■“コト”を生み出す産業革命 近年の情報技術や通信技術の進展により、生活への様々な応用が可能になってきました。これにより情報技術を生活空間に組込み、安全・安心・快適な超スマート社会が実現できます。
しかし、一方では、“モノ”から“コト”の社会の変化に対応した感性に訴えるシステムが必要であり、同時に何でもつながることによる複雑化、さらに生活の安全安心を脅かすリスクの増加などにより、斬新な企画を行うことが困難になってきています。今こそ、利用者の感性に訴えることができる新たな価値を創造できる技術を高める必要があります。
日本は、見えないものにお金を投資しない特性があります。測れない価値である“コト”の産業革命を行い、日本の地位を向上させ、情報技術を真に生活に浸透させ、スマートな社会を構築する必要があります。
■最初の構想設計が重要
測れない価値の品質は、最初の設計時点で考慮する必要があります。生活の環境や行動を具体的にイメージし、情報技術を的確に組込むことにより、新たな生活を提案し、快適を創造することができます。それと同時に、安全・安心を保証する必要があります。
近年、開発するシステムの複雑化・多様化が進み、最初の構想設計において様々な品質の配慮が困難になってきています。しかし、システム開発では具体的な設計を開始した時点から本質的な設計手戻りができないため、開始直後から構造劣化が始まります。そのためにも、様々な品質の観点で検証を行った手戻りのない基本構造と振る舞いを最初の構想設計に盛り込むことが必要です。
■俯瞰
構想設計段階で品質を組み込むためには、全体を“俯瞰”したシステム構想設計が不可欠です。ここで述べる“俯瞰”は一般で述べられているように高所から全体を観れば良いというだけではなく、概要が頭の中に入り、様々な観点から全体を貫いた検証を行っている状態を指します。
超スマート社会のためのシステムは、具体的に生活をイメージし、新たな“価値”を創造する必要があります。そのためには、生活環境、生活活動、開発システムの振る舞い全体を通して検討する必要があります。
また、IoTなど様々なものがつながるシステムにおいて、安全・安心を脅かす障害は、様々なつながりの関係の中で発生します。そのため、構想段階で全体を通して分析することにより、基本的な矛盾や抜け漏れがないことを検証する必要があります。
さらに、安全であると同時に生活活動に障害を与えない安心を確保するためには、様々な運用や環境など様々な正常な動作からの逸脱に耐えうるシステムである必要があります。このためには、実生活で発生する様々な異常環境、誤操作、誤運用に耐える検討を構想段階から考慮しておく必要があります。
そのために複雑なシステムこそ俯瞰が必要です。しかし、俯瞰することは不可能と思われている方も多いと思います。
たとえば、将棋で何手も先を読むためには、理論的には天文学的な組合せの検討が必要になります。しかし、プロの棋士はそれが可能です。その理由は有効なパターンが頭の中に入っているためです。
新規のシステムの企画や開発において、最初は何も頭の中に入っていません。手さぐり状態です。しかし様々な検討を進める中で、段々と個別の概要が頭の中に入り、頭の中でそれらを組み合わせることにより全体のながれをイメージできるようになります。これが俯瞰できた状態です。俯瞰できれば、目からうろこが落ちるように様々な課題や革新・改善の可能性が見えるようになってきます。
俯瞰は、分担することができないため最初に時間を要します。対象の理解と経過時間の関係は直線でなく、指数関数的です。俯瞰できるまでは、進捗が感じられず逃避したくなります。
綺麗な、あるいは分かりやすい要件定義は、書き方の問題ですが、要件定義の本質は矛盾がなく、抜け漏れがなく、品質が盛り込まれていることです。この一番の鍵は、個々の項目の記載のつながりを俯瞰し検証していることです。
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■俯瞰と組織開発
俯瞰は、一人の頭の中にあり分担できないため、一人のキーマンが中心になり開発を行っていた昔の開発に逆戻りである思われるかもしれません。現在の複雑化・多様化の中で、多種多様な専門知識が必要であり、一人が中心の開発は不可能です。多くの専門知識を持った人が必要であるからこそ束ねて牽引する役割が必要であり、俯瞰していない人には行えません。
俯瞰をする人は、会議の意見を出すことを促し、調整しまとめる役割であるファシリテータ的な役割が必要になります。俯瞰することが出来る人が全体像の中から心配なシチュエーションを抽出し、それぞれの専門家の意見を求めます。専門家は、シチュエーションが特定できていれば具体的なアドバイスが可能です。俯瞰する人は、それらの情報を用いてさらにレベルの高いイメージを構築し、レベルの高いシチュエーションにおける専門知識を専門家から集めます。このようにして俯瞰する人が牽引してシステムのイメージをスパイラルアップして行くことが出来ます。
俯瞰者がいない場合、同じレベルの話が繰り返されるだけで烏合の衆となり、時間だけが経過します。これだけのメンバーが集まって検討した最高の結果であるとしてレベルの低い検討案が進められていくことになります。
■俯瞰を確実に行うために
俯瞰を行うためには、生活や生活環境を含めた開発対象の振る舞いを集中して検討する専任者が必要です。俯瞰は分担できないため、十分な時間を確保する必要があります。
結果的に大きな手戻りを発生させない為に必要な時間ですが、俯瞰できるまでの間に進捗が見えにくいため、早く構想設計を完了して全体プロジェクトの稼動に移行したくなりがちです。時間がないのであれば、企画の初期段階から俯瞰を担当する専任者を割り当てることです。
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また、多くの開発プロジェクトの遅延要因は、有効性の低い機能が多く盛り込まれていることです。俯瞰を行うことにより、生活をイメージできるため、機能を剪定することが可能です。園芸における剪定とは、養分を適切に分配することにより生長を促進し、病害虫の繁殖を予防するなどの樹木の健全性のために枝を切ることです。同様に、システム開発においても、俯瞰により、全体に効果が低くかつ開発を複雑化させる要素が発見できます。それを改善することにより将来のシステムを健全化することが可能になります。
■最後に 「超スマート社会のためのシステム開発」を出版しました。
生活関連特有の品質を解説し、どのようにして俯瞰を行うのか、そして俯瞰をベースにしたシステム分析手法ESIMを紹介しています。
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超スマート社会のためのシステム開発
〜日本のものづくりを足元から見直しませんか〜
・・・第4次産業革命を実現する“コト”の生産技術革命・・・
(システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注会社/受託会社のために)
■著者 : 三瀬 敏朗
■発行 : 2018年11月
■価格 : \2,800(税別)
■出版 : フォーラムエイトパブリッシング |
約30年間に渡って大手メーカー新規商品、特注品、試作機やマイコンソフトウェア等の受託開発に携わった豊富な経験にもとづいて、これからのスマート社会を支える上で不可欠な組込システム開発の考え方・知識・手法を紹介。システムを扱う経営、企画、開発、品質保証、発注/受託に関わる方は必読の手引き書です。 |
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