高専機構の支援事業でユニークな取り組み、自身も参加
大分高専は1963年、機械工学科および電気工学科の2学科による構成で創設されました。その後、土木工学科の増設(1967年)、専攻科(機械・環境システム工学専攻および電気電子情報工学専攻)の設置(2003年)をはじめ、組織の改組・改称とともに体制を拡充。現在は、4学科(機械工学科、電気電子工学科、情報工学科および都市・環境工学科)と上記2専攻科を組織。本科の1年生〜5年生を合わせて798名、専攻科の1年生・2年生を合わせて51名が在籍しています(数字はいずれも2019年5月現在)。
独立行政法人国立高等専門学校機構(2004年設立)は大分高専を含む、全国51の国立高専を設置。人材育成、地域貢献および国際化を柱に各高専の特色伸長を目的として「”KOSEN(高専)4.0”イニシアティブ」(2019年度からの5年間)を実施中です。併せて、それまでの2年間をそのための準備期間と位置づけ、当該取り組みのスタートアップ経費を機構が支援。これに対し大分高専では、1)2018年度に農工連携により農学の素養を持った技術者の育成を目指す「アグリエンジニアリング教育」が、2)2019年度に防災・減災に関する基盤知識とレジリエントマインドを兼ね備えた技術者の育成を目指す「災害レジリエントマインド教育」が、それぞれ同イニシアティブ支援対象事業として採択され、進行しています。そのうち後者の活動には、前准教授自身も深く関わっています。
さらに、2020年度からはマテリアル分野における他の複数高専と連携した取り組みが、同機構の公募型補助事業「未来技術の社会実装教育の高度化(GEAR5.0)」に採択され、新たな教育研究プロジェクトとして動き始めています。
ICT駆使し構造物の解析、環境や景観のデザインなどで多様な取り組み
今回お話を伺った前准教授が所属する都市・環境工学科は、土木工学の知識をベースに安全で快適、便利な社会基盤の創造を目指します。そこでは、1)材料や構造、土質、地盤などを扱う「構造系」、2)河川や上下水道、水資源、港湾、海岸などを扱う「環境系」および、3)都市や建築、公園、交通などを扱う「計画・建築系」、の3つをアプローチの柱として位置づけます。「もともと建築系が専門で、土木と共通するのは構造(を扱うところ)」という前氏は、東京電機大学大学院に在籍していた20年以上前、東京と京都工繊大(山口研究室)をネットワークで繋ぎコラボレーションしながら行う設計演習にスチューデント・アシスタントとして参加したことがきっかけとなっています。今日のリモートワークにも通じる手法をいち早く実践していた、と振り返ります。
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画像統合後の実行画面 |
ピクトグラムが表示されたマップ |
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このような背景もあり、前氏は同学科において情報処理、構造力学、都市や環境のデザイン、実験実習などの教科を担当。一方、研究室では1)自然界に存在する形や現象を応用した建築物へのアルゴリズミック・デザインによる提案、2)多様な研究や講義での利用に向けたスマートフォン用アプリケーションの研究・開発、3)ICT利用を通じた防災や環境保全に関する研究、4)サインや色彩に着目した景観シミュレーション ― など多岐に渡る取り組みを行っています。
そうした中で近年目立つのが、自身らの研究支援や教材としての利用を視野に入れたスマートフォンアプリの作成・検討です。
例えば、サイン計画を検討するためのフィールドワークにあたり、現地で撮影した写真にピクトグラムなどを貼り付け(画像統合)し、関係者間でそれらをストレスなく情報共有できるスマホアプリを作成。これらの画像を位置情報とともに地図上に貼り付けし、現地へのルート案内機能も付加。その成果については2019年11月にマレーシアで開かれた「ICRP 2019(4th International Conference on Rebuilding Place)」で発表。観光や景観検討、ハザードマップ作りなどへの展開も視野に入れています。
また、沖縄県における赤土等の流出がもたらす環境問題への対応として、同氏らは赤土等懸濁水の汚濁度を正確かつ容易に測定できるスマホアプリを開発。沈砂池で撮影した懸濁水のスマホ画像から色情報を取得し、汚濁度を推定できるか検証。既存の測定法による結果と比較しつつ、精度向上など実用化に向けたアプリの改善に努めています。
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沈砂池に溜まった懸濁水 |
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アプリの実行画面(汚濁度 3.0 g/L の場合) |
各懸濁液(画像ピクセル)の汚濁度の分布 |
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UC-win/Roadをはじめ当社各製品の導入経緯と主な利用法
前准教授にとってフォーラムエイト製品との関わりは、2014年に導入したMultiframeが最初と言います。アルゴリズミック・デザインの一環として当時、複雑で特殊な形状の建築物について骨組み解析を行う必要が生じたのを機に、それ以前にも何度か触れ、その使い勝手の良さを評価していた同ソフトを正式に採用。それによって得られた解析結果を基に、強度が確認されたユニークな形状の構造を提案してきた経緯があります。
一方、UC-win/Roadとの直接的な接点は、それからしばらく時を置いた2018年。前述のように大分高専が”KOSEN 4.0”イニシアティブ支援対策事業としての採択を得るべく、災害レジリエントマインド教育の具体化準備を進めていた当時になります。
「学校として災害レジリエントマインドを育成しようと考えた時、防災・減災に絡めて土石流のシミュレーションをしたい」とのニーズが醸成。それを可能にする土石流シミュレーションがUC-win/Roadのプラグインとして提供されていたことから、学内関係者間での検討を経てセットでの導入を決定。2019年2月からは自らもそれらの利用をスタート。以来、前研究室における研究と同高専の授業の双方で使用されるに至っています。
まず、2019年度の研究室では卒業研究に取り組む学生らを中心にUC-win/Roadおよび土石流シミュレーションプラグインの操作について学習。それらを活用し、都市・環境工学科5年の学生がため池の決壊・越流にフォーカスする土石流解析シミュレーションを交えたハザードマップ作成に関する研究を実施しました。
併せて、同高専4年生向け科目「実験実習W」ではi-Constructionに関連し、6つの先進のICT利用をテーマに設定。そこでは、1)360度カメラ、2)ドローン、3)レーザー距離計、4)写真画像からの点群データ生成
― に加え、前准教授が自ら受け持つ5)UC-win/Roadによる街づくり、および6)土石流シミュレーション ― を通じた情報活用が位置づけられています。
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前研究室の皆さん |
2020年度は年初来の新型コロナウイルスの影響で制約を受ける中、卒業研究に備える新5年生は前年から両ツールの学習やそれらを利用したシミュレーションなどを経験。さらに、その知見を基に、リモートで対応可能な作業を自ら出来るだけ密に連絡を取りながら進めてもらっているところ、といいます。また、昨2019年から初めてUC-win/Roadおよび土石流シミュレーションを取り入れた実験実習は、今年も後期に予定。学生の分散化を図るなど授業構成を工夫し、前年のような学習効果を実現していきたいとの考えを示します。
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解析条件および結果 |
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SIPOND(試用版)の解析結果に基づくハザードマップ
(本図は、前氏が独自で数値を設定してシミュレーションを
行ったものである) |
土石流シミュレーションの解析結果に基づくハザードマップ |
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UC-winRoadでの可視化事例 |
今後の研究方向とそこでのICT対応
「ため池は大分県に限らず、老朽化の進んでいるものが多くあります」
つまり、そこには老朽化に加え、上流から水とともに流入してくる泥が底にたまり、決壊や越流のリスクが年々増している、との視点を提示。前准教授は、自身らが現在力を入れているため池に関わる防災・減災、あるいはその維持管理に対する研究に繋がる考え方を述べます。
その際、カギとなるのが新しい技術に対応し、それを身に付けることと位置づけ。新型コロナによる限られた条件下にある現状も視野に、広くICT利用を上達するためには結局、自主的に向き合うことが重要と説きます。「特にICTは(学生が将来)どこでも使える武器になりますから、情熱を持って貪欲に取り組んでもらうと良いのでは、と思います」
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