はじめに
建設ITジャーナリストの家入です。i-ConstructionやBIM/CIM、ICT建機の導入など、建設コンサルタントや建築設計事務所、建設会社は今、技術革新の真っ最中です。その背景には、日本の労働人口が今後、減少の一途をたどる中、生産性を向上させ、少ない人数で設計や施工を行っていくことが求められているということがあります。
こうした生産性向上の成果は、最終的に会社の売上高や利益という数字になって表れてきます。やみくもに新技術や新製品を導入しても、会社が赤字ばかり出していたのなら、意味がありませんね。
そこで、会社ではお金の出入りを「見える化」するために、複式簿記によって管理しています。家庭でも現金出納帳のような形で「家計簿」をつけている人は多いでしょう。ものを買ったり、料金を払ったり、給料が入金されたりしたら、その都度、「支出」や「収入」として残高を管理していく方式です。
しかし、会社のお金の出入りはもっと複雑です。例えば、モノを買っても請求書が届いてから時間差を置いて払ったり、建機やクルマなどを買ったりしたときは、おカネはすぐに払っても、会計上はおカネがモノに変わったと扱われ、耐用年数が過ぎるまで毎年、少しずつ経費として処理することが行われます。
フォーラムエイトでは、会社の会計を処理するソリューションとして、「クラウド会計シリーズ」というソフトを展開しています。その基本となるソフトが、「スイート法人会計」です。
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▲スイート法人会計のメニュー画面。一般企業の
会計処理に向いた機能がそろっている |
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よく「黒字倒産」という言葉を聞くことがあります。会計上は黒字だけど、おカネがモノや「債権」という形に変わりすぎたため、現金としてのおカネが足りなくなって期日までに支払いができなくなるのが原因です。
このように、会社のお金の出入りは、現金の増減と会計上の収入・支出の間に「時間差」があるのが特徴です。手元に現金が余るほどあっても、すでに支払うことがきまっているおカネばかりだったら、安心できません。逆に今は現金が少なくても、近い将来に振り込まれるおカネが決まっていたら、安心です。
複式簿記は、現金出納帳とは違って、現金の増減と会計上の収入・支出の時間差を管理し、見える化してくれるツールなのです。その目的は「財産管理をする」、「財政状態を明らかにする(貸借対照表)」、「経営成績を明らかにする(損益計算書)」があります。
そして複式簿記には5つの要素があり、現金や商品、売掛金、土地などの「資産」、買掛金や借入金などの「負債」、資産から負債を引いた「純資産」、商品を売った時の設けである「収益」、そして給料などの「費用」からなります。
製品概要・特長
フォーラムエイトの製品群と言えば、UC-win/RoadやAllplanなどのVR(バーチャルリアリティー)やBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト、Engineer's
Studio®やUC-1シリーズなどの技術計算ソフトが思い浮かびます。
そのなかで異色を放っているのは、クラウド会計シリーズのソフト群です。技術計算とは全く分野が違う法人会計や建設会計、給与計算など建設会社のバックヤードを支えるソフトなのです。技術計算とは分野こそ違いますが、クラウドと連携できるという点に、「VR-Cloud®」のような、フォーラムエイトの技術力が生かされていることを感じます。
クラウド会計シリーズのソフトには、「スイート法人会計」「スイート給与計算」「スイート建設会計」「スイート給与計算−出面管理−」があります。各ソフトとも、クラウド上で連携する機能がありますので、データの二重入力の手間やミスを防ぎつつ、どこからでもアクセスできる便利さや会計情報の共有、そしてデータが厳重なクラウドサーバー上に保存されるというメリットがあります。
今回の体験セミナーで取り上げられたスイート法人会計は、建設会社以外の会社でも使われる最もスタンダードな製品です。詳しい機能などは、体験内容で後述することにして、他の製品の概要を紹介しましょう。
まず、スイート建設会計は、工事ごとを「ミニチュア会社」のように位置付けて、おカネの流れを管理できるようにしています。一般の会計ソフトだと、会社全体での収支はわかりますが、いわゆるどんぶり勘定になってしまい、どの工事がもうかっているのか、損しているのかがわかりません。
その点、このソフトは、「工事コード」を使って工事ごとに原価を管理することができます。すでに資材の発注などを行い、将来、払わないといけないおカネを「工事未払金(負債)」として管理し、本社経費を「共通工事原価」として配賦や自動仕訳する機能が付いています。そして工事ごとの各種財務諸表を自動的に作成します。現場所長さんは、工事の”社長”のように、金銭的な成果が見える化されることになります。
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▲スイート建設会計の操作手順 |
▲スイート建設会計は、工事現場ごとに1つの企業と見なして
おカネの動きを把握できる |
スイート建設会計では、建設業独特の勘定科目を登録済みなので、面倒な科目設定が必要ありません。登録されてい科目は、未成工事支出金(資産)、完成工事未収入金(資産)、工事未払い金(負債)、未成工事受入金(負債)、工事損失引当金(負債)、完成工事高(収益)、完成工事原価(費用)です。
また、実行予算については、Engineer's Suite積算とデータを連携することができます。設計(計画)→数量算出→積算→スイート建設会計と、データを連携させることができます。豊富なエンジニアリングソフト群を持つフォーラムエイトだからこそ、実現できたCIMのワークフローと言えるでしょう。
スイート給与計算は、社員に支給する給与やボーナスの額を計算するソフトです。給与をもらう方はあまり意識しませんが、給与に付随して所得税や住民税などの源泉徴収税のほか、厚生年金、健康保険、介護保険などを会社が天引きして役所に納めるおカネがあります。また、住宅手当や家族手当など、逆に会社から上乗せして支給されるおカネもあります。
スイート給与計算は、こうした社員の給与額や家族構成などによって異なるこれらの金額を正確に計算し、処理していくという複雑な事務処理を行い、給与とともに社員に渡される源泉徴収票を自動的に作成する機能も持っています。
スイート給与計算−出面管理−は、働いた日数によって給与が支給される職人さん向けのバージョンです。出面(でづら)管理とは、その日に現場に出勤した人を特定し、管理することです。このソフトには職人ごとの日々の出勤記録を行い、それに対して払われる給与額を計算する機能があります。
こうした会計ソフトは、特定のパソコンにインストールして使うタイプが一般的でしたが、フォーラムエイトはクラウド化しました。
クラウドのメリットは、いつでもどこでも使えること、ネットワークを通じて現場から利用できること、サーバーの構築や管理が不要なこと、データがしっかりと保存されること、プログラムが自動的に最新版に更新されることなどがあります。
つい先日も、消費税が8%から10%に上がりましたが、クラウド版のソフトならうっかり最新版の手配を忘れてしまうこともなく、タイムリーにソフトが更新されるので安心して使えます。
また、ちょっと前まではクラウドというとデータのセキュリティー上で心配という声もありましたが、最近は逆に「クラウドは、データが厳重に管理されているから安心」というように、ユーザーの考え方も変わってきています。フォーラムエイトは2018年8月にクラウドサービスに関する情報セキュリティー管理策の指針である「ISO27017」の認証を取得しているので、セキュリティー対策は万全です。
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▲実行予算はEngineer's Suite積算から連携することも可能 |
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▲スイート給与計算には保険料の自動計算機能が
搭載されている |
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▲源泉徴収票の自動作成機能 |
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体験内容
2019年7月5日の午後1時半から4時半まで、フォーラムエイトの東京本社で「スイート法人会計体験セミナー」が開催されました。
スイート法人会計は、スイート会計シリーズの中でも、最も一般的な製品です。建設業に限らず、あらゆる業種で使えるのが特徴です。クラウド版なので、複数の支社や店舗から毎日、アクセスして全社の財政状態をリアルタイムに把握できます。
機能としては、複式簿記をそのままイメージした「振替伝票」による入力のほか、元帳入力や通帳入力によって日々のおカネの動きを記録できます。入力によく使われる勘定科目は、デフォルトで設定済みなので、すぐに使い始めることができます。もちろん、各種財務諸表を自動的に作成します。
昨年10月に消費税率が8%から10%にアップされましたが、こうした法令の改正もクラウド側で自動的に反映されますので、ユーザーはアップデートする必要はありません。また、会計ソフトの定番である「弥生会計」とCSV形式でデータを読み書きできますので、税理士事務所に決算処理を依頼する場合など、データ連携で効率的に業務を行えます。
パソコンを使った実習は、期の途中で「弥生会計」から「スイート法人会計」に乗り換え、引き続き仕入れや売り上げを入力し、決算期に決算書を作成するまでを短縮したストーリーで行いました。
最初にクラウド上のスイート法人会計にログインし、会社名や会計年度や期首日、期末日などを入力して登録します。続いて、「弥生会計」のデータをCSV形式で読み込みます。このとき、普通預金を銀行ごとに分けたり、預かり金を誰の預かり金かを分けたりしている場合、各科目に補助科目が設けられています。スイート法人会計は、その補助科目も検知して、新しい補助科目のコード番号を入力するように促してくれます。
実習では預金関係では月銀行は「コード001」、太陽銀行は「コード002」とか、預かり金では源泉所得税は「コード002」、「住民税は「コード004」といったように決めて入力。その後、期首の現金や預金などの残高を入力すると、弥生会計のデータをスイート法人会計上で全く同じように再現できました。
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▲7月5日に東京本社で開催されたスイート法人会計体験セミナー |
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▲弥生会計データの読み込みメニュー |
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続いて仕入れの入力を体験しました。例題は、「2月1日に商品1000万円分を仕入れ、現金1000万円を支払った」という取引についての入力です。帳簿の左右に「借方」と「貸方」が表示された複式簿記と同じ作りの振替伝票と同じスタイルの画面で入力していきます。このとき、1000万円分の商品が会社に入ってくるので、借方に商品の「仕入高1000万円」、現金が社外に出て行くので貸方に「現金1000万円」を入力します。
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▲1000万円の現金を払って商品を仕入れたときの伝票入力 |
▲商品を2000万円で販売し、現金を受け取ったときの入力例 |
入力したデータは「仕訳帳」という形式で、一覧表として確認できます。また、「現金」や「預金」などの勘定科目ごとに一覧表にした「総勘定元帳」や、補助科目ごとの「補助元帳」、そして各勘定科目の現在の残高を一覧表で表示する「合計残高試算表」なども表示できます。決算期には、これらの帳票を確認して、入力ミスや未入金などを確認することができます。
最後に「決算報告書」を作成します。A4判の様式になっており、貸借対照表や損益計算書、販売費・一般管理費内訳書など、必要な帳票を自動作成できます。このように、1つの年度での法人会計処理を一通り経験して、実習は終わりました。
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▲自動作成された決算報告書 |
イエイリコメントと提案
法人用の会計ソフトはこれまで、経理部などのオフィスの一角に置かれた専用パソコンで使うイメージがありました。フォーラムエイトの「スイート法人会計」は、それをクラウド化したのが大きな特長です。
そのメリットは、これからの時代の企業に欠かせないものばかりです。例えば
- 誰でもどこでも入力できること
- 重要な会計データがセキュアに保存される安心感があること
- 本社や支店から入力することで、全社のお金の動きがリアルタイムに集計・共有できること
- 税率改正などに伴うソフトの更新が自動的に行われること
- 経理部員の在宅勤務などの「働き方改革」や「移動のムダ」削減といった本社業務の効率化につながること
などです。
建設業の現場では、人手不足に対応するため設計や施工を省人化する対策が着々と進んでいますが、バックヤードを支える事務処理部門も、これから同じように省人化が進んでくるでしょう。その時、クラウド化は大きな効果を発揮します。建設業と密接な関係があるフォーラムエイトならではの会計システムと言えそうです。
既にEngineer's Suite積算の実行予算がスイート建設会計と連携しているように、今後はクラウドのメリットを生かして、現場業務の進ちょく管理システムと、バックヤードの会計システムの連携もますます進んでくるでしょう。
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▲Engineer's Suite積算とスイート建設会計のデータ連携 |
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