■メンタルストレスチェックとは
今回から組込システムニュースを担当させて頂きます、株式会社ファーストシステムの河野と申します。
ファーストシステムは設立以来、組込みシステム開発を主な業務として行ってきた制御系システム開発会社です。詳しくは当社HP(http://www.firstsys.co.jp)を参照してください。
さて連載第1回目ですが、昨今話題になっているメンタルストレスチェックについてお話ししたいと思います。組込みシステム開発とメンタルストレスチェック、一見全く関係がないようですが、データ収集装置などは組込みシステム開発技術を活用します。
現在日本で鬱を含むメンタルストレス不調者が急増しています。特にIT系は不調者が多い産業といわれています。一人の鬱患者が出ると平均2000万円損失(6ヵ月休業、リハビリ期間3ヵ月、発症者の代替要員確保&給与&管理、行っていた作業の引継ぎ&遅れ&保障等々)が出ると考えられています。(※)
この状況で、2013年度までにメンタルストレス対策を行った事業所の数は増加しましたが、2015年度はメンタルストレス対策を行った事業所は減少したことが報告されています。
ご存じのようにメンタルストレスチェックは50名以上の事業所で義務化されています。現在義務化されているメンタルストレスチェックは年1度、厚労省により定められた57問の問診票(https://stresscheck.mhlw.go.jp/)に回答することによりストレスチェック行うという、罰則のない制度です。
さて皆さんに考えていただきたいのですが、この問診票、被験者は正直に答えるでしょうか?正直に答えにくい問題が多いと思いませんか?正直に答えてこそ効果があるのがストレスチェックです。
※参照「平成27年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概況」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h27-46-50_kekka-gaiyo.pdf
■表情とストレスの相関関係
ファーストシステムでは、2012年度の段階で問診票による判断に対して疑問を持っていました(義務化される以前から内容は開示されていました)。そこで、複数の心療内科医、精神科医、カウンセラーにインタビューを行い、メンタルストレス測定装置の開発に取り組むこととしました。
方法論は、「患者の診断基準は表情から診断する。しかし現実として一患者に割り当てることのできる時間は5分程度」というインタビュー結果から、表情の動画(5分程度)を定期的に測定、数値化し、これをデータマイニングでクラスタリングして判断するという方法を取りました。
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データ収集装置(判断システム:大阪大学所有) |
表情とストレスは「大多数の人間について相関関係があるのか」についてですが、当時ほとんどどその分野を考える医師、研究者がいなかったようでした。また、どういったデータマイニングが判定に適切なのかも不明な状態でした。そこでファーストシステムから大阪大学に共同研究を持ちかけました。
幸いにもCOI(科学技術振興機構:http://www.jst.go.jp/coi/)や、大阪市イノベーション創出支援補助金にも採択され研究を進めました。
顔表情の数値化方法については、顔の表情筋から動きのあるポイントを約50か所選び、骨格など変化の少ない所を起点に座標化して、その座標が定期的および測定中の時間でどのように変化するかを測定し、データとしました。この測定装置はいちから開発を行うと膨大なコストとなるため、一部、他社で開発されていた既存の動画による顔認識装置から出力されるデータを利用して、経費を抑えました。しかし、瞳の動きなどその装置では測定できない部分は、新たに開発を行いました。
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顔表情筋 |
現段階の最終データ収集装置がこれになります。座標を得るだけでなく、回転、移動、傾き、大きさによる補正なども難解な課題です。
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ファーストシステムによる実験最終形 |
■今後の展開
次の段階として、被験者を増やす仕組み作り、データマイニングの精度向上、上記顔表情装置のスマートフォンへの移植など、次期開発を計画しましたが、ストレス不調群と表情を関連付ける莫大なデータ(被験者)確保が難しく、また巨額の費用がかかる(2014年薬事法の改訂)ということもあり、この段階で研究開発をいったん中断しました。
現在、メンタルストレスを客観的に測る方法としては、唾液センサー、脈波からの自律神経測定、血液センサーなどの研究がなされていますが、まだ決定的な検査方法は発表されていません。スマートフォンを利用した顔表情収集装置、画像解析装置等の開発まで至らなかったことが、課題として残りました。
今後ファーストシステムは、フォーラムエイトや関連する研究機関などとの共同研究・開発によって、さらに分野を広げ、様々な課題に挑戦していきます。組込開発について解決したいことがあれば、ぜひともご相談ください。
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