▲萩原電気株式会社 本社別館
「(私たちは)萩原電気の技術を使って新しいビジネスを生むためにどのようなことが出来るか(を模索)、また自社だけでなく他社の(保有する)最先端の技術も使い、『技術商社』として新事業の立ち上げに向け(そのために必要となる)いろいろな活動をしています」
そのような観点から現在は、例えば自動運転、あるいはスマートグラスをはじめとするウェアラブルデバイスといった、まだ確立はされていないものの今後成長する可能性が見込まれる先進技術にフォーカス。その新規ビジネス化を目指して取り組んでいる、と萩原電気株式会社技術センター技術戦略室主任の勢頭隆晴氏は自ら所属する部署の役割について説明します。
今回ご紹介するユーザーは、各種電子デバイスをはじめ幅広い情報通信技術(ICT)を駆使し、多様なソリューションを開発・提供する萩原電気株式会社。そのうち、新たな技術戦略の構築とそれに基づく新ビジネスの企画・開発を担う「技術センター技術戦略室」に焦点を当てます。
同社は、先進運転支援システム(ADAS)開発向けに危険シーンの評価に取り組んでいた3年ほど前、実車では制約があったケースでバーチャルリアリティ(VR)の適用を着想し、フォーラムエイトの3次元(3D)リアルタイムVR「UC-win/Road」を導入。そこで3D・VR活用の可能性が実感されたのを受け、以来クルマ関連の様々な技術開発や事業化に向けた評価、提案などでUC-win/Roadを有効活用しています。
▲技術センター 技術戦略室 主任 勢頭 隆晴氏
「技術商社」としての強み活かし 多様なソリューションを提供 |
萩原電気株式会社は1948年、無線機の製造・修理を行う「萩原電気工業社」として創業。その後、社業拡充とともに1958年に株式会社化し、1965年からは現行の社名に改称しています。現在は本社、本社別館(いずれも名古屋市東区)のほか、三好事業所、日進事業所、東京支店、豊田物流センター、九州駐在の国内拠点に加え、シンガポール、インド、米国、中国、韓国、ドイツ、タイに海外子会社を展開。500名近い従業員がそれらに配置されています。
同社はデバイス事業、ソリューション事業および開発生産事業の3事業を軸に構成。デバイス事業部とソリューション事業部が顧客の製品開発や生産現場における課題解決に当たり、開発生産事業部がそこで必要となる電子・情報プロダクツを開発・製造。技術センターはそれらの領域を越えて3事業部の技術者(約100名)を結集。各事業を通じ蓄積された技術・情報・経験を基に、将来に向けた技術戦略の立案、要素技術の開発や新ビジネスの企画・創出を行う体制が取られています。
「技術商社」を標榜する同社は電子デバイス、モジュール/ユニット、情報プラットフォームおよび画像技術などの要素技術を強みとし、作業支援システムや自動運転システム、センサーネットワークシステム、次世代HMI、セキュリティシステム、物流・FAシステムといった分野で応用技術開発、プロトタイピング(試作)、ODM開発などを通じ多様なソリューションを提供しています。
先進技術とそれらを活用するビジネス化へのアプローチ |
「今注目している技術は、IoT(モノのインターネット)とM2M(Machine to Machine)です。(これからますます)いろいろな製品がどんどんインターネットに接続し、機械と機械が通信することで様々な情報を自動的に吸い上げられるような世界になっていくと思っています」
「そうした流れに対応し、同社では主要顧客である自動車業界において、例えばM2Mによりどのようなことが出来るのかを模索。その一環として、「車両管理システム」の実現に向けた取り組みが進行中です。そこでは多様なクルマの情報を、OBD II 端末を介してインターネットに飛ばすことで、リアルタイムにビッグデータを取得。それを活用して新しいビジネスに繋げることを目指している、と勢頭氏は解説します。
一方、同氏が現在取り組んでいる主要業務の一つは、リアルタイムに管理車両の情報が確認できるテレマティクスシステムの開発です。今後高齢化が進む将来に普及してくるであろう、LEV(Light Electric Vehicles:超小型電気自動車)を対象とし、対象車両がどこを走行しているか、異常が発生していないかなどを監視することができる車両管理システムを開発しています。
もう一つが、ウェアラブルデバイスの一種でカメラとディスプレイがメガネと一体化した「スマートグラス」のビジネス化です。同氏らはそのハンズフリーで様々な作業を行える特性に着目し、工場内での組み立て、遠隔地でのメンテナンス、物流などにおける作業支援の効果をアピールしていく考えです。
ADAS技術向けシミュレータ開発にUC-win/Road導入 |
車両に搭載したレーダーやカメラ、センサーなどで得られる情報を基に自動ブレーキや車線維持支援、ドライバーへの警告などを通じ、安全運転をサポートするADAS。近年急速に普及してきたその技術開発向けに、同社は3年ほど前、「前方の車両にぶつかりそうになり自動的にブレーキを踏む」という状況に関する画像認識用サンプルデータの取得に取り組んでいました。
「(その中で実車を使い)近づいて来たり、遠ざかったりするクルマを認識するところ(のデータ取得)は出来ていたのですが、そこから一歩進み、本当に危険なシーン(の画像認識用データ)を取りたかったのです」
とはいえ、精度の高いデータが求められる半面、実車では非常に危険な上、取り直しが利かないなどの制約があったことから、VRで様々なシーンを再現し、評価できないかと着想。各社が提供するツールを比較検討し、シンプルな操作で簡単にVRを作成でき、その価格面に加え日本できめ細かなサポートをしているなどのメリットを総合的に考慮して「UC-win/Road」の採用に至った、と勢頭氏は振り返ります。
「フォーラムエイトでも当時、(私たちの)衝突防止評価用映像として、あるいは疑似(体験用)カメラとして使いたいというのが、それまで扱われていたドライブシミュレータの枠組みとは全く違い、面白いということで、いろいろ協力してもらった経緯があります」
こうしてUC-win/Roadを活用し開発したVRシミュレータは、車載ADAS分野における危険シーンの画像認識評価、疑似的なCAN(Controller Area Network)情報の取得などに利用。VRシミュレータの導入により、評価の精度が上がり、誤検知が減るなどのメリットも見られたと言います。
UC-win/Roadの特性活かし、多様な活用を展開 |
▲運転支援システム
その後、同社では各種製品の企画や試作に当たり、実際にクルマを運転しなければ得られないようなデータの取得にUC-win/Roadを積極活用しています。
例えば、前述の車両管理システム開発では、リアルタイムな車両の位置や速度、警告状況などの把握がシステムとして必要であるのに対し、車両のGPS情報やCAN情報を疑似的に発生させることで、より実車からの情報に近い環境での評価・検証を行っています。
また、自動運転に関する検討を行う中で、無人タクシーの実用化を想定。利用者がクラウドサーバを介してスマートフォンで予約しながら運用するシステムのイメージをUC-win/Roadで動画(プロモーションビデオ)化。利用シーンの再現とともに、クルマ側から取得したい情報の事前評価も試行しています。
「(まだ構想段階のもので)実際にクルマがなくても、こういった形で事前評価できるというアピールが、イベントなどを通じて出来ました」
ただ、時代に先行した無人タクシーを対象としたことで、無人タクシーそのものの実態が理解されにくい状況が見られたことを考慮。そこでその考え方を基に、広範な自動運転のクルマや運送業者のトラックなどを対象とし、クルマの位置や速度、状態などをリアルタイムに把握・管理できる「車両管理システム」を開発。これをUC-win/Roadで動画化し、事前評価用に用いられている、と勢頭氏は語ります。
さらにそれらを応用し、車両管理システムのデモ情報をスマートグラスに飛ばし、ドライバーはカーナビに目をやることなく、前方を見たままで必要な情報を得られるという活用シーンを考案。UC-win/Roadで作成したVRを連携させて事前評価にも対応しています。
▲スマートグラス
「基本的には展示会などで会社の取り組みの紹介に使っていますが、興味を持っていただいた顧客の皆様を訪問する際にもノートパソコン1台を持参し、分かりやすく説明できるところはUC-win/Roadの良い点です」
今後、IoTの普及が予想され、クルマがインターネットに繋がり、クルマのビッグデータ収集などが進展。それらの情報を外部から見られる世界への傾斜がいっそう増すはず、と勢頭氏は説きます。
そのような状況になった時、どのようなデータを取得できるかを、実車を使って事前評価することは困難です。そこで、UC-win/Roadの有する多様な車両情報を外部インターフェースとして出していくことで、今見えている情報だけではなく、もっと活用していけるのではとの見方を示します。
「ドライブシミュレータという枠を越え、実際のモノになる前の疑似的な車両のモデルとして使うことで、UC-win/Roadのいろいろな可能性が期待されます」
▲「車載ADAS分野における危険シーン評価用VRシミュレータ」
(第12回 3D・VRシミュレーションコンテスト オン クラウド 受賞作品)
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