屋内外一貫の避難誘導サインシステム
本誌の前号(Vol.5)で紹介したフォーラムエイトパブリッシング発行の『避難誘導サイントータルシステムRGSSガイドブック』は、自然災害に対して、これまで誰も示し得なかった、極めて有効な避難の手立てを開示している。
災害時に屋内から安全な避難場所に至るまで、災害の種類や環境の違い、避難者の年齢、教育、経験、言語、宗教、文化の違いを超えて、昼夜を問わず、迅速に避難できる一貫した避難誘導サインのトータルシステムを、世界で初めて具体的に示したものと言える。費用対効果が高いことも特徴だ。
人々が出入りする建物の内部にあって消防庁は、地震と火災に際して非常口へ誘導する手立てを消防法により定めている。そして市町村の公園や小中高校の校庭など一時避難場所には、消防庁推薦の避難場所表示ピクトグラムを全国津々浦々に設置している。ところが非常口から避難場所に至る道路上の誘導の手立ては、本来所轄すべき国交省が津波対策に偏るあまり、無策の空白状態にある。非常口ピクトグラムと避難場所ピクトグラムはどちらも筆者の手になるデザインなので、我が子のように愛着がある。それがここ20年来、一度も出会うことがない。
『ガイドブック』では、その空白部分を、誘導サインで昼夜とも連続してつなぐデザインを提案している。その誘導サインは枠やバックプレートのないフレームレスサイン。それぞれ4cmほどの小サイズの避難場所ピクトグラムと矢印を横または縦に組み合わせた蓄光材仕上げのフイルムで、裏面の接着剤で公道の縁石に両側15mごとに、互い違いに貼付する。最大の特徴は、昼間に見とれる緑色の誘導サインが、災害時の暗闇の中で昼間と同じ緑色に光って見えること。昼も夜も同じ緑色で避難経路を誘導してくれる(図1)。
これまでの蓄光材は緑に光らなかった。ピクトグラムの背景を、蓄光材の薄い黄緑または薄い青緑でバックカラーとして光らせ、ピクトグラムは緑色の印刷インキだから暗所では黒くなった。『ガイドブック』の刊行に合わせてRGSS協力メンバーが筆者の長年の要求に応えて、世界で初めて、暗所で緑に光る3種類の成果を開発してくれたのだ。
交差点など要所には、20cm角の避難場所案内マップが最寄りの避難場所を示す。途中の目印はピクトグラム化して地図に入れる。小さな誘導サインと避難場所案内マップが街の景観に調和して、避難場所への無意識の心象風景を刷り込んでくれる(図2)。
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■図1 フレームレス誘導デザイン |
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■図2 避難場所案内マップ |
屋内外、昼夜間一貫の避難誘導サイントータルシステムを標榜するからには、屋外で使う誘導サインを屋内にも採用・設置することが望ましいと言えるかもしれない。現行消防法による非常口までの誘導をなくして、避難場所までを誘導する屋外の誘導サインを、人々が出入りするすべての建物内に設置する。そこまでする手前に、現行の消防法による避難口誘導灯と通路誘導灯をそのまま、天井近くに取り付けたまま、床の近くには避難場所への蓄光式誘導サインを取り付けて、しばらく併用してみる案もあるだろう。
愛知県高浜市の小学校など複合整備計画ではすでに、蓄光ラインによる避難場所への誘導サインを、実施設計に一部採用している(図3)。その誘導サインの走る人型は、伸ばした足の先に楕円形が付いていない人の形だけだ。この走る人は40年前、非常口ピクトグラムをデザインした時、筆者が制作したものだ。防災情報機構より避難場所のピクトグラムデザインを、依頼されたとき、関根則之元消防庁長官(防災情報機構常任顧問)が、非常口の人型を使って避難場所のデザインをして欲しい、と要望されたものだ。
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■図3 蓄光ラインと走る人型の誘導サイン |
蓄光ラインは国際標準化機構(ISO)の国際会議で13年余り、筆者が一人、日本を代表して各国代表と審議してきたものだ。100mm幅の蓄光ラインを人々が出入する建物の、床、壁、階段など、非常口まで途切れることなく、連続して取り付けるべしという国際規格案(ISO16069)の審議だ。インテリアが損なわれるため、日本は終始反対した。代替え案も4種類提案した。各国代表の過半数が蓄光材工業会のメンバーのため、簡単に押し切られた。
国際規格を国内に導入するJIS原案作成委員会が立ち上げられて、筆者が委員長に指名された。被験者100名による実証実験によって、ライン幅と輝度の関係式を2乗から1乗式に改善して、100mmのライン幅を細くできるようにした。総務省消防庁の庁舎内には、その蓄光ラインが当初から設置されている。
「避難誘導サイン トータルシステム RGSSガイドブック」 |
■著者 : 太田 幸夫 (特定非営利活動法人サインセンター 理事長)
+RGSS 協力メンバー
■価格 : ¥3,500(税別) |
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