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Users Report ユーザー紹介/第112回

日本光機工業株式会社
技術営業部
航路標識や航空標識を中心とする特殊照明で
100年近いノウハウを蓄積
UC-win/Roadをベースとする「航路標識シミュレータ」、
当社と共同開発へ

 User Information
日本光機工業株式会社
URL ●http://www.nipponkoki.co.jp/
所在地 ●横浜市金沢区
事業内容 ●航路標識、航空標識、道路標識用品の開発・製作・販売・関連工事


「一言でいえば、海と空と陸の安全を光で守るということです」

国産の灯台機器供給への要請を受けて創業。その後、航路標識から航空標識、さらに道路標識関連へと領域を拡大してきた日本光機工業株式会社。100年近い歴史を経る中でそのように対象分野を段階的に広げて機器を提供、顧客の満足を得ながらインフラの安全確保に貢献してきた自社の役割について、同社取締役社長の谷内豊氏はこう形容します。その同社が新たな展開の柱として期待するのが、バーチャルリアリティ(VR)技術を駆使して灯器の設置を発注する人に、例えば港へと近づいてくる船から明かりがどのように見えるか、事前に高いリアリティで体感してもらおうというシミュレータです。

今回ご紹介するユーザーは特殊照明の専門メーカー、日本光機工業株式会社です。そのうち、官庁あるいは民間向けに航路標識や航空標識など各種光源設備の提案・販売を担う「技術営業部」に焦点を当てます。

顧客に対し、どこにどういう灯器を設置すると港がどう変わるか、灯火が見えやすいか否か、といったことを示す商材を模索していた折、道路標識用品を扱う一環として同社は「ITS世界会議デトロイト2014」(2014年9月、米国)に参加。そこでフォーラムエイトの3DリアルタイムVR「UC-win/Road」によるシミュレーションに触れ、それを光に関するシミュレータに応用できないかと着想しました。以来、当社との共同開発を通じ、その具体化を進める中で、第一弾となるシステムが構築されています。


▲左から営業部課次長 中島洋行氏、取締役技術営業部長 谷舗孝氏、取締役社長 谷内豊氏

 LED灯台で先駆け、自社で航路標識と航空標識の双方に対応

国内の灯台機器は、明治時代より外国製に依存。第一次世界大戦(1914年〜1918年)の影響でガラスレンズの輸入に支障を来したことなどから、灯台機器の国産化が強く求められました。そこで1919年、旧逓信省航路標識管理所(現海上保安庁交通部)の支援の下、日本光機工業株式会社は設立されました。

以来、同社は灯台の光源など航路標識の製作を主業務にスタート。当初のガス灯器は次第に電球式、半導体制御方式、LED方式へと進化。とくに、当時はまだそれほど流通していなかったLEDの将来性に着目し、1988年に従来主流だった白熱電球式に替わるLED灯台を世界に先駆けて実用化。その1号機を神戸港に設置するに至っています。また、省エネルギー化や高光度化、多機能化に向けた技術開発重視の取り組みを反映し、その製品群は大型灯台などの沿岸標識から、灯浮標や導灯などの港湾標識、誘導標識、シーバース灯や簡易浮標などの障害標識といった幅広い分野に及びます。

一方、東京・福岡間の夜間航空路開設(1933年)に伴う、同航空路に沿った全国各地での航空灯台の建設を機に、同社は航空標識の製作も本格展開。1958年に東京放送塔(東京タワー)の航空障害灯システムを納入したのをはじめ、進入灯や誘導路灯などの飛行場灯火、航空機の飛行に危険障害となる建築物の所在を示す航空障害灯、ヘリポート照明、制御システムなどをカバーしています。


▲UC-win/Roadによる航路標識シミュレータでの横浜港シミュレーション
街中の明かりがあっても標識を船から確認することができるか確かめる

この航路標識および航空標識の双方を国内メーカーでは唯一、1社で対応する強みを活かし、近年注目される浮体式洋上風力発電設備用に中光度白色障害灯と航路標識灯を納入した実績もあります。

さらに2010年、道路用標識類や電波吸収体、高速道路料金所機器など高速道路向けに各種ソリューションを提供する株式会社ウェイベックス(本社:東京都板橋区)を買収。光を軸に、それまでの海と空に陸を含めたインフラの安全に資する現行の体制が整いました。

同社は現在、横浜市金沢区に本社を構え、技術営業部、技術開発部および生産管理部の3部門に約50名の従業員を配置。そのうち16名が配属されている技術営業部は、官庁関係と、地方公共団体を含む民間部門に分かれて担当。海上保安庁や国土交通省航空局などの官庁がそれぞれ管理・運営する航路標識や航空標識をはじめ、地方公共団体やエネルギー産業、建設産業、高速道路会社など各種民間企業向けに航路標識や航空障害灯などを提案しています。

「当社が目指していくのは、(LEDの)次の光源としてどのようなモノがあり、それをどう安く調達するかということ」。また顧客の満足が得られるような、見やすく耐久性のあるモノの研究開発が重要、と谷内社長は位置づけ。そのカギとなるのが、技術営業部が顧客のニーズを的確に把握し、設計・製造が連携してそれを具体化することだと説きます。

画像をクリックすると大きな画像が表示されます。 画像をクリックすると大きな画像が表示されます。
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▲国際会議で発表した航路標識シミュレータの開発目的

  UC-win/Roadに対する着目から「航路標識シミュレータ」の開発へ

「(お客様に航路標識を紹介する時に利用できる)商材がないと悩んでいたところへ道路関係のシミュレーションを見て、『これを活用すれば光関係のシミュレータも出来るのでは』と考えられたのがきっかけです」

もともと光(灯火)は気象や視覚の影響を受けやすく、それに関する説明は非常に難しい分野とされてきました。その中で、プロトタイプの製品を持参し、「(光を)何キロ先から見ることが出来ます」「このように光って見えます」と表現する手法が取られてきました。そのため「では、離れた場所からはどう見えるのか」「雨が降ったらどう見えるのか」「夜の暗い時と月が出ている時との見え方の比較はどうか」といった説明には自ずと限界があり、それを補う方法が求められた、と同社取締役技術営業部長の谷舗孝氏は振り返ります。

そのような折、2014年9月に開催された「ITS世界会議デトロイト2014」へ、前社長が高速道路向け道路用標識などを扱う子会社の株式会社ウェイベックス関係者とともに参加した際、フォーラムエイトの展示ブースでUC-win/Roadを初めて体験。その中に、VR空間における道路上でのクルマのヘッドライトや視線誘導灯をシミュレーションする機能があるのを知り、当初は自社の道路用標識データを取り込むことでその説明ツールとしての利用可能性を直感。そのうちに、これは航路標識にも応用できるのではと着想。そのためのコストとしても手頃だったことから、UC-win/Road導入を決定するに至ったと言います。

その後、海洋土木や港湾施設の建設に携わる建設業者あるいは建設コンサルタント会社に対する自社商品のPR用として使える航路標識のシミュレーションにフォーカス。フォーラムエイト担当者との度重なる打ち合わせを通じ、まだ条件など具体的に詰め切れていない要素はあるものの、さらに自社製灯器の配光(光源からの光の広がり)データなどを搭載し汎用的に利用できる「航路標識シミュレータ」の開発を目指す流れへと発展してきました。

▲様々な用途に応じた同社の航路標識と航空標識 ▲PCを用いて『航路標識シミュレータ』をデモ

  「航路標識シミュレータ」の当面のターゲットと現状

2014年秋の当社との初回打ち合わせで、同社はUC-win/Roadを適用して作成された各種VR事例を改めて細かくチェック。とくに灯台の専門メーカーとして光学的表現に注目する中で、道路を照らして走行するクルマのヘッドライトの配光などは、従来はある程度ラフな形のデータに基づいていたことが認識されました。

一方、航路標識のシミュレーションを行う以上、異なる灯器(灯火)、あるいは不動光や点滅、回転など定められた灯質(光り方)、それらにより人の目に感じられる見え方の違いなどを実際の状況に即して適正に再現することが重要です。そこで、専門的な計算式を採り入れた演算に加え、同社の100年近いノウハウの蓄積を組み込み、他にないシミュレータの開発を目指そうとのコンセプトが描かれた、と自ら民間向けに各種光源設備の提案を担当する同社技術営業部課次長の中島洋行氏は述べます。

そうしたアプローチを通じ「航路標識シミュレータ」はこれまでに、灯火の見え方に影響を与える要素をパラメータ入力する仕組みを構築。例えば、そこに同社の製品データを入れれば当該灯器の明るさや光り方を再現。点滅パターンや回転数、あるいは配置を変えることで異なる見え方のシミュレーションも可能になっています。

とりわけ中島氏がとくに大きな成果として挙げるのは、強い光で暗礁を照らす照射灯の光などが大気中の埃に反射して見える光の筋(光芒)の表現です。従来のVRではうまく表せなかったのを今回シミュレータではそのブレークスルーが大きなポイントと位置づけ。当社担当者と粘り強く取り組み、マウス操作で見る角度や高さ、距離などを変えながら光芒がどう違って見えるかを表現。同氏はかなり苦労して実現してきた同機能を評価した上で、シミュレータとしての完成度については「まだ最終的に望むところまでは至っていません」としながらも、一段落がついたところとの見方を示します。


  活用の可能性、今後の課題と展開方向

航路標識に関する情報交換、標準化や技術向上を目指す国際航路標識協会(IALA、本部:パリ)は4年に1度、総会を開催。続く4年間にわたる様々な取り組みの方向性が話し合われます。前回総会で航路標識のシミュレータが取り組むべきテーマの一つに掲げられたのを受け、2015年11月に開かれたIALAの作業部会では複数の参加者が異なるアプローチのシミュレータを提案。光り方のパターンを変えるなどして誘目性(目を引きつける度合い)を高めようという数値シミュレーションなどが紹介されました。

中島氏は自ら技術者向けおよび港湾管理者向けの2つのワークショップで、フォーラムエイトと共同開発した「航路標識シミュレータ」をプレゼンテーション。航路標識をどう配置すればより見やすくなるか、あるいは既設の航路標識の配置をどう変えると船の流れがスムーズになるか、をVRで示すシミュレーションを公開。これに対し、開発途上国の海上保安機関の幹部候補生向け教育ツールなどとしての活用に関心が寄せられました。

一方、船舶の通航管制を行うVTS(船舶通航業務)や船舶を監視するレーダーの情報を「航路標識シミュレータ」とマッチング。操船中に霧がかかって灯台が見えにくくなるようなケースで見えないものをVRで可視化する試みが構想されています。さらに同氏は、霧や雨による視界への影響をリアルに再現するため大気透過率などのパラメータ設定をどうするか、地形をはじめ多様な環境を反映した波の変化やそれによる灯火の視認性への影響をどう表現するか、さらに表示機の性能に依存しがちな現行のVR表現に対し一般的なPCのディスプレイで光の変化を適切に評価できないか、といった課題を列挙。これらについては具体的なニーズを睨みつつ運用しながらブラッシュアップを図っていく考えと言います。

中島氏はフォーラムエイトとのコラボレーションを通じアイディアが次第に膨らみ、当初の自社内のみでの販売ツールとしての活用から、外部関係者も利用可能な「航路標識シミュレータ」の開発へとプロジェクトが進化してきた意義に触れます。

また、谷舗氏は明るさを線で示すような手法が主であった従来型の光学シミュレータと「航路標識シミュレータ」による効果の差異に注目。VRを使うことで明るさが視覚的に分かる表現の可能性は飛躍的に拡大していくはずと説きます。



▲日本光機工業株式会社 社屋


▲谷内社長を囲み、日本光機工業株式会社 技術営業部の皆様



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