「道路土工要綱」の改訂内容 |
<構成内容>
「基本編」では、道路土工に際して遵守すべき法令等、道路土工の計画・調査・設計・施工・維持管理における基本的な技術理念が記載され、「共通編」では、複数指針に渡る共通事項として、「調査の方法とその活用」・「排水」・「凍上対策」・「施工計画」・「監査と検査」について、現在の技術動向や課題が記載されています。
旧要綱に無い新たな追記項目としては、共通編4章での「雨水貯留浸透施設」の追加が挙げられます。 |
表-2 道路土工要綱の構成 |
区分 |
内容 |
備考 |
基本編 |
法令・技術理念について規定 |
性能規定型設計の導入に関する項目が追記され、照査に用いる地震動は従来の静的震度ではなく、「道路橋示方書」のレベル1・レベル2地震動を用いることが規定されています。
ただし、記載としては従来の仕様型設計を許容する内容(みなし規定)となっており、性能型規定は法的強制力の弱い努力目標的な位置付けとして読みとれます。 |
共通編 |
複数指針の共通事項に関する規定 |
旧要綱に無い新たな追記項目として、「特定都市河川浸水被害対策法」に基づく、「雨水貯留浸透施設」の規定が1セクション分増書されています。 |
巻末資料 |
照査に用いる作用力や計算法等に関する具体的規定 |
- 「道路橋示方書V耐震設計編(平成14年3月)」に規定されるレベル1地震動およびレベル2地震動における2種類の地震動作成方法に関する記載。
- 降雨特性値曲線や最新確率降雨強度ならびに流出解析方法に関する記載。
- 雪の熱伝導率や凍上試験方法等の凍上に関する計算法の記載。
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<性能規定型設計の内容>
性能規定型設計に関する具体的内容は、過去2年間の「斜面の安定計算有償セミナー」にて解説した規定そのものに、想定する作用力として新たに「降雨の作用」に対する性能が追加されている内容となっております。
同指針改訂により、従来の「斜面の安定計算」における極限平衡法での静的解析と、地盤の動的有効応力解析(UWLC)やニューマーク法による動的解析の双方を用いることが規定として明示されたことになります。「地震の作用」に加え、「降雨の作用」が追加されたことから3次元浸透流解析(VGFlow)の必要性も考えられます。
■ 要求性能と作用力
要求性能は、安全性・供用性・修復性の観点から、想定する作用力と重要度に応じて設定するものとし、土構造物の要求性能水準が規定化され、道路土工要綱共通編では具体的手法名が挙げられていないが、巻末の地震動における項目で挙げられているので、これをもって実質的に動的変形解析の併用が規定されたことになります。 |
表-3 要求性能 |
性能1 |
想定する作用によって土工構造物としての健全性を損なわない性能 |
性能2 |
想定する作用による損傷が限定的なものにとどまり、土工構造物としての機能の回復が速やかに行いうる性能 |
性能3 |
想定する作用による損傷が土工構造物として致命的とならない性能 |
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重要度の区分は以下が規定される。 |
表-4 重要度の区分 |
重要度1 |
万一損傷すると交通機能に著しい影響を与える場合、あるいは、隣接する施設に重大な影響を与える場合 |
重要度2 |
上記以外の場合 |
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一般的な土工構造物の要求性能の目安として下表が示される。 |
表-5 要求性能に対する作用力の規定 |
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重要度1 |
重要度2 |
想定する作用 |
自重・交通荷重 |
性能1 |
性能1 |
降雨の作用 |
性能1 |
性能1 |
地震動の作用 |
レベル1地震動 |
性能1 |
性能2 |
レベル2地震動 |
性能3 |
性能3 |
※ これまでの指針改訂調査結果に無い新たな項目として、新たに「降雨の作用」に対する性能が追加されており、
耐震性能のみでなく浸透性能を極限平衡法レベルでの照査も併せて行うことが規定されています。 |
■ 性能規定型設計法
道路土工の各指針においては、土工構造物設計に際し、地震動の作用として「道路橋示方書X耐震設計編(平成14年3月)」に規定されるレベル1地震動およびレベル2地震動における2種類の地震動を想定することが変更され、各地震動の設定方法について追記されています。
ここで、円弧すべり安定解析や震度法等の静的解析法を用いる場合の荷重算定には、レベル1地震動およびレベル2地震動の特性を踏まえた水平震度を用いることが規定されています。
また、動的有限要素法やニューマーク法等の動的解析法等を用いる場合の荷重の算定には、レベル1地震動およびレベル2地震動の特性を反映した時刻歴波形を用いることが規定されています。 |
表-6 地震動の作用に対する解析法の規定 |
想定する作用 |
規定された照査方法 |
地震動の作用 |
レベル1地震動 |
円弧すべり安定解析や震度法等の静的解析法 |
レベル2地震動 |
動的有限要素法やニューマーク法等の動的解析法 |
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<性能規定型設計法への完全移行とは言い切れない>
今回の改定では、性能規定型の指針を指向し、土工構造物に要求される配慮事項を満足する範囲で、従来の規定によらない解析手法・設計方法・材料・構造等を採用できるとされています。しかしながら、土構造物の設計では経験的技術が重視されており、豪雨・地震等については特別な異常時を除いて考慮されていると見なし、このような経験的技術の適用はこれまで通り可能であるが、適用限界を超えた高盛土や大きな切土ならびに近接して重要な諸施設がある場合等で、必要に応じて各種解析の適用を検討するとなっております。なお、豪雨を想定した浸透流解析や動的変形解析等の性能規定型照査に対する必須という明言は避けられています。
そのため、規定としては、従来方法に基づいた設計(みなし規定)も可能ですが、「設計における配慮事項」で示された要求事項を満足する範囲で従来規定によらない解析手法・設計方法・材料・構造等を採用できるようになったという記載で、従来の仕様規定型設計を許容するような曖昧な表現に留められています。 |
<豪雨の考慮>
改訂された「道路土工要綱」全般を通じて、昨今の集中豪雨を考慮した、排水対策や浸透対策に対する記載が追記され、旧版要綱に比して流出計算および水理計算による排水計算と、浸透現象に対する記載(具体的にFEM解析する旨は未記載)が拡充され、共通事項として水理計算や浸透流解析に対する対策強化が図られているといった印象となっております。
同指針改訂により、雨水流出解析ソフトウェア(xpswmm)や3次元浸透流解析(VGFlow)の必要性が増すものと考えられます。 |
表-7 流出解析・浸透流解析関連の規定 |
道路土工への豪雨の考慮 |
内容 |
資料-4
全国確率時間降雨強度(Rn)図 |
昨今の集中豪雨を考慮した、n年確率60分降雨強度Rnの、全国約1,300地点のアメダス観測地点における33年間(1976〜2008年)の降雨資料から、確率年3、5、7、10、20、30年に対する値が掲載された。 |
資料-5
流入時間の算出法 |
雨水流出量の計算については合理式による計算が、流入時間についてはKinematic
Wave等での計算することが規定されている。
xpswmmのようなより精緻な非線形貯留法による計算は規定されず。 |
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