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Academy User vol.11芝浦工業大学 システム理工学部機械制御システム学科
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JR東大宮駅との間を頻繁に発着するスクールバスで約5分。同大大宮キャンパスの開校(1966年)50周年を機に設置されたばかりの校門を抜けると、「グリーンキャンパス」を標榜する通り、木立をバランスよく配した学舎群へと導かれます。その一角にある建物の、「運転支援システム研究室(伊東研究室)」とシミュレータを収容する「実験室」とを結ぶ通路からは、メイン階段の上方に大きく開けた窓ガラス越しに広がる紅葉した林が印象的でした。 |
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▲芝浦工業大学校舎 |
伊東教授が芝浦工業大学に赴任したのは、2013年春。それまで30年以上にわたり勤務したダイハツ工業株式会社では、自動車関連の多様な研究開発を担当。その一環として軽自動車向けでは初となる「最近はやりの、ぶつからないクルマの初期段階」というプリクラッシュセイフティシステムの開発にも携わっています。
「企業の中(の研究開発)ではどうしても製品主体になるなど、いろいろ制約があります」。つまり、着目したシステム自体に価値があったとしても、それがクルマに合わなければ必ずしも採用され得ない。大学であればアカデミックな観点からそうした分野にも光を当てられるのではと期待されました。とはいえ、自動車メーカーのように実際にモノを開発したり、必要なテスト走行を行ったりするのは容易ではありません。そこで、同教授は優れた各種アプリケーションソフトやDSを駆使。走行中のドライバーの反応や、自動運転時のドライバーとのインターフェースなどに関する解析・研究にウェートを置く傍ら、自動運転関連のセンシング技術を応用して完全自動運転が可能なロボットの実現に向けた研究も手掛けつつあるといいます。
同大の前身となる東京高等工商学校(東京・大森)の創設は、1927年に遡ります。その後、組織の改編・移転を重ね、戦後の学制改革を経て1949年、現行の芝浦工業大学(東京都港区)が創立されました。1966年には芝浦キャンパスに加え、大宮キャンパス(現在の埼玉県さいたま市)が開校。1991年にシステム工学部が設置され、その中に機械制御システム学科も開設されました。また、2006年には豊洲キャンパス、2009年には旧芝浦キャンパス跡地に芝浦キャンパスがそれぞれ開校。システム工学部は2009年からシステム理工学部に名称変更されました。
現在、同大は工学部(11学科)、システム理工学部(5学科)およびデザイン工学部(1学科)の3学部のほか、大学院(2研究科)により構成。学部生・大学院生合せて8千人超が豊洲、大宮、芝浦の3キャンパスで学んでいます。 同氏が所属する「システム理工学部機械制御システム学科」では、学問体系を横断して関連づけるシステム工学の手法を軸に、高機能ロボットや次世代自動車、クリーンエネルギーなどの各種機械制御システムについて学習。特に同氏が担当する「運転支援システム研究室」は、自動車工学を踏まえ、ドライバーの運転特性を解析して効率性や快適性、安全性の面から最適な支援に繋がるシステムや情報提供方法について探求しています。同研究室には現在、大学院生と学部生合せて27名(そのうち3名は留学生)が在籍。提携するアジアの大学からの留学生が多いのも同大の特徴です。 |
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▲芝浦工業大学システム理工学部機械制御システム学科の皆さん |
自身が自動車メーカーに勤務当時、国土交通省の推進する先進安全自動車(ASV)に取り組み始めて以降、伊東教授は「ぶつからないクルマ」の多様な研究に深く関与。それと並行し、ISO(国際標準化機構)の委員としてITS(高度道路交通システム)に関する専門委員会で走行制御に関係する協調システムの標準化を扱うTC204/WG14の日本代表を務めるなど、先進の業界動向にも精通。そうした中から、「運転支援で自動車を変えていく」世界が大学研究者としての自らの新たなターゲットに位置づけられました。
その具体的な対象の一つが、「人間の無意識の意識みたいなところ」の解析。これは、ドライバーによるハンドルやブレーキなどの操作はそれまでの学習がベースとなって、無意識のうちに行われているのがほとんど、との考え方に立つもの。近年、自動運転に向けた開発が熱を帯びているとはいえ、完全な自動運転の実現にはまだしばらく時間がかかりそうで、それまでの間は状況に応じて人間(手動)に切り換える必要があるはず。したがって、そこではドライバーの無意識の反応や行動、クルマとのインターフェースについて知ることが重要になると考えられた、といいます。
もう一つは、完全な自動運転のロボットの開発です。クルマの自動運転では、運転支援システムから人間との切り換えが必要な運転システム、次いで高速道路の走行から一般道路の走行への対応、と段階的に開発が進められていきます。ということは、自動運転を最も必要とする高齢者や障害のある方々が使うシニアカーや電動車いすにその恩恵が及ぶまでさらに時間を要しかねない。 | ||
ということは、自動運転を最も必要とする高齢者や障害のある方々が使うシニアカーや電動車いすにその恩恵が及ぶまでさらに時間を要しかねない。そこで、大学発のシニアカー向け完全自動運転の開発が着想されています。 一方、同大には自動車関連の様々な領域で取り組む数多くの研究者が在籍。3つのキャンパスに分散してそれぞれ個別に活動している実態があります。伊東教授は2014年、そうした学内の研究者を連携する形で「先進モビリティコンソーシアム(ADAM)」を組織。「21世紀のモビリティの新しい価値観創出を目指して」をそのコンセプトに掲げ、毎年春と秋には発表会を開催しています。次回は2017年3月16日大宮キャンパスでの開催を計画、自動運転に関係するゲストスピーカー(自動車メーカーと交渉中)の講演、参加する研究室の教員や学生による研究発表、UC-win/Road DSの試乗などが予定されています。 |
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▲芝浦工業大学 システム理工学部機械制御システム学科 伊東敏夫教授 |
「渋滞に陥った時、『やはり渋滞になったか』と思うことが昔からあって、それは多分、渋滞の前触れを無意識に感じていたのだろうと考えていました」
伊東教授は同大に赴任してすぐ、ドライバーの無意識行動の研究に着手した背景をこう振り返ります。そのため、まず前任者から引き継いだ古いDSを使い渋滞の前兆状態を作成し、それを基に走行中のドライバーのハンドルやペダルの操作を解析。渋滞していない状態と渋滞の前触れ状態との差異を探りました。
そうした過程でDSの利便性を改めて認識。ただ、既存のDSでは新しいコースをそれ自体で作成できず、決まったコースしか走行できない制約がありました。それで新しいコースを作成しようとすると、CGのアプリケーションソフトで一々作成し、それをDSに取り込む必要があり、生産効率の悪さが課題となっていました。
そのような折、2014年に東京で開催された高校(兵庫県立長田高校)の同窓会に参加。会場で偶然、当社社長の伊藤と隣席したことでUC-win/Road DSについて知り、自身の研究目的に合致し、従来DSの課題解決にも繋がるのではとの印象が持たれました。
2016年度になって予算化できたのを受け、DS導入の具体化に向けて検討。8月に2軸モーションプラットフォームのUC-win/Road DSを導入しています。
当面は「人間との切り換えのある自動運転」になるとの想定の下、ドライバーが外部環境を監視できるような状況にあるかどうかの判定を、ドライバーの生体信号解析によって行うという研究目的を設定。そのためのツールとしてDSと、自動運転を行う実車の利用が考えられました。とはいえ、実車での自動運転の実験は単独では出来ないことから、まず首都高速を再現したコースを搭載するDSを準備。それを使って自動運転で走行するドライバーに各種のタスクや課題を与える実験を通じ、脳波や脳血流などの生体反応を観測。実車の利用が可能になった段階でその実験結果とドライバー状態に相関があるか、差異があるとすればどういうところか、などを探ろうとのアプローチが描かれました。
そこで同研究室では、システム理工学部機械制御システム学科4年の阿部晃大さんがUC-win/Roadの基本的な使い方を学んだ後、約1カ月かけて実際の首都高速都心環状線を再現する形でコースを作成。今後は、1)ドライバーが興味を示すような情報の提示、2)自車の周りの交通情報やアドバイスの提示、3)眠気防止のための負荷の低いタスクの依頼 ― などの観点から様々な課題を抽出・整理していく考えです。
前述のシニアカーの自動運転に関する開発にあたって、伊東教授は自身の研究室単独のみならず、ADAMを通じた共同プロジェクトとしての取り組みを構想。例えば、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年に向け、ネットワークロボットを開発している他の研究室と連携。自動運転機能を搭載したネットワークロボットを、豊洲キャンパスを中心とするベイエリアに複数配置し、海外からの来訪者に道案内をするといったイベントを計画しています。
また、ネットワークロボットやシニアカーの自動運転では屋外や建物内をシームレスに移動するシーンを考慮する必要があります。さらに、近年は脳と機械を直接繋ぎ、脳情報を利用するBMI(ブレインマシンインターフェース)技術に関する研究開発が盛り上がりを見せており、同教授はドライバーの生体反応を観測するプロセスへの活用も視野に入れています。
一方、そうした分野向けの研究では、従来のDSにない様々な表現への対応も求められます。同教授は、「新しいコースを作りやすく、映像品質にも非常に満足しています」と、今回導入したDSを高く評価。その上で、今後の活動に合わせた発展的な活用の可能性にも期待を示します。
(執筆:池野隆)
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