●はじめに
建物や土木構造物の構造解析は、鉄骨や橋桁などを梁や柱、トラス部材などのような太さを無視したシンプルな要素として扱う方法が一般的です。荷重に対して各要素に発生する軸力や曲げモーメント、せん断力を求め、部材の断面の大きさによって応力度を算出する方法です。
しかし、ダムのように全体がずんぐりとした形の構造物や、ボルトで固定されている鋼材の端部などは、梁と柱のようなシンプルな形に分解することができません。
こうした構造物の応力解析には、「太さ」をそのまま再現する2D、3Dのモデルを作り、コンピューターによる膨大な計算を行って内部の応力やひずみを解く有限要素法(FEM)が使われます。
FEM解析は、構造物の2D、3Dのモデルの内部を細かい要素に分割し、各要素を節点でつなぎます。そして節点の変位や回転角を未知数とする連立方程式を立て、コンピューターで解きます。未知数が数千〜数万という巨大な連立方程式となるので、とても手計算ではできません。コンピューターならではの解法です。
またFEMでは、構造物の動的解析や熱の伝導を解析できるほか、なにもない空間自体を細かい要素に分割して磁場や磁束密度などを解析することができます。さらに最近はパソコンの性能が上がったことにより、従来は大型コンピューターが必要だった非線形解析なども手軽に行えるようになりました。
その代表的なソフトの一つとして、フォーラムエイトの総合有限要素解析システム「FEMLEEG」があります。
▲FEMLEEGによる鋼橋の解析例
●製品概要・特長
▲FEMLEEGのシステム構成
FEMLEEGは、解析対象となる2D、3Dのモデル作成から解析、そして結果の表示までを一貫して手軽に行えるFEMソフトです。静的、動的の構造解析のほか、湿度や圧力、そして長期荷重によって材料が縮むクリープまで、構造物の設計に必要なほとんどのものを解析できるといっても過言ではありません。
FEM解析で大変なのは、コンピューターに解かせるための巨大な連立方程式を作る作業です。解析する構造物や空間を「メッシュ」という細かい要素に分割し、それぞれがつながる節点に番号を振ったり、変位などを表す変数を設定したりする面倒な作業が必要です。
さらにモデルと外部との拘束条件やメッシュ要素間のつながりを考慮しながら、モデル全体の変数を含む巨大な連立方程式を作っていく作業が待ち構えています。私が学生だったころは、これらを手作業で行っていたため、メッシュ要素が20個程度の簡単な構造物のFEM解析を行う準備だけでも数日かかっていました。
ところがFEMLEEGにはこの作業を自動化してくれるプリプロセッサ「FEMIS」が標準で付属しています。数千〜数万というメッシュを自動的に分割し、荷重条件や拘束条件、物性条件などを2D、3Dのモデルに反映した数千〜数万行に及ぶ連立方程式をあっという間に作ってくれるのです。
この巨大な連立方程式は、線形構造解析ソルバー「LISA」で解きます。この段階では各接点の変位や応力度などは膨大な数字の集合体ですが、ポストプロセッサ「FEMOS」により、2D、3Dのモデル上に応力や温度などの分布をグラフィカルに表示できるほかグラフや数値のリストなどでも表示できます。そのため計算書や報告書の作成にも手間がかかりません。
また、ソルバーに非線形の静的、動的解析などが行える外部のソフトや、自社開発のソフトを使って解析することもできます。外部ソルバー用に入力データを変換するのは、プリトランスレータ「FEMIST」です。
これを使うことにより、米国航空宇宙局(NASA)のアポロ計画でも使われたことで有名な構造解析ソフト「NASTRAN/MARC」や、日本コンクリート工学協会マスコンクリートソフト作成委員会により開発された3次元温度応力解析プログラム「JCMAC3」などの外部ソルバーでの解析が可能になります。
外部ソルバーでの解析結果は、ポストプロセッサ「FEMMOST」により、FEMLEEGに戻され、グラフィカルな結果出力などが可能になります。
オプションには荷重載荷支援ツール「Load
Helper」や、様々な荷重条件での計算結果を組み合わせるツール「AddCase」が用意されており、さらに解析業務の効率を高めることができます。
●体験内容
6月25日、フォーラムエイト東京本社で「熱応力・ソリッドFEM解析体験セミナー」が開催されました。講師を務めたのは、フォーラムエイト大阪支社の佐野裕昭さんです。テレビ会議システムを通じての講義となりました。
午後1時30分から1時間、製品概要の説明を行った後、2回の操作実習を行い、解析事例の紹介や今後の展開、そして最後に質疑応答を行うというカリキュラムです。
製品紹介は、FEMLEEGの生い立ちや特徴の解説から始まりました。FEMLEEGは今年5月、フォーラムエイトと合併したホクトシステムが開発したソフトです。フォーラムエイトの構造解析ソフトである「UC-win/FRAME(3D)やEngineer's StudioRと似ている機能も多いですが、フレーム構造だけでなくソリッド構造も扱えるのがFEMLEEGの特徴です。そのためダムのようにマッシブな構造や、構造物内の細かい部分に発生する局部応力の解析が可能です。
FEMLEEGでは構造解析だけでなく、伝熱解析まで行えるのが大きな特徴です。例えば、構造物内の定常/非定常の温度分布を熱伝導解析で求め、その結果を温度荷重して構造物に入力し、伝熱・熱応力連動解析を行うこともできます。
モデルの作成に使える要素には、1次元のものではトラスやスプリング、埋め込み鉄筋、2次元では平面応力や平面ひずみ、シェル、積層板、3次元ではソリッドといった様々な要素が用意されています。
また、特徴的な機能に「NO TENSION解析」というものがあります。例えば、コンクリート基礎の上にH形鋼がボルトで固定されているような場合、上からの荷重がかかっている時はH形鋼と支承が一体となって動き、力も伝わります。しかし、H形鋼に浮き上がろうとする力が作用するとき、ボルトで締め付けられている部分以外のH形鋼は浮き上がろうとし、その部分では力は伝わりません。
FEMのモデルで、この現象を再現しようとすると、圧縮力がかかるときはH形鋼とコンクリート基礎の節点を固着状態とし、引っ張り力がかかる時は節点をはく離状態にする必要があります。「NO TENSION解析」は、ように圧縮力だけが作用し、引っ張り力が作用しないような構造を解析する機能です。
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▲NO TENSION解析機能による応力解析結果。
H形鋼と下のコンクリート部の間に圧縮力だけが作用し、
引っ張り力が働くときはH鋼だけが浮き上がるという現象が再現できる
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また、複雑な3Dモデルを作るときに便利なのが「CAP解析」です。「カットアンドペースト(Cut And Paste)」により、円筒や押し出し形状などの部品を立体的に“コピペ”して組み立てるものです。このとき、部品同士が接する面の節点は、多自由度拘束機能を応用して結合されます。
この機能を使うと、クランクなどの複雑な形状を簡単にモデリングすることができます。
▲CAP解析で作成した複雑な3Dモデルの例
メニューで操作した履歴は、すべてデータで保存されているので、寸法だけを変えて再実行するなどのバッチ処理も可能です。よく行う定型的な解析業務を繰り返し効率的に行えます。
こうした特徴のため、土木や建築をはじめ機械、半導体、住宅設備、原子力関連、ガラスメーカーなど、幅広い業種で使われています。
製品紹介に続いて、行われた実習1では、FEMLEEGならではの伝熱・熱応力連動解析を体験しました。上下が拘束された縦横10m、厚さ2mの壁を想定し、片面が直射日光を受けて50℃に、日影面が20℃になったときに生じる定常状態での温度応力を求めるものです。
製品紹介に続いて、行われた実習1では、FEMLEEGならではの伝熱・熱応力連動解析を体験しました。上下が拘束された縦横10m、厚さ2mの壁を想定し、片面が直射日光を受けて50℃に、日影面が20℃になったときに生じる定常状態での温度応力を求めるものです。
▲実習1で使用した壁のモデル
解析用のモデルを作成するFEMISで、壁の表面を縦横に10分割した平面要素を作成し、壁の厚さ方向に押し出すことで5分割します。そして壁の上下面の拘束条件や表面温度を壁の面に応じて設定します。
こうして解析用のモデルができたら、今度は解析ソルバー「LISA」を起動して定常熱伝導解析を実行します。この結果をポストプロセッサ「FEMOS」で見ると、壁の厚さ方向に温度が連続的に変化していることがわかりました。
▲FEMOSで見た壁の温度分布
次に、この温度分布を温度荷重として利用し、LISAで連動熱弾性解析を行います。その結果を再度、FEMOSで見ると、壁は日なた側にそるように変形し、主応力は左右対称に分布していることがわかりました。
▲FEMOSで表示した日影面の最大主応力のコンター図
実習2では、片側3点が固定支持、片側3点がローラー支持で支えられた分厚い梁に、上面2カ所から矩形分布荷重が作用するという複雑な条件での解析を行いました。FEMISによる解析モデルの作成には、既にCADソフトで作られた梁の3Dモデルを読み込んで、メッシュを切るという方法を使いました。実際の設計実務でも、よく使われそうな方法です。
▲実習2で解析した構造物と荷重条件
荷重条件が複雑なため、この実習ではオプションの「LoadHelper」を使って矩形分布荷重や腹圧荷重を計算し、解析モデル上に設定しました。
解析モデルが完成すると同様にLISAで構造解析を行い、FEMOSで結果を可視化しました。
▲FEMOSで可視化した梁の応力分布
●イエイリコメントと提案
FEMLEEGの機能で印象的だったのは、圧縮側だけ力を伝える「NO TENSION解析」です。この機能の説明を聞いたとき、私はかつて働いていた鉄鋼会社での配管設計業務のことを思い出しました。ある配管を複数の支承で支えているときに、各支承が不同沈下を起こした時、どの支承で配管の浮き上がりが起こるのかを計算する必要があったのです。
当時、使っていたFEMソフトは、支承と配管の間は固定点として扱うものでした。そのため、反力を計算するとマイナスのところが出てくるのです。しかし、実際は配管にはマイナスの反力は発生せず、浮き上がっているので計算結果と実際は合っていないことになります。いろいろな支承を「削除」して、プラスだけの反力が出るようにするとともに、配管の変位が支承より上にあるような計算結果を得るのは、ほとんど不可能でした。
当時、「NO TENSION解析機能」があれば、こうした苦労は全くしないですんだのにと思いました。今でも同様な悩みを抱えている設計者は多いと思います。設計や施工、維持管理の現場でよく遭遇する問題を解決するために、FEMLEEGの入力データ記録機能を生かしたソリューション集があると、初心者が解析を行うときの貴重なヒントになりそうです。
▲NO TENSION解析機能による解析例
●今後の展望
建設業界ではBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)など、3Dによる設計手法が急速に普及しています。
これらの手法で設計した構造物の3Dモデルをもとに様々な解析を手軽に行う“万能解析ツール”としてBIM/CIMソフトのアドオンソフト化するという展開もありそうです。
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