ユーザ紹介第62回 |
大同工業大学 |
Daido Institute of Technology,
Dept. of Civil Engineering & Environmental Design |
大同工業大学のホームページ
http://www.daido-it.ac.jp/ |
街路景観評価手法の研究を通じて有効性に着目、
新年度から授業にも3次元リアルタイムVR(バーチャルリアリティ)を導入
今回ご紹介するのは、古くからわが国有数の製造業集積エリアとして知られる名古屋市南部地域にキャンパスを構え、中部財界の期待に応じて現場で活躍できる技術者の養成に力を入れる大同工業大学。その中でも、工学部の学科改組(01年度)を機に新たな時代のニーズを反映して設置され、その独自の取り組みが注目される「都市環境デザイン学科」に焦点を当てます。
同学科では昨年夏、フォーラムエイトの「UC-win/Road」を研究向けツールとして初めて購入。その活用実績を踏まえ、新年度(06年4月)からはさらにそれを複数の授業で利用していくため、「UC-win/Road」40ライセンスを導入いただいています。そこで、この3次元リアルタイムVR(バーチャルリアリティ)ソフトの有効性に着目、今後の研究や授業でのさまざまな活用シーンを想定しておられる同大工学部都市環境デザイン学科の堀内将人教授(同学科長)、舟渡(ふなわたし)悦夫教授(大学院都市環境デザイン学専攻長)、嶋田喜昭助教授の3氏にお話を伺いました。
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■実務重視の観点からCAD、GIS、VRなどの活用環境充実へ
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大同工業大学の起源は39年、大同特殊鋼梶i当時、大同製鋼梶jを中心に中部電力梶A名古屋鉄道鰍ネど中部地区の産業界27社が出資し、(財)大同工業教育財団を設置したことに遡ります。その後、同財団は(学)大同学園と改称される一方、高校・中学・短大などの設置を経て、機械工学科と電気工学科の2学科から成る大同工業大学が64年にスタート。75年には建設工学科、85年には応用電子工学科を順次増設。01年、工学部の学科体制が改められるとともに、建設工学科の流れを継いで「都市環境デザイン学科」は新設されました。
現在、同大は工学部(機械工学科・ロボティクス学科・電気電子工学科・建築学科・都市環境デザイン学科)と02年に開設された情報学部(情報学科)により構成。学部・大学院を合わせて学生約3,500名、職員約230名を擁するに至っています。
「都市環境デザイン学科」には、「社会基盤デザイン」コース(構造系および地盤・材料系)と「都市環境システム」コース(水・環境系および都市・交通系)の2コースに大別され、さらに両者に共通する「デザインマネジメント」コースがあります。その中で、堀内将人教授は環境衛生工学をはじめとする水・環境系の、舟渡悦夫教授と嶋田喜昭助教授はともに都市・交通系の、それぞれ教育および研究に携わっているわけです。
「CADやGIS(地理情報システム)、さらに今回採用されたVRなどのソフトを全学科生が一通り使える環境を確保できるようカリキュラムを新たに編成し直したところです」。それを可能にしているのが「デザインマネジメント」コースである、と舟渡悦夫教授は位置づけます。
もともと産学の絆が強いという建学以来の特性もあって、同大では実務重視の教育方針が貫かれています。併せて、学生の視点に立った教育重視型大学を標榜し、その推進を目指す「大同工業大学授業憲章2001」(00年)を策定。さらにそれを具体化するため、教員相互に教授法を高め合おうという研究授業、学生による授業評価アンケートなどのFD(Faculty
Development)活動を実施。こうした一連の成果が評価されて、04年度には文部科学省による「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」に選定されています。
「その意味で、今回のVR導入は、学生がより理解しやすい授業法を積極的に考えた取り組みの一環でもあると思うのです」。つまり、専門分野の研究もさることながら、教育に比重を置き、そこには社会的ニーズも積極的に反映していこうとの狙いが込められている、と堀内将人教授は説明します。
■景観評価項目のシミュレーションにVRが多様な効果発揮
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「昨年、提案したのは私ですが、都市環境デザイン学科としても今後はやはり、こういうものに力を入れていかなければいけないという観点から『UC-win/Road』の導入を決定しています」
03年、国土交通省が自ら景観を重視する国土整備のあり方について示した「美しい国づくり政策大綱」を公表。これを受けて制定された「景観法」も05年6月には全面施行されました。
こうした流れに先駆け、嶋田喜昭助教授も数年前から道路景観評価の手法確立に向けて取り組んできていました。その中で、とくに人の感覚に大きく左右される要素をどう抽出するかが難題としてあったといいます。
景観評価手法の開発に当たり、嶋田喜昭助教授はまず、人が景観を評価する仕組みと、消費者の購買行動においていろいろな要素を加味して行う「選好」との類似性に着目。コンジョイント分析というマーケティング手法の応用を検討しました。その際、街路を評価する場合は景観だけでなく、道路本来の交通機能や空間機能を保持していることが前提として求められることに配慮。また、選択肢が必要以上に拡散したりしないようにするため、景観整備の前提(電線地中化や街路灯設置等)や道路の幅員などをある程度限定する形で、景観の良し悪しを判別する要素の組み合わせパターンを整理しました。
具体的には、「歩道の舗装をどうするか」「歩車分離施設をどうするか」「街路樹をどうするか」 ― の3要素に対してさまざまな整備の水準を設定。その組み合わせをアンケートするというアプローチが形成されました。
「このアンケートを実施するに当たって、それぞれの組み合わせパターンによる実際の整備状況を(出来るだけ正確に把握した上で)評価してもらうため、そこにVRを用いたらどうかと考えたのです」
当初は、2次元のCGを利用。ただ、それはデジタル写真を加工して景観整備を再現した静止画像に過ぎませんでした。そのため、歩行者やドライバーによる視点の違いや連続するシーンにおける評価検討が課題として残りました。そこで03年度からは、動画により景観を再現しようと、3次元CADを導入。2次元CGと同様の条件下でCGアニメーションを用いた動態的な景観評価を行い、その有効性や2次元CGとの評価の違いについて検討がなされました。ところが、ここでも3次元CGは作成にかなり時間が掛かる上、出来上がったデータは現実感が薄くなるといった制約も見られました。
これらの研究を引き継ぎ、昨年度はよりリアリティの高い表現につなげようと、VR(UC-win/Road)が採用されたわけです。
それまでと同様の条件をベースに、「UC-win/Road」を用いて3次元空間を再現。その際、3次元CAD使用の場合と比べ、VRデータの作成に要した時間は1/3程度に短縮。その分、本来の検討作業に時間を割くことが可能となりました。これを受けて、同学科生を対象としたアンケートを実施。さらに、2次元CGや3次元CGを利用した街路景観評価の結果と対比、VRを用いることの有効性について検討を目指しました。
一連のプロセスを通じて各組み合わせの効用値が得られ、例えば、「高木の街路樹を整備すれば基本的に評価(効用値)が高くなる」といった傾向が明らかになりました。また、歩行者とドライバーの視点による差異、あるいは単なる景観だけでなく安全性などの要素を複合的に考慮した評価においてVRがもたらし得る効果を把握。つまり、景観アセスメント(景観評価)に関する具体的かつ有効な手法構築を実現するに至りました。
こうした街路景観評価手法に関する研究成果などを背景に、都市環境デザイン学科では06年度から「UC-win/Road」を授業等に導入していくことを決定しました。
もともと、授業では基本重視の考え方から設計図面を手で描くということに重きが置かれ、実社会に出てからはもっぱらCADを使って設計するという流れにありました。しかし、VRの普及がいっそう広がるであろう今後を睨み、早い段階からツールに対するスキルを獲得してもらうことも必要では、との認識が持たれたわけです。
そこで、例えば、GISやGPS(汎地球測位システム)などを学ぶ「測量学U」、あるいは「道路デザイン」「道路デザイン実習」などにおけるツールとしてのVR活用ノウハウの学習、その他科目でのプレゼンテーションへの応用といった多彩な利用シーンが想定されています。
舟渡悦夫教授は、早くからのツール体験による、とくに自身が担当する「まちづくり工学」での教育効果向上に期待を示します。一方、堀内将人教授は現在、市民レベルで関心が高まっている名古屋市中心部を流れる堀川再生の検討プロセスで発揮し得るVR活用の可能性を挙げます。さらに、その有用性にいち早く注目し、今回のVR導入を提案された嶋田喜昭助教授は「いろいろなところに応用できる(ツールである)ため、どんな授業にでも広く使ってもらえれば成功」との思いを語ります。
とくに都市環境デザイン学科では現在、土木工学をベースとして押さえつつ、「環境」や「防災」をキーワードに学際的な分野にも広く取り組んでいこうという展開方向が描かれています。その先には、VRをはじめ時代や地域社会のニーズに適応した知識や技術を有する学生を送り出すとともに、学科としてのカラーもいっそう鮮明にしていきたいとのスタンスがある、と堀内将人教授は述べます。
「名古屋市南部という工業地域や住宅地などが混在する環境にあり、この街がどうあるべきかという視点を持って地元の方たちと連携していきたい。また、それが契機となって同様な課題を抱える他の地域、あるいは産業界との協同に発展させていくことが出来ればと考えています」
お忙しい中、取材にご対応いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。 |
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▲大同工業大学:校舎、学部構成
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▲大同工業大学:所在地
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▲左から、嶋田 喜昭 助教授、舟渡(ふなわたし) 悦夫 教授
(大学院都市環境デザイン学専攻長)、堀内 将人 教授(都市
環境デザイン学科学科長)
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▲VRによる景観検討1 : ドライバーの視点
電柱あり(現況) 電柱なし
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▲VRによる景観検討2 : 歩行者の視点
電柱あり(現況) 電柱なし
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▲研究室での「UC-win/Road」利用
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▲PCルーム
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