、経験的な側面も重視する必要があります」とチョイ氏は言う。

チョイ氏の研究は、さらに避難行動を詳細な部分まで追跡している。例えばドアの種類や開閉する方向や、避難口への誘導灯の色、避難誘導看板とドアノブの位置関係などだ。これらの詳細なデータを得るため、チョイ氏は現場での実験のほか、避難実験データ収集システムになどを活用し、丹念にデータの精度を高める研究活動を続けている。

<一致, C> <中立, N> <不一致, I>
ドアノブの位置と避難看板の位置のずれによる影響も実験

コンピューターシミュレーションを活用し、韓国の火災安全工学界を背負うチョイ氏が目指すのは、データベース作りだ。

「韓国人は1〜2分しかエレベーターを待たないなど、韓国人と日本人の避難行動には大きな違いがあります。buildingEXODUSなどによる解析に使える韓国用のデータを自分の手で作っていくのが、これからの目標です」とチョイ氏は将来の夢を語った。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
脳波測定による検証も行っている
(Up&Coming '17 秋の号掲載)



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