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新版・地盤
FEM解析入門
本講座は、地盤FEM解析の理論背景を理解すること、その上で、地盤FEM解析ソフトウェアを正しく使いこなすことを目的に、理論と事例を交えながら説明を行い、実務に応用できる実践的な講座を目指しています。今回は、「地盤FEM解析の基礎理論」の一部と「地盤FEM解析のためのモデリング技術」について解説します。。
 はじめに

12回に分けて予定している地盤FEM解析エンジニアリングのための入門講座の3回目です。

今回は、第2章「地盤FEM解析の基礎理論」の「平面有限要素法の基礎」(メッシュでモデル化)について解説し、次に第3章である「地盤FEM解析のためのモデリング技術」について説明します。


 平面有限要素法の基礎

有限要素法の流れを平面ひずみ問題を例に説明する。

1)メッシュ分割

二次元解析領域のメッシュ分割に用いる要素の形状としては三角形、四角形等が考えられる。ここでは最も簡単な3節点三角形を例に考えてみよう。解析領域を三角形要素に分割する様子を図1に示す。三角形要素の頂点を節点といい、荷重は節点を介してのみ伝えられる。二次元解析では、3節点三角形要素のほか、図2に示す6節点三角形要素、4節点四角形要素、8節点四角形要素もよく用いられる。三角形と四角形の頂点のみ節点を設ける一次要素のほか、各辺の上でも1つの節点を設けられる要素は二次要素という。

図01 面ひずみ問題の要素分割
(黒い点は節点である。3つの節点のみが示される。)
図02 二次元一次要素と二次要素


メッシュ分割する際には、以下の点に注意する必要がある。

  • 曲線的な境界および曲線的な材料面がある場合には、できるだけ2次要素を使用し、図3に示すように、曲線部分を滑らかに表現できるようにする。
  • 応力が急激に変化すると思われる部分は、できるだけ細かく分割する必要があり、応力の変化があまり大きくないと思われる部分は大きな要素で分割すればよい。支持力問題におけるメッシュ分割を例として図4に示す。

図03 (左)曲線的な材料面、(右)曲線的な境界

図04 支持力問題では荷重を受ける部分を細かく分割

2)全体剛性方程式を解く

有限要素法では剛性方程式の元数が何百〜何万のオーダーとなるため、有限要素解析を行う際には、剛性方程式の解法がキーポイントとなる。方程式の解法は大きく分けて直接法と反復法の2つ分類される。GeoFEAS2Dでは、直接法の1つであるSkyline法を、GeoFEAS3Dでは、並列法に対応する直接法スパースソルバーPARDISOを用いている。

3)解析結果の解釈

解析結果をチェックした上で、解析結果を解釈して、設計や情報化施工などに用いる。既存のプログラムを用いて有限要素解析を行った場合には、入力荷重、境界条件、物性値を正確に入力したかどうかをチェックすることが重要である。

 地盤FEM解析のためのモデリング技術



モデリング技術は、地盤FEM解析プログラム活用のノウハウとも言える。実際の問題を適切にモデル化するためには、かなりの知識と経験が必要とされる。図5は土留め掘削のFEM解析のイメージである。また、実際の地盤と土構造物の複雑な構造を単純化したモデルと実際の複雑な構造にできるだけ忠実なモデルとの間にはトレードオフ関係にあり、技術者は解析の目的に適したモデルを構築することが重要である。

図05 地盤問題のモデル化のイメージ

1)解析目的の明確化

地盤FEM解析は解析の目的に応じて、同じ構造物でも解析手法、土の構成則、解析に考慮すべき項目などが異なる。たとえば、施工時の支持力のみを解析の目的とする場合には、一般に非排水せん断強度や非排水変形係数とポアソン比を用いた弾完全塑性解析を行えばよい。圧密による最終沈下量を求めたい場合には、圧密連成解析か、もしくは排水変形係数を用いた全応力解析かの選択がある。その他にも、せん断強度低減法を用いて斜面の安定性を評価する場合は、従来の極限平衡法と同様に、施工時、常時、地震時の安定解析に応じて、想定する作用や用いるべきせん断強度定数が異なる。

2)解析手法の選択

地盤FEM解析には、地盤内の水の流れのみを対象とする浸透流解析、変位や応力を求める静的解析、地震など応答を求める動的解析がある。静的解析には、変位のみを未知量とする全応力解析と、変位及び間隙水圧の両方を未知量とする圧密連成解析がある。圧密連成解析は、変形や間隙水圧の時間的変化も求められる。

静的全応力解析は以下のような場合に適用できる。

  • 全応力が有効応力と等しい 。
  • 載荷の速度が遅く、載荷により生じる過剰間隙水圧が十分消散できるような砂質土地盤の解析。
  • 土中の水圧の変化や分布を考えずに、土の非排水変形係数や非排水せん断強度を用いた粘性土地盤の施工時の解析。

3)構成則の選択

静的全応力解析は以下のような場合に適用できる。

  • 線形弾性
  • 非線形弾性
  • 弾完全塑性
  • 弾塑性
  • 弾粘性・弾粘塑性
線形弾性構成則は、応力とひずみの関係が直線であり、最も簡単な構成則である。しかしながら、近接施工の影響解析などのように、比較的変位が小さい場合にはよく用いられている。

地盤材料は一般に非線形性を有する。その場合、地盤材料の変形係数は応力状態に依存するので、解析には全荷重をいくつかの荷重増分に分割し、各荷重増分を逐次に作用させ、その時の応力に応じて変形係数を定めて弾性解析を行う。各荷重増分により生じた応力増分や変位増分の和が最終応力や最終変位になる。

弾完全塑性モデルは、土の破壊状態を考慮できるので、斜面安全率、極限支持力、土圧などを求める場合には有効である。

弾塑性構成則は、土の軟化や硬化、ダイレイタンシーなどを考慮でき、土の特性をより高精度にモデル化することができるが、構成則のパラメータが多くなり、このようなパラメータを決めるには三軸試験結果が必要となる。また、パラメータの同定に時間がかかる。

クリープ現象を考慮する場合には、弾粘性や弾粘塑性構成則を用いる必要がある。

構成則の選択に関しては、実際の複雑な物性を単純化した構成則を用いた見通しがよい簡略解析(例えば弾性解析)と実際の複雑な物性にできるだけ忠実な構成モデルを用いた高度な数値解析(例えば弾塑性解析)との間にはトレードオフの関係がある。地盤FEM解析に携わる技術者はどのような構成則を使用するかを決めなければならない。その時、技術者自身が理解している構成則を用いることは言うまでもなく重要である。

4)解析領域の大きさ

地盤FEM解析は、半無限領域である地盤から有限の領域を取り出してモデル化する必要がある。その理由は、構造物、土留め掘削、トンネル掘削などから離れるほど、これらが地盤に与える影響が小さくなり、ある距離を越えれば、その影響はほぼ無視できるためである。

トンネル解析の場合、解析領域は解析の目的によって異なるが、一般に図6に示すように、側方領域はトンネル径の4〜5倍程度、下方領域について鉄道建設 ・運輸施設整備支援機構ではトンネル径の2〜3倍、日本道路公団はトンネル径の3〜4倍を取ることが多い。トンネル掘削による荷重は、トンネル下方の地盤を引き上げるような上向きの荷重であり、土被りが同じ場合、トンネル下方の解析領域が大きいほど引き上げられる地盤の範囲が大きくなり、トンネル下方の隆起量も大きくなる。そのため、土被りが薄く、地表面沈下の把握が必要である都市部山岳トンネルを対象とする数値解析には、トンネル下方領域の大きさが解析結果に及ぼす影響が大きいことを認識し、解析領域を設定する必要がある。

上方領域については、土被りが浅く地表面沈下が問題となる場合には、図6(b)に示すように地表面まで解析領域に入れてモデル化する必要がある。
図06 トンネル解析における解析領域の設定の例

5)境界条件

地盤FEM解析は、解析領域の周囲での境界条件を問題に応じて適切に設定する必要がある。境界条件の設定に過ちがあれば、解析結果に多大の影響を与える恐れがある。したがって、実際の問題が適切に解析されているかどうかは、境界条件の設定に依存する。また、実際の地盤問題における複雑な境界条件をどのように簡単にモデル化するかも重要であり、高度なモデリング技術が要求される。

境界条件を大別すれば、2種類がある。すなわち、荷重の境界条件と変位の境界条件である。

6)初期応力の設定

初期応力の設定が必要になる理由は大きく3つ考えられる。すなわち、@弾塑性解析を含む非線形解析には、重ね合わせの原理を適用することができない。A地盤材料の変形特性やせん断強度は応力に依存する。B掘削解析では、掘削による荷重は掘削前の地盤応力を用いて計算される。

初期応力を設定する方法は主に3つある。すなわち、@水平成層地盤の場合には、初期応力は簡単な式で計算される。A自重計算を行い、計算した応力を初期応力とする。Bマルチステージ解析を行い、計算した応力を初期応力とする。

7)マルチステージ解析とその重要性

盛土による道路・鉄道・河川堤防の建設、擁壁背面の埋め戻し、土留め掘削、トンネル掘削等のような地盤問題では、地盤領域が施工ステップによって変化するために、施工ステップを追ってマルチステージ解析が必要となる。近年、GeoFEASなどの汎用ソフトには、盛土要素と掘削要素というオプションが実装されており、要素の活性化と不活性化が簡単になっている。

このような機能を用いるにあたっては、最初に全施工ステップにおいて最も大きな解析領域を対象にメッシュ分割を行い、解析領域に実際の地盤や構造物の形状をモデル化し、材料特性も設定する。盛土などの新たに解析領域に追加する要素は、要素の活性化により解析領域に追加し、掘削される領域は不活性化により解析領域から除外すると同時に掘削による荷重を残っている解析領域の境界に与える。

8)トンネル掘削解析における応力解放率

都市NATM や未固結地山でのトンネル掘削による影響解析には、地盤FEM解析がしばしば用いられている。トンネル掘削のFEM解析には、トンネル軸方向に平面ひずみを仮定し、支保効果を発揮する前の掘削応力解放率を考慮して三次元的影響を擬似的に考慮した二次元解析を用いることが多く、三次元解析の適用は非常に少ない。トンネル掘削の進行に伴う断面の変形を考えるとき、切羽通過時点では切羽前方の地山の存在によりトンネル断面は最終変形に至っていない。そこで、図7に示すように、切羽通過時点(吹付けコンクリートとロックボルトの打設前)までに発生した変形量を模擬するため、掘削解放力の一定の割合を与えて解析を行う。この割合を応力解放率と呼ぶ。

図07 トンネル掘削解析における応力解放率の概念図

NATM解析には、掘削切羽が到達段階で解放率が30〜50%という数値が採用される例が多い。応力解放率が大きいほど、支保工が打設するまでに解放されるトンネル掘削による外力が大きいので、地盤により多くの変形が生じる。したがって、大きめの応力解放率を用いることは、トンネル掘削による周辺構造物に与える影響解析には安全サイドになる。しかし、大きめの解放率を用いて解析すれば、支保工にかかる荷重は小さめになり、支保工に生じる曲げモーメントなども小さめに算出されることが推察でき、支保工の設計は危険側になる。そのため、トンネル掘削解析の目的に応じて適切な応力解放率を用いて検討することが重要である。

 今後の講座

今回は、地盤FEM解析のためのモデリング技術ということで、普段、静的FEM解析を行う上で、技術者が非常に悩むと思われる部分について解説しました。しかしながら、紙面の関係でその全てを紹介することはできませんので、ぜひ、新版「地盤FEM解析入門」をご購入頂き、ご一読して頂きたいと思います。次回は「地盤材料の構成則」について紹介する予定です。ご期待下さい。


 出版書籍

フォーラムエイトパブリッシングの書籍シリーズ
『新版 地盤FEM 解析入門』のご案内


平成25年9月19日、FORUM8デザインフェスティバル2013-3Days 2日目に、「新版・地盤FEM解析入門」(定価\3,800(税別))を発刊、出版披露を行いました。本書制作にあたっては、群馬大学 蔡飛助教、鵜飼教授、そして、ブルジオテクノ 花田様に心より感謝申し上げます。
本書は、地盤FEM解析の基礎理論、モデリング技術を整理し、多様な解析実例について、FEM解析による問題解決のプロセスと結果をわかりやすく解説した地盤技術者必携の一冊となるものと考えております。

■監修:鵜飼 鶏三(全日本地すべり学会会長,群馬大学教授)
■著者:蔡 飛(群馬大学助教)

■2013年9月19日刊行
■4色/245ページ
■\3,800(税別)
■フォーラムエイト パブリッシング刊
※書籍のご購入は、フォーラムエイト公式サイトまたはAmazon.co.jpで!

 『新版・地盤 FEM解析入門』目次構成  
第1章 地盤工学におけるFEM 解析
地盤FEM解析の必要性・体系、解析種類、数値解析の誤差
第2章 地盤FEM 解析の基礎理論
力学の基礎、平面ひずみ問題と軸対称問題、有限要素法の基礎
第3章 地盤FEM 解析のためのモデリング技術
解析目的、手法、条件、トンネル掘削解析における応力解放率
第4章 地盤材料の構成則
応力不変量、線形弾性構成則、非線形弾性構成則 、弾完全塑性モデル、段塑性構成則
第5章 材料パラメータの決め方
等方線形弾性構成則、弾完全塑性モデル、破壊接近度法のパラメータの同定方法
第6章 地盤と構造物の相互作用
構造物のモデル化、インターフェイスのモデル化
第7章 非線形解析
増分法、Newton-Raphson法、繰返し計算における収束条件
第8章 せん断強度低減法による安定解析
せん断強度低減有限要素法の紹介と応用例
第9章 液状化に伴う自重による変形解析
解析手法、パラメータ、解析事例、柔構造樋門の設計との連動機能
第10章 解析事例
盛土の斜面安定、 擁壁杭基礎の盛土載荷問題、トンネル拡幅工事、推進工法による地盤への影響解析
第11章 GeoFEAS の操作方法
トンネル掘削に伴う近接杭基礎への影響解析、せん断強度低減法による斜面の安定解析
第12章 地中熱解析について
地中熱について、地中熱解析とは


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