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Vol.43
地すべり対策
ソリューション
体験セミナー
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する
「建設ITジャーナリスト」家入 龍太
イエイリ・ラボ体験レポート
建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー有償セミナーの体験レポート
【イエイリ・ラボ 家入龍太 プロフィール】
BIMやi-Construction、IoTなどの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式ブログはhttp://ieiri-lab.jp

建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。
新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望などをお届けしています。

はじめに

建設ITジャーナリストの家入です。地震や大雨などのニュースでは、地すべりや土石流などによる被害がよく報じられています。その一つの原因は、斜面が安定性を失って表層の地盤が動いたり、崩壊したりすることです。

斜面の安定性を検討するとき、これまでは「円弧すべり」という考え方で表層の地盤に作用する力の釣り合いを計算し、「もつか、もたない」を判定するのが一般的でした。これは斜面上に仮想の円弧を描き、表層地盤の塊が円弧に沿って回転しようとするときのせん弾力が地盤の強度より大きいかどうかかを計算するものです。

しかし、実際の地すべり現場は、谷の地形に沿って球面状に動いたり、地盤の境界面で平行移動するように動いたりします。地すべりの対策工でも、3次元抑止力を用いた効果的な杭工などがあり、円弧すべりの考え方だけでは対応できない場合も出てきました。

また山間部の上流で地すべりが発生して崩れると、それが土石流として谷を流れ下り、さらに大きな被害を発生します。こうなるともはや静的解析ではなく、流れを扱う動的解析の分野となります。

そして土石流をせき止める役目をするのが砂防堰(えん)堤です。従来はコンクリートダムのように河川断面をふさぐような形をした「不透過型」と呼ばれるものが主流でしたが、最近は河道の真ん中にスリットを設けて水や砂を通せるようにした「透過型」や「部分透過型」もあります。

このほか、山肌からの落石による被害を防ぐロックシェッドの設計には、斜面を転がり落ちる落石のエネルギーを計算することも必要です。落石自体をふせぐために斜面を緩やかにするためには、斜面下部を補強土壁によって垂直盛り土にする必要も出てきます。

このように地すべり対策と一言で言っても、現象は様々で、設計・解析に使われる理論も様々です。


製品概要・特長

そこでフォーラムエイトは、地すべり対策に幅広く対応できる「地すべり対策ソリューション」を開発してきました。
その内訳は、地すべりなどの地盤災害自体をシミュレーションするものと、砂防えん堤などの防災施設を設計するものに分かれます。

前者には「3次元地すべり斜面安定解析」(LEM3D)や「土石流シミュレーション」、「落石シミュレーション」というソフトがあります。また、後者には「砂防堰堤の設計計算」や「落石対策工の設計計算」、「ロックシェッドの設計計算」、「補強土壁の設計計算」、「防護柵の設計計算」があります。

3次元地すべり斜面安定解析(LEM3D)」は文字通り、地すべりの発生を3次元で解析できるものです。このソフトを使うと、くさび形や球面形で地盤が動く場合の地盤応力の釣り合いや、杭工やアンカー工による対策工法の効果など、円弧すべりでは高い精度での検討が難しかった問題にも対応できます。

「土石流シミュレーション」は、解析部分に「土石流シミュレーションKanako」を使用したソフトです。土石流解析には3次元で谷の地形を表現する必要があります。また、解析結果をビジュアルに示した方が土石流の影響範囲などをわかりやすく表現できます。

その入出力をリアルタイムVR(バーチャルリアリティー)ソフト「UC-win/Road」と連携して簡単に行えるようにするため、「UC-win/Road土石流シミュレーションプラグイン・オプション」というソフトが用意されています。クリック操作でUC-win/Roadで作られた地形データや構造物の3D形状を取得でき、解析後の結果もVR画面上で土石流の動きや広がりなどをリアルに見ることができます。

「砂防堰堤の設計」は、砂防基本計画策定指針(土石流・流木対策編)解説(2007)と、土石流・流木対策設計技術指針解説(2007)に準拠した土石流・流木捕捉工に基づいた設計が行えます。扱える堰堤のタイプは「不透過型」、「透過型」「部分透過型」です。

そこで使われている手法が「モンテカルロシミュレーション」という方法です。不確定な量を乱数で変化させては、落石の動きを300回くらい計算します。そして落石の到達距離などの動きや落石のエネルギーを確率論的に扱います。それぞれの計算によって得られた落石の動きは、UC-win/Road上でアニメーション動画のように見ることができます。

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▲3次元で地盤を扱い、安定性を検討できる
  「3次元地すべり斜面安定解析」
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▲2次元の円弧すべり検討では難しいくさび形
  の地すべりにも対応できる

この結果をもとに、「落石対策工の設計計算」というソフトで、落石防護工のうちポケット式落石防護網と、高エネルギー吸収柵(ロープスライドタイプ)の設計計算が行えます。

また「ロックシェッドの設計計算」は、逆L式ラーメン構造(PC)や箱形式ラーメン構造(RC)のロックシェッドを許容応力度法で設計するソフトです。これらの2形式は、ロックシェッド全体の約40%をカバーしていると考えられています。シェッドの屋根部分を防護する砂単層緩衝構造や三層緩衝構造もサポートしています。

「補強土壁の設計計算」は、盛り土の中に帯状鋼材やジオテキスタイルなどを入れて補強した、垂直に近い壁面を持つ補強盛り土の安定計算を行います。一見、地すべりとは関係がなさそうにも思えますが、斜面の円弧すべりを防止する方法の一つです。補強された部分ともともとの地盤、そして盛り土上の背後盛り土を含めた全体の安定性を円弧すべり法で照査します。

最後の「防護柵の設計計算」というソフトは、落石や土石流に見舞われた車両が、川に転落するのを防ぐための「最後の砦」となる道路の防護策を設計するものです。鉄筋コンクリート製の「剛性防護柵」と鋼板などで作られた「たわみ性防護柵」について、車両の衝突荷重に対して転倒や滑動をしないかを、照査することができます。


体験内容

7月19日、フォーラムエイトの東京本社で開催されました。講師を務めたのは、フォーラムエイトUC-1開発第1グループの中村淳さんと小泉匡士さん、成松潤さん、UC-1開発第2グループの坂本経太朗さんです。テレビ会議システムを通じて札幌、名古屋、大阪、福岡、宮崎、沖縄の会場にも配信されました。

今回のセミナーの特徴はわずか3時間弱で、先のソフトすべての操作体験を行ったことです。これだけ多数のソフトを短時間で体験できる機会はめったにない、貴重なセミナーでした。

まずは「3次元地すべり斜面安定計算」(LEM3D)を45分で体験しました。土の湿潤重量や内部摩擦角などの解析条件を入力した後、地形の範囲を設定します。そして地盤の縦断面ごとに地表面や地すべり面、地下水面の位置を入力していきます。

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▲7月19日に東京本社で開催された
  「地すべり対策ソリューション」体験セミナー
 

サンプルのデータによる計算結果は、斜面の抵抗力よりも滑動力が上回り、安全率は0.607と、1を下回りました。ということは、「地すべりが発生する」と判断されたことになります。

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▲球面状の円弧すべり。より実際の現象に近い  ▲対策工の計算結果を3Dで色分け表示したもの

サンプルのデータによる計算結果は、斜面の抵抗力よりも滑動力が上回り、安全率は0.607と、1を下回りました。ということは、「地すべりが発生する」と判断されたことになります。

休憩後、「土石流シミュレーション」と「砂防堰堤の設計計算」を合わせて30分で体験しました。

土石流が通る谷の地盤高データは、プラグインを使ってUC-win/Roadのモデルからインポートしました。これを使うと複雑な地形でも、一発でデータが入力できるので便利です。土石流シミュレーションは「流しそうめん」をイメージしてもらうとわかりやすいかもしれません。谷あいに竹筒のような水路を敷き、上流からそうめんを流すように土砂を流します。上流に流入する土砂流量は時間とともに刻々と変化するので、時間と流量のグラフとして入力します。今回の体験では、0〜1000秒の間に20〜100m3/秒で変化する土砂流量を設定しました。これを「流入ハイドログラフ」と言います。

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▲土石流が通る谷あいの地形 ▲流入ハイドログラフ

そして解析条件として、土砂の粒径や流体層の密度、マニングの粗度係数、砂の摩擦角などを入力したら、「計算実行」のボタンをクリックします。

計算結果で興味深いのは、水面や河床形状が時間とともにどんどん変化していくことです。計算結果を3次元画面で、深さごとに色分け表示すると、その動きは一目瞭然です。

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▲土石流によってできた土砂の広がり
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▲砂防堰堤なしの場合 ▲砂防堰堤ありの場合

続いて砂防堰堤の設計計算の体験に移りました。まず、砂防堰堤の3D形状を入力していきます。といっても、グラフを描くように正面図と側面図をXY座標で入力していくだけなので、簡単です。入力した結果は、3Dパースで見られるので、もし、間違えていたとしてもすぐにわかります。今回は幅7m高さ11mの部分透過化型の堰堤を作成しました。

土石流の荷重は、「土石流流体力」として、荷重の組み合わせ時に静水圧、堆砂圧とともに入力します。そして計算を実行すると土石流のピーク流量に対する越流水深や転倒、滑動などに対する安定計算の結果が表示され、許容値以下だと「OK」の判定が出るようになっています。

続いて「落石シミュレーション」と「ロックシェッドの設計計算」を30分で行います。まずは斜面の縦断図や抵抗係数、等価摩擦係数などの表面特性を入力し、落石の単位体積重量や半径などを入力します。落石の動きは不確定性が大きいので、1度の計算だけではわかりません。そこで、モンテカルロシミュレーションという方法で300回、乱数で条件を変えながら解析するのが特徴です。

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▲砂防堰堤の設計で、堰堤の形状を入力する画面

その計算結果は、落石が斜面に反射しながら転がり落ちてくる軌跡が300回分表示されることになります。落石のエネルギーが最大値になることはまれですので、95%など一定の確率でエネルギーや落石の到達距離などを求めることになります。

落石シミュレーションのソフトだけでも、柱の間にロープを張った防護柵で、落石を受け止められるかどうかの計算ができます。この照査方法は、防護柵の「可能吸収エネルギー」を計算し、落石の運動エネルギーと比較するというものです。体験でもサンプルデータを用いて計算してみました。

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▲落石シミュレーション。落石の初期条件を変えると
  1回ごとに違った結果が出る
▲初期条件を乱数で変えて300回シミュレーション
  した結果

ロックシェッドの設計計算は、ロックシェッドの断面をラーメン構造として考え、これに落石の重量や衝撃力を作用させます。計算結果はロックシェッドの屋根や柱に沿って曲げモーメントやせん断力、軸力のグラフとして得られます。これが許容応力に収まっているかどうかで判定します。

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▲ロックシェッドの設計計算で使う構造物モデル ▲計算結果の曲げモーメント図など

最後の30分で「補強土壁の設計計算」と「防護柵の設計計算」を体験しました。補強土壁は、盛り土の中に敷きこんだ帯状鋼材と壁面材で垂直盛り土を補強する「テールアルメ工法」が題材です。円弧すべりの考え方で照査しますが、円弧の中心座標と半径を少しずつ変えて安定性を計算し、最もすべりやすい組み合わせで、滑動モーメントより抵抗モーメントが大きければOKとなります。

防護柵の設計計算では、防護柵にかかる荷重によって、道路の盛り土端に打ち込まれた柱が倒れないかという計算を行います。柵にクルマなどの水平荷重が作用すると、地中の柱は周囲の土を押しのけて倒れようとします。その時の受動土圧を計算し、柵を倒そうとする力よりも勝っていればOKとなります。

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▲補強土壁の設計計算。円弧すべりの中心と
  半径を少しずつ変えて、最も安全率が小さい
  組み合わせを見つける
▲防護柵の設計計算。柵の柱に作用する受動土圧
  による安定性を検討する

イエイリコメントと提案

「地すべり対策」というと、斜面の安定ということだけを考えがちです。しかし、フォーラムエイトの「地すべり対策ソリューション」はそれだけにとどまらず、さらには砂防堰堤から落石、土石流、さらにはロックシェッド、補強土、防護柵まで、防災担当者が扱う対象をまとめて扱っている点が、顧客志向の表れと感じました。

それぞれの検討結果は数字で表されますが、直感的に理解しやすいようにUC-win/Road上にインポートして3D表示や、動きのある4D表示で見ることができるのが、フォーラムエイトの強みと言えるでしょう。




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