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Users Report   ユーザ紹介/第92回
 福島県   東北ユーザ特集 1

株式会社郡山測量設計社

復興への前段として
原発事故の早期収束に熱い願い
早くに導入以来、
UC-win/Roadの機能駆使し積極提案


 User Information
 株式会社郡山測量設計社 設計部
   URL● http://www.gunsoku.co.jp/   所在地● 福島県郡山市   研究内容● 測量/建設コンサルタント/補償コンサルタント


去る3月11日、宮城県牡鹿半島沖を震源(震源域は岩手県沖から茨城県沖に至る広範なエリア)とし、わが国観測史上最大となるマグニチュード9.0の地震(「東北地方太平洋沖地震」)が発生。その後、この地震による大津波(岩手県宮古市では海面から40m超の高さに到達)は、地震直後の東北地方太平洋沿岸部に壊滅的な被害をもたらしました。さらに、この想定を超える規模の地震と津波の連鎖は、追い打ちをかけるように東京電力福島第一原子力発電所事故(福島原発事故)が引き起こされる事態へと発展。苦難の中、被災地の皆さまをはじめ、多くの関係者が復興に向けた努力を続けられています。
 そこで今回、私たちは従来の本コーナー(「ユーザー紹介」)と趣を変え、被災エリアの中でもとくに福島・宮城・岩手の3県を拠点に事業展開されている4社を緊急取材。フォーラムエイトのユーザーとしての側面のみならず、各社関係者を通じて浮かび上がった今回震災による被災の実態、そのような中から復興に向けて取り組まれている各社の思いをご紹介してまいります。
 個別のお話に入る前に、改めて今回震災で被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。


 「実は私も一昨日、昨日と飯館村を通って南相馬市へ仕事に行っていたのです」
 発生以来、東日本大震災に関する報道が連日なされる中、福島原発事故はとくに現在なお予断を許さない状態が続いているという点で、異質と言えます。

 地震発生当初、同発電所から半径3km圏内とされた国の避難指示は、翌日には半径20km 圏内まで拡大。4 月22 日には20km 圏内が法的に立ち入り禁止に出来る(災害対策基本法の)「警戒区域」に指定されています。併せて、20km 以遠の周辺地域についても、緊急時の屋内退避や避難が可能な準備を求められる「緊急時避難準備区域」、および計画的な避難を求められる「計画的避難区域」がそれぞれ設定されています。

 その一方で、当然のことながら復旧に向けた作業は欠かせません。実際、株式会社郡山測量設計社では地元自治体などの要請を受け、被災したさまざまな現場に出掛けて測量や設計業務をこなしています。

 同社設計部部長の佐藤治彦氏は、自身もこれまで数多くの現場を行き来。そうした一環として、田村市の都路中学校と古道小学校が隣接するエリアで校庭や法面が崩れたのを受け、取材の前々日と前日、同発電所からの距離が約21km のところに位置する現場を訪れ、打合せをしてきたところと言います。

 20km 圏外と言っても、周辺地域は自主避難の対象となっているため、行き交うのは自衛隊や警察の車両のみ。ただ、寸断された道路や崩壊した現場をそのままにしておくわけにもいかず、結果的に要請があれば警戒区域ギリギリまで出掛け、災害復旧に努めている、と同社代表取締役社長の渡邉一也氏は実情を説明します。

 今回ご紹介するのは、郡山測量設計社。その中でとくに、当社の3 次元リアルタイムVR ソフト「UC-win/Road」をいち早く導入されてきた「設計部」に焦点を当てます。

▲株式会社郡山測量設計社 渡邉一也社長(右)
設計部 部長 佐藤治彦氏(左)


 地域に密着、ボランティアにも力  県内企業に先駆け子育て支援策を導入

 郡山測量設計社は1965年の創業。以来、測量業務や設計業務、補償業務を柱に事業を展開。現在は本社(郡山市富田町)をはじめ、会津支店(喜多方市塩川町)、田村営業所(田村市大越町)を加えた県内の3拠点に68 名(うち技術職員は57 名)の従業員が配置されています。

 地域に密着した設計業務を標榜し、公共事業の説明責任が求められる中でVR の活用を推進。また、測量業務ではGIS(地理情報システム)に早くから対応するなど、先進のICT(情報通信技術)の導入に積極的な一面が見られます。

 主な発注機関は福島県の各建設事務所、地元・郡山市をはじめ田村市、須賀川市、そのほか県内の市町村。国土交通省の郡山国道事務所や国土地理院の業務でも実績があります。

 「地域で最も信頼されるコンサルタントを目指す」をモットーとし、日ごろから地域とのコミュニケーションづくりを重視。近年はボランティア・サポートプログラムを締結するなど、地域活動にも力を注いでいます。

 同社は県内企業に先駆けて子育て支援策を導入。男女社員が出産・育児のための休暇を取りやすい環境づくりを進めています。そのことはロイター通信社をはじめ内外のメディアに取り上げられ、制度を実践した社員が自治体の催しに講師として招かれるなど注目を浴びています。

▲三春町の河川改修VRデータについて説明する
設計部主任の豊田徹氏(手前)
▲同社社屋の窓には、復興への力強いメッセージが


 震災では社屋の一部やサーバに被害

 今回地震により、隣接する須賀川市にあるダム湖「藤沼湖」の堤体が決壊し、8 名の方が犠牲になりました。また、郡山市内の同社周辺では路面や堤防のひび割れ、屋根瓦が落ちるなどの家屋の被害、水道関連の被害が目立ちました。むしろ、地元にとっては地震翌日の福島第一原発1 号機における水素爆発を契機に問題が顕在化、なかなか収束の目途が見えてこない福島原発事故と、その余波の風評被害がいっそう深刻な被害をもたらしていると言います。

 一方、同社の本社社屋では壁や床にクラックが入り、一部吊り天井が落ちたほか、エレベーター設備が損壊。それでも社屋自体の被害は限定的だったとしつつ、渡邉一也氏は最も被害が大きかったのはコンピュータ関係だと語ります。

 バックアップ用を含むサーバのハードディスクが倒れて破損。その物理的な損害はもちろん、そこに蓄積してきたデータの復旧が容易でないことから、お金には換算できない損失に繋がりかねないと懸念しています。


 多彩なプロジェクトにVRを活用  自社内でのVR作成実現へのプロセス

 「その頃はバイパス計画など長い路線の道路計画が複数あり、その(3D)VR をサービスでつくってあげれば喜ばれるのではと、(UC-win/Road を)購入しました」

 道路プロジェクトの住民説明会では通常、紙の図面が用いられ、そうしたものに不慣れな住民へのプレゼンテーションでは従来手法の制約が実感されました。また、以前から大手企業が3D・VR を作成するケースは見られたものの、高コストになってしまう面は否めませんでした。

 これに対し、フォーラムエイト製品を長く利用され、そのラインナップにも詳しい佐藤治彦氏は、リリースされて間もないUC-win/Road を使えばかなり安価に同様なサービスを提供できるものと着目。早くからその導入を進めてきました。しかし、しばらくは思い通りに使いこなすには至らなかったと振り返ります。

 それから1、2年を経て、同社がUC-win/Road を利用して最初に取り組んだのは、郡山市内を流れる逢瀬川の桜並木整備プロジェクトにおける住民説明用資料の作成(2005 年度)。そこでは整備に当たり、桜の木をどの程度切ると景観にどのような影響があるか、季節ごとにシミュレーションして示すVR を作成しました。

 次いで2006 年度には、郡山市内の区画整理事業の一環で計画された街区公園の周辺住民向け説明資料としてVR を作成しています。ただ、これらのプロジェクトではまだ実際のVR 作成をもっぱらフォーラムエイトに委ねる形になっていたと言います。

 それが、自社内でVR を作成できるようにしようという流れに大きく転じるきっかけとなったのは、県道7 号猪苗代塩川線における道の駅「ばんだい」の整備計画でした。これは、磐越自動車道の磐梯河東ICを下りてすぐの同県道沿いに道の駅が設置されることになったもの。そこで同社は2008 年度、磐梯山の眺めや並走するJR磐越西線との位置関係などを踏まえ、道の駅が実際に利用するドライバーの視点からどう見えるかをシミュレーション。既に建物の設計は決まっていたことから、施設の屋根や壁の色、モニュメントや植栽などの外構を決定するプロセスでそのVR が活用されました。

 しかも、VR からキャプチャした画像が同道の駅のポスターに再利用されるという予想外の効果も生んでいます。

 このVR 作成のプロセスでもフォーラムエイトに大きく依存していた中で、自社ですべて出来るようにすることの必要性を痛感。同社は以降、当社が開催する講習会に担当者を参加させるなど、UC-win/Roadを使いこなすための環境づくりに積極的に取り組んでいます。

 続く県道14 号いわき石川線のバイパス計画における住民説明用資料作成(2009年度)では、各種路線案のVR を基本的にすべて自社で作成。とくに近隣住民から新たに建設される道路がどう見えるかを予め体感してもらうため、橋梁の下や道路下の家々に視点を下ろして再現。その際、冬季間の時間帯に応じた日陰の推移とそれによる路面凍結のシミュレーションを盛り込むなど、UC-win/Road の機能を活かした高度な提案も行っています。

 また、2010 年度には国の天然記念物「滝桜」で知られる田村郡三春町の桜川で取り組まれてきた河川改修に当たり、住民説明用のVR を作成。桜川沿いの古い街並みとそこを人が散策する雰囲気を再現するため、まず社員二人が10 日間ほどかけて約1km の沿道を撮影し、さらに建物を一軒一軒許可を得て復元するなど、2 ヵ月かけて3D モデル化しました。その後、樋管や開渠を作り込むなど現場の実態をより正確に反映しています。

 VR 作成を担当した設計部主任の豊田徹氏は、川幅や護岸の高さが一律ではないため、それらをいかに現地に忠実に表現するか、苦心したと明かします。

■同社による第9回3D・VRシミュレーションコンテスト応募作品
▲「道の駅におけるVR景観シミュレーション」
沿線道路の景観検討(左)/ 人の目線からの道の駅の景観検討(右)


 UC-win/Road 利用のポイント  復興に向けた展開

UC-win/Road がバージョンアップされるごとに新しい機能を採り入れ、提案に繋げているという佐藤治彦氏。現在は復興に向けた構想の可視化、そこでの架設計画のVR 化、あるいは信号制御と交通規制を組み合わせた交通シミュレーションの可能性に注目しています。

 VR を使うと皆が吸い込まれるように見入り、住民説明会やワークショップの雰囲気がこれまでと全く変わる、というのが氏の率直な感想です。とは言え、UC-win/Road を導入してしばらくは活用しないままに過ぎていました。そうした経験を踏まえ、まずはソフトを必ずしも仕事とは関係なく、ゲーム感覚で遊んでみてもらうという発想が重要と説きます。

 「委託がないから駄目と言っていたら前に進みません。そうではなく、サービスでやりましょう。見てください、と取り組んだところから(同社の本格的なVR 活用は)始まっている感じがします」

 「原発事故の問題が、風評被害も含め、早く収束して欲しいというのが県民の願いです。それが出来なければ、福島県は復興(のフェーズ)に進めません」

 事故に関する正確な情報がなかなか伝わらず、どういう影響があるのかさえよく分からない現状が不安を膨らませている面も否めない、と渡邉一也氏は指摘します。

 一方、復興に向けたアプローチでは前述のように、たとえ警戒区域に隣接する現場であっても必要とされ、要請がある限り対応していく考えを改めて述べます。

 さらに、地元の測量設計会社として、復興のためのお手伝いを早くしたい。明日に繋がる復興プロジェクトに参画していきたい、とその先の展開に期待を示します。

▲株式会社郡山測量設計社のみなさん(後列中央は渡邉一也社長)

(取材/執筆●池野 隆)


     
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