第10回目を迎えたWorld16によるVRサマーワークショップのレポートをお伝えします。
世界中から集まったVRを利用した都市モデルやシミュレーショの専門家16名で構成されています。サマーワークショップでは、共通のプラットフォーム(UC-win/Road)を使い革新的な研究開発を目指しております。個別の研究成果発表を行う学会とは違い、少人数・固定メンバーでおこなうサロン形式を採用しており、さまざまな地域・国における研究・教育・文化・産業などの幅広い課題を議論できるユニークな試みであると自負しております。
フランスは華の都「パリ」です。過去にはWorld16メンバーの活動拠点を中心に、アメリカ・アリゾナ州立大学(2008)、日本・箱根(2009)、アメリカ・カルフォルニア大学サンタバーバラ校(2010)、イタリア・ピサ大学(2011)、アメリカ・ハワイ州(2014)、ギリシャ・テッサロニキ(2015)、日本・大阪大学(2016)、アメリカ・MIT(2017)、ニュージーランド・ビクトリア大学ウェリントン校(2018)で開催されてきました。記念の10回目は、世界で最も観光客が訪れ、ローマ帝国時代からの長い歴史があり、ルーブル美術館をふくめ数々の芸術に触れることができる、世界都市パリでの開催となりました。フランス自体初体験ですので、パリ情報はガイドブックに任せて個人的な視点で街のレポートをしてみたいと思います。
パリ出身の友人からは、「パリは臭いから、あまり期待しすぎないで」とか「日本人はパリ症候群になりやすいから気をつけて!」、「寿司がめちゃくちゃ高い!」というネガティブな話を聞いていたので、実はちょっと不安でした。しかし、(短い滞在でしたが)結論から申し上げますと、「フランス大好き」になって帰ってきました。今回ワークショップ開催のパリ市、友人の展示会のために訪れたメス市、世界遺産のモンサンミッシェルとその周辺都市をぶらぶらしたかぎりではありますが、人生を楽しんでる感がいろいろな場所にあふれていました。
開催前日、フランスは各地で40度を超える歴史的な猛暑でした。到着した日もパリはかなり蒸し暑かったです。ホテルにチェックインしてまず気が付いたのは、部屋に設置されていた簡易クーラーです。通常パリではあまりクーラーは使わないそうです。そのため部屋常設の冷房はなく、必要なときだけ設置するとのことです。それでも、10センチ径の換気パイプを窓にむき出しのため、クーラーを使っているときは窓を閉められません。
熱効率悪すぎですが、2台も使えば部屋はちゃんと冷えてました。「セキュリティーは大丈夫なのか?」とおもいましたが、毎朝6時に裏道を通るごみ収集車の騒音で起こされること以外は問題なかったです。ワークショップはルーブル美術館近くのホテル会議室で3日間の予定で行われました。
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4 ホテルの仮設クーラー |
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5 パリの駅構内 |
6 パリの清掃車の様子 |
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初日、フォーラムエイト代表取締役社長 伊藤裕二の挨拶からはじまり、World16各メンバーのここ1年の研究発表およびフォーラムエイト奨励賞社員による成果発表を行いました。World16メンバーの福田教授とロー教授は、共同プロジェクトの日程を重なったため、今回は大阪よりリモートでの参加となりました。昼食は会場ホテルのレストランで、ビュッフェ・スタイルの軽食を準備しました。フランスならではなのか、デザートが盛りだくさんでした。
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7 サマーワークショップ・オープニングセッション |
8 フォーラムエイト代表取締役の伊藤裕二による挨拶 |
昼食後、今回のワークショップの詳細プログラムが発表されました。今回はUC-win/Roadを利用したハッカソン2という題目で行いました2017年の第8回もUC-win/Roadハッカソンをおこないましたが、その時は2−3名の小グループを基本としてました。今回はハードルを少し上げて出来るだけ個人プロジェクトとするようにお願いしました。
World16メンバーは、自分の研究を発展させるためにどのようなツールが必要かを考えたり、統合可視化システム構築を提案したりしながら、そのアイディアをA2ポスター用紙に書き込みます。それを壁に貼り付け、他のメンバーやFORUM8社員は可能なソリューションをポストイットでコメントしていきます。アカデミックな研究者と実務開発者のコラボレーションこそが本ワークショップのユニークかつセールスポイントです。初日は時間となり、最終決定は翌日持越しとなりました。
Day1のディナーは、歓迎会としてクルーズディナーを用意しました。セーヌ川クルーズディナーは、私の観光ガイドでは「パリですることベスト5」に入っていました。会場ホテルからセーヌ川のアルマ橋まで2qくらいでしたので、コンコルド広場とグラン・パレを見ながら、船着き場まで歩いて移動しました。出発するとすぐに、ルーブル美術館、先月火災でダメージをおったノートルダム寺院の脇を通り、シテ島を迂回するように戻ってきます。最後はエッフェル塔脇を通過し、再度迂回して元の船着き場に戻ってくるコースです。1時間半程度で、見学をしながらコース料理も食べるので、あまりゆっくりした感じはしませんでしたが、大体の街のスケール感を得るにはお勧めです。ディナー後は自由時間ですが、恒例のサロンとなり各大学や所属機関の近況の情報交換の場となります。
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9 セーヌ川クルーズディナー |
10 ホテルのビュッフェ式昼食 |
朝からメンバー各自の提案プロジェクトの詳細を決めていきます。会議室の張られたポスターを見ながら、限られた時間・開発環境・人員で行うため、担当となる開発者の割り当てや作業手順などをFORUM8開発部長と検討していきます。今回は最終的に13のプロジェクトを行うことを決定しました。その後は、昼食をはさみ夕方5時まで各自のプロジェクトの作業に集中です。
夕食に関しては、総勢25名でレストラン予約は難しため、Day2とDay3は各自小グループで作ってレストランに向かいました。ガイドブック片手に、おいしそうなレストランへと向かいましたが、有名なカフェはどこもいっぱいです。どのグループも入れそうなレストランにきめました。すいていたレストランに飛び込んだのですが、自家製フォアグラがおいしかったです。
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今回の基調講演は、ハーバード大学・デザイン大学院の博士課程長のアントワーヌ・ピコン教授にお願いしました。ピコン教授は、建築とテクノロジーの歴史に関する権威であり、ル・コルビュジェ財団の創始者であり会長でもあります。講演題目は「Digital
Culture in Architecture: Evolution or Revolution」(建築におけるデジタル文化:それは進化か革命か?)というものでした。現代のコンピュータ技術の発展のよって、いままでの建築デザインのスケール感とテクトニクス(構築術)が大きく変わろうとしており、一方モダニズムでは無駄といわれていた装飾芸術が返り咲きしいると分析していました。
とくに興味深かったのは、建築の派手な幾何デザインや入れ墨なども、好意的に受け止めており、それはSNS時代の全世界的ネットワークで行われるコミュニケーションにおける変革だとしている点でした。ロボットやサンボーグなどにも言及しており、今後は人間の体にさまざまな機械が埋め込まれたり、張り付けたりできる時代になってくるとのことでした。工学部出身らしく、随所に技術的な話が展開されていました。また、建築学のバイブル書というわれる「ウィトルウィウス建築書」のフランス語訳者らしく、テクトニクスと素材感で物事を考察する力は、すばらしかったです。最近のゲームや映画なども言及しており、あっという間に一時間の講演は終わってしまいました。
午後は、ワークショップのつづきです。通常はDay3の夜にワークショップ成果発表となりますが、今回はスケジュールの関係でDay4のテクニカルツアーの後となりました。したがって、翌日の発表準備のためDay3の夜はホテルの一室に集まり、深夜3時まで突貫作業です。FORUM8開発者が日本からもってきたスナックが好評でした。
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13 ピコン教授による基調講演の様子 |
14 最終発表前日の夜食 |
午前中のテクニカルツアーは、近代建築の巨匠「ル・コルビュジェ」の設計したサヴォア邸とロッシュ邸を訪問しました。サヴォア邸は近代建築5原則、”ピロティ・屋上庭園・自由な平面・水平連続窓・自由な立面
(ファサード)”を実現した、彼の代表作品です。建築学生なら一度は見ておかなくていけない近代建築3代巨匠による建築の1つです。ちなみに残りの2つは、ミース・ファン・デル・ローエのバルセロナ・パビリオンとフランク・ロイド・ライトの落水邸です。
サヴォア邸の後は、同じくコルビジェ設計の集合住宅ロッシュ邸を見学しました。コルビジェは画家志望であったことでも知られており、壁に彼の絵画が展示されていました。
ホテルへの帰り道はひどい渋滞でした。ルーブル美術館の横道を抜ける500メートルに30分かかりました。パリ市内は絶対に運転すべきではありません。
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15 ル・コルビュジェ設計のサヴォア邸での集合写真 |
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16 サヴォア邸内部 |
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17 ル・コルビュジェ設計のロッシュ邸内部 |
午後は、各プロジェクトの成果発表となりました。ここではプロジェクトをいつくかのタイプに分類して報告します。
点群データ利用タイプのプロジェクト(3つ)。バージニア工科大学のチーム(トーマス・タッカー教授の代わりに参加のファット・グエン教授とドンソー・チョイ氏)は遺跡発掘調査プロジェクトで収集した点群データを利用し、時系列データのVR化とそのアプリケーションの開発を行いました。同じように、今回から新規メンバーとしてイスラエル・シェンカー大学から参加のレベッカ・ヴィタル教授も遺跡データのVR化のプロジェクトを行いました。ロバート・ゴードン大学(UK)のアマル・ベナルジ教授は観光目的になるようなインターラクティヴなアプリケーション開発に点群を利用したプロジェクトを提案してきました。
UC-win/Roadと他ツールとの連携(3つ)。大阪大学の福田教授とハルピン大学のロー教授のチームは、建築模型上で利用できるようなVR・ARアプリケーションの提案を行いました。ヴィクトリア大学(ニュージーランド)のマーク・アウエル教授はLeapモーションをつかって同研究機関がもっているCAVEシステムを簡単に操作できるようなツール開発をデモンストレーションしました。イタリア・ピサ大学のパオロ・フィアマ教授は広範囲CIMデータを利用して道路建設プロセスをUC-win/Road上で可視化できるような提案をしました。
シェーダー関係プロジェクト(2つ)。カルフォルニア大学サンタバーバラ校のマルコス・ノバック教授は、視線の方向だけ違う描写を行うことによってノイズを取り除く描写方法の提案とデモを行いました。ルース・ロン氏は私と共同で360度カメラの映像をVR空間に投影させ、その空間内で3Dモデリング作業ができるようなシステムの提案を行いました。
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18 最終日の成果発表の様子 |
人工知能関係(3つ)。中国・同斉大学のコスタス・タージディス教授は人工知能コミュニケーション開発のAKA社の言語支援ツールを使い、運転中のナビゲーション支援システムの提案を行いました。ニュージャージー工科大学(東京大学でサバティカル中)の楢原教授は、敵対性生成ネットワーク:GAN(よくあるAIによる運転画像から要素セグメントを抽出する手法の逆バージョン)を使い、セグメント画像だけからさまざまな都市VR映像を自動生成するプロジェクトのデモを行いました。ジョージア工科大学のマシュー・スワォーツ氏は、UC-win/RoadのVRモデル内で生成される自動車群が互いにデータを通信できるようなシステムを構築しました。周辺の自動車同志がデータをリアルタイムで伝達しあう次世代型の自動運転技術の提案です。
フェアウェル・ディナーは、生ガキのおいしいレストランで行いました。ディナーでは今回のワークショップの奨励賞が発表されました。表彰を受けた6つのプロジェクトは11月のフォーラムエイト・デザインフェスティバルで発表されますので、こうご期待。
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19 フェアウェル・ディナーの様子 |
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