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パーソナル・アドバイザー
唐澤 理恵 |
お茶の水女子大学被服学科卒業後、株式会社ノエビアに営業として入社。1994年最年少で同社初の女性取締役に就任し、6年間マーケティング部門を担当する。2000年同社取締役を退任し、株式会社パーソナルデザインを設立。イメージコンサルティングの草分けとして、政治家・経営者のヘアスタイル、服装、話し方などの自己表現を指南、その変貌ぶりに定評がある。
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科経営学修士(MBA)、学術博士(非言語コミュニケーション論)。 |
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フォーラムエイトのアドバイザーがそれぞれの
経験や専門性にもとづいたさまざまな評論や
エッセイをお届けするコーナーです。 |
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"第一印象を磨く"という仕事 2000年、ノエビアの取締役を退任して始めた仕事が、ビジネスパーソンの第一印象を磨くイメージコンサルティングでした。起業当初は周囲になかなか理解されない事業内容でしたが、2005年第二次小泉内閣誕生のときの自民党総裁選で仕事をいただき、その後のクールビズ推奨によって日本のビジネスマンが服装や髪形など第一印象を意識し始めた頃から、少しずつ仕事は増えていきました。
1960年アメリカの大統領選挙、ニクソンとケネディの初のテレビ討論会におけるイメージ戦略がもたらした結果をご存知でしょうか。優勢だったニクソンは、日々の遊説に疲れていたにも関わらず、メイキャップを拒否していました。一方、ケネディはテレビ討論会に備えて休暇を取り、日焼けした顔にさらにメイキャップを施しました。そして、淡いグレイのスーツを着用したニクソンはメリハリなく疲れた印象に映り、ケネディは濃いスーツを着用したため、シャツとジャケットの濃淡でメリハリが効き、とても精悍な印象だったようです。それが、劣勢だったケネディを勝利させたと言われ、それ以来アメリカでは、政治家や企業トップがイメージ戦略としてコンサルタントをつけることは一般化しています。
外見より中身が大事!?
私たちの世代は、『人は外見より中身』と親から言われて育ってきました。もちろん、最終的には内面が重要です。しかし、インターネットやテレビ・雑誌などのメディアに企業トップが登場することが当然の時代になった今、外見を放ったらかしではいられないというのが正直なところです。安倍首相をはじめ、多くの政治家はイメージコンサルタントの指南を受け、また企業トップも株主総会や記者発表において、より自社のブランドイメージを強く印象付けるための衣装や髪形、表現方法をプロと相談することが一般化しつつあります。
とはいえ、日本はまだまだ遅れています。受付の女性たちに外見の美しさを求めても、あらゆる場で多くのクライアイントと商談する管理職の外見については、本人任せ。入社時の身だしなみ研修以来、外見について誰からも指南されたことがないビジネスマンが多いのではないでしょうか。部下たちにとって憧れの存在である管理職が増えるほど、会社の業績はアップするに違いないという私の信念こそ、この仕事を17年間続けてこられた原動力だったと思います。
起業のきっかけ
化粧品会社で営業をしていた私のミッションは「世界中の女性をより美しく」することでした。メイクアップのほか、ファッション、姿勢や話し方まで指南する仕事は、まるで映画『マイフェアレディ』のようでした。外見を磨くだけでなく、化粧品販売ビジネスを通してお金を稼ぎ、美しく堂々と輝き始める多くの女性たちを見ることに喜びを感じていました。1994年それまでの実績が認められ、ノエビア初の女性取締役となり、経団連や経済同友会などの会合に出席し、そこで感じたこと。それは、日本の企業トップの第一印象がパッとしないという現実でした。バブルが崩壊した頃でもあり、疲れた印象のリーダーたちの姿は周囲をより暗く澱ませる印象でした。これでは日本経済もよくなるはずがない。リーダーたちの第一印象を輝かせることこそ、日本を不況から救うために私ができることであるという閃きが、私を起業へと駆り立てたのです。 |
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左 before 58才
下 after 62才 |
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■パーソナルデザイン例 |
第一印象の重要性
人の第一印象は7秒で決まると言われています。第一印象とは、「好きか嫌いか」「敵か味方か」というように、相手を直感的、本能的に感じる印象です。人間である前に動物である私たちがもつ能力のひとつともいわれます。とくに、ヒトは嗅覚や聴覚が退化した一方、視覚が進化したことで見た目による第一印象を主な判断基準としています。顔つき、表情、服装の形や色、髪形などを見て、「優しそう」とか「賢そう」などという内面、あるいは、職業やポジションなどを推測します。とくに初対面の相手に対して、その人となりを知る由もありません。第一印象から相手はどんな人かを推測し、コミュニケーションをスムーズに進めるための方法を模索します。
日本のように単一民族の場合、双方同じである処からのスタートですが、欧米のような多民族国家の場合、まずは相手との相違点を探ることからコミュニケーションが始まります。そのため第一印象が重要視され、その研究も進んだと思われます。とくにアメリカでは第一印象の学術研究が盛んです。南カリフォルニア大学のアルバート・メラビアン教授は、その分野での第一人者といわれ、彼が発表した『メラビアンの法則』はとても有名です。
謝罪会見における言語情報と非言語情報
最近メディアでよく見かける謝罪会見。「申し訳ございません」という言語情報と、謝罪する人の表情や服装などの非言語情報が矛盾している場合、『メラビアンの法則』によると、私たちは後者に影響されてしまうようです。例えば、謝罪会見で数百万円の高額な時計を身に着けているだけで、視聴者には謝罪の言葉が嘘くさく聞こえてしまいます。また、真っ赤なネクタイをつけていることで視聴者の血圧は上がり、謝罪の言葉を素直に受け入れない心の状態になってしまうようです。いくら言語で取り繕っても、非言語である服装や表情、声や態度が相手に多くの情報を与えてしまうというわけです。外見は口ほどにものを言うようです。
職業らしさがポイント
東京大学の原島博教授によると、職業らしい顔があるといいます。この写真は、コンピューターグラフィックで作成された3つの職業の平均顔ですが、それぞれの職業は何だと思いますか。(1)は銀行員、(2)はプロレスラー、(3)は政治家です。銀行員の平均顔の特長は左右対称で、相手に対して正統派で几帳面な印象を与えます。銀行員として必要な印象といえます。また、プロレスラーの平均顔のように黒目が中央によっている顏は、相手に攻撃的な印象を与えます。戦う仕事としては必要でしょう。政治家の平均顔は、目の焦点が合っていないことから、何を考えているかわからない印象を与えます。清濁併せのむ仕事上、そういった顔つきが創られていくのかもしれません。
いくつかの研究によると、私たちはその職業らしい印象の人に対して信頼感をもつようです。例えば、警官らしい顔つきやきちんとした制服姿の人の指示には素直に従い、薄汚れた制服や無精ひげの警官の指示には従わない人が多くなると研究で明らかにされています。私たちは、それぞれの職業において「職業らしい自分」を知らず知らずに作っていくのかもしれません。
ビジネスパーソンに必要な外見マネジメントとは?
職業らしい自分をデザインすることは、ビジネスパーソンにとってとても重要なことです。とはいえ、とってつけたような服装や髪形では、居心地の悪さを感じることでしょう。外見・内面の本来の個性を活かし、自分らしさをデザインすることこそ、私が提唱するパーソナルデザインです。
これまでの数千人のコンサルティング経験から、誰もが磨けば光る原石であると声を大にしてお伝えします。老若男女関係なく、それぞれの個性を最大限活かすことがオーラを引き出す鍵といえます。そのために、まずは自分の欠点と思うところは隠さず、活かすこと。髪が薄くなった頭頂部は隠さず、坊主にしてしまった方が却って素敵です。そして、外見マネジメントで重要なことは、主役はあなた自身であるということです。服装、眼鏡、髪形はあくまでも脇役です。脇役は目立ってはいけません。主役を輝かせてくれる名脇役を選びましょう。
最後になりますが、パーソナルデザインの合言葉は「シンプル イズ ベスト!」です。企画書も、プレゼンテーションも、自分自身も、相手にわかりやすくシンプルに、しかもビジュアルに伝えることこそ、新たな時代のビジネススキルではないでしょうか。 |
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(Up&Coming '17 春の号掲載) |
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