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連載 【9回】
コロナウイルスと
インフルエンザのお話
profile
関西医科大学卒業、京都大学大学院博士課程修了、医学博士。マウントシナイ医科大学留学、東京慈恵会医科大学、帯津三敬塾
クリニック院長を経て現職。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医、日本心療内科学会上級登録医・評議員、日本心身医学会専門医、日本森田療法学会認定医。日本統合医療学会認定医・理事。日本ホメオパシー医学会専門医・専務理事。日本人初の英国Faculty of Homeopathy専門医(MFHom)。2014年度アリゾナ大学統合医療プログラムAssociate Fellow修了。『国際ホメオパシー医学事典』『女性のためのホメオパシー』訳。『妊娠力心と体の8つの習慣』監訳。『がんという病と生きる 森田療法による不安からの回復』共著など多数。


このシリーズではいままで、健康経営と統合医療という視点から、いろいろな不定愁訴を取り上げてきました。今回は感染症、とくにウイルス感染症のなかでも風邪の原因ウイルスであるコロナウイルスとインフルエンザウイルスについてです。

感染症

  感染症とは、病原体(細菌、ウイルス、真菌、寄生虫など)が体に侵入して、症状が出現する病気です(図1)。侵入する感染経路には飛沫感染、空気感染、接触感染、血液感染があります。コロナウイルスやインフルエンザウイルスは飛沫感染/ 接触感染です(図2)。病原体が体に侵入しても、症状が現れる場合と現れない場合とがあります。それを左右する要因として(1)病原体 (2)感染経路 (3)感受性宿主(身体の免疫力など)があります。感染症は生物学的ストレッサーである病原体に対して、身体の防御反応として急性炎症が起こり、その炎症の結果として諸症状が出現します。病原体が身体のどの器官に侵入するかによって症状が異なってきます。例えば、排尿痛や頻尿があると膀胱炎、のどが痛いときには急性上気道炎、一般には風邪といわれているものを考えます。図3に典型的な急性上気道炎の症状を示します。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
図1 図2
典型的な急性上気道炎の症状
 症状  生体内で起こっていること
発症から3日目ぐらい 咽頭の疼痛、違和感
鼻閉、透明な鼻汁
発熱(高くないことが多い)
全身倦怠感、筋肉痛、頭
鼻咽頭、眼粘膜へウイルス侵入
マクロファージがウイルスを認識し、炎症性惹起物質放出
毛細血管が拡張し粘膜が発赤
マクロファージかや上皮細胞から放出されるサイトカインやケモカインが
 上記の生体反応を助長
3日目以降 膿性鼻汁
膿性咳
 サイトカインやケモカインの影響で局所に好中球遊走
分泌物は膿性となる
図3 「感染症診療のロジック」大曲貴夫著より引用

 

ヒトに感染するコロナウイルス

風邪はライノ、エコー、コクサッキー、コロナなどのウイルスが主な病原体です。ヒトに日常的に感染するコロナウイルス(Human Coronavirus:HCoV)にはHCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1の4種類がわかっています。風邪の10〜15%(流行期35%)はコロナウイルスが原因とみられています。冬季に流行のピークが見られ、ほとんどの子供は6歳までにコロナウイルスの感染を経験します。多くの感染者は軽症ですが、高熱を引き起こすこともあります。一方同じコロナウイルスであっても重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV)は、コウモリのコロナウイルスがヒトに感染して重症肺炎を引き起こすようになったと考えられています。2002年中国広東省で発生し、2003年12月WHOの報告によると疑い例を含むSARS患者は8,069人、うち775人が重症の肺炎で死亡しました(致命率9.6%)。

 
 

また中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)は、ヒトコブラクダに風邪症状を引き起こすウイルスですが、種の壁を超えてヒトに感染すると重症肺炎を引き起こすと考えられています。2012年にサウジアラビアで発見され、これまでに27カ国で2,494人の感染者のうち858人が死亡したと報告されています(致命率34.4%)。

新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、2019 年12 月以降中華人民共和国湖北省武漢市で発生した原因不明の肺炎患者から検出された新種のコロナウイルスです。今年2月11日、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症の正式名称を「COVID-19(coronavirus disease 2019)」と定めました(COVID-19)。多くは無症状のまま経過するものと思われます。感染を受けた人の中で潜伏期間(1〜12.5日)ののち一定の割合で発熱・呼吸器症状(咽頭痛、咳)などの感染症状が認められるようになります。発熱や呼吸器症状が1週間前後持続することが多く、強いだるさ(倦怠感)を訴える人が多いことが特徴とされています。

 

  いわゆる風邪、あるいはインフルエンザであれば、通常は3〜4日までが症状のピークで、その後改善傾向がみられますが、新型コロナウイルス感染症では症状が長引くことが特徴です。4日を過ぎても発熱が続く、特に1週間目においても発熱が続く場合、息が苦しい、呼吸器症 状が悪化するなどを認めた場合には肺炎の合併が疑われます。この感染症への対応は「新型コロナウイルスへの備え」(※1)を参考にしてください。

インフルエンザ

インフルエンザウイルス(図4)を病原体とするとする気道感染症です。潜伏期間は1〜4日間です。流行が周期的に現われてくるところから、16世紀のイタリアの占星家たちはこれを星や寒気の影響(influence)によるものと考え、これがインフルエンザの語源であると言われています。インフルエンザは、いまだ人類に残されている最大級の疫病といえるかもしれません。

感染症の世界的な大流行をパンデミックといいます。インフルエンザによるパンデミックでは1918年のスペイン風邪(A/H1N1:2000〜5000 万人死亡)、1957 年のアジア風邪(A/H2N2:100〜400 万人死亡)、1968 年の香港風邪(A/H3N2:100〜400 万人死亡)、最近では2009 年の「豚インフルエンザ」です。インフルエンザは毎年世界各地で大なり小なり流行がみられます。11月下旬から12月上旬頃に始まり、翌年の1〜3月頃に患者数が増加し、4〜5月にかけて減少していくパターンを示しますが、夏季に患者が発生しインフルエンザウイルスが分離されることもあります。インフルエンザ流行の大きい年には、インフルエンザ死亡者数および肺炎死亡者数が顕著に増加し、さらには循環器疾患を始めとする各種の慢性基礎疾患を死因とする死亡者数も増加し、結果的に全体の死亡者数が増加することが明らかになっています(超過死亡)。ことに高齢者がこの影響を受けやすいといえます。図5にインフルエンザの臨床症状を示しています。

「新型インフルエンザ」とは、過去数十年間に人が経験したことのない種類のインフルエンザウイルスにより、ヒトとヒトとの間で容易に流行を起こすようになったインフルエンザをいいます。2009年の「豚インフルエンザ」はウイルスの遺伝子が豚インフルエンザ由来のためそう呼ばれました。2010年8月には「ポストパンデミック」であるとWHOより宣言され、2011年4月1日以後、「インフルエンザH1N1(2009)」と呼ばれ季節型のインフルエンザに移行しました。これは高齢者の感染は少なく、小児と若年層に多く、中には発症後急激に呼吸状態が増悪する急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の報告がありました。

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図4
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図5

インフルエンザワクチンを受けているのに罹ってしまったという人も少なくないと思います。インフルエンザワクチンの効用は感染の予防ではなく、重症化をふせぐことです。高齢者では特にこの観点からワクチンがすすめられています。

インフルエンザで仕事を休まないためにも、ワクチン接種、症状が出始めたらできるだけインフルエンザ治療薬服用することになりますが、何よりも宿主である私たちの抵抗力、免疫力が重要です。統合医療の視点からも、日々の生活のなかで睡眠、食生活、運動がポイントであると繰り返してきました。思い起こして実践してください。

(※1)「新型コロナウイルスへの備え」参考 URL https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/coronavirus.html

 


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