北米でのラウンドアバウトの設計をリード、その理解浸透および普及に力
−効果的ソリューションとしてのラウンドアバウト交差点の仕組みやメリットを、VRベースのモデル化で説明−
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「ラウンドアバウト(Roundabout)」は交差点の一形態で、進入する側の車が速度を落として交差点内の車に道を譲り、中心部に設置された島に対して一方向へ周回する仕組み。それまでのロータリー交差点の欠点を改良、安全性や効率性が高いなどの利点から、英国やフランスはじめ欧米を中心に普及が見られます。
今回ご紹介するのは、そのラウンドアバウト分野では北米有数の設計会社、アワーストン・ラウンドアバウト・エンジニアリング社(Ourston
Roundabout Engineering Inc.)です。
一方、その子会社、アワーストン・トラフィック・ソリューションズ社(Ourston
Traffic Solutions, Inc.)は交通モデリングを専門とし、最先端のソフトウェア・ソリューションを提供しています。その一環として同社はフォーラムエイトの3DリアルタイムVR(バーチャルリアリティ)ソフト「UC-win/Road」のライセンスを導入、2009年初秋からは北米における当社のプレミアムパートナーとなっています。
近年、米国においても新しいタイプのラウンドアバウト(modern roundabout)のメリットが見直されてきています。とはいえ、ロータリー(rotary)やトラフィック・サークル(traffic
circle)といった古いタイプの円形交差点との混同も窺われ、ロケーションに応じて設計されるラウンドアバウトの構造やその利用法、それによってもたらされる効果を事前に分かりやすく説明し、関係者の正しい理解を得る必要がありました。アワーストン・ラウンドアバウト・エンジニアリング社はそのようなニーズをより効果的に実現する方法を探る中で、2009年初夏にUC-win/Roadを導入しています。
11月20日、東京で開催された当社主催の第8回「3D・VRシミュレーションコンテスト」に同社が参加。同社デザインエンジニアのアマンダ・スタッブ(Amanda Stubbe)さんが作品のプレゼンテーションを行うため、来日したのを機に、自ら同ソフトをツールとして使用している観点からお話を伺いました。併せて、同社社長のマーク・レンタース(Mark
Lenters)氏にもメールで補足してご回答いただきました。 |
アワーストン・ラウンドアバウト・エンジニアリング社は、交通の設計に特化したコンサルタント会社。10名のスタッフはそのほとんどがエンジニアで、米国ウィスコンシン州の州都マディソンを拠点に全米をカバー。隣接するカナダではアワーストン・ラウンドアバウツ・カナダ社(Ourston
Roundabouts Canada)として展開しています。
同社が難しい立地条件での安全かつ大容量のラウンドアバウトの設計に取り組み始めたのは1984年。以来、外部の専門家らと協働しながら、交通渋滞の緩和、大容量交通への対応、安全性の向上、高速走行の減速、インターチェンジの改良
― などに繋がるラウンドアバウトの利用に努めてきました。
そうした一環として、1990年にネバダ州ラスベガスに建設された米国初のラウンドアバウト、1995年にコロラド州ヴェイルのI-70(州際道路70号線)に建設された米国初のラウンドアバウト・インターチェンジ、さらに1997年に同州エイヴォンのI-70に渋滞解消のため建設された米国初の連続ラウンドアバウトなど、米国における象徴的なプロジェクトの設計に携わっています。
併せて、同社はカリフォルニア、フロリダ、カンザス、メリーランド、ミシガンおよびウィスコンシンの各州におけるラウンドアバウト事業の着手を支援。また、ラウンドアバウトに関する原稿や設計マニュアルの執筆、教育用ビデオの制作も行っています。
これまでラウンドアバウトの導入が世界に広がりつつある中で、米国内では建設を躊躇する傾向が見られました。しかし、それが交通信号よりも安全かつ効率的な交通流をもたらし得るとの理解がようやく浸透。米国の各関係機関は現在、まさにその採用を進める方向へと転換しつつあります。
ただ、米国ではラウンドアバウトが身近な存在でないのも事実。しかも、類似した円形交差点には複数の種類があり、それらの概念はしばしば不正確に用いられがちです。
そこでまず、さまざまな関係者にラウンドアバウトについて、その仕組みから利用方法、メリットを、古いタイプの各種円形交差点との違いと併せ、理解してもらうことが求められました。
そのような際、米国の交通プロジェクト関係者の間ではバーチャルな環境で可視化することへの関心が高まっています。VR技術自体は20年近く前から利用されてきましたが、設計者や関係機関がプロジェクトを説明する上でのVRのメリットを認識し、注目するようになったのはコンピュータが急速に高性能化した近年のこと。「百聞は一見に如かず」というわけで、プロジェクト前とその後の効果を一般市民に対比して示すことも可能。マーク・レンタース氏はとくに、ラウンドアバウトのような新しいタイプの交差点説明において、道路の拡幅や線形変更などを容易に表現できることのメリットに注目します。
■UC-win/Road導入の背景とその利用を通じた評価 |
同社が最近関わっている一つに、数多くのラウンドアバウトを含むウィスコンシン州北東地域最大規模とされる建設プロジェクトの計画作成があります。
これは、同州運輸局(WisDOT)が着手しているもので、国道41号線(US 41)の2ヵ所、総延長31マイル(約50km)に及ぶ拡張・改良プロジェクト。増大する交通容量を収容するための道路拡張と44ヵ所の新しいラウンドアバウトの建設、複数の交差点改良、ビュート・デ・モーツ湖横断道路の拡張を含みます。
このプロジェクトを成功させるためには、ラウンドアバウト建設に向けた準備の一環として、その適切な走行方法を人々に知らしめる啓蒙キャンペーンがカギになるものと考えられました。そこで同社は、ラウンドアバウトの正しい利用法に関するドライバーの訓練用としてUC-win/Roadを活用したドライビング・シミュレータを開発することにしました。
こうしたケースではそれまで、教育ビデオや紙の資料が用いられ、VRモデルを利用したドライバー向けのハウツーが用意されることは少なくとも米国ではなかったと言います。ここでは、交差点上空からの俯瞰や走行中のドライバーの視点を織り交ぜながらドライビング・シミュレータと連動し、ラウンドアバウト進入時の車線選択など正しい運転を説明する複数手順の提供を目指しました。
UC-win/Roadの導入に向けた商談が動き出したのは2009年春。契約を経て6月からは、アマンダ・スタッブさんがUC-win/Roadを専ら使用しています。
出来上がった運転およびフライスルーのスクリプトは、高品質のドライバー訓練ビデオ用に利用。その一端は前述の「3D・VRシミュレーションコンテスト」でも紹介され、作品は海外部門賞を受賞しています。
同社はこれまで、ラウンドアバウトの運転の仕方に関する教育手法を改善すべく探ってきました。そうした中で、建設に先駆けて一連の交差点をどう運転するか示すことが出来るVR、交通流予測を分析するための交通シミュレーション・ソフト、あるいは2Dアニメーションの利用を進めてきました。
そのような観点からマーク・レンタース氏は、ドライバーの視点やラウンドアバウトの運転方法を容易かつ高精度に再現し得るUC-win/Roadが、同社のような各種交差点の設計を専門とする企業にとって魅力的なツールになるはずと語ります。また、当社のサポート体制にも言及。とくに、複雑な車道の創出では当社スタッフのサポートが大きな力になったと振り返ります。
一方、実際にUC-win/Roadを使って作業を行ってきたアマンダ・スタッブさんはメールやインターネットを通じて当社スタッフに相談したほかは、マニュアルを見ながらの試行錯誤で問題はなかったと言います。
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▲社屋エントランス |
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▲Mark Lenters社長 |
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▲Amanda Stubbe氏 |
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▲ラウンドアバウトの利用法を説明するアニメーションのキャプチャ(同社Webサイトより) |
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▲インターチェンジの上空からの景色 |
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▲運転席からの景色 |
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▲標識 |
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「交通工学分野の道路設計者は、自ら提案するプロジェクトについて可能な限り分かりやすく説明するためこうした革新的な技術を駆使していく必要があります」
つまり、設計者の熟練した技術とVRの利用が連携することで、新しい交通対策や道路システムの拡張などへの人々の受容性は増してくる、とマーク・レンタース氏は見方を示します。
その意味では、交通シミュレーションの精度がさらに向上することで、VRおよびドライビング・シミュレータのメリットもいっそう増大。建設されるプロジェクトのあるべき姿に近いアニメーションや交通状況のシミュレーションの作成にも繋がってくるはず、と近い将来への期待を述べます。
お忙しい中、取材にご対応ご協力いただいた関係者の皆様に改めてお礼申し上げます。 |
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