●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。国土交通省が活用を推進しているCIM(Construction Information Modeling)は、土木構造物の形状や寸法を、パソコン上に構築した3Dモデルで表現すると同時に、各部の材質や仕様などを「属性情報」として一体的に扱えるのが特徴です。
3Dモデルは構造物の外から見える部分だけでなく、コンクリート中に埋まった鉄筋や鉄骨、中空部など、表から見えない部分まで忠実に作られています。そのため、CIMモデルを様々な角度で切断すると、その角度から見た図面が取り出せます。また、鉄筋やコンクリートの材質や本数、位置などから、様々な荷重に対する構造解析や応力度照査も行えます。
このようにCIMモデルが1つあることにより、「3Dによる表現」「図面の作成」「設計計算」という構造物の設計で求められる3要素を行えることがわかります。
一方、フォーラムエイトも、1987年の創業当時から、CIMと同じような発想で様々なソフトを開発してきました。
例えば、橋脚や擁壁などの設計計算を行う「UC-1」シリーズのソフトは、ソフトの内部では構造物を構成するコンクリートや鉄筋などの3D形状や寸法を表現していました。そして材質などの属性情報とともに設計計算を行い、構造物の図面を自動作成するという機能を1980年代から実現していたのです。
当時のバージョンには、CGパースのような立体的な表現機能こそありませんでしたが、現在のCIMソフトと同様に「3Dによる表現」「図面の作成」、「設計計算」という3要素を持っていたのです。
最近のバージョンは、CIMソフトとしての性格がより強くなりました。例えば、ソフトの内部で持っていた3D形状を、属性情報付きのIFC形式で書き出す機能が付け加えられています。ソフト自体はもともとCIMと同じような機能を持っていたので、他社のソフトとのデータ交換できるIFCなどで書き出せるように、若干の機能拡張を行っただけにすぎないとも言えます。 |
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▲CIMソフトと同様に3Dによる表現、図面作成、
設計計算が行えるUC-1シリーズ |
●体験セミナーの内容
5月26日、フォーラムエイト東京本社のセミナールームで開催された、「レジリエンスデザイン・CIM系解析支援体験セミナー」は、フォーラムエイトがこれまで発売してきたソフトで、CIM的な設計や解析を体験するものです。
使われたソフトは地盤解析「GeoFEAS 3D」、UC-1「橋脚の設計」、UC-1「3D配筋CAD」、動的非線形解析「Engineer's Studio®」、そしておなじみの3Dバーチャルリアリティー(VR)ソフト「UC-win/Road」です。
これらのソフトを使って、他のソフトとデータ交換すると同時に、構造物の形状や寸法を設計しつつ、そのモデルを使って裏付けとなる解析やシミュレーションを行ったり、図面を作成したりという4つの体験を行いました。
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▲講師を務める解析支援チームリーダ中村淳さん |
●3次元地盤解析 「GeoFEAS 3D」
最初の課題は、河川堤防を模した盛り土に樋門(ひもん)などの構造物を設けるとき、堤防掘削時に生じる「盤ぶくれ」という現象を定量的に解析するものでした。河川の断面は両岸の堤防と、その間にはさまれた水路からなります。そして掘削は堤防に沿ってある一定区間しか行われません。
こうした解析に使われる堤防の3Dモデルは、複雑な立体形状をしており、3次元地盤解析ソフト「GeoFEAS 3D」だけで作成するのは手間がかかります。
そこでこの解析では、他のソフトで作成した河川断面図を読み込み、それを河川の軸方向に延ばすことによって基本となる3Dモデルを作りました。このとき、断面を5層に分けて土の単位体積重量や弾性率などのパラメーターも設定します。これが属性情報となるわけです。
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▲河川堤防の断面図を読み込む |
堤防の途中に犬走りや拡幅部などがあっても、設計図から断面を取り込むことでGeoFEAS 3Dでのモデリング作業はスピーディー、かつ正確に行えます。まさにCIM的なモデル作成方法です。
この3Dモデルは、3D形状と属性情報を兼ね備えたCIMモデルそのものと言えます。続いて荷重条件として重力加速度を適用し、まずは掘削前の応力状態を計算します。その後、堤防の一部を掘削したように3Dモデルの一部を削除します。この部分だけ土の上載荷重が解放されるので、掘削面は盤ぶくれを起こそうとします。
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▲断面図を河川軸方向にスイープすることで
複雑な断面を持つ河川の3Dモデルが完成 |
▲堤防の一部を掘削したモデル |
そしてえられたのが、次のような図です。鉛直方向(Z軸)に地盤が盛り上がっている様子が3Dでリアルに表現されているのと同時に、河川軸方向(X軸)への地盤の変位が色分けされています。河川堤防の断面図をそのまま利用して、地盤掘削時の盤ぶくれを定量的に評価する解析までを行うCIM的なワークフローが体験できました。
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▲掘削部の盤ぶくれによる地盤の隆起や変位を
3Dモデルと色分けで表示したもの |
●「橋脚の設計」「3D配筋CAD」
スターラップや曲げ加工した鉄筋まで、リアルに表現した鉄筋コンクリート橋脚のCIMモデルを作るとき、鉄筋を1本ずつ手入力していたのでは大変です。そしてこのモデルで構造解析を行って、応力がアウトになった部分を修正して再度解析を行う、といった作業を繰り返すのは、CIM的な方法とは言え、決して生産性向上には役立たないでしょう。
フォーラムエイトのUC-1「橋脚の設計」の強みは、複雑な3D配筋モデルを自動作成し、そのモデルを使って想定される荷重に対して橋脚が持つかどうかを設計照査してくれることです。3Dモデル作成を圧倒的に効率化するために導入されているのが「パラメトリック・モデリング」という手法です。
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▲スターラップ筋1本に至るまで詳細に
3Dモデル化された橋脚の3Dモデル |
▲橋脚の梁や柱の形状を選択したり、各部の主要寸法を
入力したりする初期入力画面 |
橋脚は上から梁、柱、フーチングと3つの部分で構成されます。それぞれを手作業でモデリングするのではなく、UC-1「橋脚の設計・3D配筋」の入力画面で各部の主要な寸法を数値として入力するだけで、ソフトの内部で3Dモデルを自動作成してくれるのです。さらに基礎地盤のバネ定数や荷重条件なども、別の画面でパラメーターとして入力します。鉄筋の入力では、梁、柱、フーチングに分けて、かぶりや鉄筋径、配置間隔などを入力すればよいので、あっという間に作業は終わります。そのため鉄筋を1本1本、手作業で入力する必要はありません。
そして「計算実行」のボタンをクリックすると、ソフトの内部で入力条件に従って鉄筋を1本1本自動的に配置しながら、橋脚の3Dモデルが作られます。同時に、荷重による各部の応力計算も行います。どこかの応力がアウトだった場合は、入力画面に戻って鉄筋径や本数を変更して再度、計算をやり直すだけです。
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▲梁の主鉄筋を入力する画面。かぶりや鉄筋系、配筋間隔
などを入力するだけなので作業はあっという間に終わる |
▲パラメーターによって自動作図
された橋脚の正面図 |
構造解析でOKとなった3Dモデルは、さらに積算や現場での施工に使えるようにするため、詳細化する必要があります。この詳細設計に使われるのが「3D配筋CAD」です。このソフトは、フォーラムエイトの鉄筋コンクリート構造物設計ソフトに幅広く対応しています。
3D配筋CADは、鉄筋を製作図レベルまで詳細化して上面鉄筋や下面鉄筋、スターラップ、折り曲げによる定着部などを表現した3Dモデルを自動作成します。そして出来上がった配筋の3Dモデルは、鉄筋の太さや曲げ半径を考慮した干渉チェックも行えます。そして鉄筋の位置を微修正しながら施工可能な3Dモデルへと精度を高めていけるのです。
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▲3D配筋CADの入力画面。鉄筋の曲げによる
定着部やスターラップなど、施工に対応した
より詳細なデータを入力する |
▲3D配筋CADで作られた詳細な3D鉄筋モデルに
干渉チェックを行ったところ |
1980年代の橋脚設計ソフトでも、内部で自動配筋し、それを図面としてプリントアウトする機能はありました。しかし、3Dモデルデータとしては結果が保存されないため、配筋の一部に配管が貫通するスリーブを設けるなどのイレギュラーな設計変更には対応しにくい面がありました。その点、現在のUC-1「橋脚の設計」は、3Dによる設計と構造計算をシームレスに連携しつつも、部分的な修正を可能にし、柔軟なCIM的なワークフローを実現しました。そしてパラメトリックモデリングによる効率的な設計は、次世代のCIMを先取りしていると言っても過言ではありません。
●動的非線形解析 「Engineer's Studio®」
CIMソフトのユーザーでも、CIMモデルを使って動的解析や非線形解析まで行っている技術者は非常に少数派ではないでしょうか。CIMモデルから質点と曲げ要素からなる「くし団子」モデルを作り、従来の解析ソフトで計算する、という方法が今でも多く用いられているのかもしれません。
ところが、フォーラムエイトの「Engineer's Studio®」を使うと、CIMソフトで設計したような精密な3Dモデルを作り、そこから解析用のモデルに自動変換して動的非線形解析を行ってくれるのです。
橋桁や橋脚などの3Dモデルの元となる部材は、基本的な断面形状が用意されており、これらから選びます。そして舗装や地覆などのパーツを選んで断面に追加していきます。前述のパラメトリックモデリングの手法により、鉄筋やPC鋼材も配置することができます。
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▲橋桁の端部に地覆を配置したところ |
こうして詳細なCIMモデルに匹敵する3Dモデルを前述のような「くし団子」モデルに自動変換して動的非線形解析を行い、損傷の程度などを3Dモデル上にわかりやすく表示します。
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▲「くし団子」モデルで行った動的非線形解析結果 |
▲損傷の程度を3Dモデルでわかりやすく表示 |
●3DVRソフト「UC-win/Road」
CIMソフトで設計した結果を、雨や風などの自然環境や、クルマや人の動きなどとともに表示することで、よりリアルな「動くプレゼン」をすることも多くなっています。フォーラムエイトの3DVRソフト「UC-win/Road」は、まさに動きのあるリアルなプレゼンを行うソフトと言ってもよいでしょう。
今回のセミナーでは、岩手県釜石市の3Dモデル上に、UC-1「橋脚の設計」、「Engineer's Studio®」で作成した橋梁上部工や橋脚を読み込み、橋上の道路にクルマを走らせる動くプレゼンを実際に行いました。UC-win/Roadはもともと道路設計用のソフトでもあるため、単に動きをビジュアル化するだけでなく、そのバックデータとして様々な工学的なパラメーターも持っています。例えば、それぞれのクルマが走る速度なども、動く属性情報として持っているのです。そこが見た目だけの機能しかないプレゼンソフトと決定的に違うところです。
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▲川の部分に「Engineer's Studio®」で作成した
橋桁や、「橋脚の設計」などで作成した橋脚の
3Dモデルを配置し、橋上にクルマを走らせる
プレゼンを行ったところ |
●イエイリコメントと提案
フォーラムエイトの設計ソフトは、CIMという言葉ができるずっと以前の1980年代から、ソフトの内部では属性情報付きの3Dモデルと同等の情報を作成し、各種設計計算を行い、その結果を図面として出力するという一貫処理を行ってきました。
さらに、途中段階の成果品である構造物のモデルをソフト間で連携し、2重入力をなくしてスピーディーに様々な解析を行ったり、成果品の再利用を行ったりする工夫も行われてきました。その結果、今ではCIM対応の3次元CADソフト「Allplan」や、3DVRソフト「UC-win/Road」を軸として、各製品が双方向でデータ交換できるようになりました。
今後、各ソフトが持つ3Dモデルを、IFC形式で入出力する機能さえ備えれば、フォーラムが持つ幅広い設計、解析、シミュレーションソフトは、CIMソフトとして新たな役割を果たしていくことになるでしょう。
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