パーソナルデザインとは、見た目を飾り立てることではありません。前回もお伝えしたように、コミュニケーションをスピーディかつ豊かに育むために、自分の内面的な個性、言い換えれば自分のアイデンティティを初対面の相手に明確に伝える第一歩としてのキャッチデザインと言えます。企業ロゴはシンプルかつわかりやすく、ブランドイメージを明確に体現しているかが問われるように、パーソナルデザインもシンプルに自身の個性がデザインされているかが重要ポイントです。
つまり、「飾る」のではなく、「引き算」することこそ、まさにパーソナルデザインの考え方となります。
では、具体的なパーソナルデザインについてお伝えしていきたいと思います。
ベリーショートヘアを選んだ理由
「唐澤先生は、ショートヘアがお好きですね」とよく言われます。ある年齢を超えたクライアントには、男女ともショートヘアを、人によって私のようなベリーショートヘアスタイルをお薦めしています。私自身も、15年前にチャレンジしたベリーショートヘアスタイルを今でも貫いています。もちろん今では大好きなスタイルではありますが、もともと顔が大きいことをコンプレックスとしていた私は、30代まで顔が隠れるワンレングスのボブスタイルという髪形でした。しかし、パーソナルデザインを学んでいるうちに、顔を小さく見せる手段として最も適しているとされるベリーショートをこの道のプロとして選択したというわけです。
おかげさまで、「先生は顔が小さいからショートヘアが似合いますね」と言ってくださる人もいます。ほんとうは顔が大きい私ですが、ベリーショートヘアによって顔が小さく見えているだけなのです。プロの技にまんまと騙されてくださる方が多いことは嬉しいことです。
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30代の頃のボブスタイル(唐澤理恵) |
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もちろん、誰にでもベリーショートヘアをお薦めしているわけではありません。似合うと思われる人にしかお薦めしていませんが、そうはいってもかなり勇気のいることだと思います。しかし、勇気をもって挑戦したほとんどの人は、男女ともに周囲から褒められるという喜びの感想をいただいています。
ショートヘアの視覚効果
「髪が短くなると、顔が大きく見えるのでは?」と質問されることがあります。しかし、それは大きな間違いです。ほとんどの人は、髪が短くなることで顔全面が露出されることを気にしますが、他人はその人の顔だけを見てはいません。第一印象は全身からです。八頭身こそ憧れのスタイルであり、誰もがそうなりたいと思っていることでしょう。
洋服を着るようになった私たち日本人ですが、素敵に洋服を着こなすために、頭の大きさが全身の八分の一であることが理想です。頭というのは顔だけではありません。顔と髪形を含めて頭です。そのため、髪が長ければ長いほど、頭は大きく長く見えてしまうわけです。とくに私たち東洋人は髪が黒いため、そのボリューム感はさらに大きくなり、八頭身から遠ざかるというわけです。しかも、ただでさえ西洋人と比較して頭の大きな日本人が洋服を着用する場合、ロングヘアは避けたいところです。(図1)
身長が170cm以上、もともと小顔の人にはロングヘアもよいでしょう。しかしながら、そんなモデル体型の人は多くありません。つまり、多くの日本人にとって、ショートヘアが賢い選択と言えます。
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図1 髪の長さによる八頭身効果 |
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60歳を超えれば、ショートヘアに!
雑誌を飾る50代の美魔女たちは、年齢を感じさせない実に若々しい容姿です。うらやましい限りですが、残念ながらそんな女性も多くはありません。年を取ればそれなりの老化現象が現れます。顔にはしわやシミ、さらにはたるみを生じます。髪も薄くなってくることは避けられません。また髪そのものも若い時とは違い、傷んでカサカサしてきます。そんな状態でボリューム感を出すことは難しく、しかも量が多くなればなるほど傷んだ状態は目立ちますし、長さで根元が寝てしまい、より髪が薄く見えてしまいます。
さらに、髪が長いことで顔がより下がって見えるという目の錯覚現象をご存知でしょうか。そこで、ショートヘアに変えることで、目鼻立ちに上昇線がつくられ、顔そのものが上がって見えるのです。とくに男性の場合、耳の上をすっきりと刈り込むこと。日本人は顔の横幅が広いという特徴がありますが、サイドを刈り込むことで幅が狭くなり、小顔効果につながります。男性もサイドを刈り込んだことでこんなにすっきり若々しく見える。すべてにおいてプラス効果が得られるショートヘアに挑戦しない手はありません。(図2)
紳士に白髪染めは必要なし!
髪が一様に黒い私たち日本人にとって、「黒い髪=若い」「白い髪=老い」という先入観があるため、若く見られたい人は白髪染めを試みます。しかし、その努力がプラスに働いている男性は多くありません。染めて数週間もすれば、黒く染めたはずの髪は水道水の塩素の影響で赤茶色に変化します。ゴルフ場でよく見かけますが、太陽に照らされて赤毛の隙間から地肌が透けて見える様はあまり品が良いとはいえません。ましてや、根元部分に白髪が数ミリ光っていると痛々しささえ感じます。まずは、白髪染めをやめて、自然のグレイヘアを活かすスタイルに変えてみることです。
白髪染めをやめていただき、グレイヘアにしていただいた大手企業社長の皆さんも、最初は老けて見えることを気にされましたが、周囲からの評判も上々で、なにより自分自身が楽になったとおっしゃいます。当然、広報担当、秘書担当も最初は半信半疑。しかし、企業トップとしての品格が醸し出されたと喜んでいただいています。
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パーソナルデザイン例(グレイヘア) |
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眉は、顔の額縁です!
60代紳士とお会いする際、ヘアスタイルの次にチェックするポイントは、眉毛です。無造作に伸びている眉毛を見ると、ついついカットしたいという衝動にかられます。年を取るとなぜか眉毛がどんどん伸びます。村山元首相のようなナイアガラの滝風眉毛の人も稀にお目にかかります。もちろん、それがひとつの個性となればよいのですが、全身を若作りしているにも関わらず、眉毛だけ長いというのはいただけません。ましてや、眉毛が長いと眉尻が下がり、顔は下がってみえてしまいます。
眉毛のお手入れは長さを整え、上昇線をつくること。それだけで顔はきりっと精悍な印象に変化します。眉は顔の額縁であると言われますが、眉毛を整えるだけで顔の印象が大きく変わる。不思議なものです。
男性に限らず、女性も同じです。眉の描き方ひとつで、優しい印象にもなり、知的にもみえる。眉を侮ってはいけません。(図2)
柄物ファッションを避けて、10歳若く美しく!
ファッションにおける引き算式は、ワードローブから柄物アイテムを省くことから始めます。服装の組み合わせを苦手とする人は、柄物を着ていればそれだけで着飾れると思ってしまうようです。しかし、柄物自体に存在感があるため、他との組み合わせが難しく、ちょっと間違えると野暮ったい印象をつくってしまいます。
まずは、ワードローブにはシンプルな無地のアイテムを揃えていくことをお薦めします。唯一、柄が許されるのは、男性の場合、ネクタイとチーフでしょうし、女性の場合、スカーフやストールと考えておけば間違いはありません。その場合でも柄の選び方には注意しましょう。(図4)
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柄にばかり視線が! |
全体に視線が行き届きます |
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パーソナルデザイン例
(無地のコーディネイト) |
図4 柄物ネクタイと無地ネクタイ |
ファッションコーディネイトは、配色から!
無地と無地の組み合わせもファッションが苦手な人にとっては簡単ではありません。そこで、下の公式に沿って服装選びをされることをお薦めします。
ベースカラー(基調色) + アソートカラー(配合色) + アクセントカラー(強調色)
ベースカラーは、表現したいイメージの中心になる色で、スーツやワンピース、ジャケット、パンツ、スカートなどのように最も大きな面積を占める色です。男性の一般的なスーツの色(濃紺、黒、グレイ、ダークグレイなど)から選ぶと間違いはありません。
アソートカラーとは、ベースカラーを引き立て、イメージを明快にする色です。シャツやブラウスにその役割があり、白こそ基本となるアソートカラーです。
アクセントカラーとは、文字通り強調したい部分に使う色で、全体を引き締め、華やかに演出してくれます。スカーフやネクタイなど、小さな面積に使います。 組み合わせ(1)は、ベースカラーとしてのこげ茶をパンツとネクタイ、チーフに使っています。この場合、アソートカラーは白とこげ茶のツイードジャケット、シャツの白がアクセントの役割を果たします。ベーシックカラーをアクセントに使うことで華やかに見せるコーディネイトです。
組み合わせ(2)は、(1)の変化型です。ベースカラーはツイードのジャケットとこげ茶のパンツ、アソートカラーは明度の低いデニムブルーのシャツ、オレンジのネクタイがアクセントカラーの役割を果たします。
組み合わせ(3)は、濃紺のジャケットとジレがベースカラー、白のパンツがアソートカラーとして全体を引き立てています。濃紺と白のチェック柄シャツを添え、ブルーのネクタイとともにアクセントの役割を果たします。さらに、靴の茶もアクセントカラーの役割を果たすという上級者コーディネイトと言えます。
とにもかくにも、与えられたカードは3枚、ベースカラーとアソートカラーとアクセントカラー。その3枚をいかに活用するかが、センスの良し悪しに繋がります。(図5)
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組み合わせ(1) |
組み合わせ(2) |
組み合わせ(3) |
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無いものねだりはタブー!
私たちの顔は千差万別。かわいらしい童顔の人、すっきりとした端正な顔立ち、元気で健康そうな顔、野性的でゴージャスな顔立ち、顔にはいろいろなタイプがあります。30年ほど前に「醤油顔とソース顔」というタイプ分けが流行りました。近年では、映画『テルマエ・ロマエ』の平たい顔族は日本人顔を揶揄した表現です。
顔というのは私たちの個性をつくる、ひとつのデザインです。そのためトータルコーディネイトを考える上で、顔のデザインを中心に考える必要があります。ところが、私たちは皆、無いものねだり。童顔の人は、野性的な顔に憧れ、野性的な顔の人は可愛らしい顔にあこがれる。結果、自分の顔のデザインとは逆のデザインのファッションを身に着けてしまう。まさに大きな落とし穴です。
童顔の人が野性を目指しても、本来、野性的な印象の人にはかないません。であれば、童顔で勝負することこそ、パーソナルデザインの最適な戦略です。(図6)
パーソナルデザインは、いかにシンプルに自分自身の個性を際立たせるかがポイントです。私たち自身が主役ですから、髪形や服装を盛りすぎて、そちらが主役のように目立ってしまうようではいけません。脇役として、主役である自分自身を引き立ててくれるデザインとは?次回をお楽しみに!
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図6 顏タイプによるファッションイメージ |
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【参考文献】
・『できる人はなぜ「白シャツ」を選ぶのか』唐澤理恵著 2014 PHP研究所
・『「見た目」で誤解される人』唐澤理恵著 2009 経済界 |