「私たちの仕事は(専門的かつ高度な知見を求められる領域が)こんなに多岐にわたってくると、一社二社(のみ)では到底(ニーズへの細やかな対応が)難しく、連携・協業しながら仕上げていくネットワークというか、協力関係が必要になるとつくづく思います」
創業以来、半世紀の区切りを迎える株式会社新洲。そこでは各種建設コンサルタント業務をこなすに当たり、プログラム開発も含め「なるべく社内で」解決を図ろうというスタンスが貫かれてきた、と同社執行役員設計部長・技師長の井上均氏は振り返ります。そのような中、フォーラムエイトとはその前身時代に遡る長いお付き合いに加え、必要に応じ様々な企業と業務提携を目指す過程で、バーチャルリアリティ(VR)技術をはじめとする当社製品のコミュニケーションツールとしての可能性が注目されてきたといいます。
今回ご紹介するユーザーは近畿地方を拠点とする建設コンサルタント会社、株式会社新洲です。そのうち、河川や道路、橋梁を中心とする土木や各種構造物の設計、土質調査、測量など広範な業務を担う「設計部」に焦点を当てます。
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▲株式会社新洲 社屋 |
同社はフォーラムエイトが設立された1987年、早々に当社製品のライセンスを導入した最も古くからのユーザーの一つです。その後、「UC-1シリーズ」の橋梁下部工や道路土工を構成する製品ラインナップのほぼすべて、土木・建築構造物や地盤の解析を行う各種製品へと利用を拡張。3次元(3D)リアルタイムVR「UC-win/Road」も早くから複数プロジェクトに適用してくるとともに、現在はその最新版を導入。それぞれ高い専門性を持つ他社との協業を通じ、VRを活用した新たな展開も模索しています。
創業50年、設計・開発・環境を柱に近畿で独自の地歩 |
株式会社新洲は1966年4月に創業、今年でちょうど50年の節目を迎えます。同社は現在、西は神戸から東は岐阜までを中心とする近畿一円が主な業務エリア。滋賀県栗東市の本社を拠点に、大阪・長浜・岐阜の3支店、甲賀・京都・兵庫・高島・三重・湖南・守山の7営業所、近江八幡および大津の2分室を展開し、それらに約50名の従業員が配置されています。
当初は六甲砂防、琵琶湖や域内河川の開発などを多く手がけ、地元近畿地方では水に関わる分野に強いとの定評を誇りました。その後、時代の推移とともに建設コンサルタント業務の対象は次第に拡大・変遷。近年は橋梁補修、道路や交差点における交通処理、区画整理や駅前開発、防災、環境アセスメント、ゴルフ場や工業団地など大規模な民間向け事業のウェートが増してきているといいます。
▲株式会社 新洲 設計部の皆様
同社の事業を支えるのは設計・開発・環境の3部門。そのうち、設計部門は「土木設計」「土質調査」「土木技術」「水道設計」「測量調査」といった専門セクションを設置。主として官公庁向けに1)河川・ダム・砂防、2)道路・橋梁・トンネル、3)農業土木、4)上下水道、5)測量、6)施工管理の各分野にわたる業務を提供しています。また、開発部門は1)地域計画・都市計画、2)開発計画・設計、3)建築、4)公園・緑地、5)補償などのまちづくりに関わる各分野をカバー。それらに対し、環境部門は1)環境アセスメント、2)環境計量証明事業、3)自然環境調査、4)自然環境保全計画、5)環境資材といったアングルから環境のスペシャリストとして技術提案を行っています。
これらの機能の多くは本社に集積するとともに、上下水道に関する業務を近江八幡分室で、都市開発に関する業務を大津分室でそれぞれサポートする体制が取られています。
長く多分野にわたり設計をはじめ、各種解析やVRに至るまで多様なフォーラムエイト製品を利用いただいている観点から、今回は同社設計部のICT(情報通信技術)活用や各分野におけるキーパーソンの皆さんにお話しを伺いました。
同設計部が取り組む業務は、河川や道路、橋梁の設計、土質・地質の調査などが大きな比重を占めています。
「創業以来一貫しているのは、(可能な限り自社で)プログラムを開発しながら、なるべく社内でやろうというスタンスです」
そのような中でフォーラムエイトとの付き合いはその前身時代に遡る、と井上氏は自社のアプローチ上の制約を越え長い年月をかけて醸成されてきた信頼関係を説きます。
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▲執行役員設計部長・技師長 井上均氏 |
同社はこうした流れを背景に、当社設立後にその製品ライセンスをいち早く導入。自社開発プログラムを補う形で逐次、当社製品を継続的に拡充してきました。これまでに「UC-1シリーズ」の橋梁下部工および道路土工の両シリーズを構成するほぼ全製品、立体骨組み構造の3次元(3D)解析プログラム「UC-win/FRAME(3D)」、RC構造の2D動的非線形解析「UC-win/WCOMD」、弾塑性地盤解析「GeoFEAS2D」などの解析系製品、および「UC-win/Road」など広範にわたって導入しています。
これらの製品に対し、最近は道路情報システムの構築にも取り組んでいるという、道路や各種構造物などの設計を担う設計部係長の下村和史氏は、道路土工の「擁壁の設計」や仮設工の「土留め工の設計」をほとんどの業務で日ごろ使用している実情に触れます。
併せて、道路の概略設計や予備設計、詳細設計、交差点の計画検討などを主に担当する設計部次長の山極康仁氏は、老朽化した駅舎の改修にリンクして行われる駅前広場の設計、バリアフリー化への対応、法面など道路関連の災害復旧事業が増してきている近年の傾向に言及。そうした作業では普段から「擁壁の設計」や「BOXカルバートの設計」を使用しており、道路の比較検討などが容易に出来るメリットを挙げます。
また、土質や河川に関する業務をカバーする設計部係長の池田晶氏は「斜面の安定計算」について、当社のサポートのおかげでCADからすぐにモデル化しやすく、作業効率の良さを実感したと述懐。今後はその浸透流FEM解析の機能も実際の業務で使いこなしていきたいとの考えを語ります。
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▲係長 下村和史氏 |
▲次長 山極康仁氏 |
▲係長 池田晶氏 |
さらに、同社は昨年「補強土壁の設計計算」を導入。それまで外注したり、独占的なソフトウェアに頼らざるを得なかった作業が公平に検討できるようになった、と井上氏は評価。とくに幅広い適用基準を網羅し、公平にソフト開発されているため、それを使用しながら改めて学ぶことも多いと明かします。
一方、マルチプロダクトや複数ライセンスに対応したLAN用プロテクト「Net PRO」を複数年使用。最近は作業拠点を移動したり、顧客先での打ち合わせ時に計算条件を変えながら結果を表示したりと利用環境が変化しており、PCを持ち歩いて使うニーズに即した対応が求められると同氏はいいます。
設計部で扱われる橋梁分野の近年の傾向としては、橋梁点検や長寿命化計画、補修設計のウェートが増す流れにあります。そのうち補修設計ではとくに高い精度が求められることから、従来のような2Dベースではなく、レーザプロファイラなどを用いて高精度に測量し3Dあるいは2.5Dでモデル化するといった対応への転換が必要になってくる、と井上氏は見方を示します。
これに関連し橋梁構造の設計を担当する設計部長代理の藤田久義氏は、橋梁点検のシステムと長寿命化計画のシステムが相互に連動できれば利便性が増すものと期待します。
とくに近年は、業務を通じて専門的かつ高度な取り組みが求められる領域の広がりもあって、すべてを自社で対処するというのは現実的ではなくなってきました。そこで同社は、必要に応じ優れた専門性を有する他の企業との提携を模索しています。そのような際にカギとなるのがプログラム利用環境の共有です。その意味から井上氏はフォーラムエイトのクラウドサーバサービスの活用可能性に注目します。
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▲部長代理 藤田久義氏 |
▲部長 西矢靖氏 |
一方、設計部長の西矢靖氏は同社でCIMのプロジェクトリーダーも務める観点から、上流の計画や測量、設計はもちろん、下流の維持管理や長寿命化まで包括するようなプログラムへのニーズを述べます。
UC-win/Roadの適用と3D・VR技術への期待 |
同社はまた、「UC-win/Road」を早くから導入。守山川の広域河川改修に伴う県道と同川を横架する橋梁の詳細設計(滋賀県守山市)に当たり、道路計画の修正が発生した際に変更内容を地元住民へ再説明するための資料としてVRを作成。同社として初めてVRを業務に使用しました。
篠原駅南北広場他測量設計 |
場所:近江八幡市安養寺他
概要:篠原駅南北広場詳細設計、
アクセス道路の修正設計、下水道設計 |
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▲南口広場案 |
▲北口広場案 |
加えて、篠原駅南北広場の詳細設計とアクセス道路の修正設計(同県近江八幡市と野洲市の市境)を行った折には、関係機関が多く、予算見直しに伴う協議の難航が予想されたことから、内部資料用にバリアフリー化やアクセス道路、駅前ロータリーなどの要素を可視化すべくVRを作成しています。
守山川 山賀橋 詳細設計 |
場所:滋賀県 守山市 金森町
概要:守山川広域河川改修に伴う県道草津守山線との交差部において守山川
を横架する橋梁の詳細設計
橋梁:プレテンPC単純床版橋(橋長21.2m) |
基本設計の時点から、道路計画が修正されており(既存宅地出入口部との接続部で道路の盛上げが必要となった)、道路計画の修正内容を反映した実施設計を行いました。変更内容について地元への再説明や関係機関の再協議が必要となっており、業務の発注時点では、協議用のパース作成が求められていました。地元説明用の資料として、分かりやすく効果的なVRを提案し作成したものです。新洲で初めて本格的にVRを業務に使用した事例であったと思います。 |
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これについて山極氏は、駅前広場の設計業務が増えていることもあり、VRの作成を重ねる中で合意形成ツールとしての完成度を高め、活用可能性を向上させたいと語ります。
そのほか、大型ショッピングセンターの開発プロジェクトでは地元住民への説明用に交通や風、日照などのシミュレーションも加えたVRを作成。井上氏は交通シミュレーションの機能強化が今後の課題と位置づけます。
UC-win/Roadは単に完成後の姿の画像を作成するためのものではなく、計画段階から比較検討しつつそのプロセスを反映して可視化できるということで、導入した経緯がある、と井上氏は振り返ります。また、その進化の過程やフォーラムエイトの各種3D・VR技術の展開を見ていると、将来的には図面が不要になっていくのではとの実感を述べます。
「レーザスキャンの技術、あるいは点群データの設計への活用に積極的に取り組んでいるところです」
そうした狙いから、提携先と協力してレーザプロファイラや航空機レーザを用いて高精度に各種データを取得。それを橋梁の補修設計などに活かすことを目指している、と井上氏は解説します。
つまり、例えば橋梁の補修では、モノが出来上がっているため、とりわけ補修場所を2Dで表現するのは難しい。せめてそれを2.5D、あるいは3D化できたら効率的な設計に繋がるはず。さらにそれを情報化施工のデータにも利用できれば、非常に効率の良いものになる。現在は、そのモデリングや表現方法といったインターフェースの部分で苦労しており、そこがクリアできれば良いツールになろうとの考えを示します。
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