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▲エンジニアリング事業部の業務紹介(図中のものはすべて対応可能) |
クライアントは300社以上ありまして、それぞれ(求められる)設計の内容は違いますし、(そこで)使うIT(情報技術)のリソースも似てはいるのですが、(業務に応じ)微妙に違っています」
今回ご紹介するユーザーは、各種設計業務や建設コンサルタント業務、人材派遣業務を行う株式会社サンユウシビルエンジニアリングです。そのうち、海洋・港湾、土木・橋梁、建築、原子力、船舶といった広範な分野向けに解析や設計、3D(3次元)CAD/CG作成などのエンジニアリングサービスを提供する「エンジニアリング事業部」において、1)分野を越え、とくに高度かつ専門的な各種構造物の解析・設計を担当する「構造設計部」、2)海洋および港湾に関わる構造物の設計を担当する「海洋・土木設計部」に焦点を当てます。
数多くのメーカーやゼネコン、エンジニアリング会社にわたるクライアントからのニーズは今日、高度かつ多様です。それらに対応するため、特定のソフトの利用を前提とするのではなく、「(実際に業務を担う)専門部署が必要とするいろいろなソフトを(積極的に)導入し、それらソフトの利点を使って良いサービスを提供していく」 ― 同社エンジニアリング事業部執行役員事業部長の村松孝氏は自社のICT(情報通信技術)活用に関するスタンスの一端をこう表現。そのような事情もあり、自社が保有するソフトの数は業界内の同程度の規模の企業と比べて相当多いのでは、と言います。
そうした方針を反映する形で、「構造設計部」では、30年ほど前から国産初のCAEパッケージソフト「FEMAS」を導入。この間、その後継製品となる有限要素法解析システム「FEMLEEG」へと移行しながら、それらを活用した豊富な設計実績を誇ります。(なお、当社は今年5月1日付けで100%出資子会社である株式会社ホクト・システムの権利義務一切を継承して吸収合併、「FEMLEEG」をはじめ同社の営業製品をすべて引き継いでいます。)
一方、「海洋・土木設計部」では、当社の2D(2次元)のフレーム解析用ソフトを経て、立体骨組み構造の3D解析プログラム「UC-win/FRAME(3D)」を長期にわたって有効利用。今春からは3D積層プレート・ケーブルの動的非線形解析「Engineer’s Studio®」を導入され、本格利用に向けた検討が進められています。
多彩なエンジニアリングサービスに独自ノウハウを蓄積 |
株式会社サンユウシビルエンジニアリングの起源は、設計業務を行うため1958年に創業した有限会社三友社に辿ることが出来ます。1962年にはこれを発展させ、三友工業株式会社(東京都中央区)を設立。増資や業容拡張を重ねる中で、1989年に株式会社サンユテクノスへと改称。2002年、同社から分社する形で「株式会社サンユウシビルエンジニアリング」(東京都台東区)は発足しました。また、2013年にはサンユテクノスグループの共同出資により、フィリピンにSanyuTechnos Philippines Inc.を設立しています。
株式会社サンユウシビルエンジニアリングの業務は、1)護岸や桟橋、石油掘削施設など海洋・港湾構造物、2)各種土木・橋梁構造物、3)プラント施設や各種建築物、4)原子力施設、5)船舶、6)車両など幅広い分野をカバー。これらに関する解析や設計、3Dモデリングなど多彩なエンジニアリングサービスを提供しています。それに対して現在、エンジニアリング事業部の下に海洋・土木設計、建築設計、シビル設計、構造設計、原子力設計、ビジネスサービス、営業企画、総務人事の各部を構成。そこに約170名の従業員が配置されています。
近年、同社でウェートを増しているのが、FPSO(浮体式海洋石油・ガス生産貯蔵積出設備)や風力発電など、エネルギー関連施設向け業務。とくにFPSOの設計などの場合、複数の専門部署同士が異なるソフトを使ってプロジェクトを遂行したり、あるいはクライアントが特定のソフトを指定したりして、プロジェクト全体を通じたシームレスなデータ連携には制約となりがちです。そこで同社は、新しいソフトへ柔軟に対応する社風と併せ、これらの問題をクリアすべくデータを繋ぐための独自のノウハウを蓄積してきたと言います。
また、ICTの有効活用に積極的な同社は、iPadにいち早く着目。マネージャー以上の役職者(約30名)に支給し、クラウドを介した会議での情報共有や営業ツールとしての利用を進めてきています。
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▲執行役員事業部長
村松孝氏 |
▲構造設計部長
前田英樹氏 |
▲海洋・土木設計部長
早野高正氏 |
船舶・自動車関連を中心にFEMLEEGの特徴活かし利用 |
設計をサービスとして提供してくる中で、近年は設計へのニーズが高度化。もともと詳細な構造解析が求められた船舶に加え、他の分野でも専門的な構造解析をしなければ設計できないケースが増してきたことから、同社はそうした業務に特化した組織として「構造設計部」を設置。
FEMLEEGをはじめとする有限要素法解析システムを用い、さまざまなシミュレーションが取り組まれています。
「要は、有限要素法を使ってモノづくりに参加しているということ」。船舶やFPSOなどの構造解析をメインにこなしているという同社エンジニアリング事業部構造設計部長の前田英樹氏は自身らの役割をこう表現します。
30年ほど前、船舶関連の設計に携わっていた当時、「直接、強度計算にもチャレンジしてもらえないか」とのクライアントからの要望を受け、着手した際にクライアント側で使われていたのがFEMLEEGの前身であるFEMASでした。これを機に同社はFEMASを購入することとなり、次いでFEMLEEGへと段階的に移行してきました。
この間、さまざまな構造物の設計に取り組む中で保有する各種ソフトの特徴を活かした使い分けが進展。同社ではFEMLEEGの、有限要素法のモデル作成(プリプロセッサ)や結果処理(ポストプロセッサ)に関する機能に注目するとともに、自社開発のプログラムと連携するなどしてこれを利用。例えば、船舶やFPSOなどの設計において「メッシュを一個一個、こだわりを持って組み上げていく」というようなケースのほか、原子力系でも細かい寸法を押さえることが非常に重要になってくることもあり、それらのモデル化に関しては主にFEMLEEGが使われている、と前田氏は語ります。
長期にわたるFEMLEEGの利用を通じ、同氏らは国産ソフトゆえのメニューやヘルプをはじめとする使いやすさ、迅速な対応などサポート体制の充実、段階的な機能強化などを高く評価。今後も、とくに構造物に対して局部的にフォーカスし、詳細なメッシュを切った検討が求められるようなケースを中心に継続的な活用を図っていく考えといいます。
海洋・土木で高まるUC-win/FRAME(3D)のウェート
今後に備えEngineer's Studio®の可能性も検討 |
「土木というと、コンクリートがメインと思われがちですが、私たちは鉄にも強いのです」。多様な海洋構造物や港湾構造物、浮体構造物などの設計を行い、当社の動的非線形解析製品を主に使われているのが「海洋・土木設計部」です。その名称のユニークさもさることながら、同社エンジニアリング事業部海洋・土木設計部長の早野高正氏は、同社がこれまでコンクリートと鉄それぞれの設計を数多く経験してきた強みに言及。そのような一端として、コンクリートと鉄による合成構造のケーソン、あるいは港湾施設や海洋エネルギー施設のみならず空港基盤施設としてなど近年利用が広がるジャケット式桟橋構造などの設計も自社の主力商品と位置づけます。
当社の2Dフレーム解析用ソフトを初めて導入した20年以上遡る当時、同社では既に3D解析にも着手しつつありました。とはいえ、国産ということもあり、その際は当社ソフトが「すごく使いやすい」との印象を持った、と同氏は振り返ります。
その後、クライアントから「このソフトを使ってやりたい」といった引き合いが増えてきたのを受け、UC-win/FRAME(3D)へと移行。自社の作業工程に即したマニュアルを作成したことで、当初不慣れなゆえに指摘された課題も次第に解消し、近年は部内の解析業務の約4割をUC-win/FRAME(3D)による立体骨組み解析が占めるといいます。
「最初に触れる時は、やはり粗が目につきやすいのですが、今はすごく(使い勝手が)良く、社員の初等教育にも使用。立体解析ソフトとして(社内では)定着してきています」
また、最近では複数のクライアントから「Engineer’s Studio®を使っていきたい」との声も上がってきたことから、今春、実利用に先行して導入。現在は検討が進められています。
ICT活用に関して、早野氏は土木に関する国の重要な情報を多く扱っているとの観点から、ICTの進展に付随する情報漏洩への危機意識に触れます。セキュリティ体制などに万全を期してはいても、人間がそこに介在する以上、絶対に安全ということはあり得ません。今日の社会ではそうした意識を常に持っていなければならない、と自戒を込めて説きます。
また、前田氏はソフト開発における「ユーザーの声」の役割に注目。それらが反映されていくことで、ソフト自体も成長すると述べます。つまり、ユーザーは互いに協力体制を意識し、積極的に声を出していくべき。そうすることで、個々のニーズが積み上がり、ユーザー全体の利益にも繋がる、と解説します。
さらに、早野氏が注目するキーワードとして挙げる一つは港湾における「大水深化」の流れ、もう一つが「耐震化」です。前者は、厳しい条件下で高い精度が求められる構造物に対して3D解析の提案を容易化。また後者については、液状化による構造物被害予測プログラム「FLIP」と連携したプリ・ポスト処理の向上などによりソフト利用の可能性が高まるものとの見方を示します。
そのような意味では、メニュー体系も日本語でユーザーフレンドリーな純国産のソフトを提供し、自分たちの要望も割とストレートに聞いてもらいやすい。加えて、出来れば一つのソフトでいろいろなニーズに対応したいことを考えると、フォーラムエイトはまさに「一番期待している会社」と村松氏は位置づけ。その先には、Engineer’s Studio®についても今後の利活用を視野にそういった要望を採り入れ、さらに進化していって欲しいとの意図が窺われます。
(執筆/取材:池野 隆) |