令和2年2月に農林水産省より通知された「フィルダム及びため池における堤体下流斜面の安定計算について(通知)」では、「土地改良事業設計指針 ため池整備」(以下「ため池整備」)及び「土地改良事業計画設計基準 設計 ダム 技術書(フィルダム編)」(以下「フィルダム編」)で示されていなかった、ため池堤体下流側の安定計算時の単位体積重量の設定方法が明記されました。
この通知で示された計算方法と、「ため池の設計計算 Ver.3」での設定方法について紹介いたします。
通知で示された計算方法
上流側については、「ため池整備」、及び「フィルダム編」で示されているように、貯水池内の水と堤体内の水はモーメントがバランスしているものとして、T成分(滑動)に貯水位の影響を考慮します。
一方、下流側は貯水位がないため、T成分には貯水位の影響を考慮しないことが示されました。図2で示すように、T成分はγsatを使用して荷重を算出します。
なお、この通知では、貯水位が無い下流側のT成分に対して、図3のように貯水位の影響を考慮した設定を、安全率が過大に算定される誤った事例として紹介しています。
図3 堤体下流面の単位体積重量と荷重条件(誤った設定事例)
「ため池の設計計算 Ver.3」での設定方法
本製品では、安定計算時の荷重条件を貯水池側(上流側)と背後池側(下流側)で異なる設定とすることを可能にしました。
荷重条件は、「円弧すべり」入力画面の「ケース別設定|基準対応値」タブの「γ・uの扱い」の項目にて設定を行います。図4右側の通り、「滑動」について、背後池側の「浸潤線と低水位線との間」、及び「低水位線以下」を「γsat(u=0)」に設定することで、この通知に沿った計算を行うことが可能です。
なお、本製品では、「γsat」を設定する際に、「γsat(u=0)」、「γsat(u=計算)」から選択することができます。
「u=0」は間隙水圧を無視、「u=計算」は間隙水圧を考慮することを示しています。
通知の計算方法では間隙水圧を考慮しないため、設定例では「γsat(u=0)」を選択しています。
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図4 「ため池の設計計算 Ver.3」における単位体積重量の設定例 左:貯水池側 右:背後池側 |