●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。これまでの2D図面に代わり、実務の世界では3Dモデルで設計を行う建築のBIM(ビム。Building Information Modeling)や土木のCIM(Construction Information Modeling)の導入が進んでいます。
こうした3Dモデルは、大人よりも子どもたちの方が、ゲームソフトなどで日常生活の中で親しんでいますね。そこでフォーラムエイトでは、小中学生にも3Dによる設計の楽しさを味わってもらおうと、2014年8月に、小中学生を対象とした「ジュニア・ソフトウェア・セミナー」を初めて開催しました。
これは、フォーラムエイトのリアルタイムバーチャル・リアリティー(VR)システム「UC-win/Road」を使って、パソコンの中に街やテーマパークなどを自由に作ってもらい、VRについての理解を深めてもらおうというユニークな企画です。
当初は、プロ用のソフトを果たして小中学生がどれだけ使いこなせるのか、心配もあったようです。しかし、フタを開けてみると、ゲームソフトで3Dの世界に慣れ親しんだ子どもたちは、マニュアルもほとんど見ず、あっという間にUC-win/Roadの基本的な使い方をマスターしてしまい、心配は杞憂(きゆう)に終わりました。
以来、フォーラムエイトでは、学校の休み期間を利用して毎回、テーマを変えながらジュニア・ソフトウェア・セミナーの開催を続けてきました。今回で早くも5回目となります。
毎回、取り組む作品のテーマを「道路」、「海辺」、「鉄道」、そして「テーマパーク」と変えています。小中学生の人気は高く毎回、参加者が増え続けています。 |
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▲1月5日、6日の両日、全国8カ所で開催された
「ジュニア・ソフトウェア・セミナー」。フォーラムエイト東京本社にて |
●体験セミナーの内容
1月5日と6日、テレビ会議システムを使って札幌、仙台、東京、名古屋、金沢、大阪、福岡、宮崎の全国8拠点で、セミナーが開催されました。
フォーラムエイト東京本社のセミナールームで説明する講師の声とパソコン画面、各会場の風景は、テレビ会議システムを使って全会場で共有しながら進行しました。そのため、全国の会場にいる約40人の小中学生が、バーチャルな世界にまとまってテーマパーク作りに挑戦することができました。
日ごろはビジネスマンや技術者の研修会が行われる東京・品川のフォーラムエイト東京本社のセミナールームに、黄色のトレーナーを着た小中学生と若手社員が集まり、パソコンの画面とにらめっこで作品作りに取り組みました。
1日目は午後から始まり、UC-win/Roadの基礎知識と基本操作を学んだあと、街並みの中を走る線路のVRを使って電車の運転に挑戦しました。その後、駅前広場に花屋や本屋、花壇などを置いて街並みを作っていきました。
さらに線路を延ばしてトンネルや鉄橋を配置したり、湖や樹木を置いたり、線路や道路に高低をつけたりと、UC-win/Roadを使ってテーマパークを作るための基本的な操作方法を学びました。 |
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▲初日は基本操作を学ぶため電車の運転にも挑戦した |
プロが使うソフトだけに、操作も難しいと思われがちです。事実、ソフトで使うメニューは専門用語が並んだままです。そこでモニター画面の上にはふりがな付きのメニューを張り付けたほか、ふりがな付きの手作りの教材もこの日のために特別に用意されました。
しかし、子どもたちは数回、マウスを使って試しただけで、すぐに操作を覚えてしまいます。そのため、資料にはほとんど目を通していないようでした。
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▲プロ用のメニューを使いこなすため、モニター画面の上には
特別メニューが用意された |
▲VRの基本や操作方法などを説明した教材 |
●ジェットコースターは人気の的
子ども向けセミナーとはいえ、使うツールはプロ用のVRソフト「UC-win/Road」です。このソフトを子ども自身が使い、リアルなスケールで、テーマパークや街並みなどを作るというのです。
いったい、どんなテーマパークを作っているのでしょうか。興味津々でパソコンの画面を1つずつ、のぞいて見ました。すると驚くべき作品の数々が作られていたのでした。
ある小学生が作ったのは、全長15kmものジェットコースターです。乗客から見た走行シミュレーションの画面を見せてもらうと、それは遊園地でよく見かけるものではありません。ビルが立ち並ぶリアルな街並みを猛スピードで通り抜けるものだったのです。 |
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▲全長15kmのジェットコースターに試乗中の小学生。
猛スピードでビルの中を駆け抜ける |
隣の中学生の作品もジェットコースターのあるテーマパークを作っていました。魚が泳ぐ水中に突っ込んだり、岩山をぐるりと1周したりという、前代未聞の巨大プロジェクトです。
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▲岩山をぐるりと1周するジェットコースター |
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▲ツインタワー化された東京スカイツリー |
▲レンガ塀の3Dモデルを入念に配置する女の子 |
●全国8カ所をテレビ会議でつなぐ
東京会場には、時々、各地の会場からの質問が舞い込んできます。例えば名古屋ショールームからは「環状につながった道路に角を作りたいのですが、どうしたらできますか」という質問が寄せられました。
講師の1人、辰己正芳さんは「本当はもっと別のやり方があるのですが、子どもたちがやりやすいようにあえて簡単な方法を使いました」と説明します。
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▲名古屋ショールームからの質問が
テレビ会議システムで寄せられた瞬間 |
▲東京会場の講師は道路上に交差点を設け、 飛び出た
2本の道路の長さをゼロにすると角が出来上がった |
その後、名古屋からは「ちゃんと角ができました」と報告が入りました。こうしたやりとりは、各会場の参加者やアテンドするフォームラムエイトの社員も聞いています。リアルな映像や音声が飛び交うテレビ会議システムのおかげで、全国8カ所の会場が1つにまとまったセミナーになりました。
また、東京会場の参加者は、昼休みなどの休憩時間にショールームにあるドライビングシミュレーターで運転体験をしたり、受付横に置かれたパーソナルロボット「ペッパー」との会話を楽しんだりと、退屈するひまもない様子でした。
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▲休憩時間にドライビングシミュレーター(左)やパーソナルロボット「ペッパー」で遊ぶ参加者(右) |
各会場から力作の数々を報告
セミナーの最後は、テレビ会議システムを使った作品のプレゼンテーションです。各会場から代表的な作品ずつが発表されました。
●各会場から報告された作品
札幌事務所
VRで作った迷路。通り抜けるスリルをウォークスルーで体験できるアイデア作。 |
仙台事務所
高速道路のまわりに巨大なイソギンチャクや貝、水中を泳ぐ魚を配置した立体的な作品。お城も見えるなど印象的だ。 |
東京本社
東京ビッグサイトやパシフィコ横浜などの本格的な建物が立ち並ぶ街中を走る巨大なジェットコースターを作った。 |
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名古屋ショールーム
にぎやかな駅前広場を作った。いろいろな人物を置いたのが特徴。スカイツリーに雪が降るシーンも再現。 |
金沢事務所
水面がゆらめく湖のほとりに、高層ビルや遊園地を作った。楽しくてハッピーな街をイメージしたという。 |
大阪支社
屋上に赤い観覧車がある梅田のビルをイメージした作品。2つの3Dモデルを組み合わせて制作した。 |
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福岡営業所
樹木に囲まれて誰も知らない家や、プール付きのリゾートホテルを建設した。自然に囲まれたのどかな風景を再現。 |
宮崎支社
未来の東京の超高層ビルや、山手線をイメージした作品。モデリングは座標値をよく意識しながら行った。 |
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代表者の発表が終わると、各会場の参加者はモニター前に整列し、記念撮影を行い、その後、参加者同士が再会を祈って解散しました。ジュニア・ソフトウェア・セミナーは今後も引き続き、2016年の春休みは3月29日〜30日、夏休みは8月4日〜5日に開催される予定になっています。
●イエイリコメントと提案
子どもには、「電車を運転してみたい」「遊園地を作りたい」「秘密基地を作りたい」と、いろいろな夢があります。「UC-win/Road」は、そんな夢を何でもかなえてくれるバーチャルリアリティーソフトであることが、今回の取材で分かりました。
プロ用のソフトで、メニューも難しい漢字や言葉のままであるにもかかわらず、ほんの1〜2時間、手ほどきしただけで、子どもたちは自分の夢の実現に向けて、ソフトを使いこなしていきました。
飛行機のパイロット、電車やバスの運転手、警察官や消防士、お医者さんや学校の先生など、人目に付きやすい職種に比べて、建築や土木の仕事は工事現場で働く職人さんや技術者はともかく、オフィスの中でプランを練ったり、検討したりしている設計者や技術者のことは、子どもたちの目に触れる機会がほとんどありませんでした。
しかし、ジュニア・ソフトウェア・セミナーでは、道路やビル、観覧車、ジェットコースターなどの施設を自分たちで選び、配置しながら、バーチャルなテーマパークや街を作っていきました。この体験を通じて、子どもたちは建築や土木、まちづくりの仕事がどんなものであるのかを、体験できたのです。
小学生や中学生のころから、バーチャルに設計の体験をして楽しさを知ると、パイロットや電車の運転手のように、新時代の建築や土木、まちづくりの仕事に興味を持つきっかけになりそうです。
各会場で子どもたちの指導に当たったフォーラムエイト社員の教え方も、5回目の開催とあって、こなれているように感じました。子どもたちとのコミュニケーションの取り方や、ソフトやパソコンの操作を分かりやすく説明するスキルの高さを感じました。
これからは、パソコンを持って小中学校に出掛け、「出前教室」のような展開をしてみると、教育の世界とフォーラムエイトの新しい関係が構築できるのではないかと思いました。
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