量子コンピュータとは
量子コンピュータとは量子力学の原理に基づくコンピュータです。そのアイデアは古く1980年代に生まれています。物理学者のリチャード・ファインマンが量子力学の原理で動作するコンピュータの必要性を指摘したことに端を発し、物理学者のデイヴィッド・ドイッチュにより量子チューリングマシンが定式化されました。
その後、90年代中頃から多くの研究が進められ量子情報科学という学術分野が形成。98年には当時NECに在籍していた中村泰信や蔡兆申が世界で初めて超電導回路を使った量子ビットの開発に成功しました。しかし、00年代中頃になると大規模な量子コンピュータ実現の難しさが浮き彫りになるなどして停滞期を迎えます。その後、2011年にカナダのD-Wave社が量子コンピュータを発表したのをきっかけに、GoogleやIBMなどが研究に本腰を入れはじめました。そしてここ数年、様々な量子コンピュータ発表されています。
今回は量子コンピュータを理解するのに重要なキーワードを説明していきます。
量子力学
量子力学は、ニュートン力学や電磁気学といった古典力学では説明がつかない現象に対して、これらの力学を統合する形で1920年頃に構築されました。対象とするのは原子や電子などミクロな世界の物理現象です。“量子”とは、粒子と波の性質をあわせ持つとても小さな物質やエネルギーの単位のことです。原子を構成する電子、光を粒子としてみたときの光子などがその代表的なものです。
量子には、私たちの日常の感覚とは異なる現象や性質があります。その一つが“重ね合わせ”です。例として、真ん中に仕切りがある箱にボールや電子を入れた場合を考えます。日常の世界でボールは「右にある」か「左にある」かのどちらかです。しかし電子の場合はどちらかに確定せず「右にも左にもある」という状態になります。これを“重ね合わせ”状態と呼びます。そして電子がどちらにあるかは観測するまで決まらない、観測したらその時点で確定するという性質があります(図1参照)。
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図1 |
計算原理
現在のコンピュータでは文字や絵などの情報を「0」と「1」で表現します。この情報単位をビット(あるいは古典ビット)と呼びます。コンピュータ内部では電圧の高低や電荷の有無で情報を表現します。
量子コンピュータでもビットで情報を扱うのは同じですが、量子力学の考え方を適用し“量子ビット”と呼びます。量子コンピュータ内部では電子1個や光子1個で情報を表現します。量子ビットは「0」か「1」の値のいずれかではなく、「0と1の重ね合わせ」状態をとることができます。例えば、量子ビットがnビットあれば2のn乗の重ね合わせ状態を同時に表現、演算が可能です。この性質を利用し、膨大な組合せの最適化計算などが、現在のコンピュータより高速に処理できる事になります。
2つの方式
現在開発されている量子コンピュータには2つの方式があります。
量子ゲート方式
現在のコンピュータがビットに対してAND, NOTなどのゲートを適用するように、量子ビットに対して回転ゲート、制御NOTゲートなどを適用して計算を実現する方式です。理論的にはどのような計算も可能な汎用コンピュータが実現できます。現時点で実際に動作に成功しているものは数量子ビット程度のもので、それほど性能は高くありません。しかし、計算の種類によっては50量子ビット程度で現在のスパコンよりも性能が上回るとの見解もあり、今後の技術開発による実現が期待されています。
量子アニーリング方式(量子イジングモデル方式)
最適化問題を解く為の探索アルゴリズム”焼きなまし法”と似た手法を使って計算を行う方式です。この方式は量子ゲート方式のように汎用性はありませんが、経路最適化、機械学習、画像処理などに向いていると考えられます。2011年にD-Wave社が発表したものはこの方式です。
現在の量子コンピュータ
IBM Q Experience、IBM Q System One
IBM Q Experience は、IBM社が2016年からクラウドで公開しています。量子ゲート方式で公開当初は5量子ビットでしたが、2017年に16量子ビットの「QISKit」も公開されました。
IBM Q System OneはCES2019で発表された量子ゲート方式の世界初商用量子コンピュータです。20量子ビットと性能はあまり高くないですが、1辺が2.7mの立方体内に全て納めたシステムです。
D-WAVE 2000Q、クラウドサービス Leap
D-WAVE 2000Q は D-Wave社から販売されている量子アニーリング型のコンピュータです。これをクラウドで利用できるサービスがLeapです。サインアップするだけでD-WAVE
2000Qへ1分間の無料アクセスが可能です。
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