「3次元(3D)(ベースのデータ)の取り組みって、最近始まった話ではなく当社を含めて各社、昔からやっているのです。ただ、ハード的・ソフト的な制約もあり、(土木事業を通じ)我々人間がイマジネーションできるツールとして(3Dデータを有効に)使うには力不足でした」
それがここ数年、どんどんハードウェアの性能が上がり、ソフトウェアも使いやすくなって、いろいろなことが出来るようになってきた。さらに昨今は、ビジュアルに訴えるためだけの3Dベースのアプローチから、フェーズを越え多様な目的に応じて活用するためのそれへと切り替わってきた。株式会社大林組土木本部本部長室情報企画課長の杉浦伸哉氏は土木事業を取り巻く情報通信技術(ICT)、およびCIM(Construction Information Modeling)に繋がる3Dデータの利用環境の変化についてこう振り返ります。
今回ご紹介するユーザーは、スーパーゼネコンの株式会社大林組。そのうち、同社の国内外に及ぶ土木事業全体を総括する「土木本部本部長室」にあって、施工現場の生産性向上に向けたICT活用を方向づけるとともに、それに沿った環境構築を担う「情報企画課」に焦点を当てます。
同社土木部門では長きにわたりフォーラムエイト製品をお使いいただいており、設計や解析系のソフトを中心に数十種類、ライセンス数は100超を数えます。特に近年はリスクマネジメントなどを狙いに、クラウド対応のUC-1シリーズ各製品セット版「UC-1
Engineer's Suite」を導入。またCIM対応の一環として、3次元リアルタイムVRソフトウェア「UC-win/Road」も採用されています。
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土木本部本部長室情報企画課 杉浦 伸哉 氏 |
株式会社大林組の起源は、土木建築請負業「大林店」として創業した1892年に遡ります。以来120年余りを経る中で、組織の再編・拡充を重ねつつ、わが国を代表するスーパーゼネコンへと発展。国内外における建設工事のほか、地域開発や都市開発、海洋開発、環境整備などの建設事業、あるいはそれらに関連した各種業務など幅広い分野で優れた実績を築いてきました。
2012年に竣工した「東京スカイツリー」(東京都墨田区)は、このような同社の、今日の高い技術力と高品質な建設サービスを象徴する一つ。そのほか国内はもとより海外でも時代を画する、あるいは高度かつ先進のニーズを先取りした建物や施設を数多く手がけてきています。
そうした活動を支える社員数は約8,500名。本社(東京都港区)をはじめとする国内事業所(15本店・支店・研究所・機械工場)および海外事業所(アジア地域:8ヵ国、北米地域:2ヵ国、欧州・中東・オセアニア:5ヵ国)に広く展開しています。
リスク対策とともに施工現場の生産効率を上げるICT環境を構築 |
「建築と土木で(それぞれ)同じような(施工現場で使われるICTツールをどのように提供していくかについて考える)部署があり、私は土木を中心に取り組んでいます」
その際、民間の顧客を中心とした情報共有を考える「建築」に対し、官公庁工事が多くを占める「土木」では官公庁の発注者と施工業者、協力会社による情報共有が求められ、両者間には大きな軸足の違いがあります。また、近年施工現場で人手不足を来している問題もあり、いかに現場に根差し生産効率を上げるべくICTを使えるようにしていくかが重要なミッションになっている、と杉浦氏は語ります。
このような中、同社土木部門では古くから設計や解析系のソフトを中心に多岐にわたるフォーラムエイト製品を採用。その実質的なユーザーは生産技術本部に所属するエンジニア(現在220名超)で、関係者による当社製品への評価もあって積極的に利用を進めてきたといいます。
そこでは、不特定多数のユーザーが(最大で全員が一斉に)不特定の時間に(いつでも)多種多様なソフトを使える必要があったことから、自社のサーバでUSBキーを用いライセンス認証を行いながら運用する形がとられてきました。それでも社内のネットワーク環境が不安定になり得るのに加え、電気設備の法定停電や不測の事態への対応も考慮。特に災害時などには週末や昼夜を問わず緊急に対処して復旧しなければならず、サーバに替え、インターネットにつながった環境で認証できる当社製品・サービスに注目。リスク対策の一環として昨年から前述の「UC-1Enginee's
Suite」を導入し、緊急事態を乗り切るための手立ても講じています。
幅広い工種にわたる57案件でCIM適用、目立つ独自アプローチ |
日本の建築分野でBIM(Building Information Modeling)への取り組みが加速度的に普及し始めたのは2009年頃。一方、同様なアプローチが土木分野で指向される契機となったのは、当時の国土交通省事務次官・佐藤直良氏が「CIMのススメ」を説いた、それから3年遅れの2012年4月とされます。それに対し同社では、BIMの成功事例を踏まえ同様な手法の土木分野での可能性に着目。施工現場における3Dモデルの活用を目指す取り組みが2012年2月から動き出した、と杉浦氏は述べます。
「我々の施工現場で(BIMの概念を土木に応用し、3Dモデルを)どう使っていくかを中心に考えていったところ、(多様な現場にCIMが)あっという間に広がりました」
同社ではこれまでにトンネルや橋梁、シールド、ダム、造成、鉄道、地下躯体、電力などほぼすべての工種にわたる57案件でCIMを適用。国交省が従来推進してきたCIMの具体化は建設コンサルタント中心で、今年度ようやく施工フェーズに焦点が当たってきた実情もあり、同社のCIM活用実績は「おそらく業界NO.1」(杉浦氏)を誇るに至っています。
とはいえ、単に3Dデータを作り3Dで表現して終わりではなく、それを再利用することが重要で、そのためにはその利用目的を明確化する必要がありました。一方、CIM適用の対象には大小様々なプロジェクトが含まれ、CIMで期待されるすべての機能をターゲットとするには制約も窺われました。そこで同社はCIM活用に向け、1)判断の迅速化、2)施工の効率化、3)維持管理初期モデルの構築
― という3方針を設定しています。
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大林組の施工CIM活用方針 |
そのうち「判断の迅速化」という目的意識を持てば、自ずと「施工の効率化」へと進むことから、これらをカバーする取り組みが先行。計測情報の見える化や構造物の取合い確認などによる品質向上や工期短縮、最新技術を用いた施工管理などを目指す動きが広がりを見せています。それらと併せて同社が独自にフォーカスしたのが「維持管理初期モデルの構築」です。つまり、3Dモデルの中に施工プロセスで取得される計測データや出来形の状況など様々な属性情報を取り込もうというもので、他では見られない試みでした。
CIMに着手して以来2年目を経る中で、各現場では着実に施工情報を蓄積。2014年秋に納品した電力施設の民間プロジェクト、次いで2015年3月竣工予定の国交省向けトンネルプロジェクトは上記3要素をすべて満たす、それぞれ最初のケースに位置づけられます。
最後に、構造物の最終形状を反映した出来形の点群モデルなども取り込み、維持管理フェーズで必要となるすべての施工情報、品質や数量に関するデータなどの詰まった3Dモデルが完成。それを納品することで、発注者は以降の点検や維持管理の基礎情報として活用していけるとの考え方を描きます。
同社ではそのようなCIM対応の一環として、1年ほど前に「UC-win/Road」も採用しています。
東北復興の案件を数多くこなしていた中、3Dモデルを作成し施工管理などに使用。その活用をさらに広げられないかと模索するうちに、新しく出来る街や道路がどのようなものか、単に特定の視点から見るだけでなく、住民やプロジェクト関係者が自由に立ち止まったり、横を向いたり、振り向いたりしながらドライビングシミュレーションできるツールの着想に至りました。実は、既に保有していた他のソフトでも3Dによる表現は可能でした。ただ、それで行おうとするとテクニカルな面で難しい部分があり、データ作成に手間がかかる上、ヘッドマウントディスプレイなどのデバイスとの連携にも制約があったといいます。
UC-win/Roadを用いた最初のケースとなったのが吉浜釜石道路工事(国交省東北地方整備局)です。それまでに作成されていた3DモデルをUC-win/Roadに取り込んで修正。それをドライビング・シミュレータに載せ、去る9月の安全祈願祭で初披露。住民から好感触を得られるとともに、地元のテレビで紹介されるなど注目を浴びました。
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吉浜釜石道路工事VRデータ |
時をほぼ同じくして、鉄道や高速道路ジャンクションのプロジェクトにも適用。前者では協力会社との施工検討にあたって上下左右の取合いなど新旧の鉄道がどのように交差するかの空間的な確認、後者ではランプ全体をモデル化して走行時にどう見えるかの確認に、それぞれ主眼が置かれました。
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鉄道施工検討シミュレーション:下左右の取合いなど新旧の鉄道がどのように交差するか等をVRで確認 |
以前は、こうした説明用の資料を作成すること自体が目的化し、そこで留まっていました。現在では3Dモデルがあればそこから派生して様々にシミュレーションを行い、関係者間で最終的な完成イメージの共有が可能。しかも短期間でビジュアル的にも優れた表現を実現したことから、杉浦氏は現在進行中の他のCIM適用現場についても必要性を考慮しながら積極的にUC-win/Roadの利用を進めていく考えを示します。一方、そのためにもUC-win/Roadが今後、一層広範囲をカバーする点群を取り込み、それらと構造物、地形、地層などのモデルを統合し、高速に処理できるようになることへの期待を述べます。
「UC-win/Roadを使ってみて分かったのは、それがビジュアル以外にも多様な使い方があるということです」
施工でのICT利用というと、どこか研究開発的な面があり、各社はまずその研究事例の収集に注力しがちです。それに対し同社では、とにかく現場で使って確認。効果が薄いものはやめれば良いし、効果が大きそうであればそれを徹底的に検証する、と同氏は自らのアプローチを特徴づけます。それが端的に表れているのが、3Dベースのデータ活用への取り組みです。
「最初の一歩を踏み出すことが大事。すると、次の方向性も見えてきます。私たちは粗削りですけれど、そこをやってみたらいろいろな可能性が見えてきました」
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高速道路ジャンクションで、ランプ全体のVRモデル化し、走行時の見え方をシミュレーション |
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