歴史的価値のある船舶が、朽ち果てたり修繕不能になる可能性が出た場合、その貴重な建造物の記録を後世に残すには、手間と時間を掛ける必要があります。
タスマニア海洋博物館がドウグル・ハリス氏の協力の下取った手法は、そのような船舶をデジタル記録し、3次元モデル化そしてラインズプランを作成するというものでした。そのデジタル化の過程でMaxsurfが使われています。オーストラリアには英国同様多くの木造帆船が現存しますが、劣化の激しいものも多く、その歴史的価値が忘れられようとしています。
ドウグル・ハリス氏はベントレー社の上級ソフトウエアエンジニアであり、Maxsurfの開発を担当している造船技師です。過去10年間に渡って、約20隻の木造帆船の形状記録を歴史船型デジタルデータベースとして構築してきました。デジタル化の工程はテクノロジーの発達と共に変化しています。当初は、測量に使われるセオドライト(トランシット)によるステーション毎の距離計測であり、後にレーザースキャニング、そして今では、写真計測法へと移り変わっています。
写真計測法の利点は、簡単に使えること、比較的安価な設備、大量のデータとその正確さ、が上げられます。実際の作業は全長3mのディンギーでも50mの3本マストバークでも基本的に同じで、訓練を受けたボランティアがチームを組み、スリップに上架されている対象船舶に出向き、300枚程の一連の写真を撮ります。写真は、一眼レフデジタルカメラにより、焦点距離、絞り、F値などの設定を任意に行なう必要があり、連続した写真は互いに少なくとも75%のオーバーラップができるようにします。これらの写真は、ベントレー社のコンテクストキャプチャーのような写真計測ソフトウエアにより処理され、船体形状を表す3次元の点群が生成されます。
生成された点群は、直接Maxsurf Modelerに取り入れることが可能です。船体形状を表す全ての点、もしくは任意の間隔で設定されたステーションにある点のみを取り込むことが可能です。取り込まれた点群は、Maxsurf上のレファレンス点として3次元空間上に表示され、その点群に沿って、NURB面を張ってゆきます。
こうして、点群がNURBSに置き換えられると、Maxsurfによる船舶設計の工程と全く同じこと、つまり、3Dモデリング、ラインズプラン出力、さらに、ハイドロスタティックス、抵抗推進、動揺等の各種解析が行なえ、この歴史的建造船がデジタル保存されるのです。