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Academy User vol.9

東北大学

未来科学技術共同研究センター(NICHe)

独自に進化させたDSを駆使し震災、
自動運転およびHMIを柱とする研究に従事
文科省プロジェクトを機に蓄積データと
UC-win/Roadが連携するDSを構築

Academy Information

東北大学未来科学技術共同研究センター
URL ● http://www.niche.tohoku.ac.jp/
所在地●仙台市青葉区
研究内容●ライフサイエンス、環境、情報通信、ナノテクノロジー・材料の各分野における産業界と連携した先端的かつ独創的な開発研究

▲東北大学未来科学技術共同研究センター 本館

「震災」をキーワードにそこからの復興や減災・防災に資する研究、それより以前から取り組んできた自動運転、および人間−機械系で人とクルマのインタラクティブの部分をどうすれば良いかというHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)に関する研究開発の3つを自らの活動の大きな柱と位置づけ。地域の産業社会をはじめとする産学官とのネットワークがそれらを駆動する重要な枠組みになっている、と東北大学未来科学技術共同研究センターの山邉茂之准教授は描きます。

そのような一環として、自身が東京大学在籍当時から文部科学省東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトに参加。東北大学移籍後は同プロジェクトにおける「エネルギー・モビリティマネジメントシステムの研究開発」(実施者:東京大学および東北大学)を通じ、以前から着目していたというフォーラムエイトの3DリアルタイムVR「UC-win/Road」を、他社製シミュレータからのデータを活用するためのデータコンバータ(OpenFlightフォーマットコンバータ)とともに2015年、導入しています。

NICHe多賀城拠点の位置づけ

山邉准教授が東京大学から東北大学へ移ったのは、東日本大震災の翌2012年。同震災では、日中に地震が発生した後、多くの人がクルマで避難しようとして沿岸部の各所で渋滞を来した結果、津波に飲み込まれ、犠牲の増大に繋がったことが知られています。また、その1年半後に大きな余震があった際、そうした経験をしているにもかかわらず、避難の手段としてクルマを利用する傾向が依然高く見られました。そこで、震災時に渋滞を起こさず、クルマをいち早く安全な場所へ逃がすにはどうすれば良いかが、赴任早々自らの研究テーマに設定されたと振り返ります。

東北大学未来科学技術共同研究センター(NICHe)は1998年、社会のニーズに対応する新しい技術や新しい産業分野の創出を提案すべく、産業界との共同研究を推進し、先端的かつ独創的な研究開発を行うことを目的に設置されました。具体的な活動のベースはNICHe開設当初、7つの研究開発プロジェクトでスタート。以来、着実に研究体制を拡充し、東北大学青葉山キャンパス(仙台市青葉区)を中心に現在、ライフサイエンス、環境、ナノテク・材料、情報通信の4分野にわたる20以上の産学連携プロジェクトが進行中です。
 
▲山邉茂之准教授

一方、2011年3月に東北地方を中心とする広範なエリアを襲った東日本大震災により、ソニー株式会社仙台テクノロジーセンター(宮城県多賀城市)でも工場が浸水し、機械設備を損失するなど甚大な被害を生じました。そのため同社は、同センターの役割を見直し、そこでの生産を各工場に分散。これを受け、同センターに空き建屋が生じたことから、その一部区画を地域の早期復興のために活用しようという「東北ものづくり復興拠点構想」が浮上。東北大学をはじめ関係する県や市、産業界が構想実現に向けた協議を重ねました。その結果、2011年10月に公益財団法人みやぎ産業振興機構が運営管理するイノベーション創出拠点「みやぎ復興パーク」を創設。これに合わせて、NICHeも同パーク内に研究拠点を設けています。
その半年後の2012年度から山邉准教授はNICHeの現職に就任。同パーク内の次世代移動体システム研究プロジェクト多賀城拠点をベースに、冒頭で触れた3分野を柱とする研究開発に取り組んできています。

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▲NICHeの目的(NICHeパンフレットより)

DSの特性を活用した自身の研究の流れ

東北大学への移籍前、山邉准教授は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「エネルギーITS(高度道路交通システム)推進事業」(2008年度〜2012年度)に参加。自動運転技術に関連し、トラックの自動運転隊列走行において短い車間距離の走行がドライバーにどのような緊張を与え、どの程度の車間距離であれば自動運転システムに不具合が生じたとしてもドライバーが危険回避できるかなど、実車実験では確認できない事象をドライビングシミュレータ(DS)で構築。それを用いてドライバーの心拍や発汗などの生体信号から評価することを試みました。また、実車に搭載するHMIのデザインや操作性などの評価も同DSを使い実施しています。

東大在籍時から着手し、東北大移籍の契機ともなったもう一つの取り組みが、文科省による東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクトの「エネルギー・モビリティマネジメントシステムの研究開発」です。これは、災害に強く地域の持続的な発展を支えるべく、従来個別に管理されてきたエネルギーとモビリティとを統合するマネジメントシステムを東大と東北大が共同で研究開発したもの。そのうち同准教授は、電気自動車(EV)を活用するシステムの構築が難しい実車での実験に替え、DSによる事前評価を目指しました。

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▲文科省東北復興次世代エネルギー研究開発プロジェクト 「エネルギー・モビリティマネジメントシステムの研究開発」

「(被験者がクルマで)走行しながら(そこに)地震の揺れを与えることが出来るのです」。一連のプロジェクトでの利用を通じ実感されたDSの優れた特徴の一端を、同氏はこう表現します。つまり、地震はいつ起きるか分からない。そのため、運転中に地震が起きた場合のドライバー行動に関する研究はこれまで困難でした。それが、DSを用いることで地震を模擬した条件を与えた時にドライバーがどう反応し、どのような情報提示を行えばドライバーがすぐに理解し的確な行動に移るか、といった多様な研究が可能になったといいます。

加えて前述のように、東日本大震災ではクルマでの避難が注目されました。その反面、従来の避難訓練は徒歩に基づくのが一般的でした。ただ、クルマに乗った状態で地震(および付随する津波)が発生した場合の避難の仕方は様々にあるはず。そこで同氏らは、クルマによる避難の安全性を高める研究に向け、災害をDS上で体験できる仕組みを構築。それを利用した検証、あるいはゲーム感覚の体験を通じ、最も有効なドライバーへの情報提示の方法についての検討も進めています。

「地震があった場合の避難場所は地域である程度決められています。例えば、自分のいる場所から避難所へのルートをナビゲートすることは可能なため、その行き方を(緊急事態のドライバーに)最適な形で提案できればと思っています」

UC-win/Road導入の流れと研究用DSの特徴


▲導入したOpenFlightフォーマットコンバータによるUC-win/Road動作の様子

「文科省のプロジェクト(エネルギー・モビリティマネジメントシステムの研究開発)ではシミュレータでいろいろ検証するため、実空間をCGに起こさなくてはいけないのですが、勾配(の表現)をはじめその作成には、これまで非常に手間がかかっていました」

東大在籍時に同プロジェクトに携わっていた頃からそうした課題に直面。それに対し、UC-win/Roadであれば作業に必要なコンテンツが揃っており、比較的短時間かつ容易に様々な世界をCGの仮想空間で構築できることに着目。数年前からその採用を模索していたが、保有する他社製ソフトとファイル形式が異なることがネックとなり、導入を断念した経緯がありました。

それが自身、NICHeの次世代移動体システム研究プロジェクト多賀城拠点に移り、何もないところから設備を整えてくる中で、2年前に同プロジェクトの一環として現場の実情に即したシステムを開発するため、宮城県石巻市街地などを早急に3D・VRで再現する必要に迫られた際、改めてUC-win/Roadの活用を着想。昨(2015)年ようやく導入に至りました。

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▲UC-win/Roadで変換・構築したデータを連携し三陸自動車道河北ICを3D・VRで表現

「個人的には(既存ソフトではこれまで相当の負担となっていた)勾配の作成を簡単に出来るというのが一番です」。東北地方には山岳部が多く、従来手法で一つひとつ勾配を作成していてはそれだけで何カ月も要しかねない。それを軽減したいという狙いからUC-win/Roadの利用が強く望まれたといいます。
加えて以前、UC-win/Road導入の阻害要因となっていた既存ソフトで作成されたデータとの連携の問題は、OpenFlightフォーマットコンバータを介することでクリア。UC-win/Roadベースでのシナリオ構築の時間短縮を可能にしました。

その他、山邉准教授が保有するDSの特徴として、地震の起こりやすい地域性を考慮し、一般的な天井から吊るすタイプのスクリーンではなく、高精細でリアプロジェクション方式の表示装置を採用。また、映像は、遅れを生じさせないため台形歪み補正なしで適正に表示できるよう改造。他社製の6軸動揺装置の上に、同氏らが独自に用意した中古の実車体をフルボディで設置。車の振動の伝達を考慮して、サスペンションの機能は無効にしているが機構は残し、動揺装置からの振動をサスペンション部を介して車体に伝達させるここだけの独自の設置方法となっている。さらに、東大との共同開発の成果として、CGの道路と実画像の背景をコンピュータで合成して映し出す手法も導入しています。

 
▲山邉准教授を中心に構築した研究用DSシステム(※シミュレータ本体は他社既存設備)

UC-win/Road利用の新たな展開、今後への期待

「(これまでそれぞれ個別のシステムで動かさざるを得なかったのが、OpenFlightフォーマットコンバータの開発により)今回、ここで2社の(ソフトで作成した)モノが同時に動くようになり、他にない(画期的な)こと」と、山邉准教授はその意義を説きます。

また同氏が現在、最もウェートを置いて取り組んでいるテーマの一つが、高齢者の逆走対策。そこでは、実際の問題箇所をUC-win/RoadなどによりVRで再現し、各種対策を施した上で、国土交通省とともに走行実験を実施。定量的な対策効果が認められたものを現場に導入していこうという流れにあります。
さらに、UC-win/Roadの豊富なコンテンツを活かし、シミュレータならではの、実車では不可能な多様な危険シーンをよりリアルに再現。それを逆走対策や生体モニタリング、自動運転技術の開発などのプロセスに活用していきたい考えを述べます。

一方、その使い勝手の良さから少なからぬ地元企業でもUC-win/Roadを保有しており、DSを持たないそれら企業からは机上の試験だけでなく、実際に動くもので試したいという声も聞かれるといいます。同氏が取り組んでいる文部科学省のプロジェクト(地域イノベーション戦略支援プログラム 東日本大震災復興支援型 国際競争力強化地域 「次世代自動車宮城県エリア」)の活動の一環として、DSを共用施設として企業に利用してもらえる枠組みとしており、その意味で、DSとソフト、あるいはソフトのみを保有する組織同士が必要に応じて連携できるよう、当社主導の枠組みづくりにも期待していると語った。


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