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Users Report ユーザ紹介/第102回
パシフィックコンサルタンツ株式会社
交通基盤事業本部構造部/マネジメント事業本部交通政策部
シミュレーションをはじめCIM 関連の要素技術では豊富な蓄積
交通系でのノウハウ活かし、津波避難シミュレーションにも力 |
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User Information |
パシフィックコンサルタンツ株式会社
URL ● http://www.pacific.co.jp/
所在地●東京都新宿区
事業内容●橋梁をはじめとする道路構造物の設計や維持管理
交通系全般の事業に関する交通シミュレーションと評価、津波避難シミュレーション
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早くから3 次元(3D)CAD を導入。橋梁をはじめさまざまな構造物のデザイン提案に際しては、それまでの模型に代え、3D CAD データを基にCG
でシミュレーション。立体視で動かして見せるといった手法を10 年以上前から実践してきた、と語るパシフィックコンサルタンツ株式会社交通基盤事業本部構造部橋梁設計室次長の伊東靖氏。線形データを基に土工の数量を計算するようなシステムにいたっては20
年以上前から採り入れてきたと振り返ります。
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▲交通基盤事業本部構造部橋梁設計室 次長 伊東靖氏 |
これらは言わば、近年注目を集めているCIM(Construction Information Modeling)にも繋がる要素技術。同氏らはそれらを長年にわたり自らの仕事に必要な周辺技術として用いながら、先進のICT(情報通信技術)活用に精通する機会を積み重ねてきたといいます。
今回ご紹介するユーザーは、わが国建設コンサルタント大手のパシフィックコンサルタンツ株式会社。そのうち、この交通基盤事業本部構造部と、各種交通系の事業を通じ交通シミュレーションのノウハウを蓄積してきたマネジメント事業本部交通政策部に焦点を当てます。
交通基盤事業本部構造部は、橋梁を中心とする道路構造物の設計や維持管理を担当。古くからのフォーラムエイト製品ユーザーであり、その導入されている製品分野は設計や解析からシミュレーションまで広範に及びます。一方、マネジメント事業本部交通政策部は十数年以上にわたって交通シミュレーションに携わり、近年では交通シミュレーションを応用した避難シミュレーションの開発。その中で、別途行われている津波シミュレーションの結果を重ね合わせた津波避難シミュレーションの3D動画の高度化を図るために当社の3次元リアルタイムVR「UC-win/Road」を2年前から導入されています。
パシフィックコンサルタンツ株式会社(PCKK)は1951年、米国法人パシフィックコンサルタンツ・インコーポレイテッドとして創立(1954年に現行法人へと組織変更)。創業以来60年余りを経る間に、社会資本の整備や維持管理、あるいは防災、建築などに関わる幅広い事業を通じ、わが国建設コンサルタント業界をリードする実績を築いてきました。
同社のコンサルティング業務は、マネジメント事業分野、交通基盤事業分野、国土保全事業分野、事業開発分野、国際事業分野に大きく分けられます。その活動を支える約1,500人の社員が、本社(東京都多摩市)をはじめ首都圏本社(東京都新宿区)、北海道支社、東北支社、北陸支社、中部支社、大阪本社、中国支社、四国支社、九州支社、沖縄支社、および各本社・支社管内の事務所(計38事務所)、つくば技術研究センターなどに配置されています。
また、2000年にパシフィックコンサルタンツグループ株式会社(PCIG)が設立され、PCKKは現在、PCIGの他の子会社5社や関連会社2社、PCKK
の子会社9社とともに企業グループを構成しています。
そのような同社を特徴づける一端が、ICTでの優位性をベースとする特殊技術の開発や独自システムの構築、そして冒頭で触れた3D CADやシミュレーションなどCIMに繋がる要素技術活用の蓄積です。
最近開発された技術的成果の一つが、走行型トンネル点検システム「MIMM」。これは、点検者による評価のばらつきや見落とし、変状進行性の判断の難しさ、非効率性など現行のトンネル点検における課題に対し、高精度レーザやCCDカメラ、LED照明を搭載した車両でトンネル内を走行しながら点検するもの。交通規制を要せず、現況や変状状況を迅速、客観的かつ高精度に把握。変状に位置情報を持たせてデータベースを構築し、維持管理のための有効なデータ提供も可能になる、としています。
また、マネジメント事業本部に属する情報システム部では社内の各分野で蓄積された要素技術を複合し、総合コンサルタントとしての優位性を創出しているとともに、対外的なITソリューションへも対応。交通基盤事業本部構造部複合技術室主幹の小沼恵太郎氏は最近の傾向としてインフラの維持管理を効率化するデータベースシステムやそのシミュレーション向けニーズの増大に注目します。
これらのベースにあるのは、同社のICT活用に対する早くからの積極的な取り組みと、それによるノウハウの浸透です。伊東靖氏はICTの活用シーンを、構造物が出来る前(設計やシミュレーション)と、出来た後(出来形管理)という2
つのフェーズに整理。前者については、構造物の建設という実物模型での実験やつくり直しの出来ない仕事の性格上、シミュレーションがもとより重要なことに加え、ICT重視の社風とICT活用環境の急速な向上を背景に、高度化・複雑化する設計プロセスの効率化を推進。後者については、出来形管理にICTを採り入れ履歴データを蓄積していくことで、後々の補修・補強における変状進行性の適正な判断にも繋がる、と解説します。
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▲走行型計測車両
(YouTube同社公式チャンネル「Pacifi cConsultantsJP」『走行型トンネル点検車による成長戦略の提案』 より) |
今回お話を伺った交通基盤事業本部は、主に道路や鉄道、航空などの交通基盤の整備に従事。事業評価や整備計画、計画設計、構造設計、建設管理、維持管理などの業務を総合的にカバーしています。そのうち、構造部が扱うのが、橋梁を中心とする道路構造物です。
同社では提案型の発注形態が比重を増すのに向け、付加価値としてのシミュレーションに着目。UC-win/Roadの導入(2006年)に至っている、と同部橋梁保全室課長代理の大宅克幸氏は振り返ります。それとは別に、元請けとして複数協力会社とやり取りする機会の多い事情から、同社はもともと多種多様なソフトウェアを保有。その後、それらを集約する必要に迫られる中、基本的にフォーラムエイト製品に揃えられてきました。次いでそれを機に、WAN上で当社製品のライセンスを集約し、全国からアクセスして使えるようなシステムの構築も図りつつあります。
その中で伊東靖氏は、橋梁設計室でとくにデザイン面にウェートを置く橋梁を設計。そうした経緯もあって、同室ではいち早く3D CADを導入。加えて、CGによるシミュレーションを用いた提案手法が10
年以上前から多用されてきました。
これと関連し、橋梁保全室で主に新設橋梁の詳細設計に携わる大宅克幸氏は近年、複雑な構造に対しては動的解析を行いながら設計を収束させていく流れにある、と概説。併せて、そのような業務成果は走行シミュレーションにより出来るだけ完成イメージを分かりやすい形にして納品すべく心掛けている、といいます。
一方、既設橋梁の点検や調査、補修・補強設計を担当する同部橋梁第一室課長代理の東洋平氏は現場作業が中心で設計や計算のウェートはあまり高くないとしながらも、耐震補強設計など部材について細かな説明を要するケースでは当社ソフトウェアを主に利用。最近はそのようなプロセスへの3Dデータの利用も進みつつある、と語ります。
さらに、同部内に昨年設置されたばかりの「複合技術室」は、橋梁の設計技術をベースに他部門と連携しつつ新事業の開発を目指しています。小沼恵太郎氏は、そこでは当社ソフトウェア技術との融合も幅広く検討されている、と述べます。
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▲左から、交通基盤事業本部構造部複合技術室主幹 小沼恵太郎氏、
橋梁保全室課長代理 大宅克幸氏、
橋梁第一室課長代理 東洋平氏 |
交通政策部:交通系での蓄積を基に津波避難シミュレーションの開発へ |
今回ご紹介するもうひとつのマネジメント事業本部は、行政経営からまちづくり、循環型社会の構築、都市や社会空間の形成など多様な分野のマネジメントに対応。そのうち、交通政策部では自動車、歩行者や自転車、鉄道、航空などあらゆる交通に関わる分析や計画を展開。そうした計画の評価において動的な解析として交通シミュレーションに長年取り組まれてきました。
東日本大震災(2011年)以降、避難への注目が高まってきた中、それまで社内の別の部門で蓄積されてきた津波に関する解析の成果をVR化したいとのニーズが浮上。同部でも交通シミュレーションを応用した避難シミュレーションを開発しており、津波と避難の2つのシミュレーションの結果を融合できないかということから、UCwin/Roadを2年前に導入。3D VRによる津波避難シミュレーションの開発が取り組まれてきている、と同部交通戦略室の札本太一氏は説明します。
これまでに、沿岸地域の街をモデルに津波被害の発生を想定。津波対策が取られる前と後とで、時間の経過とともに変化する避難の様子をVR で比較するシミュレーションを作成。その成果の一端はYouTubeの同社公式チャンネル「PacificConsultantsJP」( 今年8月13日開設、http://www.youtube.com/user/PacificConsultantsJP)などで既に発信しているほか、10月のITS世界会議東京2013 などのイベントを通じ公開していく予定です。今後はさらに、具体的なプロジェクトの計画作成と連携したより高度な避難シミュレーションおよびVR動画の開発を進めていくとしています。
同部の吉池輝雄氏は自身らのVR活用の狙いについて、避難シミュレーションは、住民説明など多くの人に見て検討してもらう必要があり、わかりやすくなければならない。そのためにも、わかりやすいVR動画の開発は必要である、と述べます。
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▲左から、マネジメント事業本部 交通政策部 交通戦略室 札本太一氏、
マネジメント事業本部 交通政策部 吉池輝雄氏 |
▲YouTube同社公式チャンネル
「Pacifi cConsultantsJP」トップページ |
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▲津波避難シミュレーション(YouTube同社公式チャンネル
「Pacifi cConsultantsJP」『防災を支援する津波避難シミュレーション』 より) |
前述のように、同社ではCIMに繋がるさまざまな要素技術を早くから採り入れ、そのノウハウを蓄積してきました。2012年度に国土交通省直轄事業を対象に行われたCIMの試行業務(11件中2件の先導モデル)にも率先して参画。例えば、構造内部の干渉をチェックする際に3Dモデルの部材を透明化して分かりやすく表現した独自の工夫を含め、試行業務での取り組みのポイント、そこから得られたCIMのメリットや課題については、前述のYouTubeの同社公式チャンネルにて公開しています。
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▲CIM の課題・メリット(YouTube同社公式チャンネル「Pacifi cConsultantsJP」
『パシフィックコンサルタンツ株式会社におけるCIM の取組み 』 より) |
その延長上で同社は、道路系については基本的にCIMを応用していくこととし、構造系についてはソフトウェアなどの制約がある中でCIMに対応できる環境確保に注力。併せて、本社主導でCIMに対応できる人材育成を狙いに、前年度の試行業務でCIM担当を務めた伊東靖氏をはじめ専門スタッフを講師とする社内向け講習会の実施が計画されています。
そうした流れも踏まえ、同氏はこれからの建設コンサルタントはコンセプチュアル・デザイン、すなわち、統合化された設計を心掛けていく必要があると説きます。
その背景として、モノを生み出していく上で全体系の妥当性と数字的な敏感性という両面を磨いていくことの重要性に言及。併せて、その作業プロセスでは必要かつ多様な要素技術を優れたプログラムを使ってまとめていく、というアプローチを描きます。
「単にある断面をつくるというのではなく、見た目や施工性、低コストなどいろいろな引き出しを用意しておき、その組み合わせを考えるのが私たちの仕事なのです」
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▲オフィスにて記念撮影 |
(執筆/取材:池野 隆) |
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