はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。フォーラムエイトの3DリアルタイムVRソフト「UC-win/Road」は、2000年にリリースされて以来、今年で20年目を迎えます。しかし、バージョンを重ねるごとに数え切れないほどの新技術や新機能が盛り込まれ、その進化はとどまるところを知りません。
UC-win/Roadが世の中に出てから10年ほど後に、建設業界ではBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)が普及し始めましたが、最近、これらの3D設計手法は今、設計中の建物などを原寸大・立体視できるVR空間での活用に注目が集まっています。
そのニーズを既に20年も前に予見していたかのようなUC-win/Roadの先見性には、あらためて驚かされます。
製品概要・特長
筆者は2016年にもこのセミナーを受講しました。当時はUC-win/Road Ver.11を使っての講習でしたが、今回のセミナーでは「Ver.13」を使用していたため、さらに機能が追加されていたのには驚かされました。
「Ver.12」では大型のVRモデルに対応するため、64ビットOSへのネイティブ対応、自動車モデルのランプや車両制御モードの追加、2Dビューの拡張とシミュレーション制御機能の充実、VR空間内での環境アセスメントなどが追加されました。 そして「Ver.13」では、CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)ソフトのように、道路土工の切り土や盛り土の土量計算を行う機能が追加されました。また、木の葉などが風で舞い上がったりする風の動きを表現する機能も搭載されました。
伝統的な道路モデルの作成機能では、白線などを自由に描画できる道路編集機能が拡張されたり、リプレイプラグインが拡張されたりしました。都市モデルの作成に欠かせない街路樹や緑地のモデリングには「ゾーン機能」が新たに設けられました。公園や植樹帯に樹木を1本1本植えることなく、任意の領域やパラメーターを指定して、まとめて木を植えることができる便利な機能です。
このほか多くのカメラを含むシミュレーションを行いやすくする「カメラセンサー基本プラグインクラスター対応」や、ドライビングシミュレーターの運転操作と反応を実際の現象に近づける「MATLAB
Simulink連携プラグイン」が盛り込まれました。
さらに「Ver.13.1」では、オンライン地図情報読み込み機能の強化、点群モデリングプラグインの改善、緯度経度・直角座標の精度改善などが行われました。最近のi-Construction施策の高度化や、自動運転技術の研究ニーズに応じて、UC-win/Roadの進化はとどまることを知らないかのようです。
フォーラムエイトの3D設計ソフト間では、相互にデータ交換できる機能がますます充実していますが、今回のトピックスは2018年にフォーラムエイトの製品ラインアップに加わったBIM/CIM対応3DCGソフト「Shade3D」との連携です。長年にわたって使われてきた操作性や、全世界に7万人以上のユーザーを持つソフトだけに、モデリングのしやすさには定評があります。UC-win/Roadのモデルのクオリティーが上がっていきそうです。
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▲Ver.13で追加された新機能の例 |
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▲Shade3Dとも連携。3Dモデリングがしやすくなった |
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体験内容
2019年1月10日、フォーラムエイト東京本社セミナールームで「UC-win/Road・VRセミナー」が開催されました。講師はフォーラムエイトVRサポートGroupの小野寺さんです。
この日のセミナーは有料だけあって、午前9時半から午後4時まで、昼食をはさんでUC-win/Roadのデータ作成を約4時間、みっちり行います。そして希望者は午後4時からFORUM8認定VRエンジニア試験を受けて、認定証も取得できるカリキュラムになっています。
最初の30分間は、UC-win/Roadの機能や用途を解説しました。その後、10時から3時20分までは、途中、昼食を含めて3回の休憩を入れながら、UC-win/Roadのデータ作成作業をみっちり行いました。
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▲2019年1月10日に開催された「UC-win/Road・VRセミナー」。
フォーラムエイト東京本社セミナールームにて |
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まずはソフトの基本操作から始まり、地形の生成や航空写真の貼り付け、道路設計で使われる「IP法」を用いての道路のモデリングや交差点、トンネル、道路断面の作成、そして道路脇に立ち並ぶビルのモデリングなどです。
2時ごろになると道路や地形などの町のモデリングはほぼ出来上がり、「景観シミュレーション」の内容になるとだんだんとVRらしい内容に入ってきました。
UC-win/Road には、時刻や天候の変化など様々な環境を設定する機能があり、リアリティーの高い3次元空間を表現できます。まずは「描画オプション」の画面で日付や時刻を設定します。これによって太陽や月の位置まで連動させることができるのです。時刻はスライドバーを動かすことでも変えられます。すると、太陽の位置によってクルマや樹木が路面に落とす影の形まで変わります。
また、「空」のテクスチャを変更して大気の雰囲気を変えられるほか、「気象」を変更して風によって雨や雪が流される様子も再現できます。
都市モデルをさらにリアルにするのが、湖や樹木です。これらは風によって水面にさざ波が立ったり、枝葉を揺らしたりすることも可能です。まるで映画のワンシーンを見ているかのようなVRが演出できます。
VRモデルなので、すべてを3Dモデルで作りたい気持ちはありますが、遠景のビル群のシルエットなどは、「背景」機能によって街並みや山などを描いて表現することも可能です。簡単にリアリティーの高い景色が作れるうえに、VRデータの容量が軽くなるので軽快に動作します。
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▲受講者には1人1台のパソコンが用意され、じっくりと
UC-win/Roadを操作しながら街並みのVRモデルを
作成した |
▲3D地形データや航空写真、交差点の作成ツールなどを使って
完成に近づいた都市の3Dモデル |
道路に欠かせないのが道路上を行き交うクルマです。「交通流プロファイル」のデータを定義することで、どんな車種を1時間に何台の頻度で生成するかを設定できます。
「運転シミュレーション」の機能では、UC-win/RoadのVRモデル上を乗用車やトラック、バス、バイクなどを走らせることができます。これらのクルマの動きは、実車の動きをシミュレーションするために、車重や重心、エンジンやトランスミッション、ブレーキなどの動作を、路面の状態に応じて複雑な物理計算を行っています。
走行するクルマのからの眺めを見られるので、運転者目線での視界や標識の視認性などを確認できます。そして走っている他のクルマをクリックすると、すかさずそのクルマに乗り移り、他車からの眺めも確認できます。
UC-win/Roadが最もよく使われるのは、なんと言ってもまちづくりや土木事業などのプレゼンテーションでしょう。これまでに紹介してきたリアリティーを高める機能のほか、まちづくりの「ビフォー・アフター」や数種類の代替案を、住民や利害関係者に示しながら理解や判断を助けるのが「プレゼンテーション機能」です。
今回のセミナーでは、電柱の地中化事業を例にとって、電柱が立った状態と、電柱の代わりに街灯を配置した状態を作成、これらを切り替えながらプレゼンテーションする方法を体験しました。
「ビフォー」に当たるのが「設計前の景観」です。この状態で道路付属物アイコンを押すと電柱の本数や配置する位置、間隔などを 入力する画面が現れますので、適当な値を入れていきます。同時に電線も張ることができ、電線のたわみ量を入力すると、町でよく見かけるのとそっくりの景色が出来上がります。
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▲もとの道路風景。まだ電柱は立っていない |
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▲電柱の本数や間隔、電線のたわみなどを入力する画面 |
▲道路に沿って電柱と電線が配置された |
つづいて「アフター」に相当するのが「設計後の景観」です。ここでは電柱の代わりに街路灯を選び、本数や間隔を指定すると、街路灯が立ち並んだ風景ができあがります。
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▲街路灯が立ち並んだ道路。電線がないのが
とてもスッキリした景観になった |
町の景観は季節や時間、気象、そして見るアングルによって大きく変わります。これらの設定をプレゼンテーションのたびに変更していると大変なので、「コンテキスト」というデータセットで一つにまとめることができます。
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▲コンテキストの設定画面 |
▲晴れのコンテキスト(左)と雨のコンテキスト(右)。
同じ街並みでもイメージがかなり異なる |
UC-win/Roadならではのプレゼンテーション法として、空中でのウォークスルーがあります。町の上空を飛ぶヘリコプターなどから見下ろした風景のプレゼンテーションは、道路や土木施設などの全体像を素早く理解してもらうのに役立ちますね。
これを行う機能が「飛行ルート」の設定です。空中に飛行機が飛ぶ軌跡を3次元で描くと、カメラがそのルートに沿って移動しながら、コックピットからの都市モデルの眺めを映像化してくれるものです。その設定は、道路モデルを作るのと同じ要領です。まず平面図上で飛行ルートを描き、次に断面図上でルートの高さを定義します。作成した飛行ルートは3Dパースで確認することもできます。
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▲まずは平面図上で飛行ルートを描く |
▲次に飛行ルートの高さを縦断図で設定する。
上昇や下降も自由自在だ |
▲3D空間上で飛行ルートを確認する |
スクリプトの内容や順序は自由自在に変更しながら、ムービーのように再生できます。しかし、一般の動画ファイルと違って、スクリプトはリアルタイムにUC-win/Roadに指示するので、途中を一部変えるとすぐにその部分を再生して確認できます。
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▲飛行ルートに沿って飛ぶ飛行機のコックピットから
見たような映像が再生される |
▲スクリプトの設定画面。上から順番にUC-win/Road
のメニューを操作する代わりに実行される |
セミナー後、希望者は午後4時から約1時間半の「FORUM8認定VRエンジニア試験」を受けることができました。筆記問題と実技問題からなる試験ですが、セミナーで使用した資料やパソコンのデスクトップ上に用意されている資料、フォーラムエイトのウェブサイトなどを参考にしながら問題を解くことができます。
セミナーの内容を思い出しながら、復習のつもりで気軽に受けられる感じです。合格すると認定証が交付されるので、セミナー受講によって得られた知識やスキルを、こうした認定証の形で残しておくのはよいことですね。
イエイリコメントと提案
最近、高性能のVRゴーグルやMRゴーグルが10万円以内で購入できるようになり、VR用のグラフィックボードの性能も飛躍的に向上してきました。その結果、“VR酔い”しないで、実寸大・立体視の世界を長時間にわたって入り込めるようになってきました。
そこで注目されているのが、VR空間内に複数の関係者が集合して、あたかも実物の建物や構造物の中でミーティングを開くような使い方です。こうしたVRを使った会員制交流サイト(SNS)も普及し始めています。
建設業界では年々、少子高齢化による生産年齢人口の減少により、人手不足の影響が深刻化しつつあります。以前より少ない人数で同等以上の質・量の設計や施工、維持管理などの業務をこなす必要に迫られています。
その一方で、従来の「3K(きつい、危険、汚い)」から「新3K(給料が高い、休暇が取れる、希望が持てる)」の建設業に変わるための働き方改革や生産性向上、省人化が求められています。
そこで建設業ではVRやMRを使って「移動のムダ」をなくすことが、改めてクローズアップされています。海外の大手設計事務所では「CAVE(ケイブ)」という3Dスクリーンを備えた打ち合わせルームを備え、それをネットで他の国の事務所と接続して、海外出張の代わりにVR空間に“バーチャル出張”して、打ち合わせを行う業務スタイルが増えつつあるのです。
UC-win/Roadは、VRの本格的な活用による「移動のムダ」を削減するツールとしても、新たな注目を浴びそうです。
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