■システム要求の変化と課題
1.システムの大規模化、複雑化、多様化
IoTなど通信技術の進化により、様々な機能・目的・場所・時間の異なる機器を密につなげることが可能になりました。これにより、多彩な機器を有機的に結合にさせ斬新な機能を持つシステムの企画が可能です。一方、開発対象システムは大規模化・複雑化・多様化し、広範囲の知識と多彩な専門技術が必要になりました。2.非連続の発想による画期的なイノベーションの必要性
単純な発想は、考え尽くされています。過去のデータから因果関係を考察し未来の変化を予測する分析的アプローチといった連続的な分析だけでは、もはや画期的な企画は困難になってきました。画期的な企画を発想するためにはクリエイティブシンキングなど非連続な変化の拡散思考が必要です。そのために、思考範囲が飛躍的に広がります。
3.システム企画の課題
企画に必要な知識や思考範囲が爆発的に広がり、もはや、1人が全体を把握し進めることが困難になってきました。斬新なシステムを企画するためには、高度で専門的な能力や、さまざまな価値観を持つ人材を一つに集め、活発な議論を促す必要があります。しかし、多人数で検討を行う場合、「グループシンク(groupthink)」という落とし穴に陥ります。グループシンクは、アメリカの社会心理学者であるアーヴィング・ジャニスにより、1972年に提唱され、組織・集団の意思決定において合意形成を図る場合に、“場の空気”が形成されることにより、その結論が正しいかどうかを適切に判断することや評価する能力が著しく欠如するといった現象を示します。集団思考を行うことがメンバー間のもたれ合いを発生させ、結果的に浅い思考しかできず、さらに、このメンバーで考えたことは最高の思考に違いないという錯覚により、結果に対して誰も批判できなくなる場合が多くあります。このため、単純に優秀な多くの専門家を集めグループ・集団で議論しても、斬新な企画を創出することはできません。
■ファシリテーション能力を有した支援型システムエンジニア
1.ファシリテーションとは
ファシリテーション(facilitation)とは、集団による問題解決、アイデア創造などの創造活動を支援し促進していく働きです。段取りや進行といった目的を達成するための活動と、メンバー一人ひとりの頭や心の中にある内面的な考え方や筋道などの思考や感情の動き、メンバー同士の関係性などを支援する活動からなります。
- 議論を活発化する環境の構築
話し合いの目的・目標・進め方・ルールなどの明確化と共有を図り、参加者を適度にリラックスさせることにより想いや考えなどの自由な発言を引き出すような環境を作ります。
- 議論の方向付け
常に中立を保ち全体を把握することにより、発言の意図や方向性を把握し図表でマッピングするなど、議論がテーマの方向性とずれていないかを明確にします。また、正しい方向への議論が深まるような呼び水の質問を投げかけます。
- 相乗効果の活性化
発言間の相互作用の促進や深堀を行い、多彩な意見とアイデアを最大限に引き出すように会議を進行させます。そして、他者とぶつかり合う意見に対して互いの違いの本質を明確に示し、そこから重要な観点を発見することにより新しい展開を促します。
- 整理・絞り込み、結論の創出
意見を整理してまとめ、合意形成を行い、明確な到達地点へ誘導します。
2.システム企画におけるファシリテーション
画期的なシステムを企画するためには、様々な専門技術を駆使した開発システムが実際に運用されている状況をイメージする必要があります。そのため、キーマンとなるファシリテーション能力を有するシステムエンジニアが必要になります。ここでは、ファシリテーション能力を有するシステムエンジニアをFSEと呼ぶことにします。
- 「俯瞰」はシステム企画におけるファシリティマネジメントの重要な要件
FSEは利用者や環境を含む全体の機能を振る舞いとして動的に考え続ける専任者であり、各技術要素、構成要素、専門家知識の概要を横断的に把握しています。そのため、全体としてどのような振る舞いが起こりうるか、どのようなシナリオが起こりどのようなシチュエーションが発生するかを動的に捉えることができています。本章では、これを「俯瞰」できていると呼びます。FSEは、個別の詳細な要素についてそれぞれの専門家に相談します。
- 議論を活発化する環境の構築(システム企画)
各専門家や構成要素のキーマンは、自分の専門や担当範囲を中心にして開発対象を捉えています。それ以外の範囲については、概要を静的に捉えており、多くの構成要素や専門知識が絡み合った状況を全て考慮することはできません。また、専門家が意見を出しやすい開発対象の特定のシチュエーションを説明するために提示する情報は、専門家が有する分野の特性ごとに異なります。このため、FSEは、膨大な開発すべきシステムの動作から気になる議論すべき状況を絞り込み、より具体的なシチュエーションと情報をそれぞれの専門家に応じて提示します。
- 議論の方向付け(システム企画)
各専門家に貢献して欲しい内容も異なります。このため、FSEはどのような情報を準備し、どのような情報を受け、どのように構想を進化させていくかについて、専門家間の横断的な状況を構想しながら議論の環境を作り、呼び水をしながら議論を方向付けて行きます。
- 相乗効果の活性化(システム企画)
斬新なアイデアやリスクの可能性は、専門領域の異なる要素の相互作用で発生します。FSEは、専門家間のブリッジとなる情報を提供しながら検討を深めていく役割を果たします。専門家ごとに意見のレベルや見方・視点・観点・表現の仕方が異なります。また、各専門家は自分の専門以外は出された意見に対して浅い周辺しか想定できません。FSEは、参加している他の専門家が理解できるように、発言された情報を基に各メンバーに必要な情報や動的なシチュエーションに展開して説明し、各専門家が深く理解できるように促します。また、出された意見について発言者の本意を明確にする質問を行い、全体像との位置づけを明確にすることにより全メンバーと意識共有し、意見をベースに更に深い検討内容への発展を促します。さらに、FSEは動的に様々なつながりの変化をイメージし非連続な展開が行える可能性を検討します。そして、膨大な状況の組み合わせの中から注目すべきシチュエーションを抽出して各専門家に提示することにより、専門家の斬新な発想を促します。
- 整理・絞り込み、結論の創出(システム企画)
FSEは、全体を概念的に俯瞰しているため、専門家間の意見の対立に対する相互の位置付けを整理し、全員の合意により結論へ導くことができます。また、機能などの追加は容易ですが、削除する判断は極めて困難です。このため、開発すべきシステムの仕様が必要以上に複雑化し、開発障害を招きやすい傾向があります。FSEは、全体としての有効性のバランス、削除しなかった場合の総合的なデメリットを明確に示し、不要なシステム機能や制約条件の複雑化を回避することができます。
俯瞰できているファシリティマネジメント能力を有したシステムエンジニアを育てることにより、斬新なシステムの企画を行うことが可能になります。
※詳しくは、フォーラムエイトパブリッシング出版『超スマート社会のためのシステム開発』をご覧ください。
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約30年間に渡って大手メーカー新規商品、特注品、試作機やマイコンソフトウェア等の受託開発に携わった豊富な経験にもとづいて、これからのスマート社会を支える上で不可欠な組込システム開発の考え方・知識・手法を紹介。システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注/受託に関わる方は必読の手引き書です。 |
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