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Vol.7
Uスパコンクラウド(R)
IT活用による建設産業の成長戦略を追求する「建設ITジャーナリスト」家入 龍太
イエイリ・ラボ・体験レポート
建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナー有償セミナーを体験レポート
建設ITジャーナリスト家入龍太氏が参加するFORUM8体験セミナーのレポート。新製品をはじめ、各種UC-1技術セミナーについてご紹介します。製品概要・特長、体験内容、事例・活用例、イエイリコメントと提案、製品の今後の展望など、全12回にわたってお届けする予定です。

【プロフィール】
BIMや3次元CAD、情報化施工などの導入により、生産性向上、地球環境保全、国際化といった建設業が抱える経営課題を解決するための情報を「一歩先の視点」で発信し続ける建設ITジャーナリスト。日経BP社の建設サイト「ケンプラッツ」で「イエイリ建設IT戦略」を連載中。「年中無休・24時間受付」をモットーに建設・IT・経営に関する記事の執筆や講演、コンサルティングなどを行っている。
公式ブログはhttp://ieiri-lab.jp


●はじめに
建設ITジャーナリストの家入龍太です。スーパーコンピューター(以下、スパコン)は、その時代の最新技術を搭載した最高性能のコンピューターです。その用途は、長期にわたる気象予報や遺伝子の解析、地球環境問題など、大規模な科学技術計算をイメージする人が多いかもしれません。

フォーラムエイトでは、このスパコンをインターネット上のクラウドサービスとして手軽に使えるようにした「スパコンクラウド(R)」の提供を今年4月に開始しました。

例えば、これまで数時間かかっていた非線形応力解析やコンピューターグラフィックスの作成なども、10分の1以下の時間で済むようになり、スパコンが計算している間は自分のパソコンで別の仕事ができるので、仕事の生産性は大幅に向上します。

使用料金は解析にかかった時間に対して1分200円(UC-1 for SaaSで1時間までの場合)程度と、リーズナブルです。

スパコンクラウド(R)を利用するメリットは(1)高い演算性能が活用できること、(2)専用のハード、動作環境が不要なこと、(3)利用時間に応じて課金するシステムであること、そして(4)節電対策に有効なこと、などが挙げられます。


●製品概要・特長
フォーラムエイトのスパコンクラウド(R)で利用できるスパコンは、兵庫県と神戸市が共同出資して設立した財団法人計算科学振興財団(FOCUS)の「高度計算科学支援センター」にある「FOCUSスパコン」です。その性能は、なんと1秒間に22兆回の計算をこなせます。

データ処理サーバには1ノード当たりのCPUとしてIntel Xeon X7520(1.86GHz)を4個(計16コア)、メモリとして512GBを搭載しているといます。このスペックだけでも“モンスター”ぶりがうかがえるでしょう。

このほか、フロントエンドサーバとして1ノード当たりCPUとしてIntel Xeon L5640(2.26GHz)を2個(計12コア)、メモリ48GBを搭載したものや、同スペックの演算サーバもあります。

スパコンでは、複数の「ノード」を同時に使用して並列計算することにより、さらなる高速化を図れるようになっています。

フォーラムエイトでは、今回のサービスを開始するに際し、神戸ポートアイランドにあるFOCUS内に「スパコンクラウド神戸研究室」を開設しました。その隣には、2012年「世界一」クラスとなる10ペタFLOP級の次世代スパコン「京(けい)」が設置される予定です。

フォーラムエイトは神戸研究室を拠点として、京を含めたスパコンの産業利用に取り組む方針です。

フォーラムエイトでは今後、スパコンならではの高い演算性能を生かせる大規模な解析やシミュレーション、CGレンダリングなどのソリューションを増やしていく予定です。

例えば、「解析支援サービスのスパコンオプション」は、現行の解析支援サービスにスパコンを使用することにより、スピーディーな解析結果の提供を行うものです。

「Engineer's Studio(R) for SaaS」は、構造解析システムUC-1 for SaaSをスパコン上で動かすものです。「Engineer's Studio(R)」のデータ入力ファイルをクラウド上に登録し、バッチ処理で解析を行います。

また「UC-win/Road、CGムービーサービス」は、スパコンによって大容量のCGやVRを高速でレンダリングするサービスです。

シミュレーションのメニューも充実しています。「騒音・音響スパコン解析・シミュレーションサービス」は、「UC-win/Road」上で、交通流による騒音をシミュレーションします。また、「風・熱流体解析スパコン解析・シミュレーションサービス」は、オープンソースの熱流体解析ソフトとして定評のある「OpenFOAM」をスパコン上で走らせる大規模な環境解析サービスです。

現在、提供中のサービスは以上ですが、今後、大規模な津波や流体解析を行える「津波・流体解析シミュレーションサービス」、クラウドのスパコンの連携で大量に計算処理やデータ転送を担うものとして「3DVRクラウド“VR-Cloud(R)”サービス」も提供される予定です。

▲現在、スパコンクラウド(R)が
提供されている「FOCUSスパコン」
▲スパコンクラウド神戸研究室があるビル(右)
「京」の設置される理化学研究所計算科学研究機構(左)


●体験内容
6月10日の午後、フォーラムエイト東京本社で「スパコンクラウド(R)体験セミナー」が開催されました。この日はテレビ会議システムで仙台、名古屋、大阪、福岡の各会場のほか、神戸研究室や宮崎支社にも接続し、各地の講師による“リレーセミナー”となりました。受講者は各自でパソコンを操作して、スパコンクラウド(R)の使い勝手や、計算能力などを体感できるプログラムです。

▲テレビ会議システムによって各地の講師がさまざまなスパコンクラウド(R)を解説した


東京会場からスパコンクラウド(R)の概要や、FOCUSスパコンを使用したさまざまなサービス紹介を行ったのに続き、各サービスの個別紹介になりました。

最初は東京会場から「Engineer's Studio(R)クラウドオプション」の紹介です。このソフトは3次元有限要素法(FEM)解析で梁や平板、バネなどの要素からなる構造物の解析を行うものです。

これまではEngineer's Studio(R)で入力データを作成する「プレ処理」を行い、UC-1を使って構造解析を行う「メイン処理」、そしてEngineer's Studio(R)で解析結果を分かりやすく表示する「ポスト処理」を、すべてユーザーのパソコンで行っていました。

クラウドオプションでは、このうち解析パワーが必要な「メイン処理」の部分をスパコン上で処理するようになっています。受講者も、この流れに沿って手元のパソコンで作業を体験しました。

スパコンに解析用のデータを送信した後は、バッチ処理で結果が出てくるまでは別の仕事が行えます。32ビットOSのパソコンでも、クラウドオプションを利用することで64ビットOSが必要な解析が行えることが実感できました。

続いて宮崎支社から「VR-Cloud(R)サービス」の説明がありました。スパコン上で動いているバーチャルリアリティ(VR)システムの画面を、高速かつスムーズにユーザーのパソコンに伝送することで、時間や場所に制約されない住民説明会を開催したり、合意形成を図ったりできるようにするものです。避難シミュレーションを行うことで、バーチャルリアリティ上で避難訓練も行えるという説明に、参加者はうなずいていました。

さらに宮崎支社から高画質のCGをクラウドで作成する「UC-win/Road CGムービーサービス」の紹介がありました。「POV-Ray」というフリーの3Dグラフィックソフトを使って、UC-win/Roadの画像に霧や夜間スポットライトなどの効果を与えてリアルな画像を作成できるサービスです。今年7月中旬のサービス開始を予定しています。

その後、東京会場にバトンタッチして「騒音音響スパコン解析シミュレーションサービス」の紹介に移りました。道路を走行するクルマからの交通騒音や、工事現場の重機が発生する工事騒音が周辺の「受音点」にどのように伝わるかを解析し、ビジュアルに表現するものです。

「Engineers' Studio(R)クラウドオプション」と同様に、解析部分をスパコンが担当し、その前後のデータ入出力はユーザーのパソコンで行う仕組みです。

約10分間の休憩の後、東京会場から解析支援サービスのスパコンクラウド化についての紹介がありました。フォーラムエイトでは年間約100本の受託解析業務を行っており、その技術力の高さは防災科学技術研究所主催の「ブラインド解析コンテスト」で2年連続優勝していることからもうかがえます。

この受託解析業務にスパコンクラウド(R)を活用することにより、従来のパソコンでは難しかった東日本大震災の約200秒にも上る長時間地震動時刻歴による応答解析が可能になったり、解析時間が短縮されたりという効果が期待できます。

続いて、東京会場と神戸研究室が合同で「風・熱流体スパコン解析・シミュレーションサービス」の紹介を行いました。ここでは同じ解析モデルをオープンソースの流体解析ソフト「OpenFOAM」によって計算し、手元のパソコンとスパコンクラウド(R)との解析時間の違いを体験しました。

手元のパソコンでは580秒かかった解析が、12のノードで並列処理するスパコンだとわずか48秒弱で完了しました。スパコンに計算させている間に、市街地における風・温熱・光・音の数値予測や、自動車の周りの風解析など、OpenFOAMの活用事例についても紹介しました。

 
▲OpenFOAMによる風・流体スパコン解析の例   ▲騒音音響スパコン解析

最後は、これから開発予定の「津波・流体解析シミュレーションサービス」と「地盤エネルギーシミュレーション『GeoEnergy』」の紹介でした。津波シミュレーションは東北大学災害制御研究センター津波工学研究室の今村文彦教授が開発した「今村コード」をスパコン向けに並列処理できるようにして提供する予定です。

 
▲UC-win/Roadから出力されたモデル(左)と、スパコンで「POV-Ray」によってレンダリングしたCG(右)
▲VR-Cloud(R)の機能と位置づけ

▲地盤エネルギーシミュレーション「GeoEnergy」

▲今村コードによる津波シミュレーションの例
(画像:今村文彦氏)
▲津波シミュレーションの結果を
UC-win/Roadで表現した例


●イエイリコメントと提案
建設業ではBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)やVRなど、3次元モデルによる設計が普及しつつあり、これらのモデルを使ってさまざまな構造や流体の解析や、CG・アニメーションといった高画質の可視化が行われる機会が増えました。

これらの計算には時間がかかるものが多く、解析や計算中に設計者や技術者の作業が中断することにもなりがちです。

そんなとき、このスパコンクラウド(R)は、一般の設計者や技術者もスパコンを「時間を買う」という感覚で、気軽に使えるものです。スパコンに仕事をさせている間、ユーザー側も自分のパソコンを使って別の仕事を“並列処理”できるのです。

これからの設計業務の生産性向上に、スパコンクラウド(R)は有効なソリューションになりそうです。

●製品の今後の展望
フォーラムエイトでは、2012年より稼働開始予定の次世代スパコン「京」を活用した研究支援や産業利用に促進に取り組む予定です。その性能は「京」という名前が物語っているように、1秒間に10ペタ(1京=1万兆。10の16乗)FLOPS級と、これまで聞き慣れなかった単位が必要になるくらいです。

このマシンをスパコンクラウド(R)で使えるようになると、ユーザーの技術力だけでなくブランド力にも良い影響を与えるのではないでしょうか。


●次回は、「VR-Cloud(R)」体験セミナーをレポート予定です。

     
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