視覚表現において、明るさ、色、形、動きなどの物理的特性だけでなく、それを受け取る人間の眼や脳の情報処理について理解すると、様々なメッセージの表現に役立てることができます。
●視野
眼を動かさずに見ることのできる空間的な範囲を視野といい、両眼を合わせると水平方向180°以上に達します。視野は、片眼だけでも垂直方向より水平方向に広いため、多くの画面が横長であることのひとつの根拠となっています。
外からの光は水晶体で屈折し、網膜に上下左右逆の像を結びます。網膜の中心部である中心窩(ちゅうしんか)には、主に明るい場所で機能し、形や色をとらえる錐体細胞が密集しています。その周辺部には、暗い場所で感度よく光をとらえる桿体(かんたい)細胞が多く存在します。桿体は、形をおおまかにしかとらえません。中心窩から離れると、細かい形や微妙な色について、急激に見分けがつかなくなります。
ただし、動きや点滅は視野の周辺部でも検出しやすいため、注意をひきたい場合には動きや点滅を利用すると効果的です。点滅については、その面積や色、明るさの差、周期などの条件により、ある種の発作を誘発する場合があるため、不要な点滅や突然の強力な発光は避けるようにします。
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▲ヒトの目の断面図 |
●順応
眼は周囲に合わせて適応する機能を持っています。わかりやすくいうと「目が慣れる」状態です。例えば、「夜、照明を消すと、真っ暗で何も見えなくなるが、しばらくすると少し見えるようになる」「朝、カーテンを開けた瞬間は、とてもまぶしく、景色が白っぽいが、だんだんまぶしくなくなる」といった例です。こうした暗さへの順応を暗順応、明るさへの順応を明順応といいます。人間の眼の機能により、周囲の環境に合わせて光を感じる度合いを調整しています。
この暗順応、明順応を連続して行なわねばならないのがトンネルです。道路を走行してトンネルに入ると急に暗くなり、トンネルを抜けると急に明るくなります。トンネルを通り抜ける時、人の眼はまず暗順応を、そして明順応を行なっているのです。このような眼への負担を軽減するため、トンネルの照明には工夫がされています。トンネル照明は昼間も点灯され、また、出入り口付近は中央付近と比べて数が
多く、明るくされています。外との明暗の差が小さければ順応にかかる時間も少なく、運転者の目が暗さ、明るさに慣れない危険な時間を減らすことができます。
●動きを知覚する
現在の表示デバイスは、動きそのものではなく、少しずつ異なる静止画像(フレーム)を連続して表示するものです。NTSC方式のビデオ信号の場合、フレームレート(1秒あたりの表示フレーム数)は30フレーム/秒です。このように、異なる像が時間差をおいて表示されると動いているように知覚する現象を仮現運動といいます。フレーム間で大きく位置が変わりすぎると、なめらかな動きに見えず、別の対象に見えてしまう場合があります。
一様な動きの映像が視野の広い範囲に表示されると、自分の身体が動いているように知覚されることがあります。実世界の例では、電車に乗っていて、隣の電車が動いたときに自分が動いたと感じる錯覚ですが、このような現象をベクションといいます。ゲームなどでも利用されており、臨場感をもたらしますが、人によっては映像酔いを起こすこともあるので、広い視野を覆う映像を提示する際は注意が必要です。
●両眼立体視
左右の眼の網膜像の違い(両眼視差)に基づいて奥行きを知覚することを両眼立体視といいます。VRの没入感を高めるため、物体を立体的に見せる方法として利用されています。左右の眼に異なる像を見せる必要があります。ここではプロジェクタを使用する手法を紹介します。
■液晶シャッター方式 (Active Stereo):
液晶シャッター眼鏡を使う方式で、時分割方式ともいいます。右目用と左目用の画像を非常に高速に切り替えながら交互にモニタに表示し、同期をとって、液晶シャッター眼鏡のシャッターも高速に切り替えます。残像により両目で見ているのと同じように見えます。プロジェクタで投影する場合は、高周波数対応のプロジェクタが必要になります。
■偏光メガネ方式(Passive Stereo):
2台のプロジェクタの前に、偏光特性の異なる偏光フィルタを設置して、それぞれ、右目用画像、左目用画像を出力し、スクリーン上に重ねて投影します。偏光フィルタに対応した偏光レンズのメガネで見ると右目用画像は右目のみに、左目用画像は左目のみに入ります。乱反射して偏光特性がくずれないよう、シルバー・コーティングされたシルバースクリーンを使用する必要があります。この方式は液晶シャッター方式よりコストを安価にできます。
UC-win/Road Ver.4では、作成したVRデータを、そのまま3次元立体視データとして出力できる機能が標準で実装されています。
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参考文献: 『コンピュータグラフィックス』、CG-ARTS協会(財団法人画像情報教育振興協会) |
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(Up&Coming '10 新年号掲載) |
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