まだまだ注目が続くプロジェクションマッピングですが、最近のマスコミ報道を見ていると「3D」や「立体」という言葉が多用されているのが目に付きます。しかも、その使われ方には誤用も多く、受け手に誤解を与えたり、混乱をまねくおそれがあります。今回はそんな3Dの背景を整理してみましょう。
「3D」への正しい理解 〜映像と空間、現実と仮想のはざまで〜
専門家でも混乱する「3D」という言葉
一言で「3D」と言いますが、この「3D」とは一体何をさしているのでしょうか?
それは分野により異なる意味を持つことがあります。よく言われるのは3DCGの専門家と立体映像の専門家が会話をすると、互いに相手の言う3Dについて「それは3Dではないですよね!」という話になり、通じないことがあります。3DCGの専門家が言う「3D」とは、「コンピューター上に3D空間を持っている」という意味で使われており、そのことは3DCG分野(3DCAD、3DAR、VRを含む)での共通認識となっています(写真1・2)。
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▲写真1 点群による3Dデータの例1) |
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▲写真2 3Dモデルの例1) |
一方、立体映像の分野ではどうかというと、「映像自体に奥行き感や飛び出し感という空間を持っている」という意味で使われています。立体映像に関しては、カメラで撮影することもあり、必ずしもコンピュータは必要ではありません。ましてや、立体映像の歴史はコンピューターができる以前、写真や映画の歴史とほぼ同じ150年以上前からあるわけですから、3Dの元祖とも言えます。 このことを考えると立体映像の専門家が2D画面で表示される3DCGを見て、「それは、3D(立体映像)ではない」というのもうなずけます。
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▲写真3 3D映像の例(両眼視差画像:平行法) |
そして、当然のことながら3DCGで制作した立体映像など3DCGと立体映像の要件の両方を満たした「3DCGによる3D映像」というものも存在するわけです(写真4)。こう考えてみると、「3DCG」と「3D映像」は単に専門分野が分かれているだけで、今後は互いの3Dに関する技術を融合させることで、まだまだ未開拓の新しい分野を開拓することができると考えられます。とくに土木や建築、インテリアやシミュレーターなど読者の方が関わっておられる分野は、3D表現が最も適した分野として「3DCGによる3D映像」が今後大いに活用されることでしょう。
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▲写真4 3DCGによる3D映像の例(アナグリフ形式)
S3D映像制作:吉川マッハスペシャル |
「3D」まるごと活用術
このように、「3DCG」も「3D映像」も複合的に使われることでその利用領域は広がります。実はこれ以外にも3Dと言われる重要な領域があります。それは、わたしたちが住む「3D空間」です。一方にバーチャルな3D空間として「3DCG」や「3D映像」があることで、その対局にあるリアルな「3D空間」に対して付加価値を与えることが可能となっています。これによって従来以上に、バーチャルな3D空間が私たちの生活に直接影響を与えるようになってきています。(「3D空間」については、3Dコンテンツニュースvol.8「3Dモバイル」の回で説明していますので、詳しくはそちらを参照ください。)
ここでは、「3D」の全体像としてこれらの3要素の関係を見てみましょう(図1)2)。
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▲図1 3D技術の全体像 |
プロジェクションマッピングは立体映像?
ここでは、最近のプロジェクションマッピングに関する報道の中で誤って使われている例を見ながら、プロジェクションマッピングでいう、「3Dとはなにか?」を考えてみましょう。
下記が最近目にしたWeb上での「3D」、「立体映像」に関する誤用の例です。
- ・朝日新聞デジタル「建物などに3D映像を投影するプロジェクションマッピング」
http://www.asahi.com/articles/ASG2W4GJZG2WPLFA005.html
- ・毎日新聞「立体映像を建物の壁に投影する「プロジェクションマッピング」のイベント」http://mainichi.jp/area/yamanashi/news/m20131220ddlk19040174000c.html
いずれも、プロジェクションマッピング自体が「3D映像」あるいは「立体映像」であるとして記載しています。図1を見ればこの使い方が誤用であることはあきらかで、3D映像や立体映像という言葉は、立体視に対応した映像を指す用語です。現在行われているほとんどのプロジェクションマッピングは立体視には対応していません。(立体視対応のプロジェクションマッピングについては、3Dコンテンツニュースのvol.9を参照ください)
多分これを書いた記者の方、あるいはニュースリリースを作成した方は、立体物に映像を投影すること、あるいは3DCG自体を立体映像や3D映像と思い違いをしているようです。一方、前回のコンテンツニュースで解説したように3D映像(立体視)に対応したプロジェクションマッピングというのは別途存在しているのです。今後、3D映像のプロジェクションマッピングが頻繁に行われるようになった場合、このような誤用をされると非3D映像のプロジェクションマッピングと区別することができなくなるだけでなく、誤った知識を訂正する労力は多大なものとなり、ひいては読者が混乱する要因にもなりかねないと筆者は危惧しています。
マスコミとしては、「3D映画」や「3Dテレビ」という用語を使い続けてきたわけで、この場合は明らかに立体視に対応した映像をさしているわけです。ですので、今後プロジェクションマッピングについて表現する場合は、「立体物に映像を投影するプロジェクションマッピング」というべきと考えます。
プロジェクションマッピングでの「3D」とは、なんでしょうか?
実はプロジェクションマッピングでは、もう一つ3Dという用語が使われることがあります。
それは、「3Dプロジェクションマッピング」という呼び方です。
コンテンツニュースのvol.2でもプロジェクションマッピングの種類として少し触れましたが、ここではより詳細に解説します。
実はこの「3Dプロジェクションマッピング」が何を指すのか自体、正しく理解されていないことが多いのが実情で、前述の「立体映像」や「3D映像」さらに「3Dプロジェクションマッピング」という呼び方も加わり、「3D」に関する混乱ぶりは極限に達していると筆者は感じています。
以下に3Dプロジェクションマッピングについて整理してみましょう。
プロジェクションマッピングにおける、2Dと3Dの違い
- 2Dプロジェクションマッピング
→コンピュータ上に3D空間がなく、素材を2D的に貼り付ける方法で投影する方法
・写真を線でトレースして色分けするなども含まれる、光源の変化が得られない
- 3Dプロジェクションマッピング
→コンピュータ上の3D空間に、3DCG技術で素材を貼り付け、その映像を実物に合わせて投影する方法
・光源の変化や、リアルタイムにも対応することができる
誤った理解による2Dと3Dのプロジェクションマッピング、
その誤解の種類
これに対して一般的にはどのように理解されているのでしょうか?
下記の分け方は、筆者が客先などと話す中で判明したことや、Webなどの説明文から誤解の種類を分類したものです。
- 投影対象が2Dか3Dかで区別している。
→平面に投影するのは、2Dプロジェクションマッピング
→立体物に投影するのは、3Dプロジェクションマッピング、あるいは立体映像
- 投影する映像が2Dか3Dかで区別している。
→投影素材が2DCGであれば、2Dプロジェクションマッピング
→投影素材が3DCGであれば、3Dプロジェクションマッピング
- 視点の数や範囲で2Dか3Dか区別している。
→1視点から見るものが、2Dプロジェクションマッピング
→360度どこからでも見えるものが、3Dプロジェクションマッピング
このように見てくると3Dという言葉が混乱していることがわかります。
3Dは、個別の技術だけをみるのではなく、「3D映像」、「3DCG」、「3D空間」から構成される「3Dまるごと」から、みる視点が今後ますます重要となります。新しい3D市場もこの「3Dまるごと」から始まることでしょう。
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1)この画像はフォーラムエイトの3Dスキャニングサービスにより作成したものです。
2)「3D技術が一番わかる」 町田聡著 p15 技術評論社。
※社名・製品名は一般的に各社の登録商標または商標です。 |
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(Up&Coming '14 春の号掲載) |
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