Vol. 3
建物エネルギー
シミュレーションソフト
DesignBuilder |
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する 「建設ITジャーナリスト」 家入
龍太 |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー、有償セミナーを体験レポート |
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建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーの体験レポート。
新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。
製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望の内容など、全12回にわたってお届けする予定です。
【プロフィール】
1959年、広島県生まれ。京都大学工学部土木工学科卒業、ジョージア工科大学大学院工学修士課程修了、京都大学大学院修士課程修了。その後、日本鋼管
(現JFEエンジニアリング)、日経BP社を経てイエイリ・ラボ開設。BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国
際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。日経BP社の建設サイト「ケンプラッ
ツ」の人気コーナー「イエイリ建設ITラボ」や「建設3次元まつり」などを担当。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の
執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。公式ブログは http://ieiri-lab.jp |
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●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。今回は、建物エネルギーシミュレーションソフト「DesignBuilder」を取り上げました。
建物の省エネルギー化を図るためには、建物の長い面は東西南北、どの方向に向けるべきでしょうか。正解は南ですね。その理由は、東または西だと、朝日や夕日が部屋の奥深くまで入ってきて、トータルの空調負荷が増えてしまうからです。
この例でも言えるように、建物の省エネや省CO2を実現するためには、建物の初期設計段階での判断が非常に重要になってきます。もし、長い面が東や西に向いている建物を設計したとすると、後の詳細設計や空調設計では空調負荷のデメリットは取り返せませんからね。
建物の初期段階の設計をエネルギー解析と並行しながら行えると、省エネ性能が高い建物を造りやすくなります。この目的に使えるソフトこそが、建物エネルギーシミュレーションソフト「DesignBuilder」なのです。
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▲建物エネルギーシミュレーションソフト
「DesignBuilder」で作った建物のモデル |
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▲「DesignBuilder」 による暖房解析結果 |
●製品概要・特長
建物エネルギーシミュレーションソフト「DesignBuilder」は、設計中の建物に対して光や温度、CO2排出量などの環境に関連する性能をシミュ
レーションするソフトです。オプションでCFD(熱流体解析)機能を付けることもできます。イギリスのDesignBuilder社によって開発され、
2005年にリリースされました。
入力データとしては敷地・建物モデルのほか、構造、開口部、照明、空調システム、人間の活動があり、それをDesignBuilderが処理して暖房設計、冷房設計、シミュレーションを行います。出力結果は分かりやすいグラフやビジュアルなCGで表示されます。
これだけの機能を持ったソフトであるにもかかわらず、価格はたったの14万7000円(税込み)と、非常に低価格なのです。
その理由は、プログラムの「ソルバー」と呼ばれる部分に、米国エネルギー省(DOE)が開発した建物エネルギーシミュレーションのフリーソフトEnergyPlus」を使っているからです。
筆者はビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)の最新動向を取材するため、アメリカ建築家協会(AIA)の全米大会にここ4年ほど、毎年参加しています。
建物の省エネ設計などの講演では、必ずと言っていいほど「EnergyPlus」の名前が出てくるように、広く使われているソフトです。
EnergyPlusだけでも単独で動きますが、入力データを作るのが面倒で使いづらいのが課題です。
そこで、DesignBuilderは、EnergyPlusをグラフィカルに使いやすくしたGUIと呼ばれる入出力機能を提供することで、高機能かつ低価格なソフトになったわけです。
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▲冷房解析結果 |
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▲オプションのCFD解析 |
●体験内容
6月22日の午後、フォーラムエイト東京本社ビルで、「DesignBuilder体験セミナー」が開催されました。講師を務めたのは今泉潤さんです。
DesignBuilder の概要説明が終わった後は、早速、パソコンを使った実習に入りました。2階建ての住宅を3次元でモデリングするために、まず、建物の外形の平面図を作図し
ていきます。建物がL字形に曲がっていたりしますが、一筆書きの要領であっという間に1階の平面図が入力できました。
これを立ち上げて1階の壁と窓を3次元でモデリングしていきます。初期段階の設計ですので、詳細な窓の位置や形は開口率など基準となる数値を入れておくだけで自動的にモデリングされます。
1階部分の上に2階の床を張り、次は2階の平面図も同様に入力していきます。1階と2階で若干、平面形状が違ったり、全体を途中で曲がった傾斜付き屋根で覆ったりというやや複雑な形ですが、講師の説明を聞きながら着実にモデリングを進めていきました。
また、1階と2階を斜めにつなぐ小さな屋根を後で天窓に変える、建物全体の窓の大きさを変える、一部の窓だけ大きさを戻す、といった細かな設定も行いました。このほか、建物の内部に仕切り壁を設けるなど、実際の建物に近いモデルが完成しました。
次はいよいよ解析です。建物の方向や位置、海抜など、自然条件を入力していきます。冒頭に書いたように、建物をどちらの方向に向ければ、一番空調負荷が小さくできるか、といった解析を行えるのがこのソフトの特徴ですね。
まずは暖房負荷の解析です。メニュー内で対象となる建物の階をクリックし、続いて暖房解析用のタブ「Heating
design」をクリックします。すると暖房の解析が始まり、その結果が熱収支のグラフと数値で表されます。室内外の気温とともに、「放射温度」や「作用
温度」といった放射を考慮した結果が表示されます。
さらに熱収支を部屋ごとに見ていくと、屋根のある部屋とない部屋とでは熱損失の大きさが違ったり、2階は1階から暖められるため床からの熱取得があったりといった細かいこともグラフで分かりやすく示されます。
一方、冷房負荷の解析では、同じ画面で「Cooling design」というタブをクリックし、解析を行います。結果は24時間表示の折れ線グラフで、室内の気温、放射温度、作用温度、外気温が表示されます。
窓の多くが東向きになっている場合は、午前中の透過日射による熱取得が大きくなることや、気温が上がると自然換気による熱損失が小さくなることなどが分かります。照明器具やコンピュータなどの機器による熱取得もグラフに表れます。
こうした解析の結果、建物全部の窓を遮光タイプのものに変更すると、透過日射による熱取得は減る一方、ガラス窓自体が発熱することなど、熱のトレードオフの状態が分かります。
最後に「Simulation」タブをクリックして、1週間単位や1年間単位での温度、熱収支、燃料消費、CO2排出のシミュレーションを行いました。土
日は休みを考慮した熱収支、また季節によって暖房と冷房の燃料消費の違いを考慮して、最終的に月ごとのCO2排出量をグラフで表示させました。
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▲受講中の筆者(左写真一番後ろ) |
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▲受講者のモニターに表示された暖房解析結果 |
●事例・活用例
DesignBuilder の強みは、定評のあるEnergyPlusの解析機能を、操作性のよいGUIによって簡単に使えるようにしたこと、他ソフトのとのデータ連係機能が充実し
ていることにあります。そのため、EnergyPlusだけではモデリングが難しい複雑な建物も、他のソフトによってモデリングし、そのデータをインポー
トすることで簡単に解析が行えます。
具体例では、延べ床面積90〜300m2木造住宅から、7800m2の工場、1万6000m2の美術館、2万8000m2の地下鉄駅など、様々な種類、規模の建物のエネルギー解析に使われています。
2009 年9月に開催されたBIMによる仮想設計コンペ「Build Live
Tokyo 2009 II」ではフォーラムエイトを中心として参加したチーム「F6W16」はこれらの解析プログラムを駆使して、様々なシミュレーションや解析を行いました。
その結果、見事「エンジニアリング賞」を受賞したのです。
●イエイリコメントと提案
これまでの建築プロジェクトは、ともかくイニシャルコストとしての建築費をいかに安くするかに重点が置かれ、完成後のオペレーションコストは軽視される傾向にありました。
ところが、不動産価格が建物のライフサイクルを通じての収益で評価されるようになったり、改正省エネ法で建物の消費エネルギーを定量的に管理することが求められたりした結果、施主もライフサイクル全体で見たコストを重視するようになってきました。
また、建築設計の分野ではここ数年、従来の2次元図面に代わって建物の3次元モデルで設計を進めるBIMが急速に普及し始めています。BIMの採用によって建物が日射や風によって受ける影響を評価しやすくなりました。
そこでDesignBuilderのようなエネルギー解析ソフトがクローズアップされてきたのです。建物の省エネ性能は、初期の設計段階で決まることが多いですが、エネルギー解析は設計がある程度、進んでから念のために行うことが多いようです。
しかし、勝負は初期段階にあります。施主にアプローチを始めたとき、建物の外観や意匠の提案とともに、DesignBuilderによるエネルギー解析結
果を提示するのです。建物の向きや形によってどれだけ年間のエネルギー消費やCO2排出量が違うかを具体的な数値で示すことは、施主が最も関心の高いライ
フサイクルコストと直結します。このポイントを攻める営業戦略によって、受注率の向上につながるのではないでしょうか。
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▲ 「DesignBuilder」 によってエネルギー解析を行った建物の例。
ほかの設計ソフトとデータ連係しやすいため、
複雑な形状の建物でも簡単に解析できるのが特徴だ |
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▲BIM用CADソフト 「Allplan」 や
VRソフト 「UC-win/Road」 などと
連携するDesignBuilder |
●製品の今後の展望
BIMを導入した建築設計事務所や建設会社では、3次元による建物のモデリングやCG、図面の作成は当たり前になりつつあります。今後のテーマは、いかに建物のBIMモデルデータを使ってさまざまな解析を行うかに移りつつあります。
今後はAllplanとDesignBuilderとの連携をさらにスムーズにすることで、意匠設計とエネルギー解析を連動させ、比較設計の評価項目とし
てエネルギー解析結果を組み込むことがしやすくなるでしょう。それは意匠設計に新しい価値を生むことにつながるのではないでしょうか。
●次回は、「UC-win/Road for Civil3D」セミナーをレポート予定です。 |
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(Up&Coming '10 秋の号掲載) |
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